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最終部:タワー・オブ・バベル

その316 ルーナとレイド

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 「ディクラインとアイディールが……!?」

 「はい……」

 拠点に戻った私達を迎えてくれたカルエラートさんへパパとママ、そしてリリーが消えたことを伝えると、ペタリとその場に座りこんで呆然となった。

 「……ご飯は作ってある……少し一人になりたい……」

 「カルエラートさん……」

 エプロンを外して家の中へ戻っていくカルエラートさん。そこにバステトが近づいてくる。

 <ずっと旅をしてきていたからショックだろうにゃ……リリーも居なくなったし、ついにカームと私だけになってしまったにゃ……>

 「きゅんきゅん……」

 髭をへなっとして俯くバステトへシロップが慰めるように鳴く。そこでエクソリアさんとアルモニアさんが、口を開いた。

 『……ボク達は先に休ませてもらっていいかな。カーム、バステト、一緒に来てくれ』

 <? 分かったにゃ>

 『悪いわね。あ、ご飯は取っておいてね』

 <また、後でな。ルーナよ、お前も休め。酷い顔だぞ>

 カームさんがすれ違う時に声をかけてくれ、そのまま女神姉妹と共に移動する。

 「あ、うん……ありがとう……」

 俯いたままの私は何となく言葉を返すと、今度はレイドさんが横に座って、話しかけてくる。

 「ルーナ、休むか? それとも飯を食うか?」

 「……ご飯、食べないとね……」

 「そうか……体力はつけないといけないしな。他にも何かあったら俺に言ってくれよ? その……ディクラインさん達のことはすまない……俺がもっと強かったらこんなことにはならなかったのに……」

 私と同じく、自分の力の無さを言葉にしながら唇を噛む。レイドさんだけじゃない、その場にいたフレーレや、セイラ、ニールセンさん達もきっと同じ思いだと思う。

 私は誰にともなく呟いた。

 「……私ね、チェイシャやアネモネさん達は元々死んでいるから、消えても仕方ないかもって心のどこかで思ってたんだと思う。私達は誰も欠けずに、神裂のところへ行ってとっちめて終わり……そうなると思っていた。でもパパとママが居なくなって、甘かったんだって気付かされた……嫌な子よね」

 「ルーナ……」

 「アイリ達は怒るかもしれないけど、あの時、神裂が憎いと思ったわ。直接的にパパ達を殺したのはトリスメギストスかもしれない。でもそうなってしまう原因を作ったのは神裂。あいつは殺さないといけない、みんな不幸になるって。それと同時に怖くなった。次に消えるのはフレーレかもしれない、それともセイラ? ……レイドさんかもしれないって……」

 「がう……」

 「わん……」

 私の話を黙って聞くみんな。レジナが私の足元で座り、とシルバとシロップ、ラズベが膝の上に乗って、心配そうな声で鳴いていた。

 フレーレとセイラも配膳をしながら私の聞いていて、不意にフレーレが小さく声をあげた。

 「あ……パパさんとアイディールさんの食器を出してしまい、ました……う、うう……」

 「……」

 泣くフレーレを宥め、お通夜のような食事が終わると、私達はそれぞれの家へと戻り休むことになった。いつもならパパが『出発はいついつだ』とまとめてくれていたが、今日はその声が無く、私はベッドの中でもう一度泣いた。それと同じく、私は一つ、とある決意を固めた――




 ◆ ◇ ◆




 「……」

 「休まないのですか?」

 「カイムか、それにノゾムも。どうした?」

 深夜、見張りだけが目を覚ましている中、レイドが焚き火の前で珍しく酒を飲んでいると、後ろから声をかけられた。

 「……俺も寝つけ無くて。酒ですか?」

 「ああ……飲むか? カイムは?」

 「……いただきます」

 「では私も……」

 三人はチン、と、グラスをぶつけグイッと飲む。しばらく無言で飲んでいたが、やがてカイムが口を開く。

 「ルーナさんの言うとおり、私達は甘かったのかもしれませんね。70階まで守護獣達以外の犠牲が無かったので危機感が薄れていたのかもしれません……ニンジャとして失格です」

 「気負うな。それは俺達全員がそう思っているだろうさ。起こってしまったことは取り返しがつかない。この先同じことを繰り返さないのが重要だ」

 レイドがそう言うと、ノゾムが口を開いた。

 「……それもそうだだ、ルーナは大丈夫だろうか? 酷く憔悴していたし、何より目が……」

 「目?」

 「ええ、恨みの籠った目になっているようでした。気を付けてください、もしかすると正気ではないかも。何をしでかすかわかりませんし、止められるのは恋人であるレイドさんだけだと思います」

 「う、うーん……ヴァイゼさんもいるし、どうだろうか」

 照れくさいことを言うノゾムに頭を掻きながら返すレイドに、ノゾムはさらに続けていた。

 「……いえ、親父さんもそう遠くない内に消えると思います。ディクラインさんが最後にレイドさんへルーナを
頼んだのはそういう意味もあったんじゃないですかね」

 「……あまり考えたくなかったが、日が浅いお前が見てそう思うなら、やはりヴァイゼさんも、か……」

 レイドはヴァイゼの消耗が激しくなっていることに気付いていた。だが、アンデッドならそう簡単に消えるとは……そう、この戦いが終わるまではもつだろうとも考えていたのだった。

 「次のメンバーにルーナさんを連れて行かない方がいいでしょうか? 少しゆっくりしてもらう必要もありそうですが」

 カイムががレイドにそう語ると、レイドは頭を振った。

 「いや……逆効果だと思う。あの子はあれで無茶をする子だからね。隻眼ベアの時も、ビューリックに攫われた時も危ないと分かっていながら自分から飛びこんでしまう……だから、俺がそうさせないよう確実に前へ進む。犠牲を出さないようにな」

 ぐっとグラスを握り、決意を固めるレイド。するとノゾムが立ち上がってコップを置きながらレイドへ言う。

 「……分かりました。アイリもルーナを心配していましたし、そのことを伝えてサポートさせます。お酒、ありがとうございました。ゆっくり眠れそうです……」

 片手をあげて去っていくノゾムを見送り、レイドは胸中で考える。

 「(正直、リーダーシップを取っていたディクラインさんが居なくなったのはかなり痛い。ヴァイゼさんはそういうタイプじゃない……俺が気張るしかないか……)」

 そこでカイムが申し訳なさそうにレイドへと告げた。

 「……すいません、私はまた少し師匠と訓練をしたいと思います。リリーが自分がいなくなると幸運が無くなると言っていました。今まで犠牲が出なかったのが偶然でないとしたら、実力をつけねば私も危ない、それに――」
 
 「フレーレちゃんを守れなくなる、か? そういう理由ならそれこそ一緒に行かなくていいのか?」

 カイムが驚いた顔をしてレイドをみて、フッと笑いながら口を開く。

 「ご存知でしたか……ええ、私はフレーレさんが好きです誰にも気づかれていないと思っていましたが、まさかバレているなんて」

 「(いや、みんな知っているけどな……)」

 口には出さず、カイムの告白を黙って聞いていると、カイムは真顔になる。

 「塔へフレーレさんが行っている間はユウリに任せます。否定していますが、あの男はフレーレさんに好意を持っています。悔しいですが、実力はありますし、大丈夫だと思います」

 「……そうか。なら、次はクラウスかエリックあたりも一緒に――」

 レイドが顎に手を当てて呟くと、足音共に声をかけてくる人物が現れた。

 「次からは私を連れて行け。ディクラインとアイディールの仇を討たせてくれ」

 「カルエラート……」

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