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最終部:タワー・オブ・バベル

その298 先立

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 「ん……」

 『目が覚めたか、流石にジャンナの能力は信頼性が高いな』

 目を覚ますと、私を覗き込んでいるエクソリアさんと目が合った。

 「私……確かアイリと一緒に……」

 ゆっくりと上半身を起こすと、一面の砂漠だったはずだった景色が、通常のフロアへと戻っていた。私が起き上がったのを皮切りに、レイドさん、ノゾム、アイリと目を覚ましているようだ。

 「そうだ!? あの丸っこいやつは!」

 『あれは倒されたわ。ほら』

 アルモニアさんに言われた方を見ると、横からすっぱりと斬られて転がっている。パパが倒したのかしら……?

 しかし、ママに支えられて起き上がってきたパパを見てそれはないと判断できた。そこでフレーレがエクソリアさんに尋ねる。

 「あれは誰が倒したんですか? あの中にいた人が?」

 ユウリを見て言ったが、エクソリアさんは首を振り、答えにくそうに口を開く。

 『あれは……その、ファウダーだ……ファウダーが倒した』

 「ファウダーさん? そう言えば姿が見えませんね。ジャンナも……」

 口に指を当ててキョロキョロするフレーレの言葉を聞いてふとあることを思った。それに気づいた時、心臓の鼓動が早くなるのが分かった。

 「ま、まさか……」

 「……そのまさかだよルーナ。あの二人は『人化の法』を使った。そしてファウダーはアレを。ジャンナはお前達の命を救ったんだ」

 お父さんが私の肩に手を置いて言い聞かせるように言葉を出す。

 「そんな……ジャンナ……!」

 フレーレは預けていたクロスを取り出して震えだし、やがて涙を流す。

 「私達がちゃんと戦えなかったせいで……! ごめん……ごめんなさい……」

 「ルーナ……くそ、俺がもっと強かったら……!」

 レイドさんが呟き、私はお父さんに抱きついたまま、しばらく泣きつづけた。



 ◆ ◇ ◆



 『クソじじいめ、やってくれたな。61階以降、俺の手が入れられないよう作り替えたか? ……ユウリを操ったのをどうしてくれようかと思ったが、とりあえず無事だったから不問にしてやるが……』

 神裂はあの爺さんを問い詰めようとしたが、すでに爺さんは自分のボス部屋へ引きこもってしまい、さらにアクセスできない状況を創り出していた。

 『さて、ならお手並み拝見といくぜ? ただ、ユウリから話を聞いた後なら、ルーナ達も黙ってはいないだろうぜ』

 神裂は研究施設のような場所へ赴き、灯りをつけた。

 『じじいは恐らく負ける。次はお前等だ』

 「……」

 「……」

 『(ふん、出来はイマイチか。まあいい、足止めできれば十分だ。ノゾム達もルーナ達の仲間になった。これでいい……)』

 リミットが近づいている。そう思いながら神裂はほくそ笑んでいた。



 ◆ ◇ ◆


 ――ひとしきり泣いた後、私はみんなに謝罪をした。

 「……ごめんなさい、こんな時なのに大泣きして……」

 「構いませんよ、仲間を失うというのは辛いことです。私は騎士ですが、冒険者からそういった話は良く聞きます。それでも、と前を向き続けるのが亡くなった人のためになると信じているそうです」

 ニ-ルセンさんが私に優しい言葉を投げてくれる。するとユウリが声を出していた。

 「この世界のことは僕は良く知らない……父さんの言うとおり、足止めをするため出撃したけど、あのじじいに操られてこのザマだ……許して欲しいとは言わない。代わりにあのじじいは僕が殺す。あの剣士に頼まれた義理は果たす」


 「待ちなさいユウリ! 一人じゃ無理よ!」

 「うるさい……! 君に僕の気持ちがわかるか! 何もできず、情けをかけられておめおめ生き残って、僕を助けてくれた奴は死んだ! 僕は一人でも行く!」

 バキッ!

