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最終部:タワー・オブ・バベル

その304 トラップフロア

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 「ジャァァァ!」

 「私はそんなに怖い顔じゃないわよ!」

 ザン!

 ボフッ!

 「ふう……」

 今、私は自分の偽物を倒したけど、私達の偽物はそれなりの強さだった。コピーしているのは姿だけで、武器等は持っておらず、掴みかかってくるばかりだったためそれほど苦労せず倒すことが出来た。危惧していた、鏡を攻撃すると自分にくるダメージは、鏡から出てきたものには適用されないのか、ダメージはゼロだったりする。

 「ふう、自分を相手にするのは気味が悪いわね」

 「しかし、肉親や恋人を相手にするよりかはいいと思います。やはり躊躇してしまうでしょうから」

 セイラとニールセンさんもそれぞれ倒し、一息ついていた。確かにレイドさんやお父さんといった人が相手なら偽物と分かっていても困ると思う。

 「ガウ!」

 「わんわん!」

 そうしていると、レジナやシルバがお父さんやパパと一緒に、偽物を倒して辺りは静かになった。


 <私達やレジナ達の偽物はでないっぴょんね>

 <そうだな、さっき遠くにいた魔物が鏡で増えなかったところをみると、我々は魔物と認識されているのかもしれんな。奇襲をかけるには都合がいいが……>

 「だとしても、この狭さじゃカームは戦闘に参加するのも難しいし、リリーは……」

 <なんだっぴょん!? リリーだって戦えるっぴょんよ!>

 レイドさんが言葉を詰まらせると、リリーはシュッシュっとパンチをする。しかし兎の手ではどうやっても魔物に勝てる未来は見えなかった。

 『ちなみにボク達は鏡に映らないから、安心してくれ』

 「あ、本当ですね。どうなってるんですか?」

 エクソリアさんの言うとおり、女神様二人は鏡に映っておらず、危ない目にあったばかりなのにフレーレが鏡を撫でながら疑問を口にしていた。

 「フレーレ、危ないから鏡から離れた方がいいわよ?」

 「あ、ごめんなさい! でも不思議ですよ」

 『私達は本来この世界で存在するはずの者ではないからよ。姿を形どっては取っているけど、あの世からの力で形成しているだけ』

 『だから、性別を変えたりもできるし、鏡には映らないのさ(もっとも、これもそう長くは構成できないから、速やかに神裂を倒す必要があるわけだけどね……)』

 「わかるようなわからないような……」

 私が首を傾げているとパパが戻ってきてから私の頭に手を置いて言う。

 「ま、女神共はこれでも世界を創った存在だからちょっと違うんだろ? 時間を取られたから急ごうぜ」

 『それで済まされると立つ瀬がないけどね。いいけどさ』

 エクソリアさんが面白くなさそうに歩き出し、アルモニアさんと私も後に続いて追いかける。

 「ま、気にしても仕方ないか!」

 「切り替えが早いですねルーナは……」

 フレーレも隣で苦笑しながらついてきていた。

 その後もリリーを先頭にして迷いなく階段を目指していたけど、正解の道だからか鏡から出てくる偽物の量が明らかに増えた。

 「ストップだ! 俺は本物だ!」

 「あ、ごめんなさい!?」

 アイリが銃を向けたレイドさんは本物で、慌てて引っ込めて事無きを得る。お父さんもママの偽物を切り伏せ、剣を収めてから呟いた。

 「……そろそろ階段か? 偽物もうっとおしくなってきたな」

 「知恵がついてきたのかしら? 積極的に別の人を狙いにいってない?」

 ママが眉を顰めながら口にする。確かに、自分自身と戦うよりも、さっきみたいに自分とは違う人間を狙ってくることが多くなった気がする。

 「そろそろ夜になります。階段まで急ぎましょう」

 「そうね……本当に休める所が無いわね、ここ……」

 流石に疲れてきたセイラが肩を落とす。トリスメギストスの狙いが私達の消耗であれば、まんまと乗せられているって感じね。

 「……どうやら、到着したみたいだ」

 「鏡からも出てこないようです。早く登りましょう」

 カイムさんが警戒しつつ前を歩き、ノゾムがワイヤーの先に括りつけた石を使って両脇の鏡にぶつけて安全を確かめていた。この方法なら自分たちが見える前に鏡を破壊できるからだと、ノゾムが編み出した戦法だ。

 カイムさんとノゾムが先行し、安全を確認した後、素早く階段を登り、64階へと至る扉の前で野営を行う。食料は充分だし魔物が出ないここならゆっくりできそうだ。それぞれの方法で体を休めているとあぐらをかいて座っているパパが難しい顔をしていることに気付いた。

 「……」

 「どうしたのパパ?」

 「ん? ルーナか。早く寝ておけ、明日もこの調子なら64階も半日は費やしそうだからな」

 「うん、そうする。……なにか気になるの?」

 「いや、そういうわけじゃないんだけどな。こう、ヴァイゼと対峙した時みたいな胸騒ぎがするんだよ」

 「お父さんと……?」

 「あの時はお前を助けるのに必死だったからなあ。まあ今はお前も強いし、仲間もいる。多分気のせいだろう」

 はっはっは! と、笑いながら私の頭を撫でた後、ママの隣に寝転がった。うーん……こんなパパでも勇者だからなあ……気になる……。でも、パパが気のせいだというのならこれ以上考え込むのは良くないと思い、私もさっさと休むことにした。

 「……おやすみ、パパ」


 ◆ ◇ ◆


 ――64階

 
 <ひゃああぁぁ!? いきなりはダメッぴょん!?>


 扉を開けて程なくすると、天井の鏡からレイドさんの偽物と、壁面からニールセンさんの偽物が飛び出し来た! さらに、フォークを持った魔物が数体、前から前進をしてくる。

 「ニールセン行ったぞ!」

 「はい! でぇぇぇい!」

 「ギャァァァァ!?」

 「この距離の魔物なら……」

 ターン!

