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最終部:タワー・オブ・バベル

その299 消失

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 転移陣を使って地上へと戻った私達。外はすっかり深夜で、拠点も静かなものだった。魔物が出てこないようにと、お父さんは相変わらず塔の中に残ったためここには居なかった。

 そして、すぐに拠点の入り口まで戻ると、ビューリックの騎士さんが出迎えてくれた。

 
 「あ、おかえりなさい! ご無事でなによりです。ささ、どうぞお通り下さい」

 「いつもありがとう!」

 「いえいえ、塔に登れない私達はここを守るのが役目ですから」


 ぞろぞろと中へ入っていくと、ノゾムが声をあげた。

 「……これは、すごいな」

 拠点の規模はどんどん大きくなり、テントも家も少しずつ増えている。木を切り開けば大きな街ができそうな勢いになってきた。そんな驚いているノゾムにパパが声をかけた。

 「今日から三人もここで過ごしてもらうことになる。分かっているとは思うが、裏切り行為があったら即殺されると思ってくれ」

 「パパ!」

 「いや、それでいい。僕たちは相応のことをした。操られていたとはいえ、ね。行動で示すさ」

 「私もです。この子達を裏切ることはしないわ。ね、シロップちゃん」

 「きゅきゅ……」

 どうしても抱っこしたいというので、カバンから出したシロップは暴れないまでも、アイリにはまだ懐いておらず、どこ吹く風であくびをしていた。するとアイリのズボンをレジナが引っ張った。

