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最終部:タワー・オブ・バベル

その319 前を見て

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 <バベルの塔:70階>


 「ヴァイゼさん、大丈夫ですか……?」

 「ああ、何とかな。ディクラインのことは残念だったが項垂れてばかりもいられん……ルーナは?」

 「拠点に置いてきました。今は休んでもらうことを優先してもらおうと思って」

 レイドが70階で休んでいたヴァイゼと合流し、ビューリックの騎士やサムライ衆が数名、魔物が出ないよう配備される。

 「すまんな、本来なら俺が気にかけてやるべきなのだが」

 「いえ、任された身としてはこれくらい……それと今回は俺とヴァイゼさんで陣頭指揮をとりたいと思います」

 「承知した。皆、よろしく頼む」

 ヴァイゼが頭を下げると、エクソリアが近づき魔力を分け与えた。

 『……念のためだよ』

 「助かる。では、行こうか」


 「さて、僕はまともに登るのは初めてだけど、どんなものかねー」

 <今度こそ奴らが出てくればいいが……>

 「……そうですね」

 軽いエリックに、カームとニールセンが呟く。次は80階。そろそろ出てきてもおかしくないと考えていた。そこにカルエラートも話に加わった。

 「それなら好都合だ、必ず私の手で国王を倒してやる。……刺し違えてでもな」

 <気負うなカルエラートよ。ディクラインのことで躍起になっているかもしれんが、そういうのは俺の役目だ>

 「私は……!」

 「カルエラート殿、私達には敵を倒すのと同じくらい、生き残ることも重要だと思っています。だから捨て身だけは止めましょう」

 「そうよ、ルーナみたいに残された人のことを考えないと……」

 セイラが口を開くと、カルエラートが目を細めてセイラに言う。

 「ほう……お前達、そういう仲に……出身は同じだし、まあ……」

 「ち、ちちちち違うわよ!?」

 慌てるセイラにフレーレが肩を叩く。

 「もうすでに遅いですよ。二人が恋仲だということはみんな知っています……諦めてルーナとレイドさんみたいに宣言しちゃいましょう!」

 「あ、ああ、あんたねえ!? あんたこそカイムさんとユウリ、どっちを選ぶのよ!」

 「え? どうして二人の名前が?」

 「……あなた達、いつもこんなに能天気な会話しながら歩いているの?」

 コテンと首を傾げるフレーレの言葉に約二名が肩を落とし、シルキーが呆れて手を腰にやる。そこで、レイドが手を叩きながら諫めた。

 「そこまでにしろ、もうすぐ71階だ。いなかった者もいるから言っておくが、一つ前は俺達の偽物が徘徊するような場所だった。次も同じということは無いと思うが、用心するんだぞ?」

 「……そうですね。どうやら到着したみたいです」

 階段で、前を歩くカイムがエントランスに到着し、扉に手をかける。

 「もう私達が知っているフロアとは変わっていますから、何の情報も提供できないのが残念です……」

 アイリがライフルを手に申し訳なさそうに呟くと、カイムが笑いながら答える。

 「はは、今までも何の情報も無しでやってきましたからね。大丈夫ですよ」

 「カイムさん……ありがとうございます」

 「それじゃ開けるぞ」

 レイドが剣に片手をかけ、もう片方の手でカイムと共に扉を開く。


 『(さて、リリーが居なくなったとなると、今までのようにこちらの都合が良いようにことは運ばないだろう。犠牲が出るかどうか……ここからこのパーティの実力が試されるな……)』


 ◆ ◇ ◆


 <拠点>


 「はい、チェーリカ、薪が出来たわよ」

 「早いです!? 補助魔法凄すぎです……」

 「わんわん♪」

 「がう」

 薪割りをしていた横でチェーリカが驚愕の声をあげ、シルバ達が『当然だ』と言わんばかりに吠えていた。

 ――レイドさんに戦力外通告された私は(そこまで酷くないけど)、寝ていても気が滅入るだけなので拠点で仕事をすることに。
 カルエラートさんが塔へ行ってしまった今、夕食は私やチェーリカで用意しないといけないということもあり、結構忙しかったりする。

 「いつもはどんなことをしているの?」

 「チェーリカとソキウスは外で魔物退治をしたり、食材を買いに町まで出かけたりです。クラウスとシルキーが一緒に来てくれていました。でも、ファウダーが居なくなってしまったので買い出しは馬車に変わりました。ファウダーが居なくなったのは本当に残念です……」

