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最終部:タワー・オブ・バベル

その330 一晩の後

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 おっかなびっくり……なんと腕輪に魔力を込めるとチェイシャが腕輪から語りかけてきたのだ。私は地面に座り、シルバ達は伏せの状態でチェイシャの話を聞いていた。

 <――本来、この装備はお主の体から出る魔力に反応して、少しの会話とわらわ達の得意技ができるだけの効果じゃったが……まさか、永続的に喋れるようになるとは……というかレイドの父よ、さっき触った時、刻印に細工したろ?>

 腕輪から疑問の声を出すチェイシャに、ヘスペイトさんが頬を緩ませる。

 「そうだね。折角だから少し手を入れたんだ、これで想定より強くなるんじゃないかな?」

 <……確かに。というわけでルーナよ、盾と指輪にも魔力を込めてもらえぬか>

 「あ、うん!」

 チェイシャが話せるならアネモネさんやファウダーも……! 私は期待を込めてアネモネさんの盾の裏にある刻印とファウダーの指輪裏にある刻印に魔力を込める。

 <んあ……? なんだい、目が覚めちまったよ? 戦いかい!>

 <いや、どうやら違うみたいだよアネモネ。ルーナが目覚めさせてくれたんだよね?>

 眠そうな声のアネモネさんにいつものファウダーだ……! 

 「二人とも……消えたんじゃなかったんだね……」

 <……チッ、あたい達は切り札じゃなかったのか? 覚醒しちまってるじゃないか……ああ、もう泣くな! 調子が狂う>

 「くぅーん」

 「きゅん」

 私が涙を流していると、シルバとシロップが私の膝の上に乗って頬を舐めてくれた。そのままチェイシャが語り続ける。

 <わらわ達は人化することで最後の力を使って消滅し、この装備へ魂を格納するよう主に調整してもらったのじゃ。理由は簡単、魂となった場合、神となりつつある神裂の手に捕獲される可能性が高いからじゃ。そうなるとルーナ達にけしかけてくると予測されるじゃろ>

 <だからオイラ達は自分たちと共にあった装備へ移動できるようにしてもらっていたんだよ>

 「そうだったんだ……なら言ってくれても良かったのに」

 私が言うと、アネモネさんがため息を吐きながら呟いた。

 <お前達は嘘が下手だからな。あたい達が消滅したとしても、そのまま神裂を倒せばそれでも良かったんだよ。ま、リリーが居なくなっちまったのは主も誤算だったみたいだけどな>

 「リリーは居ないの?」

 <うん。気配はまったく感じないし、剣に魔力を込めても帰ってこないと思うよ。あの冥界の門は別の世界に通じているのかもしれないね>

 ……別の世界……だったらパパとママも別の世界で助かっているかも? そう思えば……ううん、そう思うことにしよう。私が前向きに考えていると、ヘスペイトさんが喋り始めた。


 「お話は終わりかな? 俺も色々見て来たけど、喋る装備は初めて見たよ」

 「いえ、物に触れて昼間でも動き回れる幽霊も初めてですけど……」

 「ははは、確かに! 鍛冶場、早くできないかなぁ君達の装備を早く強化したいよ」

 <適当じゃのう……堅物レイドの父とは思えんわい>

 「でも、笑った顔とかは似てるわよ?」

 <うーん、目が覚めたらそれはそれで動けないのが苦痛だな……あたいは寝る! 戦いになったら起こしてくれ!>

 「あ! 今から練習するから技を教えてよ!」

 久しぶりに三人と話し、気が楽になる。

 さて、みんなが戻ってくる前に会得しなくちゃね!



 ◆ ◇ ◆


 <バベルの塔:73階>


 「魔物が来なかったのは幸いだな」

 「そうですね。しかし……静かすぎるのも気味が悪いですね……」

 「……この村はこんなものだよー。国王に捨てられた人間が集まる場所だったからね……」

 陽が暮れてから交代で休息を取ったレイド達は村の中を進んでいた。休む者は近くの家屋へ入り、それ以外は見張りで外で警戒をするという状態だった。最後の方は安全だと認識し、眠らない男、ヴァイゼが一人で見張りをしていた。

 「また家の中に階段があったりするんでしょうか?」

 「どうだろうな。バズーカでもあれば吹き飛ばすんだけど……カイム、何か見えるか?」

 フレーレが家を覗き込みながら歩いていると、ユウリが近くで不穏なことを呟き、屋根伝いに移動するカイムへ声をかけていた。

 「相変わらず何も……ん? いや、人が近づいてきますよ、レイドさん」

 「……十中八九、敵だろうな。みんな、油断するな? カイムは姿を消しておいてくれ、いざという時頼む」

 「はい!」

 カイムがスッと姿を消すと、丁度カイムが見たという人影が家の影から現れた。むすっとした表情の男の子と、にこにこしている女の子だった。歳は13か14歳くらいだろうか?


 「……子供? なんでこんなところに……?」

 「あ、ああ……!?」

 セイラが首を傾げていると、近くに立っていたエリックが、子供達を見て後ずさる。子供達はそのエリックを見て、ぼそりと呟いた。

 「……エリック、どうしてあの時オレ達を見捨てたんだ?」

 「お嫁さんにしてくれるって言ったよねぇ? どうして逃げたのかなぁ?」

 険しい表情の男の子に対し、ニタリと笑う女の子。

 「この子、どこかで見たことが……?」

 レイドが男の子に見覚えがある。と、ポツリと口に出したその時、エリックが青い顔をして喋り出した。

 「あ、あの時は仕方なかったんだ、それはお前も分かっていたはずだよ! その後、ちゃんと義理の父親に拾ってもらったじゃないか……」
 
 「餓死寸前でな」

 「僕だって見捨てたくは無かったんだ、分かってくれライノス!」

 「ライノス!?」

 レイドがエリックの言葉に驚き、男の子を見る。言われてみれば確かにライノスの面影がある。

 「今度はお前が苦しむ番だ……!」

 「す、すまない……僕は……僕は……」

 頭を抱えて蹲るエリックを見て、レイドがハッと我に返り、エリックを立たせる。

 「しっかりしろ! ライノスは死んでいないんだろ! だったらこいつは偽物だ!」

 「あ……レイド……そ、そうか……そうだね、取り乱して悪い……」

 何とか立て直そうと頭を振るエリック。だが、恐怖は終わっていなかった。忽然と兄妹が消え、次に優男風な男性が立っていた。

 「お前だけ幸せになるのは許せない。この村の人間は、そう言ってるんだよ……みんな、こいつらを取り押さえろ」

 「……! デダイト……!?」

 驚く間もなく、デダイトと呼ばれた男の後ろに、老若男女、ありとあらゆる人間が立っていた。それぞれ農具などの武器を構えて。

 「ど、どうするのお兄ちゃん!?」

 「戦うしかないか……!?」

 「で、でも魔物じゃありませんよ!?」

 村人ということで躊躇するレイド達。考える暇を貰えず、先頭に立っていた男は手を前に翳した。

 「やれ」
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