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最終部:タワー・オブ・バベル
その279 妨害
しおりを挟む「疲れていたから食べられるか分からなかったけど、いざ食べてみるといけるもんだな。鶏のからあげ美味しかったよ」
「ゆっくり休んでね!」
食材はたくさんあったので食事の準備に時間はかかったけど、人数分はしっかり用意できた。見たことないお魚とかもあったけど、シルバとファウダーに毒見をしてもらい事無きを得た。
「……疲れた……でもこれで後は寝る……だけ……ね」
「あまりゆっくりするつもりもないって言ってたからもう寝ましょう」
回復魔法を全力で使っていたセイラがベッドに顔を埋めてぼそぼそと喋っていたのでおそらくもう限界なのだろう。きちんと料理ができるのは私とセイラしかいなかったので仕方ないけど、少し気の毒だった。
……ママとエクソリアさんの料理はむしろ犠牲者を出しかねないし。アルモニアさんはどうなんだろうと思ったけど、女神であるエクソリアさんと同様、料理なんてしなさそうなのできっとお察しに違いない。
「それじゃ、4時間後ね……」
「おやすみー」
「ぶるっしゅん!」
シルバがくしゃみなのか挨拶なのか分からない声を上げてから消灯し、目を閉じるとすぐに眠気は訪れた。あの三人との戦いに備えておかないとね……。
――ドン!
「わおん!?」
「ふえ!?」
「何!? 敵!?」
物凄い音がしてガバリと身を起こす私達。何か爆発したみたいな音だったけど……? 武器を手にドアを開けて廊下を見る。
「……? おかしなところは無い?」
「みたいね……何だったのかしら?」
あちこちの部屋から皆が出てきて顔を見合わせるが、全員『?』が浮かんでおり、結局何も分からずじまいだった。あまり睡眠を取らなくてもいいというニンジャさんが数人で見回りをしてくれる、ということでもう一度ベッドへ潜りこんだ。
「一時間しか経ってないじゃない……もう……」
中途半端に起こされると逆に疲れるわね。ニンジャさんに託して寝なおすため再度目を閉じる。
だが……
ドンドン! プァァァァン!
「わふん!?」
「うるさ!?」
「何なのよもう!」
さっきと違い、壁を叩く音に加えて、何らかの楽器を鳴らしているような音が響き渡り再び起こされることになる。
音はかなり近いところでするので、急いで廊下へ出るも今は静かなものだった。
「……何なのかしら……」
するとやはり眠りきれていないレイドさんがこちらに近づいて来て私に言う。
「もしかして、ルーナを眠らせないためにやっている、と考えられないか?」
「え?」
「ほら、ルーナは一度眠ると補助魔法の効果と使用がリセットされるって前に言っていただろ? それを妨害しているんじゃないかって思うんだよ」
「言われてみればまったく眠れていないから回復はしていないわね……」
補助魔法の感覚を集中して探ってみると、回復はしていなかった。
ダメかと思いながら廊下の向こうに目を向けると、サイゾウさんがニンジャさんの報告を受けていて、こちらに気付くと首を振っていた。どうやら原因が見つからないらしい。
「仕方ない、もう一回寝直すわ」
「そうしよう。ルーナの補助魔法は大きな戦力だし、いざという時使えないと困るからな」
私達はもう一度部屋に戻り寝直すも、やはり一時間後……
ブンガブンガ! ペフォプォー! ドンドンドン!
「うるさぁぁぁい!」
「わふぉん!?」
バタン!
「隠れてないで出てきなさい! ぶっ飛ばしてやる!」
流石に頭にきた私は廊下に出て思いっきり叫ぶ。だったら寝なければいいという話でもあるけど、こういう嫌がらせみたいなのは許せない!
「どこ! ここか!」
「ちょっとルーナ、落ち着きなさいよ!?」
「離してセイラ! 誰か分からないけど後悔させてやるんだから!」
「魔王っぽい発言だけど、状況は恥ずかしいからね!?」
壁を剣でガンガン叩いているとセイラに羽交い絞めにされ、諭される。しかし私の怒りは収まらない。すると、いつの間に出てきていたのか、お父さんが廊下の奥をじっと見つめていた。
「お父さん?」
「そういう魔法なのかスキルなのか分からんが……そこだ!」
お父さんが剣を廊下に投げつけると、『通路』に見えていた場所の途中にヒビが入り、鏡が割れるような音とともに崩れた!