 「ガウ」

 「ん?」

 「あ、レジナがシロップを家に連れて帰ってくれるみたい。背中に乗せてあげて」

 「うー……お母さんなら仕方ないか……はい」

 「うぉふ」

 「わんわん」

 「きゅふん」

 狼達はこぞって私達の家を目指し走り去って行った。治ったとはいえ、やはりシロップを休ませたいのだろう。

 「ああ……行ってしまった……」

 ノゾムががっかりしていた。


 「とりあえず、ノゾムとユウリは俺達と一緒だ。そういえばお前達って何歳なんだ?」

 「……俺は死んだ時点で20歳だったな。二人は俺の二つ下だから18歳か」

 「死んだ時点って……」

 「あ、それならわたし達と同じ歳ですね! ルーナも18になりましたし。わたしはもう少ししたら19歳になるので、お姉さんですね」

 フレーレがえっへんと胸を突きだす。

 「(年上か……でもあまり変わらないなら……)」

 「何を考えているのだ?」

 「うわあ!?」

 「よし、レイドさん、すぐ行こう、早く行こう」

 「あ、ああ……それじゃノゾム、ディクラインさん、戻りましょう。ザイチさんは……」

 レイドさんがザイチさんへ振り返ると、サイゾウさんが制した。

 「ワシとザイチはサムライ衆とニンジャ衆の所へ行く。気遣いは無用じゃ」

 「……久々に一杯やるか」

 「フッ、お互い役に立てなんだ反省を兼ねてな」

 とか言いながら二人は消えて行く。それでも道中、先行してくれたおかげで叩けた部分はあるので、ダメだ他訳じゃないと思うんだけどね。

 「そ、それじゃフレーレ、また明日……!」

 「貴様っ呼び捨てだと!? フレーレさん、ゆっくり休んでください!」



 「ありがとうございますユウリさん、カイムさん! ……仲良しさんですね」

 「え!?」

 アイリが微笑むフレーレを見て驚く。

 「ああ、気にしちゃダメよ、この子はこういうところあるから……」

 「は、はい……それよりお風呂があるんですね」

 「うん。もう遅いから朝にでも入りましょ、案内するわ」

 「ぜひ! 私、お風呂大好きなんです!」

 <ふふ、愛の匂いが濃くなってきたっぴょん……!>

 「あんたはそればっかりね……」

 セイラとママも一緒に戻っていると、私達が住んでいる家に明かりが灯っているのが見えた。

 「……? 今、あの家はカルエラートしかいないはずよね? まだ起きているのかしら?」

 ママが呟き、ドアを開け、灯りにのある部屋へ行くとカルエラートさんが椅子に座って寝ていた。テーブルにはサンドイッチとサラダが広げられていた。

 「……ん、んん……」

 カルエラートさんがもぞもぞと寝息を立てていると、後ろから話しかけられた。

 <帰って来たかにゃ>

 「バス、あなたも起きていたの」

 <私はそこまで睡眠を取らなくていいからにゃ。カルエラートは毎日遅くまで起きてるのにゃ、いつ帰ってきてもいいように食事も用意しているにゃよ>

 そうだったんだ……だから、帰るとすぐ食事が出て来たんだね。

 「ありがとうカルエラートさん」

 「ん……次は私も行くぞ! ……むにゅあ……」

 「ふふ、それじゃサンドイッチをありがたくいただいてから休みましょうか」

 「あー太りそう……ただでさえ不規則なのに……」

 セイラが疲れた様に言うので、私はいつものお返しをしておくことにした。

 「ニールセンさんはそういうの気にしないんじゃない? 大丈夫よ!」

 「な!? なんでそこでニールセンの名前が出てくるのよ!」

 「へえ、呼び捨てなんだ?」

 にまにまとママも参戦し、セイラは顔を赤くする。

 「そうだったんですねー羨ましいです!」

 「ええ!?」

 <愛がすごいっぴょん……! この調子で広がって欲しいっぴょん……>
 
 フレーレの発言にまたも驚くアイリに、さらに興奮する兎。

 食事を終えた後は、すぐに眠りにつくことができた。


 ◆ ◇ ◆


 ――そして翌朝、私はフレーレ、アイリ、セイラを伴ってお風呂へ向かう途中、クラウスさんとシルキーさんに出会う。

 「お! なんだ、戻ってきていたのかよ、夜中か? 戻って来たってことは少しは進んだのか? そっちの姉ちゃんは?」

 「落ち着きなさいクラウス。でも無事で良かったわ。少しは休めるんでしょう?」

 「ええ、ありがとうございます! でも、あまり時間も無いですからすぐに行かないと。で、こっちの女の子はアイリ」

 「よ、宜しくお願いします……!」

 「ふーん、黒髪黒目とはめずらしいな。ま、よろしくな! そういやファウダーはいるか? ちょっと木を切り倒しに行きたいんだよ」

 「あ……」

 そう言えばクラウスさんはファウダーとよく木を切りに行ってたっけ……言葉に詰まる私にシルキーさんが聞いてくる。

 「……もしかして消えてしまったの……?」

 その言葉に頷く私。

 「……マジか……ドラゴンが、いや、ドラゴンの中でもかなり上の実力があるファウダーがやられるたあな……クソ、俺も行ってりゃ!」

 ぐっと拳を握り俯くクラウスさん。仲が良かっただけに悔しいのだろう。

 「俺達みたいな冒険者はこういうこともあるから、仕方ないと思うしかねえ。だけど、あいつのことを忘れちゃいけねえ……そう思うぜ」

 レイドさんとフレーレと一緒にいったダンジョンでも亡くなった人がいたし、冒険者は常に死と隣り合わせなのでクラウスさんの言うことはもっともだ。それでもファウダーとジャンナのおかげで生き延びれたことに感謝しないとね。

 「分かってますよ! ファウダー達のためにも早く決着をつけないとね」

 「おう、今度は俺も連れて行ってくれよ。外の魔物じゃそろそろ相手にならなくなってきたからな」

 「ちょっと戦いすぎなのよね……私も冷や冷やしているわ……」

 「あはは、その時はよろしくお願いしますね! それじゃ、ちょっとお風呂へ行ってきます!」

 「おう、仕方ねぇ。エリックから何人か借りて外へ出るか……」

 エリックと仲がいいのか……ちょっと意外だと思いつつ、お風呂へと向かう。その間、アイリが俯いて呟いていた。

 「すいません……私達のせいで……」

 「……気にしないでとは、ごめん、言えない。けど、あなた達は私達に協力してくれることを約束してくれた。だから、これからよろしくね」

 「はい……」

 「わたしもジャンナのことは悲しいですけど、あの二人が消えて、アイリさん達がここに来たのはきっと意味があるんだと思います」

 「そうそう。悪いのは何考えているか分からない、あなたのお父さんでしょ? 文句を言いに、行くわよ!」

 「……はい!」

 返事をしたアイリの目は何かを決意した目だった。


 ◆ ◇ ◆


 <バベルの塔:60階>


 「もってきたでござる」

 「……すまんな。向こうの世界のものなら強力だろう……ツナゲールXか……これなら傷ついた骨を……」

 「もう限界なんじゃ……?」

 「まだだ。せめて神裂と刺し違えるまでは諦める訳にはいかん」

 ヴァイゼはサイゾウに頼んでいたもう一つのお願いとして、三人の忍びとアステリオスに、階下にあるデパートから骨を修復できそうな道具を探してきてもらっていた。結果ユウリ達との戦いで傷ついた骨を修復することに成功したが、魔王としての力を受け継いだ後、徐々に体を構築するのが難しくなっていたのだった。

 「最悪、俺達が足となってもいい。が、無駄死にをする人物じゃねぇぜ、魔王様はよ……」

 「助かる。くれぐれも内密に頼むぞ」

 「……分かっているでござる……」

 顔以外のローブの下は骨になっているのを見ながら、忍びたちは呟くのであった……。
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