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最終部:タワー・オブ・バベル

その261 一息

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 オオオォォン!

 ドガ! ドガ!

 「わぷ!?」

 アイスゴーレムの拳を避けると、撒き散らされた雪がモロに顔にかかり視界が悪くなった。そこにレイドさんの声が聞こえてくる。

 「ルーナ、大きく避けろ! でかすぎて打点が広いから小刻みに避けるのはやめた方がいい! このお!」

 「マジックアローじゃあんまりダメージは与えられていないみたいです」

 「セイラは火の魔法使える?」

 「うーん、私は水と氷が主だから……」

 今のところ私の煉獄剣とレイドさんの剣にお父さんの攻撃が有効なダメージを与えられている状況で、今回はフレーレ達の魔法は効果が薄い。
 かといって、私達でこの氷の巨人をすぐに倒せるかといえば、斬撃の傷がつくけど動きの鈍らないアイスゴーレムを見ればうんざりである。
 
 「いよっし、ここは俺に任せろ」

 「パパ?」

 三十階でもらった剣……ガラティンを構えて不敵に笑うと、剣がわずかに光、それに合わせてパパの身体も光り出した。

 「それは……」

 ニールセンさんが呟くと、パパが切り込みながらそれに応えた。

 「ああ、十二時までは強くなる例の能力だ! 今適当に気を入れてみたが、どうやらこれで使えるみたいだな!」

 「大丈夫なの!?」

 私の横を笑いながら通り過ぎ、右足に向かって剣を斜めに振り降ろしたパパ。そこにアイスゴーレムのパンチが襲いかかってきた!

 オォォォ!

 「ディクラインさん!」

 「大丈夫だ! トドメを刺すぞ!」

 オォォォ!?

 パンチを繰り出した瞬間、ずるり……と、右足の膝から斬れ、身体を左に倒していた。あのぶ厚い氷を切断していたのだ!

 「おお、ディクライン殿、すごいですね! では私も……!」

 『カイム、首を落とせ! それでこいつは動きを止めるはずだ!』

 「承知した!」

 オォォォン!

 アイスゴーレムは倒れたまま、パンチをカイムさんへと繰り出すが素早い動きでその腕を辿って首を狙いに行った。

 「貰った!」

 蛇之麁正を首に叩きつけるが、半分程度しか刃が通らない、パパじゃないと切断までは難しい? そう思っていた所でニールセンさんがさらに上から剣を振り降ろしていた。

 「まだだ!」

 「ニールセン殿!」

 グググ……と、二人で力を込めると、やがてアイスゴーレムの首が雪原の上に落ち、動かなくなった。

 「倒した……?」

 「みたいだな……」

 レイドさんとパパの所へ移動すると、こっちを向きながら親指を立てて笑いながら言った。

 「前の階じゃ役に立たなかったが、やれるもんだろ?」

 「休んでいた分働かせてもらいますよ」

 ニールセンさんも笑顔で剣を鞘に納めながらこちらに歩き、その横にカイムさんが追いついていた。

 「よーし! それじゃあセイラ、わたし達はアイスゴーレムさんを含めて、雪ダルマならぬ……逝きダルマを作りますよ!」

 「フレーレ……いくらなんでもそれはちょっと……あ!? 引っ張らないでよ!?」

 「元気だなあ……」

 私がため息をついて腰に手を当てていると、カイムさんが寄ってきて私に告げる。

 「いえ、フレーレさんは少し無理をしている気がします。やはりチェイシャ殿のことは一旦吹っ切ったとはいえ、少なからず残っているのでしょう」

 「なるほどね……」

 楽しそうにセイラと雪ダルマを作るフレーレを見ながら私達は完成を待つのだった。



 ◆ ◇ ◆


 そしてアイスゴーレムを倒してから六時間は経過しただろうか? 目に見える範囲で雪ダルマを作りながら歩いていると、ようやく壁につきあたる。

 『行き止まり……階段や扉は無し、だね』

 「真っ直ぐ進んできたんですけど、そこまで甘くないってことみたいですね」

 エクソリアさんとカイムさんがぺたぺたと壁を調べるが、罠も無ければ隠し扉もなさそうだった。となると右か左に進む必要があるけど……。

 <……右からかすかに風が流れている気がするよ>

 <ぴー。わたしが見てこようか?>

 「一人になるのは危ないし、ここはファウダーの言葉に従いましょ。間違ってたら戻ればいいだけだし」

 ママがジャンナを頭に乗せながら全員で右へ行けばいいと提案し、それに異論は無かった。このフロアがどういう構造になっているか分からないので、二手に分かれるのは良くないとの判断だ。

 <それじゃこっちだよ>

 ドスンドスンとファウダーが歩くと、すやすやと寝ているシルバ達のカバンがゆらゆらと揺れるが、三匹が起きる気配は無かった。

 「わっぷし!」

 シルバが寝ながらくしゃみをし、起きるかと思いきやそのままくたりと首をシロップに預けてまた寝てしまった。私達が帰っている間どれだけはしゃいでいたのだろう……。

 「うふふ、かわいいですねー」

 「魔物が居ないからいいけど、少し大きい肉食の魔物とかが出たらペロリよね」

 「飼い主が怖いこといわないでくださいよ……」

 ざくざくと雪をかき分けながら尚も進むが、私は一つ嫌なことを

 ……正直、実はフロアのど真ん中に階段がありました! という仕掛けがあってもおかしくない不安にかられながら歩いていたりする。

 だが、今回はファウダーのおかげで、恐らく階段があるであろう扉の場所へと辿り着くことができた。

 「やるなファウダー」

 <へへ、寒さに強いからね、ちょっとした空気の違いが分かるんだよ。あ、ごめん、レイド、狼達を持ってくれないかい? 今の大きさじゃこの扉は無理そうだ>

 「ああ、いいぞ……うお!?」

 ドーン! とはねられたレイドさんがバランスを崩し、アルモニアさんがファウダーの首からカバンを奪取。それをエクソリアさんが追う。

 『はい! はーい! 私! 私が運ぶわ』

 『こら、起きたらどうするんだ姉さん! そっと連れて行こう』

 シルバ達の取り合いをしている女神姉妹をスルーして、扉の中に入ると、奥に階段がある以外はコテージのような内装をしていて、暖炉やテーブルまで備え付けられていた。もちろん寒いのは寒いんだけど、風が無い分かなりマシで、パパが暖炉に火を点けてからかなり暖かくなっていった。

 「もう夜に近い。早く休んで、早朝に出発しよう」

 「そうね……歳は取りたくないわね……もう足が棒みたいになってるわ」

 「わたし、まだ大丈夫ですよ!」

 ママがどっこらせとイスに腰を落ち着かせると、フレーレがきょとんとした顔で首を傾げながらそんなことを言っていた。

 「……フレーレもすぐに分かる時が来るわ」

 「?」


 すごく優しい目をしたママがフレーレの肩に手をおき、ますます謎だという顔をしたフレーレ。

 それはともかくアイスゴーレム以外に脅威が無かったものの、慣れない雪の中は思った以上に体力をもっていかれているようで、みんなの口数は少なく、夕食もそこそこに寝入ってしまったのだった。

 そして、私達が休むとは逆に、起きてきたシルバ達が元気に走り回り始めて叱ることになったのは言うまでもない。
  
 何とか一日目で階段に辿り着いたけど、この調子だといつ抜けられるか分からない不安を覚えながらいつしか意識を手放していた。
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