<これは……>
ジャンナが呟くと、崩れていく壁(?)の向こうに人影が見えた。それを見てパパが叫ぶ。
「お、お前はさっきユウリとか言うのを回収した男!?」
そこにはユウリと共に逃げたはずの長身の男……確かノゾムと呼ばれていた男が、楽器と思わしきものを持って佇んでいた。
<右手にトランペット……左手に太鼓、そして鼻でハーモニカ……それをいっぺんに演奏していたっぴょん? 恐ろしい男だっぴょん……!>
「……」
リリーが謎の恐怖を覚えていると、その言葉に満足したのかノゾムは無言ながらも満足気な顔で不敵に笑った。私達が呆然としていると、ノゾムが動いた!
「来るか……! こいつも銃とやらを使ってくるに違いない、この狭い通路だと不利だ! 一旦部屋へ入れ!」
「……!」
パパが叫んでいると、ノゾムは手にした楽器を……投げつけてきた。
「危なっ!?」
ぺしょっと妙な音を立ててぐしゃぐしゃに壊れた。
「あ!」
そっちに気を取られていると、いつのまにかノゾムの姿が掻き消えていた。
「逃げた……? あいつらの仲間にしては潔いな」
「いや、あの女の子とユウリもそうだが、引き際をしっかり見極めている。どんな能力か分からんが、ここで戦うのは不利だと思ったんだろう」
「なんなのあいつ!! ここで倒して安眠を得たかったのに!!」
私が少しイライラしながら叫ぶと、後ろから『プァァァン!』という音が響いた。振り返ると、天井から首だけ出したノゾムが不敵に笑い、頭を引っ込めた。
「降りてこい! ギッタギタにして、そのにやけ面を恐怖に染めてやる!」
「わんわん!」
私が弓で天井を射るも手ごたえが無い。そこにサイゾウさんが号令を出した。
「追って居場所を突き止めろ。場合によっては始末して構わん」
ザザっとニンジャさん達が追跡を開始し、私は声をかける。
「生きて連れてきてもいいですよ! 睡眠を妨害した罪を償わせてやりますから!」
「落ち着けルーナ、さっきから言動が物騒だぞ……」
「ふー! ふー!」
「がるるるるる……!」
結局、ノゾムがいつ攻撃を仕掛けてくるか分からないということで、通路の狭いこの場所で寝るのはマズイと判断したお父さんの意見により、移動することに決めた。
眠らない依頼などもあるので、冒険者としてはこういう状況に慣れているはずだけど、いざ寝ようと決めたところで起こされた場合はイライラ度が違う。それもわざと大きい音を出してというのは度し難い。
外に出て安全な場所を探しながら歩いているが、私とシルバは興奮状態で周囲を警戒していた。
「……そこ!」
「わん!」
グギャァァ!?
私の放った矢がオークの胸に刺さり、シルバが首に噛みついて絶命させる。
「違ったか……」
「ぐるるる……」
寝不足によるイライラ度はMAX。いつもは穏やかなシルバもちょっと野生に戻っている気がする。
「きゅふん……」
「よしよし、シルバが怖いわねー。ルーナがこれだけ怒っているのも珍しいわね」
「俺も見たことない。よほど勘に触ったんだと思うけど、やつらの作戦が『ルーナを眠らせない』ということなら、見事にやられたと思うべきか」
レイドさんがそう言った後、セイラがポンと手を打って提案をし出す。
「そうだ、ルーナの補助魔法を使えるようにするんなら、お兄ちゃん背負って寝かせてあげればいいじゃない。シルバとラズベはカバンに首から出して寝かせておけばいいでしょ?」
「ふーむ……それも手か……」
「ええ!? そ、そこまではしなくてもいいと思うけど……」
でもそれもアリか、なんてことを考えているとパパが話を聞いていたのかこっちへ来て口を開いた。
「いや、お前の『ドラゴニック・アーマー』は弾丸を防げるから不意打ち防止には必要だと思う。かと言ってレイドの手を塞ぐのも勿体ない。そこでだ」
パパが手を上げると、ファウダーとジャンナ、それにカームさんが私の目の前に飛んできた。
<オイラ達が大きくなるから、背中で寝るといいよ>
<ぴー。あの女の子の攻撃はちょっと危ないけど、低空ならいけるかなってね。ひとまずルーナとセイラ、アイディールには休んでもらうわ>
<屋上、というところなら視界も広いし休めるだろう。階段を見つけるまで屋上のある建物同士が近い所へ行くのもいいかもしれん>
なるほど、確かにこの三人の背中なら一人寝る分には大きさ的に問題は無いと思う。屋上に手分けして寝ればあいつもいっぺんに全員妨害するのは難しいと思う。
「ありがとう! あ、それじゃ一つ提案があるんだけど……」
皆を集めてごにょごにょと意図を伝えた後、私は眠りについた。
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