 アイリの制止を無視して銃を持って歩き出したユウリを思いっきり叩いた! それは……

 「何を言っているんですか! 悲しいのはみんな同じですよ! あなたが一人で向かってそれで死んだら今度はこの二人が悲しみます、それが分からないんですか! ファウダーさんはそんなことのために助けたわけじゃありませんよ……」

 フレーレが泣きながらユウリの前で叫んでいた。ファウダーはゲルス……神裂に操られていた時から一緒だったし、ジャンナにいたっては私を助けるため修行に出た時に一緒だった。私と同じくらい悲しくて寂しいに違いない。

 「……ぼ、僕は……」

 「今はいいですから、ひとまず拠点へ戻りましょう、ね? 少し休めば頭も冷えますし」

 叩いた頬をヒールで治しながら、泣き笑いで言うフレーレに戸惑いながらもユウリは口を開いた。

 「……すまない。ありがとう……アイリも、ごめん」

 「ううん、とりあえず父さんに詳しい話を聞かないとね」

 「ああ……あんた、名前は?」

 「わたしですか? フレーレです! よろしくお願いしますね、ユウリさん」

 「あ、ああ……よろしく……」

 顔を赤くしてそっぽを向くユウリをよそに、今度はノゾムが私達に話しかけてくる。

 「……迷惑をかけた。犠牲者を出させてしまった立場で言うのも気が引けるが……俺達も一緒に連れて行ってもらってもいいだろうか?」

 「神裂との因縁、という意味なら歓迎だ。最悪、人質としても役に立つからな」

 「パパ!」

 「……いや、その認識で構わない。俺達はあなた達に信用されるよう、努力するだけだ。アイリとユウリもそれでいいな?」

 「ああ、問題ない……っていつまで触ってるんだよ!?」

 「もう大丈夫ですか? すみません、殴ってしまって……」

 「それで大丈夫よ」

 二人が頷き、私達のパーティも異存はないと頷く。そこにセイラが肩を竦めて言った。

 「それじゃ一度拠点に戻りましょうか……もうくたくたよ……」

 「はは、それもそうだな。次はどんなフロアか知っているか?」

 レイドさんがノゾムの肩を叩きながら尋ねる。

 「……次は、確かそっちの世界の王様とやらがボスだったはずだ。変わってい無ければな」

 <ストゥルとやらか……>

 「ならば私の出番ですかね」

 カームさんとニールセンさんがそれぞれ呟き、意を決したように言った。

 「気にはなるけど、セイラの言うとおり、まずは戻って回復ね。転移陣も出て来たし」

 ボワっと出口付近に転移陣が現れたので、私達はそれに向かって歩き出した。しかしそこで後ろから声がかかった!

 「帰って来たぞ! カイムも一緒じゃ!」

 「フレーレさん! ご無事ですか!」

 「ええ!? カイムさん!?」

 「そういえば俺がそんなことを言った気がした……すまない、全部終わった後だ……」

 お父さんが本当に申し訳ないという顔をしてサイゾウさんとカイムさんへ声をかけた。

 「そ、そうでしたか。しかし終わったのなら問題ありませんな。これも無駄に終わりましたかな」

 サイゾウさんが背中から銃やナイフを出し、ユウリとノゾムがそれを見て歓喜する。

 「……下の階にあったやつか。俺のグローブとナイフだ」

 「こっちは僕のライフルとショットガンだ、これがあればあのクソじじいを……」

 「まだ動いちゃいけませんよ」

 「だから、僕に構うなよ!」

 回復をさせていたフレーレを邪険に扱うユウリにカイムさんがつっかかった。

 「……フレーレさんにその言い方は無いだろう、お前はなんだ?」

 「あん? あんたはフレーレのなんだい?」

 「ああん? 呼び捨てにまでするのか、君は?」

 「ユウリ、やめなさいよ」

 アイリの言葉も届かず、ユウリとカイムさんの目に火花が散る。疲れている所にややこしいことは止めて欲しい……。

 「レイドさん、お願い!」

 「ああ! ほら、行くぞ二人とも。サイゾウさん、その武器は持ってきてくれ、一度拠点に戻ってから選定したい」
 
 ずるずるとノゾムとユウリを引きずっていくレイドさん。

 「あいわかった。お供しましょう」

 「こら! 引っ張るな!?」

 「……むう……」

 「きゅんきゅん」

 「そうね……二人が居なくなったに、これじゃ先が思いやられるわね……」

 <まったくだっぴょん……>

 「あれ、リリー、いたの?」

 <ずっといたっぴょん!?>

 ははは、とみんなが笑いながら転移陣へ行き、姿を消す。

 最後に残った私も転移陣を抜けようとしたその時――



 <大丈夫、オイラ達は後悔してないよ。最後まで頑張って>
  
 <もうわたし達は助けられないけど……またいつか……>



 「……!」

 振り返っても二人の姿は無い。

 許して欲しいと願った私の幻聴か、本当に最後のお別れだったのかは分からない。

 けど、二人のためにも先に進まなければならない……もう一度、私は涙を流して転移陣を抜けたのだった。
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