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最終部:タワー・オブ・バベル

その255 強欲

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 <『人化の法』! 使わせてもらうぞ!>

 「あ、ああ……」

 チェイシャが叫んだその時、体がまばゆい光に包まれる。光の中で徐々に形を表しやがて……。

 カッ!

 <久しぶりじゃのう、この体も>

 「チェ、チェイシャ……その姿は……前と違うぞ……」

 褐色の肌にスラリとした手足は、前に聞いたレイドさん達とサンドクラッドに行った時に人間の姿に戻った時と同じだけど、その背中には守護獣だった時と同じく尻尾が生えていた。

 「それにもう元には……それどころか、あなた消えちゃうのよ!? どうして使ったの!」

 <……気にするでない。元よりわらわ達はそういうものなのじゃ、なあにあの腐れ女王なぞすぐに倒してやるわい! わらわは民を守る王女様じゃからのう!>

 「あ! お前その姿のときは役に立たないんじゃ!?」

 <黙って見ておれ!>

 そう言うとチェイシャが一気に駆け出した! 

 「ふん、狐が化けたか……かかれ……!」

 アサールが杖を掲げてレッサーとグレーターに合図をだし、一斉にチェイシャに襲いかかる! いけない、ボーっとしてる場合じゃないわ!

 <もはやお前達なぞ相手にならんわ!>

 「え!? あれって」

 <うりゃりゃりゃ!>

 チェイシャの右手が光り輝き、左手は黒光りしている……フレーレの聖魔光!? 私が驚いていると、次々と襲ってくる魔物を撃破していくチェイシャ。

 「す、すごい……」

 「でもなんでチェイシャが使えるのかしら……」

 するとチェイシャが立ちどまり、前を向いたまま語りかけてきた。チェイシャの気迫に魔物達は委縮し攻撃しあぐねている。

 <最初、お主たちに会った時にわらわが何と名乗ったか覚えておるか?>

 「最初……確か『強欲の魔神』だっけ?」

 <うむ。気付いておったかは分からんが『魔神』と名乗っているのはわらわだけ……特別な意味があってな。サンドクラッドでの醜態のとおり、わらわは生前なんの力も持たないただの女じゃった。主……エクソリア様がわらわを守護獣として生き返らせた際に法外な能力を与えてくれたのじゃ>

 そういえば……嫉妬とかそういう名前はついていたけど、ジャンナ達には『魔神』とは名乗っていなかったわね。

 <何の能力も持たない、空っぽの器。じゃからこそ、手に入れることができたとも言えよう……。そしてこの強欲の力は『一度見たことのある技』をコピーすることができるのじゃ>

 「だからフレーレの聖魔光を……」

 <だが、コピーした技は元の八割程度しか威力はない。が、こやつらを蹴散らすには十分じゃろう……わらわは強欲じゃぞ? ……ディスタント・ゼロ!>

 ゴォ! 

 蒼い波動がチェイシャの手から放たれ空を飛んでいた魔物が一気に吹き飛んでいく……あれはレイドさんの技!

 「あれもコピーするのか……!?」

 「チッ、狐が調子に乗りおって! ゆけ!」

 バラバラとアサールの前に五人の魔族が立ちはだかる。

 <カラフル魔族どもか、今のわらわを止められると思うな>

 「レイドさん、私達も! シルバ達はママたちと一緒に居て? レジナは私と行くわよ」

 「ああ!」

 「ガウ!」

 「わぉぉぉぉん!!」

 レイドさんとレジナが私の後に続き、チェイシャの元へと走り、援護をする。私が矢をいくつか放ち、それを黄色魔族が打ち消しにかかる!

 <馬鹿の一つ覚えじゃのう。で、わらわが攻撃しようとすると……赤いのが来るのじゃろう?>

 チェイシャの拳を受け止めようとした赤魔族の顔の前にチェイシャの尻尾がぴたりと止まる。

 「……!」

 <この距離では青魔族でも吸収できまい? 消えされ!>

 ドン!

 魔法弾が発射され、頭が吹き飛んだ赤魔族は砂になって崩れ、続けざまに黄魔族の喉を掴んで握り潰し、砂へと変える。しかし、その後ろから緑魔族が襲いかかっていた。

 <む、小癪な>

 「ガウ!」
 
 緑魔族がダガーを突き刺そうと手を伸ばす。だが、その腕をレジナが噛みついて封じる事に成功!

 <流石はレジナじゃな! 軟体といえど蒸発してしまえば関係あるまい? ≪インフェルノブラスト≫>

 ぼじゅう! と、嫌な臭いを出しながら悶えるように消える緑魔族。今のはアサールが使っていた魔法……本当に見ただけで使えるようになるのね。

 「ピンクと青は俺に任せてルーナとチェイシャはアサールを!」

 <うむ、任されたぞ>

 「おのれ、生意気な人間共めが! ≪フィアフルストーム≫!」

 <返すぞ! ≪フィアフルストーム≫!>

 能力は劣るものの、威力を殺すには十分で、チェイシャと私はアサールへと辿り着いた!

