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最終部:タワー・オブ・バベル

その265 逃走

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 穴に落ちることで予期せず魔物達の攻撃を回避した私達は狭い洞窟を少しずつ進む。明かりはママのライティングがあるから視界は良好で、風が無いだけでもかなり歩きやすい。

 でも……。

 「ここがどこに続いているかが問題よね」

 そう、私だけではないけど懸念点はそこに尽きる。この先が行き止まりだったら……その不安は外にでるまで拭えない。
 
 「一応、上に向かっているようだし期待しよう」

 <最悪、オイラが解放するよ。だからルーナ達は心配しないで大丈夫さ>

 「それは嫌だよ……」

 「くぅ~ん……」

 パタパタと飛びながら自信たっぷりに言うファウダーだけど、そんなことには絶対なって欲しくないので諦めずに方法を模索したい。

 「うう……びしょ濡れになりました……」

 「私も……少し休んで乾かしてもいいかな? 風邪を引いたら困るし」

 フレーレとセイラが上着を掴みながら、一旦休憩をしようと提案してきた。二人の上着は水に強くないので雪を吸って重くなっていた。この寒さで濡れていたら確実に風邪を引いてしまいそうだ。

 「急ぎたい所だが、ここで病気になって置いていくことになるのも避けたいか。よし、食事もついでに済ませておこう!」

 パパが少しだけ考えた後、休憩を取ることに。カイムさんが指を口に入れて高くかざしているのを見てフレーレが不思議そうに尋ねる。

 「カイムさん、今のは何ですか?」

 「ああ、風の流れがあるか確かめていたんですよ。洞窟内で焚き火をする時、風がないと煙が充満して最悪倒れてしまうので」

 「そうなんですね! ありがとうございます!」


 「じゃあ私達、服を脱いでくるわ。ルーナは大丈夫なの?」

 「うん、ブーツも膝まであるから中まで濡れてないし、水に強いからそんなに濡れてないのよね」

 「いいわねー。それじゃ行ってくるわ」

 私がカバンから着替えを出し、乾くまでの間に着る服を二人に手渡すと元の道を少しだけ引き返していった。暗闇なので見えることがないからね。

 「……お風呂に入りたいわ……」

 『ボクも今日ばかりはその意見には賛成だよ……』

 ママとエクソリアさんが焚き火の前で呻くように呟いている……そう言う意味でも早くこの雪山は突破したい。


 フレーレ達が着替え終わった後、食事に入る。

 だけど、狭い中では満足に調理器具を使えないのでパンと干し肉、それに果物でお腹を満たして暖まり、ある程度体に熱が戻ってきたところで再び探索へと戻った。

 一本道なので迷うことはないけど、良くて二人並んで歩ける程度の狭さに加え、稀に天井が低くなっていて屈んで歩くことになるなど天然の洞窟のようだった。そこを無言でひたすら歩いていると、やがて広い場所へと出ることになった。

 「ここ、随分広いわね?」

 山の内部を刳り抜いたらこんな形になるかな? というくらいキレイで高さのある……そう、部屋だった。

 「……」

 私がお父さんに尋ねてみたけど、険しい顔をして目をせわしなく動かしていた。よく見ればパパもレイドさん、カイムさんにニールセンさんが私達を守るように左右に展開しながら歩いていた。反対側にはもう一つ穴があるけど……。

 そう思いながら後に着いて行ってると、お父さんが突然叫んだ!

 「チッ、やっぱり誘われていたか! ルーナ、上だ!」

 「え!? あれって蛇!?」

 でかっ!?

 見ようによってはドラゴンにも見える? 青く、長い魔物が頭上から襲いかかってきた! 急いで矢を放ち、牽制を行う。

 「私も手伝いますよ!」

 シャァアアアアア!

 ママとフレーレがマジックアローで援護をし、すんでのところで角度を変えた蛇は反対側の穴の前に立ちふさがった。

 『こいつは……まさか……』

 アルモニアさんが槍を構えながら何か呟いたけど、何か聞く暇は無く、蛇はすぐに態勢を立て直して襲いかかってくる!

 <この広さならオイラが壁になるよ! ジャンナ、援護をお願い>

 <分かってるわよ!>

 「ジャンナ、私を乗せて!」

 <どうするの?>

 「上から目を狙う……!」

 ジャァァァァァ!

 <行かせない!>

 一気に飛び上がったジャンナ。追いかけて来ようとした蛇はファウダーとレイドさんによって引きずりおろされ、私は見下ろしながら弓を構える。

 空を飛べるのが厄介だが、そこはファウダーがうまく抑えることで剣が届く高さを維持できており、男性四人が奮闘していた。



 「固いな!?」

 「でも傷ついていない訳じゃない、攻め続けるぞ」

 レイドさんが剣で斬りつけるが手ごたえが無いのか、焦った声を出すが、それをパパが鼓舞する。すると、真面目な顔をしたエクソリアさんが前に出てきた。

 『気をつけろ、そいつは毒を吐く! 神をも殺す猛毒だ!』

 エクソリアさんが叫びながら、カパッと開いた口に向かって光弾を撃ち、攻撃をさせまいと休まずに撃ちつづける。

 「そこね!」

 私が矢を放つと背中に次々とヒットし、悶える蛇。

 だが、直後に首を抑えていたファウダーへと巻きついた!

