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最終部:タワー・オブ・バベル
その332 雨
しおりを挟むレイド達が建物に逃げ込んでから数時間が経過していた。外は村人が徘徊しており、まだ脱出をするには至っていなかった。
『一体どこから湧いてくるんだか』
「僕の子供の頃に見た覚えのある人とかもいるからねー……かなり昔の人間が居る気がするよ。あのおじさんも見たことがある」
エリックが窓の外を見ながら呟くと、シルキーも外を見ながらふと口にする。
「もしかするとアンデッドの可能性が高いわね。デッドリーベアも、国王もそうだったし」
「そうですね。でも、通常のスケルトンやグールと違って、喋れますからヴァイゼさんに近いアンデッドだから倒しにくいですよ……」
「逆にこの杖で腐らせたらどうなるのかしら……」
「嫌な結末しか見えないからやめましょう? あれ? ユウリさん、何してるんですか?」
フレーレがセイラに突っ込む傍ら、床に座り込んでなにやら組み立てているユウリに目がいき、話しかける。ユウリは部品から目を離さず、フレーレへと答えた。
「ちょっと特殊な銃を組み立てているんだ。ここを出るのに必要になるかもしれないと思ってさ。こういうのも悪いけど、僕たちは邪魔する者に対して容赦はしないんだ、だからフレーレ達に何と言われようとも、いざとなれば蹴散らして進むつもりだ」
「ユウリさん……」
「ごめんね、フレーレさん。でも私達の方がショックは少ないと思うの。ユウリにノゾム兄さん、それと私がしんがりになるつもりよ」
アイリがニコッと微笑むのとは対照的に、フレーレは顔を曇らせる。続けて、ずいっとカームが前に出てきた。
<俺も手伝おう>
「……助かる。レイドさん、どうする? 昨日の感じだと夜は活動が鈍くなっていそうだし、それまで待つのか?」
カームの背を撫でていたノゾムがレイドへ指針を尋ねると、レイドは煙突を見ながら口を開く。
「そうだな……とりあえずカイムの報告を待とう。階段が見つかっていればいいが……」
剣の柄に手をやりながらそわそわするレイドに、ヴァイゼが話しかける。
「焦るなレイド。むやみに動いても仕方ないし、焦っては勝機を見誤るぞ?」
大人しく待てとヴァイゼは床に座り目を瞑る。よく見ればヴァイゼの衣服はだいぶくたびれており、心なしか顔色も悪い気がする。拠点に戻らず、常に塔の中にいるので当然と言えば当然だが――
「(元魔王だからと無理をさせ過ぎたかもしれないな……ここでヴァイゼさんを亡くしたらルーナはまた落ち込むだろう……俺がしっかりしないと)」
レイドも近くの椅子に手をかけて座る。沈黙の中、フレーレとシルキーがお茶と簡易な食料を出してくれたりと、時間を潰す。
そろそろ夕方になるかと、誰もが思ったところで煙突から降りてくる気配があった。
「すいません、遅くなりました」
カイムが髪の毛に雫を滴らせながら、部屋へと入ってきた。外はどうやら雨が降り出したようだと、思いながらレイドはカイムの肩を叩きながら話しかけていた。
「無事だったか、少しヒヤッとしたが良かった。どうだった?」
「ありがとうございます! 身を隠しながら屋根を渡り歩いてきましたが、広さはそれほど無いですね。もちろん下の階と比べたら、ですが。それと階段は外にはありませんでした。ですが――」
<何か怪しい所でもあったかにゃ?>
「ええ、他の建物より大きい礼拝堂があったんですけど、その周辺は村人が少し多いと感じました。窓は板で塞がれているので残念ながら見ることはできませんでした。すいません……」
「そんなことありませんよ! 一つでも怪しいところがあったというだけでも良かったです! 闇雲に動き回るより目指すところがあったほうが絶対いいです!」
カイムがぺこりと頭を下げるが、フレーレが手を取ってカイムへ労いの言葉をかけると、カイムは顔を赤くしてもごもごと呟き、ユウリが眉をぴくぴくさせていた。
『ここから礼拝堂までは?』
「この人数での移動なら、邪魔をされなければ2時間ほどで行けると思います。マッピングはしてきましたから、建物の影に隠れながら移動しましょう」
その言葉にエクソリアが頷くと、セイラが窓をの外を見ながら面倒くさそうに言葉を放つ。
「追手は多いし、しかも雨……カームさんにみんな乗れたら楽なのにね」
<はっはっは、俺もそうしたいところだが、せいぜい二人までだな。セイラとニールセンで乗るか?>
「ば!? 何言ってるのよ!」
セイラがカームの背中をぽかぽかと叩いていると、カルエラートが外の様子を伺いながらレイドへと問う。
