308 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その329 女神の装備品
しおりを挟む――私達がお風呂から上がり、家に戻ろうとしたところで、ミトが慌てて走ってくるのが見えた。話を聞くと――
「ルーナお姉ちゃん、大変! 幽霊! 幽霊が出たよ! 拠点に知らない人がいるなあって思って近づいたらすり抜けたの!」
うん、間違いなくヘスペイトさんだ。
「あー、そういえば皆に紹介していなかったっけ。幽霊っぽいけど、ちゃんと話せるのよ。ちなみにレイドさんのお父さんで、鍛冶師なんだって」
「早速、私の武具を鍛えてもらうつもりでありますよ!」
私が微笑みながらミトの頭を撫で、ウェンディガ豪快に笑うと、ミトは驚いた顔で叫びだす。
「え!? レイドさんのお父さん!? わ、わたし、クレリックの人に成仏させてもらうようにお願いしちゃった!」
「え!? ミ、ミト、案内して!」
「うん!」
いや、すでに亡くなっているからいつかはそうなってしまうんだろうけど……あ、涙が出てきた……それは今じゃない。
ミトに連れられ、慌てて現場へと向かう私達。
すぐに到着すると、ヘスペイトさんが三人のクレリックに囲まれていて、クレリック達は呪文を唱えている最中だった。声をかけようとする前に魔法が発動。あ、マズイ! そう思ったけど――
「ぬう!? ディスペルが効かん!?」
クレリックの一人が驚愕していると、ヘスペイトさんが申し訳なさそうに頭をかいた。ヘスペイトさんは魔法を受けたにも関わらずどこ吹く風だ。
「ああ、これは申し訳ない。俺は未練があってまだ成仏できないんだ。だからそういうのはちょっと……」
「『そういうのはちょっと』ってなんだよ!? 強制的に消し去る魔法だぞ!? ええい、もう一度……!」
私はもう一度ディスペルをかけようとしたクレリックへ大声で叫んだ。
「すいませーん!! その人、私の知り合いなんです! だから大丈夫ですよー!」
「は? ……ああ、ルーナ様! お知り合い、ですか? 幽霊と?」
私の声に振り向いたクレリックが、複雑な表情で私を見る。
「ええ、レイドさんのお父様なんです。ここで帰りを待つためにお待ちいただいているんですよ。すいません、伝え忘れていて」
ぺこりと頭を下げると、クレリック達は「それならいいんだ、私達からみなに伝言をしておくよ」と、その場を後にした。
(しかし幽霊と知り合いとはなあ……)
(まあ、勇者に魔王……喋る獣に異世界人だ、もう何が起こっても驚かないぜ俺は)
(だな、分かるわ)
「……」
変人ご一行様みたいな言い方は止めて欲しい……いやいや、そんなことよりヘスペイトさんだ。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとうルーナさん」
「ご、ごめんなさい! わたしが幽霊がいるって教えちゃったの……」
「はは、いいよいいよ。別に間違っていないからね。俺はこの辺りでひっそりとしているから、もし用があったらいつでも来てくれ」
「レイドさんの家でもいいんですけど……」
「テント暮らしが性にあっていてね。あ、そうだ、用事といえば俺がルーナさんにあったんだ」
「え?」
テントに戻ろうとしたヘスペイトさんが思い出したとまた這い出てくる。
「昼間に持っていた装備でいくつか気になるのがあってね。見せてもらえないかと思っていたんだ。剣に腕輪、それと盾と鎧だね」
それって……チェイシャ達守護獣の女神装備……鍛冶師だけになにか感じる所があるのだろうか? 明日は盾に何か力がないか確かめる予定だったし、丁度いいかもしれない。
「分かりました! じゃあ明日ここに持ってきますね」
「よろしく頼むよ。鍛冶場はまだできないだろうしね」
ははは、と、ヘスペイトさんが笑うと、ウェンディが肩を落としていた。
「そうでありました……鍛冶場が無いと鍛えてもらえないのであります……」
「まあ焦らなくていいじゃない。腕を磨きましょ」
イリスが苦笑しながらポンポンと肩を叩き慰めていた。
そして翌日。
私は女神装備を持って、ヘスペイトさんのところへと出向いていた。
「おはようございますー」
「ガウー」
「わんわん!」
「きゅん!」「きゅふん!」
狼達も私にならい挨拶をすると、テントからヘスペイトさんが顔出してにっこりと笑う。
