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最終部:タワー・オブ・バベル

その301 踏み入れた先

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 朝食と話しあいを終えた私達は、準備を整えてすぐに60階へと向かった。

 ちなみに名残惜しかったけど、私は元の服に着替えた。セイラは相変わらず防刃装備をローブの下に着こんでおり、ノゾム達三人もそれぞれ銃や防具を整えて戦闘準備も万端だったりする。

 「ふうん、小手とか胸当てなんて初めてつけたけどよく作られているなぁ。銃を使うのも問題なさそうだ」

 「それは軽装備だからな。俺みたいな鎧だと結構くるぞ?」

 腕を回しながら呟くユウリにレイドさんが答える。速さを活かしたいということでノゾムとユウリは最小限の防御で身を固めていた。

 「む、来たか」

 「早かったでござるな」

 「あ、お父さんにござるさん。ここにいたんだ?」

 「っ拙者はカラ……」

 「よし、準備は良さそうだな、行こう」

 何か言いかけた忍びの人が言い終わらない内にお父さんはスタスタと歩きはじめる。そこに久しぶりに顔を合わせた牛男のアステリオスが耳打ちしてくる。

 「(魔王様には傷を治す薬を渡しておきました。ですが、調子はそれほど変わっていないので無理をさせない方がいいかと……)」

 そういえば前の戦いで結構ダメージを負っていたっけ……

 「お父さんには無理をさせないよう、俺達が頑張ろう」

 アステリオスの話を聞いていたレイドさんが私の肩を叩いて真面目な顔で言ってくれた。

 「そうね……」

 すでに死んでいるけど、出来る限りお父さんには生きていてほしい。そう思う。

 「では、我々はここで」

 「あ、一緒に行かないんだ」

 「はい、少しやることがありまして……」

 そう言ってアステリオス達は階段を登る私達を見送ってくれた。

 「う、牛の頭……物語では見たことがありますけど、本物をみるとちょっと驚きますね」

 後ろを振り返りながらアイリが興奮気味にそんなことを言う。落ち着いたらアイリの世界の話を聞いてみたいな。
 
 そのまましばらく階段を登ると、61階への扉が目の前に現れる。パパとレイドさん、カイムさんが慎重に調べながら重い扉を開いた。

 「さて、今度はどんな……ん? これは……」

 パパが中へ入ると困惑した声を出した。続いて入ったレイドさんとカイムさんも何と言っていいか分からないという感じの声を出していたので、私も我先にと入っていく。

 するとそこは、奇妙な空間が広がっていた。

 「何も無い?」

 「……一面が白い空間? 妙だ、こんな場所は作られていなかったはずだが」

 「不思議なところですね、魔物も居ないみたいですし」

 フレーレがぴょんと前へ出ながら呟くと、丁度みんな中へ入ったようで、私の後ろで各々口を開いていた。

 しかし……


 バタン!


 その瞬間、重々しい扉がひとりでに閉じた!

