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最終部:タワー・オブ・バベル
その328 一日の終わり
しおりを挟む<バベルの塔:73階>
「ビューリックにこんな村があったんですか?」
「ほとんど廃村みたいなところね、家もかなりボロボロだし」
フレーレとセイラが歩きながら掃き捨て村を見渡してそんなことを言い、エリックが険しい顔でそれに答えていた。足取りはかなり重たい。
「……そうだねー、ここはビューリック国の中でも忌むべき……いや、恥ずべき場所だよ。国王の暴挙が分かっていながらそれを許した末にできた村。それがここなんだ。忘れてはいけないけど、思い出すのは心苦しいねー……何でまたこんなところにあるのか……」
「さっきはエフィクセレティコ、今度はビューリックか? となると、上の階は――」
前を歩くカルエラートが上空へ飛んでいるカームへ目を向けると、カームは察したようでゆっくりと降りてくる。
<恐らくヴィオーラを模したフロアもあるだろうな>
「ようやく国王と決着をつけることができそうですね」
ニールセンも加わり、ヴィオーラ出身の三人は気合いを入れていた。そこにレイドが空を見ながら口を開く。
「ルーナを助けに行った時には気付かなかったな。というより、そのまま魔王城に転移されたから仕方ないんだけど……」
「ルーナちゃんにはここを案内したことがあるけどねー。今はもう解体しているからここを見せられるとは思わなかったかな」
エリックが困惑した顔で呟くと、ノゾム達も口を開いた。
「……現実にはもうない村か。下の階で、熊とエクセレティコだったか? その国王が現れて今度はエリックさんの国。いよいよ偶然ではなさそうだ」
「一応スコープで辺りを見たけど何も、それこそ人もいないわ」
「先に進めば何かしら出てくると思うけどね。先に行くかい?」
ユウリがレイドへ先へ行くか促す。
「いや、そろそろ陽が暮れる。今日はここで休もう。まさか塔を二階踏破するだけで丸一日かかるとは思わなかったが……」
それを聞いて早々に野営の準備を始める一行。料理に参加させてもらえないエクソリアが適当な家屋の上で見張りをしながらレイド達に言う。
『それだけリリーの力は強かったんだ。信じてもらえるかわからないけど、彼女は本当に不幸でね。自分と周りが不幸にならないよう『幸運』に特化した守護獣だったんだよ。だから、戦闘力はそこまででもないけどね』
「その幸運でディクラインさん達を連れて戻って来れるといいんですけど……」
食事の用意を始めたフレーレの言葉に、苦い顔をしつつも誰も返事をしなかった。
◆ ◇ ◆
<拠点>
「それじゃあヘスペイトさんは、レイドさんの剣を鍛えに?」
「そうだね。セイラにアーティファが憑いているから、俺はレイドをね。もちろん、他のみんなの装備も鍛えておきたいと思っている」
少しだけ仮眠をとった私は、幽体ですっかすかのヘスペイトさんと並んで、またしても生姜焼きを食べていた。昼食に引き続きだけど、美味しいからいいよね?
シルバやシロップ達はヘスペイトさんがまだまだ不思議なようで、手をすり抜けさせたり体当たりをしては「?」を出していた。
それはともかく、レイドさん達が出発してまだ一日。今までの道中を考えると、早くても二、三日は戻ってこない。追いかけてみるか尋ねてみると、「追いかけたところで鍛冶はできないからね」と苦笑されてしまった。
「まだ鍛冶場もできそうにないし、少し散歩でもしながら用意を――」
と、ヘスペイトさんが言うと、ブラウンさんが私達のところへ駆けてくるのが見えた。まさか……
「おおーい! 鍛冶場、外観ができたぞ! 内装は鍛冶師に聞きながら造りたいんだけどどうかな?」
「早くないですか……?」
「そりゃあ、鍛冶師が拠点に常駐してくれたら、他のみんなも武器の手入れができるしね。実際、外の魔物は強力だし生き残るために必要……と、あなたが鍛冶師で?」
得意気に説明してくれるブラウンさんはもはやシーフとは思えない活躍っぷりである。そして私の横にいたヘスペイトさんを見て尋ねると、にっこりと笑って頷いた。あ、笑った顔はレイドさんに似ているわね。
「やはりそうでしたか。ブラウンと言います。この拠点で家屋の設計などをやっていま……す!?」
スッと手を差し出し、スカるブラウンさん。
「え? あれ?」
「ああ、すいません。俺は幽霊みたいなもんなんですよ、そちらからは無理ですが、こちらからなら……ほら」
「ひい!?」
何故かヘスペイトさんからブラウンさんの手を掴むと握手ができるようで、握られた手をみてブラウンさんがギョッとしていた。
「あ、ああ……では、こちらへお願いできますか? ……ええー……ゴーストだろこの人……」
ブラウンさんがぶつぶつと何か言いながら先に歩いて案内をし始め、それを追ってヘスペイトさんも立ちあがる。
「行ってくるよ。ほら、お前達ももういいだろ?」
「くぅーん」
やはりヘスペイトさんからだと触れるらしく、頭を撫でられたシルバが伏せの状態で目を細めていた。見送った後、私はあることに気付く。
「もしかしてヘスペイトさん、相手の攻撃もすり抜けるならかなり強いんじゃ……?」
すると、後ろからイリスが近づいて来て私の肩をポンと叩きながら首を振った。
「よく幽霊と一緒にご飯を食べられるよね……後、ディスペルとか使う相手だったら流石に無理じゃない?」
「それもそうね。消えないってわけじゃないか」
そして夜も更けた頃、私、チェーリカ、ウェンディ、イリスの四人でお風呂に入って一息つく。
「どうでありますか? 少しは頭が冷えたでありますか?」
「んー、そうね。模擬戦であまり考える余裕が無かったのと、ヘスペイトさんを見て少し冷静になったかな。パパとママなら、何となくやられた仕返しに化けて出そうよね」
「ルーナは極端すぎるです……」
チェーリカが呆れて顔をばしゃばしゃ洗い、話を続ける。
「で、訓練はどうだったです? チェーリカとソキウスも交代要員だし、ルーナ達と実力が離れていないか試したいです」
「あー、そうね。塔に登り始めてから結構力が着いた気がするから、いいかも。明日はそうする? それにソキウスとウェンディならいい戦いになりそうよね、同じ大剣だし」
「そうでありますな! ただし、明日は拠点内でやりますぞ」
「ガウ」
「わん!」
「きゅんきゅん♪」「きゅふん」
はーい、と、シルバ達も返事をしのんびりと浸かった。お父さん達どうしてるかな……とりあえず私は今出来ることをやろう。
明日は女神の装備を調べてみようかな? チェイシャ以外も何かありそうだし。
今のところ消えた守護獣は、チェイシャ、アネモネさん、ジャンナにファウダー。ジャンナのクロスはフレーレが持っているから、とりあえずアネモネさんの盾とファウダーの指輪かな? リリーのは……まだ死んだと思いたくないから後にしよう……
本当はみんなを追いかけたい気持ちはあるけど、きっとレイドさんに怒られると思うので、みんなが無事に帰ってくるのを祈ろう。
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