 ギェェェェァ……

 「ふう……早速、偽物と遭遇とはな」

 レイドさんがきょろきょろしながら呟くと、ユウリも警戒しながら頷く。

 「まったくだね。というか、魔物と共闘してきたよな、今」

 「それに今度は天井も鏡張りですよ……」

 そう、またしてもフロアの様子が変わっており、気が狂いそうになるくらい上と左右が鏡で、距離感がおかしくなってしまいそうな勢いだ。それに魔物が鏡の偽物の援護をしてくるようにもなり、面倒事が増えたといっても過言ではない状態だった。

 「あ、でも、床は鏡じゃなくて良かったです。もしそうだったら下着が見えちゃいますもん!」

 「下着……」

 「あ、バカイム! 何考えてるんだ、鼻血を拭け!」

 「ば、馬鹿言え鼻血など……!?」

 「はいはい、馬鹿なこと言ってないで行くわよ」

 仲良く喧嘩している二人をママがポカリと頭を叩き、私達は再び歩き出す。

 「カーム、少し後ろから天井の動き、見てもらえるか?」

 <承知した>

 レイドさんがカームさんにお願いをしたその時、それは起こった。

 「あ、フレーレ、背中に何かついてるわよ」

 「え、本当ですか? ルーナ、取ってくれませんか?」

 「いいわよ」

 と、いつもの会話風景のようだけど……

 「フレーレ! 今の声は私じゃないわ!」

 「え? ルーナ? わたしの後ろにいたんじゃ……あ!?」

 声の主は私じゃない! 見れば鏡の中の私が、ニヤリと笑い、手だけ鏡から出し、フレーレの手首を掴んでいた!

 ずるり……

 「え!? か、鏡の中に……!」

 「!? フレーレをどうする気!」

 「わんわん!」

 私が駆け寄ろうとするよりも早く、ユウリとカイムさん、そしてシルバがフレーレの腕や裾を掴んでいた。

 「くっ……何て力だ!?」

 「二人で、も、引っ張れ、ない……!」

 「わうぅぅ……」


 「私も手伝うわ! レイドさんも!」

 「ああ!」

 フレーレを引っ張る二人をレイドさんと私で引っ張ろうと近づくが、衝撃の事態へと発展した!

 「フフフ……手伝ってやろう」

 「お前も、な?」

 「ぼ、僕達の偽物か!?」

 ユウリとカイムさんの偽物も鏡の中でニヤリと笑い、鏡の中へと引きずり込んでしまったのだ。

 「嘘……!?」

 私が鏡の中で争っている三人を見ながら鏡を叩いていると、背後から声が聞こえてきた。

 「きゃあ!? こっちも!?」

 「聖女様!!」

 ずるり……と、セイラとニールセンさんが鏡の中へと消えて行く。お父さんやノゾム、パパ達は不意打ちにならなかったため応戦している。私の偽物も手を伸ばしてきた。

 「さ、みんなを助けに行きましょう……」

 「くっ……」

 「チッ、ルーナを離せ!」

 
 レイドさんが攻撃を仕掛けようとするのを横目でみながら逡巡する。

 どうする? このまま鏡の中へ入った方がいいのかしら? でもフレーレ達を助けられる保証はないし……そんなことを考えていると、私の手首を掴んできた偽物が急に苦しみだした。

 「ぎゃぁぁぁ!? な、ん、だ、そのガントレットは!? 強力な何かが憑いている……!? くそ……」

 私の偽物はスゥっと消えてしまい、鏡には元の私の姿だけが残った。

 「ルーナは無事か」

 「あ、お父さん! あれ、パパとママは?」

 「……ディクラインはアイディールを追って鏡の中だ。やられた、恐らく狙いは女性陣。それを助けさせ、一緒に引きずり込むのが目的だったようだ」

 『じゃあヘタをするとルーナと一緒にレイドもやられた可能性もあったわね』

 アルモニアさんは少し悲しそうな顔で、やられた、と言うけど……

 「……まだ死んだと決まったわけじゃないわ、アルモニアさん。ここから助けるのは無理かもしれないけど、トリスメギストスならきっと知っているはず。先を急ぎましょう」

 『……そうだね。なに、彼等ならきっと無事さ』

 <……こっちだっぴょん。行こうっぴょん>

 「……カイムの代わりは俺が引き受けよう。レイドさん、前衛を頼めるか?」

 「分かった。頼む」

 「きゅきゅーん……」

 「きゅふん……」

 一気にパーティメンバーが減り、狼達が寂しげに鳴く。

 みんな、無事で居てよね……!

 私達は階段を目指し、先を急いだ。
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