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最終部:タワー・オブ・バベル
その264 標的
しおりを挟む――シロップとラズベのことを考え、一晩待つことなく私達は即座に出発。
幸い休憩中に白狼達が襲ってくることは無く、再びファウダーとジャンナの背に乗って山をひたすら登っていく。
「ジャンナ達、大丈夫なの? 昨日からずっとだけど……」
<一応、主の魔力をもらっているから疲れは無いわよ。ただ、急速に飛んだりしたから、減りが激しいけどね>
「大丈夫なんですか、アルモニア様?」
『平気よ。たとえダメでも、シロップちゃん達を助けるまで何とかするのが女神ってものよ』
頼もしいんだかダメな発言なのか微妙なところだけど、狼達を大事にしてくれる女神姉妹は好感が持てる。何故この二人は人間を滅ぼすところまで至ったのか分からなくなるくらいである。
しばらく飛んでいると視界から林が見えなくなり、再びひらけた平原と細かな崖が見えてきた。上と下を見ると、今は山の中腹といったところのようで、まだ頂上は見えない。
「この調子なら頂上まではすぐにいけそうだな」
「魔物が出てこないのがありがたいし、空を飛んでいるのも時間短縮になっているのがラッキーだな。通常のフロアではできないしな」
お父さんとパパがファウダーの背でそんなことを話し、上を見上げていた。事実、魔物は出てこず、白狼達も諦めたのか地上も静かなものだった。
だけど、山の天気は変わりやすい。ここが塔の中でも同じらしく、やがて……。
<吹雪いてきたね……>
ファウダーがポツリとつぶやくと、言うとおり、雪がちらつきはじめて風が強くなってきた。段々と目が開けられるなくなるほどの吹雪になり、ファウダーとジャンナが身を隠す場所を探してくれたけど、そういった場所が無く、かといって飛び続けるのは危険だと判断して適当な場所へと着地した。
ファウダーはコールドドラゴンだけあって何ともないそうだけど、私達がこの吹雪で空を飛ぶ行為は自殺行為に等しい。アルモニアさんはすでに口を利かなくなるくらい凍っていた。
<ぴー。小さくなっておくわね>
<オイラも>
ジャンナはフレーレの頭にのり、ファウダーはシルバ達の近くでパタパタと飛び、私達は山を少しずつ歩いていく。
「ここからは徒歩ですね! とほほ……」
「フレーレは置いていきましょう」
「ええ!? い、嫌ですよ! 待ってくださいよ、ルーナ!」
ざくざくと追いかけて来るフレーレをかわしつつ、くるぶしくらいまで埋まる雪の中をかき分け、とりあえず風を凌げる場所が無いか探しつつ尚も歩き続けていると、ママが忌々しげに空を見ながら舌打ちをする。
「これって完全に空を飛ばせないようにしてるわよね? 腹が立つわね……」
「間違いないだろうな。こっちも五十階に到達しようってんだ、神裂側もきっちり止めてくるだろうさ」
ビュオォォォ……
「まずいわね……視界が小さくなってきた……あ! 崖壁よ!」
『少しはマシになりそうだね……洞窟でもあるといいんだけど……』
「くぅーん……」
ガチガチと歯を鳴らしながらシルバを抱っこしているエクソリアさんの唇は青紫である。女神が凍死というのは正直見たくない……。
段々と口数が減り、体力を使わないよう黙々と進む。岸壁に沿って歩くのが正しいのか分からないのが懸念されるが、上に向かっているし、同じところをぐるぐる回ることはないと思う。
「ふう……ふう……」
『暖かい物が食べたい……』
「これはマズイですね。止むどころか酷くなっていく……」
「うわ……!?」
目が虚ろな女神様はスルーしてカイムさんが言うと、ニールセンさんがずるっと足を滑らせて転んだ。かくいう私もそろそろ足がきつくなってきた。そこにファウダーが遠くを見て声を出した。なんだろ?
