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最終部:タワー・オブ・バベル

その306 タチの悪い偽物

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 「お前の相手は俺がする……!」

 「フフン、まだルーナと一線を越えられないくせに一丁前の口を聞きやがるな、レイドよ!」

 「な!? それは今、関係ないだろうが! この偽物め!」

 ガキン! キィン!

 レイドさんはパパと戦うため、斬り合いながら距離を取っていく。残るはママとニールセンさん、それとセイラだ。

 「……どうして、フレーレ達の偽物はいないのかしらね?」

 私が剣を、ノゾムが格闘の構えを取り、三人の偽物の前に立ちはだかる。すると、ママ(偽)が高笑いをしながら答えてくれる……のかと思ったら魔法を使ってきた!?

 「おーっほっほ……! ≪フレイムストライク≫!」

 ドゴン! 私達が回避すると白い床に吸い込まれるように消える炎。するとセイラ(偽)が、口元を歪ませながら喋り出した。

 「ここまでくる途中『アタシ達』に散々触られたあげく、鏡に取りこまれたからねぇ。最初は言葉も話せないくらいだったけど、段々知能がついてきたことに気付かなかったかい? ……鏡に取り込んだのは能力を手に入れて、完全に入れ替わるためだったわけさ!」

 くちゃくちゃと何かを噛み、ぷう、と膨らませてまたくちゃくちゃと口を動かし、ニールセンさん(偽)に蹴りをお見舞いしながらセイラ(偽)が叫ぶ。

 「おら、アタシのこと好きなんだろ? 役に立ったら褒めてやる!」

 「ああ……もっと、お願いします!」

 何故か蹴られて喜ぶニールセンさん(偽)。セイラの態度はとても悪いし、ニールセンさんも……ちょっと……あの……気持ち悪い。本物が見たら大激怒するであろう。

 ターン!

 「むう!?」

 その時、ニールセンさん(偽)の肩アーマーが吹き飛んだ!

 「……気持ち悪いです……」

 目が虚ろなアイリが容赦なく銃を撃っていた。気持ちは分かる。

 「今のは良かったぞ! もっとやってくれ!」

 だが、ニールセンさん(偽)は、やはり喜んだ顔で私達に斬りかかってきた!?

 「こいつの相手は俺がする。お前達はアイディールとセイラの偽物をやれ」

 「お父さん! うん、そいつはお願いね!」

 すると明らかに落胆したニールセンさん(偽)が、お父さんに襲いかかる。

 「おっさんには用はない! 可愛い女の子を出せ!」



 「……何か溜まってるのか?」

 「分からないけど……早く倒して欲しいわね。ニールセンさんを見る目が変わりそうだし……」

 私とノゾムはお父さんから離れつつ、ママ(偽)とセイラ(偽)へ向かい走り出す。弓より魔法の方が厄介なので、ここは剣で行かせてもらうわ。

 私がセイラ(偽)を狙い、剣で斬りかかると、持っている杖で防御をしてくるセイラ(偽)。しかし、賢者の偽物とはいえ、接近戦での戦いは私に分があり、セイラ(偽)の持っていた杖を真っ二つにする。

 「ここまでのようね!」

 すると、くちゃくちゃと口を動かしながらニヤリと笑い、私の攻撃を避けつつ耳元で囁いてきた。

 「いいのかい? アタシが死んで、鏡の中のあいつらがどうなってもいいってのか?」

 「……! どうなるの!」

 「どうもならねぇよ! ≪マジックアロー≫!」

 「きゃあ!?」

 やられた! 人質を取られているような感じなので、ああいう言い方をされると躊躇してしまう。マジックアローの直撃を腹部に受け、たじろぐ。

 「とどめだよ! ……何!?」

 「きゅんきゅん!」

 「きゅふん!」

 とがった杖の先で喉をついて来ようとしたが、シロップとラズベが腕に噛みついてので狙いが逸れ、横に振った杖で頭を殴られた。

 「痛っ!?」
  
 「きゃは、気絶しない! 丈夫! まあ、アタシ達が死んだらどうなるかは教えてやれないなあ。やってみてのお楽しみ? きゃはっ!」

 鏡の中に手を突っ込んで、新しい杖を補充するセイラ(偽)。うう、迂闊に攻撃できない……。見れば、レイドさんやお父さんも動きが鈍い。きっと私と同じように揺さぶられているに違いない。

 「何か打開策は……!」


 「くっ、偽物でもディクラインさんだな……強い……!」

 「そら、首が飛ぶぞ? もう飛ぶぞ!」

 「ぐ……!」

 「ガウ!!」

 そこにレジナが飛び掛かり、あわやという所でレイドさんから離れるパパ(偽)

 「チッ、クソ犬が邪魔しやがって!」

 別の場所ではノゾムとママ(偽)が睨みあっていた。
 
 「ワイヤーで捕まえたところで、私は魔法を撃てるわよ? ≪アクアカッター≫!」

 「……チッ!」

 レイドさんとノゾムも苦戦しており、これを打開するあと一つが必要だと思う。ニールセンさんの偽物はとりあえず言うことはない。

 そこにリリーが声を荒げた!