「おはよう、いやあ眠くならないから時間を潰すのが大変でね……寝ようとしてもすぐ起きちゃうし……お腹が空かないのはいいんだけどね」
「結構、幽霊も大変なんですね……」
「まあ、俺なんかは長いから慣れてくると面白いけど――さて、それじゃ早速で悪いけど見せてもらえるかな?」
適当に丸太を切った椅子に腰かけ、ヘスペイトさんが装備を要求する。私はヘスペイトさんの足元に一つずつ並べていった。
「……腕輪と盾、それと指輪はものすごい圧を感じる。剣とサークレット、それと鎧は全然だな。この剣とか、確かに強いがこれくらいなら俺でも作れる」
目を細めて愛の剣の刀身を見ながら独り言のように呟く。腕輪と盾、指輪……
「さっき圧を感じるって言ってた装備は、それを司っていた守護獣が消滅している装備ですね」
「ふうん、ならこっちの剣と鎧、サークレットの守護獣とやらはまだ?」
「ええ、今は塔に行っています。でも、剣の守護獣……リリーは冥界の門に入ったから死んでいると思うんですけど……」
私が伏し目がちに言うと、ヘスペイトさんが口を開いた。
「この装備がどういった作られ方をしているのか分からないけど、恐らくその守護獣が消えることで力を解放するタイプの魔法装備みたいだ。まあ仮説だけど、剣が大したことないのは、リリーという守護獣がまだ消えていないってことなんじゃないかな」
「まさか……でも運はいいって言ってたっけ?」
あの空虚な門の中でパパとママを探しているのだろうか……? でも人化の法を使ったら時間で消滅するんじゃなかった? あ、でも全力を出していなかったらすぐに消えないんだ。もしリリーが生きているなら三人とも無事で帰ってきて欲しい。
「とりあえず解放されていない装備は置いといて……こっちの解放されたものから視様」
「? 何か分かるんですか?」
「どうかな。俺の分かる範囲でならもしかしたら……内側に刻印? 一つだけ削れている文字があるな……ルーナさん、ちょっとこの刻印に魔力を入れてくれないか?」
「どれですか? あ、本当だ。うーん……こう、かな?」
エクソリアさん達は何も言っていなかったよね、この刻印。もしかして切り札だったりする!? やっぱり止めとこう!
「ヘスペイトさん! やっぱり作成者のエクソリアさんが戻ってきてから――」
私は叫ぶが、そんな私をあざ笑うかのように腕輪は光り輝き始めた! あちゃーやっちゃったパターンかしら!?
やがて光がおさまると、シルバとシロップが腕輪を見て吠えだした。
「わんわん♪」
「きゅきゅーん♪」
「どうしたの? 腕輪が光ったのが嬉しいの?」
しゃがんで二匹を撫でると、どこからか声が聞こえてきた。
<ほほう……まさかこんなことになるとは、主も目を回しそうじゃな。……そして久しぶりじゃ、ルーナ>
「え!? チェイシャ!?」
そう言えば私の偽物に魔弾を撃った時にも聞こえたけど、あれって幻聴じゃなかったんだ。
そんなことを考えていると、腕輪チェイシャが話始めた――
0
お気に入りに追加
4,187
あなたにおすすめの小説
賢者の転生実験
東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。
不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。
大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?
先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>
天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。
【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】
飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。
アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。
セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。
最終的にはハッピーエンドになる予定です!
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。