上 下
300 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その321 次の階段の前に……

しおりを挟む
 

 <バベルの塔:71階 深淵の森内部>

 

 「はあ……はあ……追ってきていないか?」

 「ええ……それにしても魔物の数が多すぎます……敵も本気だということでしょうか?」

 息を切らせて木にもたれかかるレイドと、後方を気にしながらレイドに話しかけるカイム。71階に到達してからすでに8時間以上経過していたが、まだ72階への階段を見つけることができていなかった。
 
 さらに、魔物が多すぎて前へ進むのも困難な状況もあり、焦りと疲労で一行の消耗はすでに限界に近いような状態でもある。

 『力が減るのは遺憾だけど、休憩をしようか。僕が気配をシャットアウトする結界を張るよ』

 『じゃあ次の休憩は私が張るわね』

 限界を感じ取ったエクソリアは、魔物の追撃が無くなった今がチャンスとレイド達を休ませるため結界を張る。そのことに安堵し、へたり込んだフレーレがレイドへと尋ねていた。

 
 「……深淵の森……わたしは入ったことがありませんけど、レイドさんは入ったことがありますか?」

 「ああ、ルーナ達と出会う前。それこそ腐っていた時期に自暴自棄になって入っていたことがあったよ」

 「そうなんですね。この森、確かに魔物が強力だと聞いたことがありますけど……」

 するとアルファの町を拠点にしていたシルキーが興味を持って話しかけてきた。レイドは頷き、話を続ける。

 「魔物か……確かに深淵の森の魔物は特殊だったな。北の森とも違う生態系があった。でも一番恐ろしいのは森そのものにあるんだ。目印をつけておかないと、一度迷ったらどこに居るのか分からなくなる……あ!」

 食事の用意を始めたセイラが叫ぶレイドを注意する。

 「ちょっとお兄ちゃん、あまり大きい声を出さないでよ? 魔物が寄ってくるかもしれないじゃない」

 「い、いや、すまん。ちょっと思い当たるというか、もしこの森が深淵の森を模しているなら迷路と変わらない。俺達が階段を見つけられないのも迷っているからなのかも……」

 「え、それじゃあ私達はここから出られないんですか!?」

 シルキーが絶望的な声をあげて叫ぶが、レイドはそれを否定する。

 「いや、深淵の森はちゃんと歩けば逆側に出ることは可能なんだ。行き先は――」

 と、レイドが言う前にエリックが口を挟んできた。

 「ビューリックだねー。僕たちの国では『帰らずの森』って呼ばれているよー。シーフなんかは近道にいいとかで使っているらしいから、カイム君なら集中すれば出口がわかるんじゃないー?」

 「頑張ってみます」

 カイムが返事をすると、剣を磨いていたヴァイゼが口を開いた。

 「ともかく階段だ。下の階からすると、どういう形で備え付けられているか分からないからな、魔物がいない間はしっかりチェックするぞ」

 そこで、カームとバステトが閃いたと、提案を始める。

 <空からも探してみるか。ノゾムのワイヤーを俺にくくりつけていれば見失うこともあるまい>

 <なら背中にわたしが乗っていくにゃ。二人なら早いと思うのにゃ>

 「……多分大丈夫だ」

 「ならノゾムは私が守ろう。正直、戦闘以外では役に立てないのが悔しいな」

 カルエラートがそう言うと、みんなが手元の料理を見て『食事があるのに』と、胸中で呟いていた。


 ――それから食事を終えたレイド達は数時間の仮眠を取り、再び行動を開始する。皆の足が軽く見えるのは結界のおかげでゆっくり休むことができたからである。
 ちなみにその間、結界の周りを魔物が何度も通り過ぎているがまったく気づかれなかったので、エクソリアの結界はかなりのものだった。



 「せい! ……しかし、こう魔物が多いと歩みが遅くなるねー。よくこんなのをこの短期間で登って来たよねー」

 魔物を倒してぼやくエリックに、フレーレが困惑気味に口を開いた。

 「今まではこんなに苦労はしなかったんです。今回だけがおかしいみたいな……」

 「そうよね。危ない目には合うけど、なんやかんやで無事だったことが多かったし、魔物も少し競り合うくらいだったわよ」

 セイラも便乗して会話に乗ると、エクソリアが呟く。

 『……何度か口にしたと思うけど、リリーの影響だよ。彼女は他の守護獣と違って人化の法を使わない限り戦闘能力は皆無だけど、代わりに『幸運』は不幸や危険を減らすことができたんだ。鏡のフロアでリリーが居なかったら何人か偽物と入れ替わってもおかしくなかったと言えばどれほどのものか分かるだろ?』

 「……なるほど、偽物がギャグっぽかったのも……」

 『そういうことだ』

 「偽物……そんなのも居たのか」

 カルエラートがノゾムの横でポツリと言うと、カイムが右手の木の間を見て声をあげた。

 「みなさん! あそこに!」

 「お! やったなカイム! 木の階段だ!」

 木々の間に広い場所があり、石の階段が目に入ったレイドが声をあげると、他のみんなも歓喜や安堵していた。

 広場に足を踏み入れながら、ノゾムがワイヤーを引っ張りカームを呼んだ。

 「カームさん! 見つけたぞ!」

 <む、そうか! 今そちらに向かう>

 <流石はニンジャだにゃー>

 二人が降下してくるのを見ながら、レイドやヴァイゼ、ニールセンが草を斬り払い、足場を確保しつつ進む。すると突然、横から岩の塊のようなものが飛び出し、レイドを襲う!

 グギャァァァァ!!

 「うお!? ……! こいつは……!」

 「レイドさん! ……ああ!? ま、まさか……そんな……」

 剣でガードしつつも、後ろに下がらせられたレイド。そして吹き飛ばした相手を見たフレーレが後ずさりをした。

 「こいつはデッドリーベアかい? 片目が潰れているようだけど……」

 グルルルル……

 「う……!」

 「どうしたんだいフレーレ? あいつがどうかしたのか?」

 「あいつってもしかして……!?」

 エリックが呟くと、フレーレがユウリの後ろへと逃げる。ここにいるメンバーで『隻眼ベア』を知っている者はレイドとフレーレとシルキーのみ。シルキーは隻眼ベアを直視していなかったので、恐らくという感じで叫んだ。
 なので、その他は経緯を知らないためフレーレが怯える理由がわからなかったのだ。

 「気をつけろみんな! こいつは隻眼ベアと言って、以前アルファの町を恐怖に陥れたとても賢い魔物だ。どうしてこいつがここにいるかのかわからんが……下の階のように恐らく偽物だろう」

 レイドが剣を構えると、ゆっくりと隻眼ベアが立ち上がる。そこでフレーレが震えながら口を開いた。

 「お、大きい……!? あの時よりも全然……!」

 グォォォォォン!

 「くっ、相変わらずの咆哮だな! だが相手は一頭だ、なんとでもなるはず!」

 隻眼ベアとの戦いが始まった!
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。