上 下
215 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル

その236 戦略

しおりを挟む

 「というわけで、何とか追い返したけどまたセイラを狙ってくるかもしれないわ」

 「そういうことなら……おい、ビューリックの。拠点をもう少し強化してお前さん所の部下全員入れるようにした方がいいんじゃ?」

 「そうですねー。人手はもう少し出せるので、急いでもらってもいいですかねー?」

 ヴィオーラの聖騎士達を退けた私達はカームさんに偵察を頼み、拠点へと凱旋。残っていた他国のエリックやモルトさん、シルキーさん達に出迎えられ、事の経緯を話す。すると、モルトさんがエリックに拠点の拡張相談をしながらさっさとどこかへ行ってしまった。

 そしてレイドさんが横に立っていたセイラを見て、口を開いた。

 「で、お前はもう大丈夫なのか?」

 「はいはーい! 今度は私の番ね、もういきなりゴタゴタだったからアレだったけど何とかね。目が覚めなかった理由はね……」

 と、セイラは十階で戦った何か……何だっけ? ああ、そうそう、あのヴァンパイアに体を乗っ取られそうになっていたらしい。抵抗していてもうダメかと思った矢先、お母さんに助けられたそうだ。

 「……本当に母さんが……?」

 「うん。今も居るよ、雪山の小屋って何の事?」

 <ぶるぶる……>

 「チェイシャ?」

 「な、何でも無いんだ。というかあれが母さんだったのか……!? 色々聞いてくるのもそう言われれば分かるが……ならどうして言ってくれなかったんだ……」

 「本当はあのまま消えるはずだったんだけど、神裂が魂の行く先を止めているから召されないみたいね。だからこの世に留まって私達を探していたみたい」

 『なるほどね。魂を通したらこの世界の事はバレる……でも、いつまでもこの世界から魂が出てこないのも逆に怪しまれる。バベルの塔はそう言った意味でも妨害に適しているという訳ね』

 お父さんは少しやることがあるからと来ていないらしい。その内合流するわ、とはレイドさんのお母さんの言葉である。自由だなあ……。
 とりあえずセイラも完全に調子が戻ったということで、再び回復魔法を使える人が増えたのはありがたい。

 で、セイラの話を聞いた後はヴィオーラの動きを警戒をしていた。けど、追ったカームさんが戻って来ないのでどこか遠くへ移動、もしくは撤退したようだ。
 人数も多く、腕も立つ(さらに無駄な自信がある)ので、油断せずに行こうと声をかけてから数時間……。

 結局襲撃は無く、陽が暮れはじめた頃にパパが皆を集めて話をしたいと言い出した。


 「現状をもう一度確認しておこう。現在俺達は百階あるとされるバベルの塔に三十階まで登ってきた。少しずつだが神裂に近づいていると言える。しかし、時間も経っている」

 「そうね……後、二カ月と少し……」

 私が呟くと、パパが頷き話を続ける。

 「そうなる。アネモネという犠牲もあったし、楽に登れたわけではないのが現状だ」

 「……」

 <レイドよ、気にするな。わらわ達はこの為に守護獣として蘇ったのかもしれんからの>

 チェイシャがレイドさんの肩へ乗りながらそんな事を言う。

 「あまりそう言う事を言わないでくださいね、チェイシャ達が居なくなったらわたし寂しいですよ……」

 「わぉん……」

 「わん」「きゅんきゅん」「きゅふん」

 <ぴー。あなた達は優しいから好きよ。でも、いざとなったらわたし達は覚悟があるってこと>

 「ああ、その件については頼もしいの一言だ。しかし、それを頼りにするわけにもいかん。そのためにはまだ強くなる必要があると思う」

 「と言いますと?」

 カイムさんが顎に手を当てて尋ねる。他のみんなも似たような感じでパパを見ていた。

 「具体的には自分の持っているスキルのおさらいだな。さっきのようにルーナは弓を使う事で、フレーレちゃんも武器を持ち替えてからの戦力は上がっていたように思う」

 「装備品が変わってないと思えば、私達はよくやってると思うけどね」

 ママが肩を竦めると、苦笑しながらパパがそれに答える。私は何気に女神装備になっているけど、確かにレイドさんも剣以外変わっていないし、フレーレもセイラに貸していたモーニングスターだけだなあ……。カルエラートさんの闇の剣と鎧は新調したけど。

 「装備もだけど今の所は『とりあえず出来る事』をやっているだけで、慣れもあると思うが場当たり的な戦闘が多いと感じていてな。後は俺もアイディールがやられた時は取り乱して力任せに相手を追うばかりだった……反省している」