 <さあ、消えてもらう時間じゃ>

 「ぐぬ……いでよ……! ……んな!」

 <そうはさせぬよ。こうされるとお主的に困るのじゃろう?>

 また魔族か魔物を呼び出そうとしていたところをチェイシャが一瞬で近づき、杖を掴んで動きを止めた。しかし、チェイシャの手がじわじわと色が変わっていく。

 「ば、馬鹿め! わらわ以外が杖を掴むと腐っていくのじゃ! そのまま朽ち果てるがいい」

 <ふむ、これは中々厄介じゃな……お主が死ぬとどうなるのじゃ?>

 「持ち主が死ねば新たな持ち主が現れるまでただの杖になるわ! じゃがそんな事は万が一にも有り得んがな! ≪ファイヤーボール≫!」

 ドン! と、チェイシャの体に炎の塊をぶつけるアサール。焦げた匂いがこっちにまで漂ってくる。

 「チェイシャ!」

 <くるな!>

 チェイシャの叫びで私とレジナが足を止める、二人が近いから矢を放つにはリスクが高い……!

 「ホーッホッホ! 仲間を呼んだ方がいいのではないかえ?」

 <その必要はないわい。次の一撃でお主は確実に消える>

 「強がりを! もう左腕は半分色が変わっておるぞ! ≪ファイヤーボール≫!」

 <うぐ……!?>

 またしても近距離でファイヤーボールをぶつけてきた。しかしチェイシャは黙って受けていた。

 「ふん、何かするのかと思ったがハッタリか?」

 アサールがトドメを刺すためチェイシャの顔の前に手を翳す。それを見たチェイシャがニヤリと笑う。

 <わらわは強欲の魔神。見た技や魔法はその強欲で奪う事ができる……>

 「? なにをぶつぶつと……もういい死ねぃ!」

 <わらわはセイラの技も見ておったのじゃぞ? 食らえ! ≪シャイニング・ブレイカー≫!!>

 「な!?」

 「それもなの!?」

 まさか聖女の技まで使えるなんて……! チェイシャの光り輝く右手がアサールの左胸へと突き刺さる!

 「あ、が!? ば、馬鹿な!? この世界でも、負、けるというのか!? 小賢しい人間どもがぁぁぁ!」

 カラン……

 アサールは杖を手放し、チェイシャの顔を両手で掴みながら睨みつける。それをチェイシャは左手を抑えながら口元を歪ませて言った。

 <醜い顔じゃのう。お主はそれだけの力がありながら、部下をコマのように使う……魔族の世界が欲しければ、排除ではなく共存するべきじゃったのではないか? わらわは力が無かったから自分の国を何とかすることができず死んでしまった……お主は、その機会を自分から手放したのじゃ……>

 「知った、ふうな……くち、を……おぉぉぉぉぉぉ!?」

 ビシビシと体にヒビが入り、砂ではなくガラス細工のようにその身体が砕け散った。

 <終いじゃ、考えを改めてから出直してこい>

 「チェイシャ!」

 アサールが消えたと同時に青とピンクの魔族も消え、レイドさんも駆け寄ってくる。

 <む……そろそろわらわも終わりか……>

 チェイシャはその場で倒れ、左腕は紫色に変わっていた。私は慌ててチェイシャを抱きかかえる。

 「しっかりして!?」

 <ルーナか……見たか、あの腐れ女王の間抜け顔! ふはは!>

 「喋っちゃダメ! セイラ! ママ! どっちでもいいから回復を……!」

 すると、チェイシャが私の腕を掴んで首を振る。

 <アネモネを見たのじゃろう? 『人化の法』を使った後は消え去るのみじゃ。ふふ、何を泣くことがある、わらわはすでに死んだ人間。これでいいのじゃ……>

 「くぅん……」「きゅんきゅん……」

 <ふふ、お主らも世話になったのう。初めて会ったのはダンジョンじゃったか、あの時ルーナは口を滑らしてわらわを怒らせて戦いになったのう>

 「うんうん……」

 <雪山ではレイドのポンコツっぷりにあきれ果てたわ……でも、何とかルーナと一緒になってくれて良かった、心残りだったからのう……>

 「チェイシャ……」

 出会ってからの事を懐かしむように語るチェイシャを私は泣きながらそれを聞く事しかできなかった。もうすぐ消えてしまうのに嬉しそうに話すチェイシャは何だか子供みたいにも見えた。

 <色々あったが本当に楽しかった、ルーナ達について行って良かったわい>

 「そんな……こっちこそ助けてもらって……」

 <最後に……ミト達に達者でな、と伝えてくれるかのう。あやつらも世話になった>

 「ああ、伝えておくよ」

 レイドさんが涙をこらえながらチェイシャの横に片膝で応えていた。

 <助かる……ふう……そろそろかのう……喋り疲れたわい>

 「ダメ……まだ、ダメよ……」

 <案ずるな。アネモネもそうじゃがわらわはお前達と共にある。必ず神裂を打ち倒すのじゃ>

 「約束するわ……」

 <ふふ、頼んだぞ……シャールのやつはどんな顔でわらわを……>

 パァ……

 最後まで言い終えることなく、チェイシャの身体は光と共に消えていったのだった。

 「うう……うわああああ……!」
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