 チェーリカが顔を伏せると、私も胸が締め付けられる。みんな仲良くやっていたからね……

 「それに、まさかディクラインさんとアイディールさんがやられるのも驚いたです……アクアステップで二人と一緒だったですし、勇者がやられるとは思ってもみなかったです」

 「そうね……」

 「あ、ごめんなさいです……ルーナが一番苦しいのにこんな話をして……」

 私の顔が曇ったのをみて慌てて気を使ってくれるチェーリカ。この子も最初に出会ってから随分角が取れた気がする。
 
 「大丈夫……とは、流石にまだ割りきれていないけど本来の仇であるトリスメギストスは消えさったから、怒りのぶつけどころが無いのが本当のところ。レイドさんにはああ言われたけど、元凶を作った神裂を殺してやりたいとは思っているわ」

 「う……ルーナ、怖いですよ……昔のヴァイゼさんみたいです」

 「あ、ご、ごめん」

 よほど私の顔が怖かったのか、それとも雰囲気か分からないが、チェーリカがブルリと身震いをして足を止めていた。

 「でもファウダーやジャンナ達の仇は取りたいです。チェーリカは役に立たないですけど、ルーナは魔王の娘です。きっとレイドさんもゆっくり休んでから、決戦に備えて欲しいと思ったんじゃないです?」

 「あ、それはあるかも……私に休めって言ってくれたけど、実は修行をしろってことかしら……?」

 「い、いや、それは飛躍しすぎです!? あ、どこへ行くんですか!?」

 「ちょっと外で魔物を狩って来るわ! ご飯は一緒に作るから待っててね!」

 「きゅんきゅーん!」「きゅふん!」

 私はレジナ達を連れてスタコラ拠点の外へと駆け出していく。それならそうと言ってくれればいいのに、レイドさん!


 「……ハッ!? このままじゃチェーリカがレイドさんに叱られるです!? ソキウス! ソキウスー!」




 ◆ ◇ ◆


 <バベルの塔71階:中層>


 「へっくし!?」

 「どうしたのお兄ちゃん? 風邪? 体調が悪いならルーナと残ってても良かったのに」

 にまりと、さっきフレーレにからかわれたことを兄のレイドで鬱憤を晴らそうとするセイラ。現在レイド達は、そこそこ魔物を倒しつつ、中ほどくらいまで歩いたところだった。


 「……嫌な予感がする。ルーナに何かあったんじゃ……」

 「もしかして塔に向かっている、とかですか?」

 神妙な顔つきのレイドにフレーレが尋ねると、レイドは首を振って答えた。

 「いや、転移陣には人を置いて来たから簡単にはこれないはずだ。他に何か無茶をしているような……そんな気がするんだ。休んでいてくれとは言ったけど、逆に監視役が居ないから訓練でもしていそうな……」

 「あの子はたまに恐ろしい行動力を発揮しますからね」

 そこにエリックが抜身の剣を持ったまま会話に参加する。

 「ビューリックに自分からきたのもそういう感じだったのかなー? 一応、ウェンディとイリスを置いて来たから、無茶はするかもしれないけど見えないところで死んだりはしないと思うよー」

 「エリック。そうか、それは助かる。女の子同士なら、説得もしやすいだろう」

 レイドが少し表情を和らげると、エリックは続けて話し出す。

 「そうだねー。それにしても塔の中ってのはどこもこんな感じなのかい? 普通の……外みたいな風景だけどー」

 今度の塔内部は迷宮ではなく、町の外のような風景だった。林があり湖があるという具合に。そこでフレーレがふと気づいてぽつりとつぶやいた。

 「……ここ、アルファの町の外に似ていませんか? 町はないですけど、あの森って近隣の森じゃ?」

 「確かに……となると階段がありそうなのは近隣の森の奥、深淵の森か? 階段を隠すなら危険な森の中が怪しいしな」 

 「……心当たりがあるなら行ってみるべきだろう」

 と、ヴァイゼが言うと、それに続きエクソリアが声を上げた。

 『おしゃべりはそこまでだ、お客さんだよ』

 グガガガガ……

 キチキチキチ……

 グガァァァァァ!

 「! こいつら、北の森の魔物!?」

 「す、すごい数だわ!?」

 「デ、デッドリーベアがいます……!?」
 
 「……どうやら当たりのようだな、ユウリとアイリは狙撃でいいか?」

 大量の魔物が迫る中、ノゾムが冷静にレイドへと問う。

 「頼む。足が速いやつを重点的に狙ってくれ! 行くぞ、みんな! アルファの町にデッドリーベアが来たときを思い出すなこれは……!」

 レイドの号令で配置につき、迎撃態勢を取る。その中で、エクソリアが目を細めて魔物の大軍を見ながら胸中で呟く。


 『(この数、やはりリリーが居なくなったから抑止力は働かなくなったね……犠牲無しで80階までいけるだろうか?)』
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