 <……アイリ、あの辺を撃つっぴょん!>

 「ふえ!? あ、はい!」

 ターン!

 ビシッ! と、何も無いと思っていた所にヒビが入る。

 「え!? どういうこと!?」

 「余所見をする暇があるのかよルーナ! ≪ブリザーストーム≫!」

 「考えている暇は無いか! リリー、アイリ、頼むわよ……!」



 ◆ ◇ ◆



 「オオオオオオオン……」

 「何体目だこれで?」

 ユウリの偽物をカイムが倒し、静寂が戻る。

 「えーっと……2フレーレに、5カイムさん。で、今ので9ユウリさんですね!」

 「ちゃんと数えてた!? しかも僕はキュウリみたいで嫌だ!?」

 「……誤解……」

 「何かユウリさんの偽物が多いですね?」

 カイムとユウリの呟きをスルーして、フレーレは口に指をつけて首を傾げる。数は確かにユウリの偽物が群を抜いて多かった。

 「……父さんに対する牽制かもしれないな。何だかんだで父さんは僕たちには甘い。人質にするなら最適だと思う」

 「ノゾムさんとアイリさんも捕まりはしませんでしたけど、確かに多かった気はしますよフレーレさん」

 「なら、トリスメギストスの本当の狙いは三人ってことです? ……あれ? あそこにあるのは階段じゃないですか?」

 「本当だ。罠じゃないのか……?」

 ユウリが呟き、カイムが調べる。

 「問題なさそうだ。この上は65階……中ボス部屋ですね」

 「行きましょう。ルーナ達も居るかもしれません」

 フレーレがそう言い、三人は65階へと足を運ぶ。登りきると、今度は壁一面が真っ白なフロアであった。

 「何もありませんね?」

 「……いえ、どうやら当たりみたいですよ! あれを!」

 カイムが叫んだ先に、ディクライン、アイディール、セイラ、ニールセンが呻きながら黒い何かに覆われていた! カイムが急ぎ、近づいていく。

 「ディクライン殿!」

 「う……ぐ……カ、カイムか! お、お前達は無事のようだな……き、気をつけろ……影が……」

 「この黒いものはもしや……!?」

 カイムが刀を構えると、フレーレがそれを止めた。

 「ダメですカイムさん! 斬ったらみんなが傷つくかもしれません。これがパパさんの言うとおり影ならこうすれば! ≪ライティング≫!」

 ダジャレととんち好きなフレーレが即座に導き出した答え、それはライティングだった。高くライティングを打ち上げると、光がディクライン達を照らす。

 「影が消えた……!」

 「動けます! 聖女様、大丈夫ですか?」

 「う、うん……体は……何ともないわね。助かったわフレーレ」

 セイラの言葉ににっこりほほ笑むフレーレ。その横にいたユウリが口を開く。

 「しかし何だって影が?」

 「分からん。階段をしばらく探索していたら捕まってな。ライティングを消すともしかしたらまた現れるかもしれん、そのまま維持していてくれ」

 「分かりました! 他には何も?」

 フレーレが尋ねると、アイディールがため息を吐いて言う。

 「そうね、見ての通り真っ白なところで、進んでいるのかどうかも分からないの。壁かどうかすらも分からないから頭がおかしくなりそうだわ……」

 「このまま鏡の内側に捕まったままなのでしょうか……」

 ニールセンがポツリと呟いた時、それは起きた。

 ターン!

 ビシッ!

 「今の音はアイリのライフル!」

 「見て、あそこ! ヒビが入ってる!」


 するとディクラインが目を細めて誰にともなく呟く。

 「……なるほどな、もしかしたら一杯食わされたのかもしれん」

 ターン!

 バキン!

 「二発目か! あそこを攻撃したら出られるんじゃないか?」

 「考える前に動け、だな。行こう」

 ディクラインが剣を構え、ヒビに向かって走り出した。
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