 「己を見つめなおすのはいいことだと思います……しかし先程も言っていたように時間もあまり無いので、そうそう時間は取れませんよ?」

 『一つ、いいかな?』

 レイドさんの横をすり抜けてエクソリアさんが手をあげた。

 『ヴァイゼと、その黄金の騎士。彼等はこちらを殺さないと言っていたのだろう? なら、訓練相手としてぶつかってみたらどうかな?』

 「ええ、それって反則じゃありません? 神裂が何するかも分かりませんよ?」

 私が反論をすると、エクソリアさんが無い胸を張って断言する。

 『その時はその時だ、ボクと姉さんが結界でも張れば視覚を塞ぐくらいはできるだろうね。そのくらいなら大した力を使わないし、協力は可能だ』

 「大丈夫かなあ……なら、ヴィオーラの事も考えて、半々で訓練組と居残りを決めて明日行きましょうか」

 現状を考えると私の提案が最良だろうと、皆が頷きメンバーと日程を考えようということになった。そしてここでセイラが手を上げる。

 「ちょっとだけ、ううん一日だけ待ってもらってもいいかな? フレーレとチェーリカ、アイディールさんと試したい事があるの」

 「? 一日くらいならいいと思うけど……私は?」

 「ルーナは……ちょっと」

 「え、なんで!? 仲間外れみたいで嫌なんだけど!? ねえ!?」

 ガクガクとセイラを揺すると、セイラが私の手から逃れて言ってきた。

 「なんてね♪ 神聖魔法の修行みたいなものだから、ルーナは関われないのよ。底上げのために、私の持っている魔法を使えるようにならないかなと思ってね」

 「なるほどね、なら明日は私も……って、そういえばカームさん遅くない?」

 一応の指針が決まり、明日は自由行動となったところでカームさんを思い出す。まだ帰って来ないけど、やられちゃったとかはないよね……?

 「一緒に行くべきだったかな」

 レイドさんがボソッと呟いた時、小屋の外でカームさんの声が聞こえた。

 <すまん、今戻った! ケガ人がいる、誰か出て来れないか?>

 「噂をすればね! フレーレ、セイラ行ける?」

 「行きますよ! でも何でケガ人が居るんでしょうね?」

 カームさん一人で出て行ったし、何より『ケガ人がいる』というのだからフレーレの疑問は尤もだ。しかし、外に出るとカームさんの周りにいたのは……。
 
しおりを挟む
感想 1,620

あなたにおすすめの小説

魔兵機士ヴァイスグリード

八神 凪
ファンタジー
惑星歴95年。 人が宇宙に進出して100年が到達しようとしていた。 宇宙居住区の完成により地球と宇宙に住む人間はやがてさらなる外宇宙にも旅立つことが可能となっていた。 だが、地球以外にも当然ながら知的生命体は存在する。 地球人の行動範囲が広がる中、外宇宙プロメテラ銀河に住む『メビウス』という異星人が突如として姿を現し、地球へ侵攻を開始。 『メビウス』は人型兵器を使い、地球からもっとも遠い木星に近い宇宙居住区を攻撃。実に数千万の命が失われることになった。 すぐに対抗戦力を向ける地球側。 しかし、地球人同士の戦争やいざこざが多少あったものの、比較的平和な時を過ごしてきた地球人類にこの攻撃を防ぐことはできなかった。 さらに高機動と人間を模した兵器は両手による武装の取り回しが容易な敵に対し、宙用軍艦や宙間戦闘機では防戦一方を強いられることになる。 ――そして開戦から五年。 日本のロボットアニメを参考にして各国の協力の下、地球側にもついに人型兵器が完成した。 急ピッチに製造されたものの、『メビウス』側に劣らず性能を発揮した地球性人型兵器『ヴァッフェリーゼ』の活躍により反抗戦力として木星宙域の敵の撤退を成功させた。 そこから2年。 膠着状態になった『メビウス』のさらなる侵攻に備え、地球ではパイロットの育成に精を出す。 パイロット候補である神代 凌空(かみしろ りく)もまたその一人で、今日も打倒『メビウス』を胸に訓練を続けていた。 いつもの編隊機動。訓練が開始されるまでは、そう思っていた。 だが、そこへ『メビウス』の強襲。 壊滅する部隊。 死の縁の中、凌空は不思議な声を聞く。 【誰か……この国を……!】 そして彼は誘われる。 剣と魔法がある世界『ファーベル』へ。 人型兵器と融合してしまった彼の運命はどう転がっていくのか――

現代に転生した勇者は過去の記憶を取り戻し、再び聖剣を持って戦いへ赴く

八神 凪
ファンタジー
神緒 修(しゅう)はどこにでもいる普通の男子高校生。  しかし彼は小さいころからおかしな夢……自分が別の人間として過ごす夢を見ることが多かった。 〝自分〟は勇者と名乗り、仲間と旅をするおかしな夢を。  だがある日、修の夢に最後の瞬間が訪れる。凄惨な自分の死と大切な人を守れなかったという後悔の中で息絶える‟彼„の人生の終わり――  それは修にとって遠い出来事、自分には関係のない世界……それでも不思議と気になる夢だったが、その日を境に夢を見なくなる。  また平穏な毎日が繰り返される。  そう、思っていた――

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。