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最終部:タワー・オブ・バベル
その237 矜持
しおりを挟む「暗いわね……≪ライティング≫」
ママが明かりを出すと、大きい体がゆっくりと浮かび上がってくる。
「カームさん!」
<すまないがこいつらを診てやってくれるか>
「こ、こいつら……!?」
レイドさんが驚いたのも無理はない、小屋の外にいたのはカームさんと傷ついた……ヴィオーラの聖騎士だったからだ。ざっと十人居ないくらいで、呻き声と嗚咽が聞こえてきた。すぐにフレーレとチェーリカが回復に向かうが、それをパパが止めた。
「カーム、そいつらは大丈夫なのか? 拠点で暴れられても困るぞ?」
<大丈夫だ、その件については今から話をする……その前にケガを治してやってくれ。尤も体の傷は癒えても心の傷は難しいだろうが……>
「もし敵でもケガをした人をそのままにしておけません。治療しますね」
「……分かった」
フレーレがぴしゃりと言うと、レイドさんとカイムさんが聖騎士達の鎧を外し始め、それが終わるとすぐにチェーリカと共に騎士達を治療していく。その中の一人がうっすらと目を開け、上半身を起こす。
「襲撃した相手を治療させてしまい……申し訳ありません」
薄い茶髪の男性騎士が頭を下げると、他の騎士も苦しげにお礼の言葉を述べてくれた。どうやら常識はあるみたいね。
「それで、ヴィオーラの聖騎士団はどうしたんだ? まさか脱走兵か?」
<いや……今から本題だ>
カームさんがポツリポツリと話し始める。ヴィオーラの王は塔へ侵入後、何と神裂に取り入ったと言うのだ。それも手土産として騎士達をおもちゃにするという条件で、私達を倒した暁には世界を貰うとか……。
『ま、愚鈍な王なら考え付きそうなことだね。神裂が約束を守るとは思えないけど』
「私もそう思うわ。でも神裂が自ら出てくるなんて、惜しかったわね……」
「ああ、俺達も行っていれば終わらせることができたかもしれない」
<魔法を使っていたから油断はできんがな>
『魔法? 神裂がかい? 格闘技が得意のはずだけど、力を使いこなしつつあるってところかな……?』
エクソリアさんが一人で納得している所で私はヴィオーラの騎士達に話しかける。今の話が本当なら、彼等は塔に行くのだろうかと思ったからだ。
「それで、あなた達はこれからどうするの?」
「……私以外の者はヴィオーラに戻ってもらい、この事を報告してもらおうと思っています。王妃にお伝えできれば王に対しての牽制にはなるでしょう」
「あなたはどうするんですか?」
フレーレが魔法をかけながら尋ねると、騎士は前を見たまま答えてくれた。
「……私は塔へ行きます。ヴィオーラの騎士としてあの二人を野放しにはできません。できるかは分かりませんが、討ち果たすつもりです」
「一人で行くつもり!? 塔のどこにいるかもわからないのに……」
すると、他の騎士が残ると言った騎士へと話しかけていた。
「ニールセン、お前一人が背負う事ではないぞ。俺も……」
「いや、万が一の為お前は国へ戻って増援を頼む。私が戻ろうが戻るまいが塔へは向かってくれ」
「む……分かった。お前は言いだしたら聞かないからな。夜が明けたら出発する」
残りの騎士達も頷き、今後の予定は決まったようだ。今夜はとりあえずテントを貸し出すことにし、自分が連れて来たからと見張りはカームさんがかって出てくれた。
翌日、塔の近くに止めていた馬をすべて回収し、騎士達はヴィオーラへと帰って行った。ニールセンと呼ばれていた騎士はそれを見送った後、いつの間にか出来ていたお店で道具を購入していた。それを横目で見ていたら、セイラ達が私の肩を叩いてから声をかける。
「それじゃ、私達は向こうで訓練をしているから何かあったら声をかけてね」
「分かったわ。私もレイドさん達と何かできないか考えてみる」
「ルーナをあっと驚かせてみせますからね!」
フレーレ達が端へと向かい、私もパパやレイドさんを探す。すると、カルエラートさんとカームさんがニールセンさんと話している所に遭遇した。
「あの国の出身として王の事は他人事ではない。私達と一緒に来ないか?」
<うむ。一人では王に辿り着く前に死んでしまう。もし本懐を遂げるというのであれば我々と一緒の方がいいと思うぞ>
「……ありがとうございます。正直なところ一人で行き、死ぬことは怖くありません。ですが一撃も与えられず死ぬのだけは、と思っていた所でした。お言葉に甘えさせていただきます」
「こちらこそよろしく頼む」
握手しているのを見て、私はその場を立ち去った。味方が増えるのはいいことだと思う。チェイシャ達もだけど、死ぬ事を前提に戦うのはなあ……。やっぱり私達自身がもっと強くならないとね、レイドさん達どこかな?
