上 下
294 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その315 乖離する親子とルーナの激昂

しおりを挟む

 「あ、ああ……パパ……」

 「う……ルーナ……?」

 目を覚ましたフレーレが泣いている私を見て声をかけてくる。どうやらママがトリスメギストスに向かう前に回復をさせておいたらしい。

 「フレーレ……パパが……ママも……」

 「え?」

 フレーレは私を抱きとめて、周りに二人とリリーが居ないことに気づき、扉が閉じているのを見て察したようだ。回復したシルバとシロップが扉をカリカリと引っ掻きながらか細く鳴いていた。

 「きゅーん、きゅーん……」

 「わぉん……」

 「……馬鹿が……逝くなら俺が先だろうに……」

 お父さんも今までみたことがないくらい呆然と立ち尽くし呟いていた。そしてレイドさんが私のところへ重い足を引きずりながらやってくる。

 「レイドさん……パパとママが……」

 「……すまない……俺が不甲斐ないばかりに……」

 「ううん……わた……私、も、ひっく、何も出来なかった……意識はあったのに何もできなかった……! うわああああああああ……」

 レイドさんの顔を見るとたまらなくなり、近くまで来ていたアイリ達の目もはばからず、大声で泣いた。アネモネさん、チェイシャ、ジャンナにファウダー……消えてしまった者に優劣をつけたくはない。けど、今回は……今回ばかりは耐えられなかった。


 「……見ろ、部屋が!」

 ノゾムが声をあげると白い部屋はガラガラと崩れ始め、塔が吹き抜けのようになってしまっていた。元のフロアがどうなっていたか分からないほどだった。

 「下の階も骨組だけになっているわね……」

 セイラが元々あった階段を覗き込みながら言う。

 「それにしても今までのフロアとは違い、どうしてこんなことに?」

 ニールセンさんが呟くと、どこからか声が聞こえてくる――


 『……よう、倒したのかトリスのジジイを』

 「神裂!?」

 レイドさんが驚愕の声をあげて周囲を見渡すが、いつもと同じように声だけで姿はどこにもなかった。

 『おう、俺だ。このフロアはあのジジイに乗っ取られていてな、俺の目も届かない状態だったんだよ。お前等が倒してくれたおかげでこうして会話できるようになった』

 神裂がそう言った後、奥にある階段に続いているであろう扉の近くに転移陣が現れた。

 『見たところ、手ひどくやられたようだな。一旦帰って万全にしてくることだ』

 その言葉に怒りを覚えた私はフレーレから離れ、天井に向かって捲し立てるように叫んだ。

 「やられたわよ! どうしてこんなことをするの!? アントンの人生を狂わせたり、ゲームだとか言って私達を弄んで! チェイシャも、アネモネさんも、ジャンナにファウダー! そして今、パパとママとリリーも消えたわ! 一体何がしたいのよ! みんなを返してよ……!! うっうう……」

 『そういや、何人かたりねぇみてぇだな……』

 「ルーナ……」

 また涙が出始めた私はレイドさんに縋りつき、嗚咽をこらえる。そこでユウリが喋り出す。

 「……僕もルーナと同じ意見だ。僕達を差し向けた時『ルーナ達を倒せ』と言ったよな? 蓋を開けてみれば父さんの方が悪者だ。神になる、それはいいさ。だけど元の住人を困らせて世界を滅ぼす必要があるとは思えない」

 「そうね……それに過激なことも多かったけど、昔はやることがハッキリしていた。でも今はルーナさんの仲間を殺して、それなのに労ったりするような言葉を出してる。本当の目的はなんなの?」

 ユウリ、そしてアイリが神裂に向かって疑問を投げかける。何かを隠している、そう言いたいようだった。

 『……』

 「……父さん、何か言ってくれ。父さんは面倒ごとが嫌いだっただろ? 今やっていることは父さんの嫌いな面倒ごとだ、違うか?」

 『……おーおー、言うようになったなガキ共が。ハッ! 俺のことがよく分かっているなら、俺がこの後言うこともわかんだろ?』

 神裂が挑発するように言うと、ノゾムが静かに答えた。

 「……そこまで行って力づくで聞け、か」

 『そうよ、その通りよ! いいか、残り時間はわずかだ。それまでに俺のところまで辿り着けなければこの世界は終わりだ。ノゾム、ユウリ、アイリ、お前達がルーナ達に与するなら、その対象だ。俺は自分の目的のために人体実験を繰り返してきたんだ。人生を狂わせてやったやつもいる。もうお前等が知っている俺じゃないんだよ』

