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最終部:タワー・オブ・バベル

その336 休息とバステト

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 <拠点内>

 「これでいいのね? 魔物相手ならこれは便利かも」

 私は拠点で、チェイシャの力を会得するため訓練に励んでいた。念のためにと、レジナ達と一緒にウェンディとイリスも来てくれている。
 
 ちなみに相手はというと、ソキウスに頼んでカナブンに似た中型の魔物である"ワイルドスカラベ”を森から引っ張ってきてもらった。
 それに麻痺弾を撃ちこみ、ひっくり返っているのをシルバ達が遊んでいた。

 <そうじゃ。状態異常の麻痺弾と毒弾に魔力の塊をぶつける魔弾。基本的にはこの三つを使えば道中が楽になるであろう。魔力はそれほど使わないし>

 「確かに……毒はボスとかに効けば頼りになるし、まだ人間と変わらないなら神裂にも効くかもしれないわね。あ、倒した」

 「きゅきゅん!」

 グシャッとシロップの一撃でスカラベが潰れて絶命する。

 「よしよし、頑張ったわね」

 「きゅんきゅん♪」

 シロップが私に駆けより撫でてくれと尻尾を振るってくる。シロップは前の騒動からだいぶ元気が戻ってきたようで、同じ雌であるラズベと仲良くじゃれてきていた。

 「そろそろ日が暮れますな。レイド殿達は大丈夫でしょうか?」

 「エリック様も一緒だし大丈夫……ってよく考えたら、割と足手纏いになっていたりしてね! 騎士団長とはいってもあのメンバーの中じゃ普通の人だもんねー」

 イリスがクスクスと笑いながら、そんなことを言う。昨日のクレリックさん達のひそひそ声じゃないけど、確かに規格外な人が集まっている気はするかな? レイドさんは勇者だし、私とお父さんも魔王……女神二人に、聖女と半分は特別な恩恵があるもんね。
 シルキーさんは回復魔法のエキスパートだけど、クレリックだし、ニールセンさんも強いけど普通の騎士。カルエラートさんはパパのパーティに居たけど、やっぱり騎士だからね。フレーレも普通の――

 「普通の……? なんだろ、何となくあの子をシルキーさんと同じ枠にいれたらいけない気がするわね……」
 
 聖魔光とか固有技を持っているし、それに変なあだ名つけるからね。

 フレーレに対し疑問を浮かべていると、スカラベを連れてきてくれたソキウスが立ち上がりながら声をかけてきた。

 「俺も模擬戦やっていいかー?」

 「あ、うん。ありがとね、練習台を連れて来てくれて! レジナ達を実験台にするわけにはいかないから」

 「いいってことよ! ウェンディかイリス、手伝ってくれるか?」

 「では私が相手をするであります! 大剣使い同士、楽しみでありますな!」

 「ケガはチェーリカが治しますから、頑張って下さいですよ」

 木剣を持って二人が対峙し、戦闘が始まる。私はそろそろ夕食の準備に取り掛かるため、その場を後にする。

 「頑張ってね! ご飯作って来るわ」

 「お願いするですよ、ルーナ。ああ、ソキウス 、右、右です!」

 「ふふ、それじゃ行こうか」

 「わふ」

 寝そべっていたレジナがのそりと起き上がり、シルバ達と共にてくてくと着いてくる。さて、今日のご飯は何にしようかな……




 (ま、また生姜焼きだぞ……)

 (どういうことだ……)

 (もしかして食材が無いのかしら? そういえばソキウス君と、チェーリカちゃんは訓練してたわよね……)

 (お、俺、明日町へ行くよ! 毎日生姜焼きじゃたまんねぇ!?)


 「んー、やっぱり生姜焼きは美味しいわね!」

 「わんわん♪」

 シルバが私の声に反応し、尻尾を振る。あれ? 騎士さん達、浮かない顔で食べてるわね?

