313 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その334 過去の贖罪
しおりを挟むドシャ……
エリックの一撃でデダイトが地面に倒れると、村人たちはべしゃっと泥のようなものに変わり果てて消えた。
「終わったのか?」
「……そのようだな。大丈夫かユウリ? 戻ったらフレーレに治療してもらわないとな」
ワイヤーが食い込んで肉が斬り裂かれた皮膚を見ながらノゾムが声をかけていた。その言葉にユウリが機銃を地面に置きながら反論する。
「どうしてフレーレ限定なんだよ!? セイラかシルキーさんだっていいだろう!?」
<はっはっは、どうしてだろうなあ。……む、エリックがデダイトに……>
カームの視線の先にはデダイトを起こすエリックの姿があった。デダイトは目を瞑ったまま満足そうに微笑み、口を開く。
「……完敗だ。ライノスとエレナの子供の頃を見せたら動揺すると思ったんだがな」
「動揺はしたさ。でも、僕にはそれを正してくれる人達がいたからねー。何とかなったよ。途中までは僕は君に殺される覚悟だったからね」
「フン、お前の考えそうなことだ。……あの時、俺が処刑される時だ。あれでお前を恨んでいると思うか?」
「……」
エリックが顔を歪めて黙りこむと、デダイトが片目を開けてエリックを見る。
「恨むわけないだろ。あれは俺がお前を騙して城へ乗り込んだ俺が悪いのさ」
「でも、助けられたかもしれないじゃないか」
「もしかしたら、はあったかもな。だけど、結末はこの通りだ。過去は変えられないんだ」
「デダイト……」
「ま、とりあえずビューリックは解放してくれたみたいだし、お前が強いことも分かった。満足だ」
そこにユウリが歩いて来て、デダイトへと尋ねた。
「あんたが満足したのはいいとして、こんなことをした理由は?」
「……異世界人か。まったく、あんなのを使うとは汚いやつだぜ。……俺はメッセンジャーさ」
<メッセンジャー?>
「ああ。次の階はビューリックの国王が待ち受けている」
「……!? まさか!? ……いや、あり得るか……下でエクセレティコの国王が復活していたんだ、あの男が生き帰っていても不思議じゃないねー……」
「そういうことだ……神裂のやつはどうもお前達を試しているような感じがする……もちろん殺す気で俺達を寄越しているがな。何かさ、考えがあるんじゃ、ないか……」
「デダイト!」
「ここまで、か……久しぶりに話せて良かった……ぜ、気にするなよ? 元々死んでいた命だ……う、後ろを見てみろ」
「!」
エリックが振り返ると、今まで襲ってきていた村人がずらりと経っていた。ただし、今度は穏やかな顔をして。
「僕は……」
「あの時代は運が悪かったんだ……それはみんな分かっているさ……か、過去は変えら、れない……間違ったなら後でもいいから、正せば……いい……んだ……お前は、きちんとクーデターで、成し、遂げたんだ……よ……」
「喋るな、きついんだろう」
「いや、いい気分……だ――」
フッと笑った後、パァっと光となり、デダイトと村人は消え去った。
「過去は変えられない、か。父さんは何を思ってこんなことを……」
<人々を犠牲にしたことを許して欲しい、とかではないか?>
「……父さんがそんなタマかよ。ん、雨が止んだみたいだ」
<行くか?>
カームが立ちあがったエリックの背に声をかけると、エリックは無言で頷いた。
◆ ◇ ◆
「まだ出てくるのか……! ん?」
パァァァ……
「村人が消えて行きます……!」
カルエラートが村人の攻撃を受けながらぼやいていると、村人の体がスゥッと消えて行く。礼拝堂の前でエリック達が戻ってくるのを待ちながら戦っていたレイド達が拍子抜けしたように武器を降ろした。
「どうしたんだ?」
「エリック達が何かやってくれたんじゃないかしら?」
レイドが呟き、セイラがパンと手を叩いて喜ぶと、礼拝堂からエクソリアが顔を覗かせて喋り始めた。
『……終わったかい? 礼拝堂は特に怪しいところはなかったよ。ここは階段じゃなくて転移陣で移動するみたいだよ』
『中は広いからエリックを待つなら中で休憩しましょう』
「俺は外で待っておこう。みんなは中に入っていてくれ」
レイドは剣を鞘におさめると、空を仰いで呟いた。それを尻目に礼拝堂へ入って行くカルエラートやセイラ達。そんな中、フレーレはエリック達の帰りを待つためレイドと共に残っていた。
「戻ってきますかね……?」
「カーム達も居るんだ、大丈夫だろう。……一時間経っても戻ってこない場合は、残念だが先へ進む」
「はい……」
しばらく立ち尽くしていると、フレーレが空を見上げて声を上げた。
「あ! あれ! カームさんじゃありませんか!」
「本当だ! おーい! こっちだ!」
レイドが手を振りながら叫ぶと、カームが一直線に礼拝堂へ進路を変えて突っ込んできた。
<終わったぞ>
「ありがとう。ノゾムとユウリも、助かったよ。本来なら俺が行くべきところだったんだが……」
「ふん、リーダーが率先して突っ込んで死んだらたまらないからな。これでいいんだ」
悪態をつくユウリを見て、フレーレが悲鳴に近い声をあげる。
「ちょっとユウリさん!? 何ですかこの傷だらけの腕!? 動かないでくださいよ……!」
「う、分かったよ……」
フレーレの剣幕に押され、渋々大人しく立っているとリザレクションがユウリの体を包み込み、血だらけ、傷だらけの腕や顔が治癒された。
「これでよし! あんまり無茶はしないでくださいよ? いつでも回復出来る訳じゃないんですから……」
「わ、分かったよ……」
心底悲しそうな顔をしたフレーレに焦り、とりあえずの返事をすると、エリックがそろそろかと口を開く。
「レイドさん、次の階について話がある。中へ入ろう?」
「? そうだな。ここで立っていても仕方がないか」
カームは小さくなり、礼拝堂へ入る一行。少しお茶を飲むなどの休憩を経て、エリックがみんなに告げる。
「次の階は僕の故郷、ビューリックの国王が復活しているらしい。エクセレティコの国王の時と同じく強化されていると思うから、心して欲しいかなー」
「あの王か……陰湿そうだったしな」
「それに、へ、変態でしたし!」
フレーレが思い出したくないと頭をぷるぷると振り、思い出さないようにしていた。
「……何にせよ、聞く限り外道のようだ。遠慮をしないでよさそうだ」
「うん。今度こそ、地獄へ送ってあげるよ」
決意に満ちたエリックの目を見ながら、レイドは深く頷いた。前回の戦いではエリックに国王、ゴナティソにトドメを刺した。戦闘ができるような男ではなかったが、待ち受けているほどの自信があるので油断はできないと、考え込む。
――そして、一行は74階へと足を踏み入れた。
0
お気に入りに追加
4,187
あなたにおすすめの小説
賢者の転生実験
東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。
不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。
大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?
先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>
天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。
【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】
飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。
アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。
セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。
最終的にはハッピーエンドになる予定です!
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。