そのまま散歩がてらレジナやシルバ達と拠点を歩いている私。シルバ達を中々離さなかったミトは、モルトさんのお手伝いがあるということで泣く泣くシルバ達を解放。一匹だけでもと、比較的小柄なリンを頭に乗せて行ってしまったのだ。
しばらく歩いていると、レイドさんとパパ、そしてカイムさんに遭遇できた。傍にはチェイシャ、バステトも居るわね。
「やっほー、訓練だったら私も混ぜてもらってもいい?」
「お、ルーナか。丁度いい、模擬戦をやろうと思ってたところだから、参加してくれ」
「いいわね、チェイシャ達も?」
<そうだにゃ。わたしがどちらかと言えば人型だから混ざろうと思ってたにゃ、ルーナがはいるにゃら交代でいくにゃ>
「三対三でいいじゃない。チェイシャの魔法弾も魔法を避ける訓練と思えばいいしね」
<話が分かるのう! では。早速……>
「わぉん!」
「わんわん!」
「あれ、レジナ達も参加したいの?」
「はは、まあいいじゃないか。どちらかと言えばお互いの動きの観察がメインだ、入り乱れているほうが咄嗟の行動が分かりやすいかもしれん」
「そうね。私は弓と剣、両方使うわ、技を思いついたら使ってもいい?」
「……補助魔法をかけてなければな。レイドと俺は最後に組もう、勇者同士の戦いはちょっと楽しみだ」
「私も頑張ります。フレーレさんもセイラさんに何かを教わるようですし、前のようにみっともない真似はしないとアネモネ殿に誓いましょう!」
その意気だ、とパパに肩を叩かれ模擬戦が開始された!
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:最上階>
「神裂様……またあのような者達を……」
『まあいいじゃねぇか。色々調べたが、人間を魔物化するのは、この世界の人間を使うのが一番いい。お前は知らないだろうが、竜人という魔物を生み出した時かなりイイ線いってたんだわ。でも別世界から呼んだ人間には因子が定着しないんだ。だから、ああいうアホを使っての方が効率がいい』
「強化し過ぎて裏切られたら……」
『なあドレイドン。そうだとしても、俺が負けると思うか? 別に不死ってわけじゃねぇけど、あの程度にゃ負けんよ』
ひらひらと手を振る神裂に呆れながらも、ドレイドンと呼ばれた爺さんは言葉を続ける。
「あなたの本当の目的は何なのです? 黄金の騎士の勝手を許し、あのような者達を配下に加える……」
すると神裂が首を傾げて、分からないなといった感じで爺さんに言う。
『ああん? そりゃお前、あいつらと俺。どちらが勝つかのゲームに決まってるだろ? ……元の世界じゃ、人体実験なんて出来なかったからなぁ。俺の知識と技術がどこまで使えるのか試したい……あ、今のかっこよかったろ? ぎゃはははは!』
笑いながら別室へと入って行く神裂。ストゥルとホイットの改造をするため、姿を消した。残されたドレイドンは胸中で呟く。
「(さて……その言葉が本心かどうか……気は進まないが神裂様の事を調べてみるかのう……)」
目を細めて神裂の消えた部屋をじっと見据えるのだった。
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