 <うああああ!?>

 ミシミシと骨が軋む嫌な音がファウダーから鳴り響く。

 そして……

 【意外とやるな人間。そしてお前は女神か、我のとっておきを看破してくれるとは忌々しい】

 「しゃ、喋りましたよ……!」

 「となると、こいつが四十五階にいるはずのボスってわけか」

 【その通り。我が姉が五十階にいるが……ここで全員死んでもらう……む】

 <ガァァァァァ!>

 【グフ!? チッ、見た目通りタフだな】

 <アンタもやるね。オイラの一撃で倒れないとは>

 ファウダーが巻きつかれながらも顎に拳をヒットさせ、拘束から逃れると、珍しく睨みつけながら氷の息を漏れさせながら話していた。毒を吐かせる前に凍らせる算段だと思う。

 【毒を吐かずとも貴様等たやすいわ!】

 「ウウゥゥゥ、ガウゥゥゥ!」

 「わぉぉぉぉぉん!!」

 先に動いたのはレジナ、そしてシルバだ! シルバが尻尾に食らいつき、頭を左右に振ってバランスを崩し、レジナがお腹に爪を食い込ませる。

 「高くともシュリケンなら……!」

 「おおおおお!」

 それを追い、カイムさんとニールセンさんがレジナ達の援護。セイラとママが魔法で攻撃をし、お父さんとパパ、レイドさんがダメージを与えていく。

 【舐めるな!】

 「うぐ……!?」

 「きゃん!?」

 「みなさん! ≪シニアヒール≫ げほ……」

 【余計なことを……! お前から噛み裂いてくれる」

 謎の衝撃波で吹き飛ばされるが、フレーレの回復魔法でダメージは無し。だが、激怒した蛇がフレーレに襲いかかった!

 「フレーレ、避けて! どうしたの、フレーレの動きが鈍い!? なら……!」

 私は上からシューティングスターを放つ! この速度なら間に合うはず!

 【速いだと!? ええい……!】

 ドシュ……!

 【くっ……うぐ……!?】

 「当たった!」

 蛇の片目に矢がヒットし、大きく身を反らして地面へと転がるように着地する。口を開いて、毒を吐こうとするが今度はアルモニアさんが口を槍で塞ぐ。

 『分かっていることをむざむざ指を咥えて見ているわけないでしょ? ここまでね』

 【……中々やるではないか、姉上に報告せねばなるまい。勝負は預けたぞ。五十階まで登って来れればだがな……】

 びゅるん、と宙へ舞ったかと思うと、私達のところへ突撃してきた!

 「きゃ!?」

 <大丈夫よ>

 【さらばだ】

 私達が来た方向とはちがう穴へと潜りこみ、蛇はその姿を消した。フレーレの様子がおかしいので、すぐに着陸して駆け寄った。

 「フレーレ!」

 「あ、ありがとうございますルーナ……げほ……」

 「凄い熱……!?」

 立とうとしたが、よろけたので支えて手を額にやるとフレーレの身体はとても熱かった。エクソリアさんが近づいて来て容態を確認する。

 『大丈夫、ただの風邪だよ。体が冷えている中、派手に動いたから一気にきたんだろうね』

 「そう……」

 「私が背負っていきます」

 カイムさんが即座に申し出て、フレーレの身体をロープで固定。

 「す、すいませんこんな時に……また、わたしご迷惑を……」

 「いいのよ、ゆっくり休めないけど我慢してね。外に出たらファウダーかジャンナに乗せてもらえばいいし」

 「はい……」

 フレーレが目を閉じたのを確認し、一息つくとママがボソッと呟いた。

 「そういえば……何かあるときは私かフレーレちゃんが多いわね。セイラも最初の吸血鬼にやられたけど」

 するとアルモニアさんが、ふう、と息を吐いて首を振りながらママに告げる。

 『……あまり言いたくなかったけど、それは偶然じゃないわ。最初に何かあるとすればフレーレやアイディール、カイムやニールセンになるわ』

 「……え? そ、それはどういう……こと?」

 私が尋ねると、今度はエクソリアさんが口を開く。

 『ルーナ。君は魔王の娘だ。そしてレイド、ディクラインは勇者。ヴァイゼもアンデッドで魔王という恩恵の持ち主で、セイラも聖女の娘というステータスを得た。だけど、先に姉さんが言った四人はそういった特殊な恩恵が無い人間なんだ……無理がたたるとこういったことになるんだよ……』

 「そ、そんな……」
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