 「……」

 ノゾムは目を細めて天井を凝視し、ユウリ達は冷や汗を出しながら唾を飲みこむ。身内だろうが敵対するなら容赦はしないという声色だった。

 するとレイドさんが私を抱きしめながら口を開いた。

 「自分の息子達をも犠牲にしようとするとは……待っていろ、必ずお前の元へ辿り着いてやる……! ルーナ、今は泣いていい。苦しいだろうけど前を見よう……俺が必ず神裂の連れて行ってやる、みんなの仇を必ず討とう」

 「レイドさん……うん……うん……」

 「ガウ……」

 私が涙を拭っていると、レジナが鼻をこすりつけてきた。心配してくれているみたい。

 『ハッ! お涙頂戴的なのは苦手でな。退散させてもらうぜ。言ったからには必ず来い。そして俺を後悔させてみせろ。ノゾム達も何かを知りたければ、己の力で確かめろ』

 ブツン

 それだけ言うと、何かが切れる音と共に神裂の声はしなくなった。そこへずっと黙って聞いていたフレーレが私に、そしてみんなに声をかけてくれた。

 「……一旦戻りましょうルーナ、みなさん。お父様も今回は戻って休んでください。誰かここに来るまでわたしが居ますから」

 「ありがとう……だが、俺が残ろう。エクソリアよ、後遺症などが無いか念入りに確認を頼むぞ」

 お父さんがパパの消えた門の前でこちらを振り向かずにそう言うと、急に話を振られたエクソリアさんが慌てて答えていた。

 『あ、ああ、承知しているよ。それじゃ転移陣を使って戻ろう。しかしディクラインとアイディールが居なくなったのは……痛いな』

 「……言わないでくれ、その分は俺が頑張るから……」

 『こんな時に不謹慎だったね、すまない(本当はリリーが居なくなったのが一番マズイんだけど……こればかりは仕方がないか)』

 私達は転移陣を抜け、拠点を目指す。レイドさんの肩を借りて歩く私は誰ともなく呟く。

 「……絶対に……許さない……」

 ここまで誰かを憎いと思ったのは……生まれて初めてだった……









 ◆ ◇ ◆




 <バベルの塔:外周>

 「ほら、リンちゃん、頑張って」

 「にゃーん……」

 謎のローブに連れ去られたナイトメアキャットのリンが、その人物を乗せて空を飛んでいた。少し前まで子猫サイズだったが、今はもう人を乗せられるくらい立派な大猫に成長していた。

 だが――

 「うーん、成長促進の魔法食を食べさせて大きくしたのは良かったけど、まだ中身は子猫だから体に追いついてないわね」

 何となく嫌々飛んでいるように見えたので、ポンポンと背中を撫でて塔近くの森へ降りるよう指示。着陸後、ごはんの時間となった。

 「はい、リンちゃんはこれね」

 「にゃー……」

 最初は美味しそうに食べていたが、同じものが続き、リンは魔法食に飽きていた。栄養も味付けも一級品。されどやはり同じメニューは飽きるのだ。もそもそと食べるその姿に少し罪悪感を感じる謎のローブ。

 「これも考えないといけないかしら。そこまでは考えてなかったわね。リンちゃん、ルーナやフレーレちゃんを助けるのにあなたの力が必要なの。だからもう少し我慢して? 味付けと料理はまた変えてあげるから」

 「にゃーん」

 ルーナとフレーレの名前が出て、少し元気になったリンは水を飲んだ後、再び餌に向かう。

 「ふう……ペットを飼うのも大変ね。守護獣みたいに喋れればいいんだけど」

 ガサッ

 「……そこに居るのは誰?」

 草が揺れる音がし、謎ローブが身構えると、温和な声で弁解してきた。

 「ほっほっほ、怪しい者ではありません。ちょっとそこの塔に用があって旅をしてきました」

 「……師匠の容姿はかなり怪しいと思うがな……いてぇ!?」

 影から現れた人影を見て謎ローブは驚きの声をあげた。

 「あなた達は……!」

 「にゃーん?」

 その様子を、リンはもぐもぐと餌を食べながら見ていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者の転生実験

東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。  不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。  大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?   先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>

天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。 【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】 飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。 アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。 セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。 最終的にはハッピーエンドになる予定です!

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?! 

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。