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最終部:タワー・オブ・バベル

その302 グラス・フラグメント

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 カツン……カツン……

 <こっちだっぴょん!>

 リリーの誘導により、鏡の迷路を進む私達。この迷路、見た目以上に厄介で通路があるように見えて、実際は壁だったり、壁のように見えるけど実は通路があったりと、手探りで進まないと激突してしまうからだ。

 「……一応、壁かどうかは地面との設置麺を見れば分かるけど」

 そうしていると、頭を壁にぶつけることになるので、手をかざして歩いた方が安全だったりする。それに、魔物とも遭遇することが多かった。

 <出たっぴょん!?>

 キキキキ……

 グルウウ……

 「フォークを持った魔物と羽をもった悪魔みたいなやつね。でもこの狭い通路じゃ、こっちが有利よ!」

 「行くぞ、ニールセン!」

 「はい!」

 横幅はレイドさんくらいの体格の人だと二人分しか通れないので、レイドさんとニールセンさんが前衛でリリーを守りながら歩く。戦闘もそのまま行うんだけど、向こうは体が大きすぎて一人ずつ襲ってくるため、簡単に倒せていたのだ。

 『設計ミス、かな?』

 エクソリアさんが鏡に手を当てながら呟き、セイラも口を開く。

 「明らかに向こうが不利なのよね。トルスメギストスだっけ? 意外と抜けてるのかも」

 「……トリスメギストスだ。あの男、何を考えているか分からない部分があった。用心に越したことはないだろう」

 ノゾムがカイムさんと壁を叩きながら歩く。隠し扉の類があってもおかしくない、そういうのだ。

 「わぉん?」

 「きゅんきゅん?」

 狼達は自分たちの姿が映っているのが不思議なのか、カリカリと鏡の自分を引っ掻いていた。

 「うふふ、可愛い……あの、提案なんですけど、この壁って壊して進めたりしないんでしょうか? 私のライフルなら、分厚い壁でなければ破壊できると思うんですけど……」

 アイリがシルバを撫でると、「?」顔で上を見上げて尻尾を振るシルバ。ノゾムには噛みつくけど、アイリには寛大だった。

 「ふむ……それはいいかもしれないな。試してみる価値はある。頼めるか?」

 「はい!」

 お父さんの言葉で、前を歩いていたリリー達がこちらへ戻ってきてアイリが代わりに前へ出る。

 <ここからしばらく真っ直ぐ通路だから安心して撃つといいっぴょん>

 「本当に大丈夫なのか?」

 ユウリが片目をつぶりながら誰ともなく呟き、アイリが銃を構えて『すこーぷ』というものを覗き込んだ。反対側の鏡にはアイリの姿が小さく同じ構えをしているのが見えた。

 「では、行きます……! ……シュート……!」

 タン!

 一発だけ放たれた弾が一直線に鏡の中へ吸い込まれた! 

 ビシッ……!

 鏡にひびが入ったその瞬間、それは起こった。

 ブシュ……

 「え?」

 「う……」

 「アイリ……!?」

 なんと、アイリの胸から血が噴きだしてきた!? 後ろに倒れるアイリを支えたノゾムが一言漏らしていた。

 「……これは銃創……跳弾した感じは無かった、どうして?」

 「それは後にしてください! 回復させないと! ≪リザレクション≫」

 フレーレがノゾムとユウリを押しのけて回復魔法を使い、アイリの傷はキレイに塞がり目を覚ました。

 「あ、ありがとうございます……回復魔法すごいですね、これがあればあの時も助かったのかな……?」

 「ふう……びびらせるなよ……サンキュー、フレーレ」

 「はい!」

 「ぐぬう……」
 
 お礼を言うユウリに笑顔を向けるフレーレの後ろで苦い顔をしているのはカイムさんだった。そんなことより、今のは一体何だったのか調べないとね。

 「とりあえず鏡がどうなっているか調べましょうか」

 私がそう言うと、またしてもどこからともなく声が聞こえてきた。

 【ふぉっふぉ……言い忘れておったが、ここの鏡は映った者に攻撃を仕掛けるとダメージを負うようにできておる。壊そうなどもってのほかじゃぞ。だからこういう使い方もある】

 『こっちに魔物が……ぐっ!?』

 「アルモニアさん!?」

 後列にいたアルモニアさんが、さらに後方に現れた魔物に気付いた瞬間、短く呻く。慌てて駆けより、魔物を見ると、鏡に映ったアルモニアさんを巨大フォークで攻撃していた。

 『なるほど、これなら近づかなくても攻撃が出来る上に不意打ちも可能というわけね……しかも全面鏡張り、考えたものだわ』

 【もっと褒めるがいい。これなら女神の貴様等でもダメージを与えられるのだよ。大人しく道順通りに進むのじゃな】

 「くそ、出て来いってんだ!」

 「ユウリさん、魔物を先に!」

 「私が行きます!」

 「弓を使うわ!」

 カイムさんが走り、後方の魔物へと向かう。その横を通って矢を放つと、魔物は矢を回避した。その後ろの鏡には……

 「しまった!? 痛い……!」

 「ルーナ!」

 だ、大丈夫、肩をやられただけよ……気を付けて、思ったよりも三倍くらい面倒だわ」

 「てえい!」

 ザン!

 グオォォ……

 カイムさんの一撃で魔物の首が飛び絶命する。その間に私はママにヒールをかけてもらい、立ち上がれるようになった。

 「魔法に弓、銃はまずいわね」

 「……そうだな……アイリとユウリはナイフで戦え」

 <ちとやってみたが、俺の音をつかった攻撃もダメそうだ>

 「ひい!? カームさん!?」

 カームさんがソニックウェーブを使ったのか、全身血まみれになっていた。音は反響するのでダメージが大きいのだと思う……。

 <やっぱりリリーが導くぴょん! 大人しくついてくるっぴょんよ!>

 「それしかなさそうだな。ちょっと俺も試してみるか……」

 パパがリリーの言葉に頷いた後、L字の角から手だけ出して、剣の柄で鏡を割ろうと力を込めた!

 ガツン!

 「ぐあ……!?」

 「パパ!」

 叩いたのと同時に手に衝撃が走ったようで、剣を取り落として蹲った。

 「ディクライン!? もう、無茶するのは止めてよね? ≪ヒール≫」

 「お、おう……助かったぜ……! しかしこれほどの迷路を作るとは……トリスメギストスとやらはかなり強敵だぞ」

 『だね。恩恵に例えるなら『奇才』とでも呼べるレベルだ。それにこれだけで終わるとは思えない、注意して進もう』

 その後、リリーの案内は的確で、魔物と数度戦闘を行ったけど無事62階への階段へと到着することができた。 
 ここまで歩いて来て分かったことは、ダンジョンや階下のように『部屋』がないということだった。つまり、私達は通路で休まなければならないため、魔物と遭遇する確率はかなり高い。休憩や食事でも安心してはいられないというわけだ。

 まだ休憩には早いと62階へと登っていく。

 私達は、エクソリアさんが敵のことを『奇才』だと言った意味をこのフロアで痛感することになった。
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