 「お腹減ってなかったのかな? それにしても今日で二日目かあ……待っているのって長く感じるわね」

 <そうだね。オイラもジャンナを待たせていることが多かったけど、やきもきするね>

 ファウダーの指輪が点滅し語りかけてくる。

 「本当ね。みんなちゃんと食べているかな? ケガとかしてないといいけど」

 バベルの塔に少しかかった、空に浮かんだ月を見ながら私はみんなの無事を祈った。ヴィオーラの国王が出てきたらカームさんは戦いに出るだろうな……バステトも無理していないといいなあ……

 一応、消滅すれば装備に還ってくるとはいえ、それでも消えないで居てくれた方がいいもんね。




 ◆ ◇ ◆




 <バベルの塔:74階>


 「くしゅん! くしゅん!」

 「あら、フレーレ風邪?」

 「い、いえ、大丈夫です! 急に鼻がむずむずしちゃって……」

 ルーナに噂されているとはつゆ知らず、フレーレは食事の準備に取り掛かる。ビューリック国王の復活体を倒したレイド達は75階の中ボスに備えて休息を取ることに決めたのだった。

 「進みが遅いな……こんなことで大丈夫だろうか?」

 <リリーが居ないからにゃあ……あ、手伝うにゃ>

 肉を串に刺す作業をしていたレイドにてくてくと歩いて来たバステトが手伝ってくれる。バステトはそのまま作業をしながらレイドへ話を続けていた。

 <恐らくこのまま進めば、ヴィオーラの国王と戦ってこの階層は終わりだと思うにゃ。ただ、カームはヴィオーラの国王と刺し違える気でいるから、私はそれが心配なのにゃ>

 「色々確執があるみたいだったからな」

 「カームの動向は私も気をつけよう」

 そこでカルエラートも話しに参加し、ふと、カルエラートがせっせと肉串を作るバステトに尋ねた。

 「……そういえばお前は何で守護獣になったんだ? 私が連れて来たあの島が出身なのか?」

 そう言われて、顔を伏せるバステト。黙ってしまったので、悪いことを聞いたかとカルエラートも黙って座っていたのだが、やがて手を止めてポツリと語り出す。

 <……私はカルエラートの言うとおり、あの南の島に住んでいたのにゃ。レイドは分からないと思うから言うけど、島と言っても蒼希よりちょっと小さいくらいだにゃ。そこでちょっと可愛い村娘として暮らしていたんだけど、ちょうど私が18歳になったくらいのころ、島では雨が降らなくなったにゃ。何日も、何カ月も>

 ちょっと可愛いという言葉にツッコミを入れたくなったが、続きが気になるのでレイドはこらえて尋ねる。

 「100年前か?」

 バステトはコクリと頷き、さらに続ける。

 <そうだにゃ。そうなると作物が育たないから、徐々に人が倒れて行ったにゃ。海水で喉は潤わないし、川は段々干からびる……食料は釣りができたから魚はあったけど、日照りが続くと体力も落ちるから段々と漁も減るんだにゃ。それである時、誰かが女神の怒りを買ったのでは? と、言い始めたにゃ>

 『ま、そんなことは無いんだけどね?』

 エクソリアが話を聞きつけて歩いてくる。バステトに代わり、エクソリアが顛末を話し始めた。

 『今のバスの話からだいたい想像はつくと思うけど、生贄をね、使ったんだ。若い娘の命と引き換えに雨を降らせて欲しいと。もちろんボクにそんなことが出来るはずもなく、彼女と数人は海の藻屑と消えたって訳さ』

 <もう餓死寸前だったからあまり変わらなかったけどにゃ……>

 『で、ボクが拾って暴食の虎へ変えたってわけさ。ま、あの島の民は殆ど全滅しちゃったけどね』

 <そうだったにゃあ……みんな可哀相だったにゃ>

 「生贄にされたのに優しいなバステトは」

 カルエラートがそう言い、バステトは慌てたように取り繕う。

 <そ、そんなこと急にいうにゃ!? 痛っ!? 串で指を怪我したにゃ……>

 そんなバステトを見て、レイド達は笑うのだった。
 
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