<ん? ……あれは……!?>
「どうした? ……げ!? またあいつか!」
レイドさんが剣を抜いて叫び、その視線の先を追うと、アイスゴーレムがこちらに気付いたところだった……! それも今度は二体もいる!?
オォォォォ!
ズシン! ズシン!
「ちょっと戦える状態じゃないな……! 何とか回避するぞ」
「ひゃあ!?」
決して動きが速い訳ではないが、私達も寒さで動きが鈍いため即座に接近を許してしまう。セイラに放った拳が雪を撒き散らす。
「ぺっぺ……」
「大丈夫か!?」
ォォォ……!
<そうはさせない! オイラが一体止めるよ! その間に抜けて!>
「俺も寒さはなんてことない。手伝うぞ」
最大限大きくなったファウダーがアイスゴーレムの拳を受け止め、そのまま私達が居ないところに投げ飛ばし、お父さんがもう一体を引きつけていた。
「すまんヴァイゼ、ファウダー! 岸壁に近づいて逃げるぞ!」
「ガウウウ……!」
「どうしたのレジナ! あ!?」
逃げる方向にはまたも白狼が立ちはだかっていた! こんな時に……! いや、こんな時だからこそ狙ってきたのね。
「レイド、ニールセン、俺達で蹴散らすぞ!」
「はい!」
アォォォ!
襲いかかってくる白狼を次々と切り伏せながら前へと進む。
「はあ……はあ……!」
「くっ……」
「頑張ってください! ≪マジックアロー≫」
ギャワン……!
「わぉぉぉん!」
ザクッ!
「煉獄剣!」
フレーレやシルバも奮闘しているが、やはり数が減らないのは厳しい。チラリとアイスゴーレムを見ると、ファウダーが一体を粉々に撃ち砕き、お父さんがもう一体の両足を真っ二つにして行動不能にしていた。
「アイスゴーレムはいなくなったが……」
<カァァァ!>
「ふん!」
じりじりと後ろに下がらせられ、私達は崖壁を背に追いつめられていた。ファウダーがブレスで凍らせ、お父さんが挟み撃ちで斬りかかってくれるが、どこからともなく増えてくる白狼に追いつめられていた。
「本当にキリがないな……しかしどうしてこいつら、休憩中に襲ってこなかったんでしょうか……」
「分からん! 今はそういうのはいい、とりあえず移動しながらやり過ごすぞ」
<大きくなっても乗せる暇がないわね……! 何か手は……>
「せめて洞窟でもあればいいんですが……と、とりあえず移動しま……きゃあぁぁぁ……」
え!?
「フレーレ!?」
白狼を追い払いながら後ろを見ると、すぐそこにいたフレーレが居なかった。一番岸壁に近いところにいたのに、忽然と消えてしまっていた。
「どうしたの! どこ!」
すると、下からフレーレの声が聞こえてきたではないか!
「ここでーす! 落とし穴に落ちちゃいました! でも、ここって洞窟になっているみたいなので、もしかしたらどこかに抜けられるかもしれません! ここを使いましょう!」
「悪くないアイデアだ、行こう。この狭さなら一匹ずつしかこいつらも来れまい。ルーナ達が先に行け、男は後だ」
「うん! ありがとうお父さん!」
セイラ、ママ、私に女神姉妹が落とし穴に降り、男性陣がお父さんを最後に全員降りた後、上で轟音が聞こえた。
「大丈夫ですかヴァイゼ殿!?」
「ああ、どうも三体目のアイスゴーレムが居たらしい……穴が塞がれた」
私が上を見上げると、穴だった場所がぐしゃっと潰されていた。
「良かったのか悪かったのか……もしかして掌だったのかしら。先に何も無かったら……」
「アウトだな。でもまだ終わった訳じゃないさ、行こう」
私が不安を感じていると、レイドさんが頭を撫でながら洞窟の先を見ながら励ましてくれた。
そうね、シロップ達はもっと怖い思いをしているかもしれないと考えればこれくらいなんてことない。私達は洞窟の中を進み始めた。
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