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最終部:タワー・オブ・バベル

その327 国王として

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 バタン……!

 レイドの剣がグラオベンの心臓を貫き、グラオベンが後ろに倒れる。剣を抜いて、レイドが片膝をついてグラオベンへ話しかける。

 「国王……手を抜いていましたね?」

 「やはりあなたは……≪リザレク――≫」

 「やめよ、私のことはこのままでいい。それに回復魔法は役に立たん」

 <どういうことだにゃ?>

 シルキーが駆け寄ってきて回復魔法をかけようとしたが、グラオベンがそれを止めた。そして一息ついて、語り始める。

 「心臓を貫かれたが、実のところこの体はアンデッドでな。さほどダメージは無い。頭を壊すか、浄化が一番早く倒せるだろう。下の階にいた熊のようにな」

 そういってチラリとヴァイゼを見るグラオベン。アンデッド同士、分かっていると言った感じだ。

 「……どういうつもりなのだ? 意思があるなら、我等と神裂打倒を目指さないか?」

 「そういうわけにもいかん。他の階の者はどうか分からんが、少なくとも71階から80階までに生み出された者はここから動くことはできんようだ。試してはみたが、見えない壁のようなものに阻まれて先に進むことはできなかった……」

 グラオベンが目を瞑ると、ノゾムが口を開いた。

 「……父さんのことだ、俺達を倒せば生き返らせるとか言わなかったか?」

 「父さんだと? お前が神裂の息子か? ……ああ、そんなことを言っていたな……だが、私の目的はそんなことではない」

 「生き帰るのが目的ではない……? じゃあ、どうしてここでわたし達を襲ったんです?」

 「だな、僕達を攻撃する理由にはならないだろ」

 フレーレが首を傾げ、ユウリが頷くとグラオベンは話を続ける。

 「襲ったことについては簡単だ。お前達のような心優しき者が『殺してくれ』と頼んで、殺してくれたか?」

 「……あ」

 「そうだろう? 必ずためらいが出てくる。それに、お前達の力を試したかったこともあるが……フフ、あっさりやられてしまったよ。これでも以前より強くなっているのだがな」

 グラオベンは自嘲気味に笑うと、レイドが顔を歪めて謝罪する。

 「……申し訳ありません、お心に気付かず……」

 「気にするな、勇者よ。そして女神達よ、こうして生き返ったのは僥倖だった。お前達に伝えねばならんことがある」

 レイドに微笑みかけた後、エクソリアたちへと向き直る。

 『ボク達にかい? そういえば君はルーナに姉さんの力がある時狙っていたよね』

 『そうなの? 封じられていたからさっぱりだわ……』

 「あの時は国のためになると信じていたからな。結局はゲルス……神裂に踊らされていただけだった愚かな王よ。で、その神裂だが恐らくお前達の力も取り込もうとしている」

 『……それは何となく予測がつくけど、やつが取りこんだズィクタトリアの力が覚醒すればボク達二人なんか足元にも及ばないんだよね。それでさらに力をつけてどうするっていうんだ?』

 『そうね。私はともかく妹ちゃんはねえ……』

 アルモニアがうんうんと頷くと、エクソリアの耳がピクリと動き、下から睨みつける。

 『ああん? また封印されたいのかい姉さん?』

 『寝こみを襲った妹ちゃんに言われたくはないわね?』

 「喧嘩はやめてくださいよ!? そ、それでお二人の力を取りこんでどうするつもりなんです?」

 フレーレが間に入って姉妹を止め、グラオベンへ続きを尋ねた。

 「ヤツの目的は……うぐ……!?」

 「どうしました!」

 急に呻きだしたグラオベンにニールセンが叫ぶ。すると、どこからか神裂の声が聞こえてきた。

 『あーあー、おいおい国王。そいつはダメだぜ、ルール違反だ。悪いが、ここまでだ。退場してもらうぜ?』

 「神裂か! 死んだ人間を生き返らせてまた殺すのか! とんだ神もいたものだな!」

 ヴァイゼが叫ぶと、神裂は鼻を鳴らして答える。

 『はん、何とでも言え。どうせここまで来られなかったらお前達は全員死ぬ。まあ、確かに生き返らせて殺すのは心が痛むがな! ぎゃはははは! ……じゃあな』

 「う、ぐぐ……か、神裂ぃ! き、聞けお前達! あいつは地球とやらを――」

 ぐしゃ

 「ああ!? リ、リザ……そうだ、アンデッド……」

 シルキーが咄嗟に回復魔法を使おうとしたが、思いとどまる。そしてグラオベンは全身から血を噴き出し動かなくなった。

 「……父さん……こんな酷いことをどうして……」

 「今は辿り着いて答えを聞くしかない。そうだろ父さん?」

 『よく分かってるじゃねぇかノゾム。そうだ、登ってこい。でなきゃお前達も滅びるぞ。またな』

 まだ様子を見ていた神裂が答えると、今度はユウリが質問をした。

 「待て父さん! この男は『地球を』と言った、どういうことなんだ!」

 『……それこそ登ってきたら話してやるよ』

 「待てよ! おい!」

 <……消えたか。こちらの様子を全て見られているのは厄介だな……>

 ユウリが天井に向かって叫ぶのを見ながらカームが呟く。セイラがグラオベンの顔に白い布を被せながらカームの言葉に返答する。

 「そうね。だけど進むしかないわ、何とかするには神裂を倒すしかないし。次の階段へ行きましょう」

 「……今度こそ安らかに……国王……」

 「やるせないですね……」

 「神裂に利用されたが、最後の最後、心までは売らなかった。国王としての意地を見たな」

 二度目の死を目の当たりにしたシルキーが涙を流しながら、フレーレと共に祈りを捧げる。その横でヴァイゼが呟いていた。


 ――その後、一行はほどなくして73階への階段を発見する。マッピングしていなかったところで間違いなかった。

 <カイム、調べるにゃ>

 「わ、分かってますよ!? ……うん、やっぱり扉自体には罠はないですね。開けます」

 バステトに急かされ、扉を調べていたカイムは、そのまま73階へと躍り出る。そこは――

 「何だ? ……村?」

 「のどかな感じですね……一体……」

 「どれどれー? ……ここは……!?」

 レイドとニールセンが先に入り、エリックが興味深いと後から続くと、動きが止まった。

 「あいた!? もう、エリックさん! ちゃんと歩いてくださいよ、詰まってます!」

 フレーレが文句を言うが、エリックは顔を青くしたまま立ちすくみ、口を開いた。

 「……何故ここが……ビューリックの町だよ、ここ」

 「ここが? どうみても村じゃない?」

 セイラがひょこっと顔出して見渡す。エリックはそれに対し、首を振って答えた。

 「町だけど、町じゃない。どういっていいか分からないけど、ここは確かにビューリックにかつてあった"掃き捨て村”と呼ばれていた場所に間違いない……」

 エリックが冷や汗をかきながら村を凝視し、誰にともなく呟いた。
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