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最終部:タワー・オブ・バベル

その286 独白

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 ヒュイン……

 転移陣から抜け出た私とレイドさんの前に、先に出ていたみんなが武器を構えて一点を見つめる。足元には銃のようなものが真っ二つになって転がっており、お父さんかパパが壊したのだろうと思う。弾丸もそこらじゅうに落ちていた。

 「こっちにはノゾムがいるってのに随分な歓迎だな」

 「あはははは! それでもしっかり対応してくるんだから流石だよ! ノゾムが助けにきてくれたのは感謝しているけど、捕まっちゃったらねえ? 安全のため一緒に始末しないとさ」

 「……もしお前が捕まっていたら俺も同じことをしただろう……俺達はそういう環境で生きて来たからな……」

 『平和な日本でそんなことがあると思えないんだけど……』

 エクソリアさんがノゾムの言葉に対して疑問を口にすると、少し高い建物の上にいるユウリが銃を構えて私達に言う。

 「あはは、そういうのはいいよ。それじゃ、やるかい?」

 「待って。私はノゾム兄さんを助けたい、この人達を倒しても父さんと私達三人が一緒じゃないと……」

 スッと、女の子も構えを解くと、レイドさんが口を開いた。

 「お前達はともかく、悪いが神裂は倒させてもらう。この世界を破壊しようとしているやつを許す訳にはいかないからな。ノゾムを助けたいと思う心があるなら、ここを通してくれないだろうか?」

 「あはは、そんなことをすると思うかい? アイリ、嫌なら動かなくていいよ? 僕一人で殺すさ。ノゾムも一緒に、だけどね」

 「仲間でしょ!?」

 私が叫ぶと、ユウリは鼻で笑いながら私に言う。

 「まあ、僕達は父さんのおかげで兄妹みたいに育てられたけど、本当の兄妹じゃないし、君達を殺せば父さんの役に立てると思えばノゾム一人くらい仕方ないかな?」

 ノゾムとアイリという女の子はまだ言葉が通用しそうだけど、ユウリはダメだ。本当に自分のやりたいようにしか考えられないのか、ノゾムを見捨てるつもりみたい。すると、ノゾムがおもむろに口を開いた。

 「……お前が一番過酷だったから無理もない……だが、そうなってしまったのは俺にも責任がある……」

 「どういうことだ?」

 お父さんが尋ねると、目を瞑り、深呼吸してから、自分たちの境遇を語り始めた。

 「そこの女神が言うとおり、俺達は日本という平和な国で暮らしていた。そうだな……俺は6歳、アイリとユウリは5歳かそこらだったろう」

 「……ノゾム兄さん?」

 アイリが不思議そうな顔でノゾムの名を呼ぶも、気にした風も無く話を続ける。

 「……俺の両親は海外で仕事をする人達でな、クリスマスは家族で過ごそうと俺は飛行機で中東から日本へ母親と向かっていた」

 「ヒコウキ? チュウトウ……?」

 海外以外の言葉はまるで理解ができず、私は単語を口走っていた。

 『後で説明してあげるから、今は気にしないで』

 『それで……?』

 「離陸してから数十分……そんな時、事件は起きた。俺の……俺達の乗った飛行機が、墜落した……」

 「墜落……ってことは空を飛ぶ何かに乗っていたのかしら?」

 ママの言葉に頷いてから言葉を続けるノゾム。

 「その通りだ。後から知ったことだが、あれは事故ではなく、テロリストの仕業だったらしい。テロリストというのはこの世界で言うなら盗賊が一番近い。後は飛行機に偉い人が乗っていた、という話もあったが……墜落した飛行機は爆発を免れたものの、バラバラ。俺は生き延びることができたが、庇ってくれた両親は……」

 ――言葉を詰まらせるが、庇って亡くなったのだというのは容易に想像できた。運が良かったのもあるのだろうけど、この後の話は不運が続いていくという言葉以外見つからない酷いものだった。

 「しばらくして、人が集まってきた。両親も死に自分もこのまま死ぬかもしれない、そう思った矢先だったからこれで助かると子供ながらホッとしたもんだ。だが現実は甘くなかった。現れたのは飛行機を墜としたテロリストたちだった。生き残った人は彼等に連れ去られた。その中に、アイリとユウリもいた、そういうことだ」

 「……私は小さかったし、ショックだったから良く覚えていない……」

 「ふん、今更そんな話をして何になるんだよ。くだらない……!」

 悲しそうに言う、アイリと対称的にさっきまで笑っていた顔を怒りの表情に変えて吐き捨てるユウリ。

 「……大人は人質、もしくは見せしめに殺害。子供は……俺達は……テロリストの道具へと変えられていったんだ……」

 「道具?」

 「ああ、子供を戦争の道具にしたんだ。俺達は銃を持たされ、ナイフの使い方などを教わった。何も分からないまま、撃って殺した。それに子供というだけで油断しやすいのもあるから、爆弾を詰めたリュックを持たされ、大勢の人の中で爆発させられた子も、いた……」

 「ひ、酷過ぎるわ!? あ、もしかして死んだのはそのせい……?」

 「いや、俺達は……」

 ターン!

 私の問いにノゾムが振り返ると、ユウリが銃を撃ってきた。

 「昔話はもういいだろ! 僕達は死んだ、そしてここに来て父さんの役に立つ。それ以外に何か必要か? ……やっぱりもろとも殺すよ、ノゾム」

 「……父さんは恩人だ。でも、この世界を破滅させることが俺には正しいとは思えない。確かに父さんはおかしなことをする人だったけど……真意を父さんに聞く必要があると思った。この世界を力で滅ぼすのは、俺達を苦しめたテロリストたちと何が違う?」

 「うるさいうるさい! まずはお前から死ね!」

 「……! ダメよ!」

 激高したユウリの銃から、パーン、と乾いた音が響く。

 だが銃は空を向いていた。横に居たアイリが咄嗟に体当たりをして逸らさせたようだった。

 「この距離はユウリの思うつぼだ、一旦散開して様子見するぞ!」

 「幸い建物もあるしね、こっちへ行くわ」

 私達は広場から建物内へと移り、そっと窓からユウリ達を見ると、ユウリがアイリの首を掴みながら叫んでいた。

 「邪魔をしたな! ……チッ、見ろ、隠れられたじゃないか。まあいいや。君も手伝ってよね、僕はノゾムだろうが異世界の人間だろうが見つけたら殺すことにしたよ」

 「……きゃ!?」

 アイリを叩きつけながら、ユウリはいいことを思いついたとばかりに口元をニヤリと歪めてアイリに言った。

 「……そうだ! ノゾムを殺されたくなかったら、君が僕より早く異世界人を先に全部無効化しなよ! 運が良かったらノゾムが撃たれる前に終わるかもしれないね!」

 「……くっ……」

 「おっと、僕を撃とうだなんて馬鹿なことは辞めた方がいいよ? そうだね、とりあえず足を挫いときなよ」

 ゴキッ!

 「ああああ!?」

 「大げさだなあ、折っちゃいないよ。どうせ狙撃しかできないんだ、いいだろそれで?(まだ君には使い道があるしね、あは♪)」

 あいつ、本当に最悪だ……! ノゾム達の芝居かもしれないけど、体当たりで攻撃を反らしてノゾムを助けたのはあの子の良心だと思いたい。できれば助けたい!

 それにはまず――


 「お待たせ。鬼ごっこの始まりだよ! ルールは簡単さ、君達が全滅するか、僕が死ぬかだ!」

 銃を乱射しながらユウリが私達に迫ってきた!
 
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