「人の気配がかなり薄くなったぞ。家へ戻ったのかもしれない。出るなら今がチャンスと見るが、どうする?」
「そうか、今なら……いけるか? よし、雨なら村人も大勢で出歩いてはいないだろう。アンデッドかもしれないが、知恵が働くならなおのことだ。ユウリ、銃はできたか?」
「気遣いありがとう。問題ない、いつでもいけるよ」
今まで見てきた銃の中とは違い、かなり大型の銃を両手に抱えて立ちあがるユウリ。レイドは続けて、床に座り込んでいたエリックへと声をかける。
「よし、エリックは動けるか?」
「……大丈夫だよ、いこうかー」
重い腰をあげるエリックに足をポンポンと叩きながらバステトが心配そうに言う。
<無理しにゃさんな? 戦いはなるべく避ける方向でいくにゃ>
「ありがとう、猫さんー。……大丈夫、後は僕が何とかするよ……」
<猫じゃないにゃ! ……?>
「では、ノゾム達よ、しんがりを頼むぞ」
ヴァイゼの言葉にコクンと首を下げ、それぞれ武器を構えて扉の横に立った。最後に出るため道を空けた形である。
『なら……結界を解くわよ』
――アルモニアが結界を解き、窓から誰もいないことを確認してから飛び出した一行。先頭にカイムとレイド、次いでカルエラートが様子を見ながら進み、ヴァイゼとニールセンで女性陣を挟むように並んでいた。
その後に足取りがやや重いエリックがついて行き、最後はアイリ、ユウリ、ノゾムとカームが背後を警戒しながら家の壁伝いに歩いていく。
「……ふう、ふう……雨がまとわりついてきますね……」
「屋根があるわけじゃないですからね。でもいい具合に、雨が視界を遮ってくれています」
フレーレとニールセンがそんなやりとりをしつつ先へと進む。村の地面は土なため、雨でぬかるんでいる。そのため転ばないよう無意識に足が遅くなっているのだが、視界の悪さと相殺されている状態だった。
「そろそろ二時間。まだか、カイム?」
「少し遅れているみたいです……この角を曲がれば――」
「どうした?」
「いえ、今、殺気が……」
ゾクリ……カイムが寒気を感じ、足を止める。辺りを見渡し始めたカイムの目線を追って、フレーレがきょろきょろと首を動かす。
「うーん……さっきの殺気は気のせいじゃないですか? 何も――!?」
フレーレは最後まで口に出せず、目を見開いて固まっていた。その先には、家の窓がある。先程までは誰もいなかったのだが、目が、こちらを見ていたのだ。それも無数に。
「見つかった……?! いつから見られていた!?」
『向こうの家にも……あっちにも人影があるぞ! 怖っ!?』
エクソリアが叫ぶと、「おおおおお!」と、怒号のような雄叫びと共に、家々から村人が飛び出してきた!
「到着寸前で奇襲……罠だったか」
「いいから走れ! 到着すれば俺達の勝ちだ!」
ノゾムが冷静に言うので、レイドが頭をぽかりと叩き、首根っこを掴んで走り出す。
「逃がすな! 囲めぇ!」
聞き覚えのあるデダイトの声が、雨の中響き渡る。複数の足跡がレイド達を追跡してくる中、礼拝堂らしき影が見えた。
「あれか……!」
「くっ……これ以上は無理……撃ちます!」
アイリがライフルを構えようとしたところで、エリックが進行方向とは別の道へと躍り出た!
「エリック! 何を!」
「デダイト、狙いは僕なんだろ? こっちにこい、相手をしてやるよ。村人も、僕が憎いんだろう? こっちだ!」
「ふん、いい覚悟だ……みんな、エリックを追え! そいつらは先に行かせてやれ」
「……」
デダイトの号令で、村人たちは進路を変えてばしゃばしゃと走っていく。
「あいつ……! エリックを追うぞ!」
「礼拝堂はすぐそこだ。先へ行くぞ」
レイドがエリックを追おうとしたが、ヴァイゼがそれを止め、レイドが振り向くと、首を振った。
「み、見捨てるんですか……!」
「思う所はあるのだろう、だから囮を買って出た……お前達は先に行け」
「ヴァイゼさんはどうするの?」
「俺が行こう」
「一人じゃ無理だ、俺も行きます!」
「いや、レイドはいなければダメだ。先にみんなを連れていけ。後で追いつく」
「しかし……!」
レイドとヴァイゼが押し問答をしていると、空からカームの声がかかった。
<ヴァイゼ、レイド! 先へ行け、ここは俺達が行く!>
「「カーム!?」」
「あ! ユウリが居ない!? 兄さんも!」
アイリが気付くと、頭上のカームが全力で空を翔けた。その背中には、ノゾムのワイヤーで、カームの体とユウリ、そして”MG3”と呼ばれる機銃を固定している姿が目に入った。
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