 <ん? 何故閉じたのだ? 今までそんなことは無かったはずだぞ>

 カームさんが扉に近づくと、今度はスゥ……っと、扉は跡形もなく消え去った。

 <ど、どういうことだっぴょん!? と、扉が消えたっぴょんよ!>

 「ちょっと、本当に何も無いわよ!?」

 リリーとママが壁に手をついて確認していたけど、どこにも出られそうな場所は無く、私も剣で叩いてみたけど壁の重い音がするだけだった。

 「どういうこと? これも神裂の罠ってことかしら」

 「……いや、父さんはこの塔でルーナ達と『ゲーム』をしていると言った。だから転移陣で戻れるようにしているのと同様、戻れないというルールは設けていない」

 ノゾムが腕を組んでそう言うと、どこからか声が聞こえてきた。

 
 【ようこそ、世界を救うために集まった勇敢なる諸君! わしのテリトリーへようこそ】

 少ししわがれた感じの、そう、おじいさんの声で歓迎の言葉を投げかけてくる。するとユウリがその声に反応して一歩前へ出ながら叫ぶ。

 「この声ジジイか! 出てこい! 僕を操ったことを後悔させてやる!」

 【ふっふ、神裂の義理の息子か。そう怖いことを言われては出てやるわけにはいかんなあ】

 「今、父さんを呼び捨てに……?」

 アイリが呟くと、おじいさんは話を続ける。

 【神裂は中々面白い男じゃが、あの男は神の器ではない。お前達三人は大事にしているような胸中を抱えているようなやつはな。だからわしが神に成り代わってやろう、お前達も神裂と暮らしたかろう? 協力してもらうぞ? まあ、ここまで辿り着くことができればじゃがな】

 『神に成り代わるだって? お前は神裂の手下じゃないのか?』

 エクソリアさんが天井に向かって投げかけると、おじいさんは鼻を鳴らして答えてきた。

 【女神とやらか。少し時間をかければ制約なぞ何とでもなるわ! そしてこのフロアはわしが作り替えた。ヤツの手も、眼も届かん。そして退路は封じさせてもらったわい。この白い空間で餓死するか……それとも魔物の餌食なるか……】
 
 ウォォォォン……


 パチン、と指を鳴らす音と同時に、どこか遠くで魔物の呻き声が響いてくる。

 「ガルルルル……」

 【せいぜいわしの元まで辿り着いて欲しいものじゃな? その時はそこの坊主のように操られるかもしれんがのう。さあ、あがけ。この、稀代の錬金術師、トリスメギストスを楽しませろ!】

 「待て! 僕と戦え!」

 【登って来れたら戦ってやろう……ふぉふぉふぉ……】

 笑いながらフェードアウトしていくトリスメギストス。

 「クソ! 急ぐぞ、この手で必ず仕留めてやる……!」

 「あ、ユウリさん、待ってください!」

 銃を片手に構えて駆け出したユウリを止めようと、横をすり抜けたフレーレが声をかけるが、一歩遅かった。

 ビタン!

 「うぐ……!? これは……ガラス?」

 「違います、これは鏡ですよ! ほら!」

 勢いよく壁に当たり、ずるずると崩れ落ちるユウリの前に立つと、フレーレが壁に映っていた。

 「真っ白な空間はこれを隠すためか。手をついて慎重に行かないと迷うな」

 「だから魔物の姿が見えなかったのね」

 レイドさんとセイラが壁を触りながらそう言うと、カイムさんがコンコンと壁を叩きながら歩き出す。

 「……厄介ですね。通路の一番向こうにも鏡があると、そこが道なのか壁なのかの判断がつきにくいですからね」

 カイムさんが苦い顔をしてそう言い、お父さんが面倒だなと口を開く。

 「私が前にでましょうか?」

 万が一を考えて、全身鎧で防御力の高いニールセンさんが手をあげるが、ただ一人、明るい声を出してとことこと前を歩く影があった。

 <大丈夫だっぴょん。適当に歩いていればその内到着するっぴょんよ>

 「ええー……それは流石に……」

 <ほら、そこの坊ちゃんは急ぐんじゃなかったっぴょん?>

 「う、兎が偉そうに……! くそ、待て!」

 「あ、ちょっと!? レイドさん、パパ追いかけましょう!」
 
 リリーを追ってユウリが追いかけ始めるのを見て私は慌てる。魔物が徘徊しているような場所をリリーが先頭を行くのは危ないという言葉しかない。

 「だな、ディクラインさんと俺で前を……」

 レイドさんがパパに声をかけると、パパが険しい顔をして立っていた。

 「……」

 「パパ?」

 「ん? すまん、ボーっとしてた。俺とレイドで前だな、行こう」

 「気をつけてよ?」

 パパを追ってママが横について一緒に歩いて行った。なんだろう、なんだか嫌な予感がする……?
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