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最終部:タワー・オブ・バベル
その236 戦略
しおりを挟む「というわけで、何とか追い返したけどまたセイラを狙ってくるかもしれないわ」
「そういうことなら……おい、ビューリックの。拠点をもう少し強化してお前さん所の部下全員入れるようにした方がいいんじゃ?」
「そうですねー。人手はもう少し出せるので、急いでもらってもいいですかねー?」
ヴィオーラの聖騎士達を退けた私達はカームさんに偵察を頼み、拠点へと凱旋。残っていた他国のエリックやモルトさん、シルキーさん達に出迎えられ、事の経緯を話す。すると、モルトさんがエリックに拠点の拡張相談をしながらさっさとどこかへ行ってしまった。
そしてレイドさんが横に立っていたセイラを見て、口を開いた。
「で、お前はもう大丈夫なのか?」
「はいはーい! 今度は私の番ね、もういきなりゴタゴタだったからアレだったけど何とかね。目が覚めなかった理由はね……」
と、セイラは十階で戦った何か……何だっけ? ああ、そうそう、あのヴァンパイアに体を乗っ取られそうになっていたらしい。抵抗していてもうダメかと思った矢先、お母さんに助けられたそうだ。
「……本当に母さんが……?」
「うん。今も居るよ、雪山の小屋って何の事?」
<ぶるぶる……>
「チェイシャ?」
「な、何でも無いんだ。というかあれが母さんだったのか……!? 色々聞いてくるのもそう言われれば分かるが……ならどうして言ってくれなかったんだ……」
「本当はあのまま消えるはずだったんだけど、神裂が魂の行く先を止めているから召されないみたいね。だからこの世に留まって私達を探していたみたい」
『なるほどね。魂を通したらこの世界の事はバレる……でも、いつまでもこの世界から魂が出てこないのも逆に怪しまれる。バベルの塔はそう言った意味でも妨害に適しているという訳ね』
お父さんは少しやることがあるからと来ていないらしい。その内合流するわ、とはレイドさんのお母さんの言葉である。自由だなあ……。
とりあえずセイラも完全に調子が戻ったということで、再び回復魔法を使える人が増えたのはありがたい。
で、セイラの話を聞いた後はヴィオーラの動きを警戒をしていた。けど、追ったカームさんが戻って来ないのでどこか遠くへ移動、もしくは撤退したようだ。
人数も多く、腕も立つ(さらに無駄な自信がある)ので、油断せずに行こうと声をかけてから数時間……。
結局襲撃は無く、陽が暮れはじめた頃にパパが皆を集めて話をしたいと言い出した。
「現状をもう一度確認しておこう。現在俺達は百階あるとされるバベルの塔に三十階まで登ってきた。少しずつだが神裂に近づいていると言える。しかし、時間も経っている」
「そうね……後、二カ月と少し……」
私が呟くと、パパが頷き話を続ける。
「そうなる。アネモネという犠牲もあったし、楽に登れたわけではないのが現状だ」
「……」
<レイドよ、気にするな。わらわ達はこの為に守護獣として蘇ったのかもしれんからの>
チェイシャがレイドさんの肩へ乗りながらそんな事を言う。
「あまりそう言う事を言わないでくださいね、チェイシャ達が居なくなったらわたし寂しいですよ……」
「わぉん……」
「わん」「きゅんきゅん」「きゅふん」
<ぴー。あなた達は優しいから好きよ。でも、いざとなったらわたし達は覚悟があるってこと>
「ああ、その件については頼もしいの一言だ。しかし、それを頼りにするわけにもいかん。そのためにはまだ強くなる必要があると思う」
「と言いますと?」
カイムさんが顎に手を当てて尋ねる。他のみんなも似たような感じでパパを見ていた。
「具体的には自分の持っているスキルのおさらいだな。さっきのようにルーナは弓を使う事で、フレーレちゃんも武器を持ち替えてからの戦力は上がっていたように思う」
「装備品が変わってないと思えば、私達はよくやってると思うけどね」
ママが肩を竦めると、苦笑しながらパパがそれに答える。私は何気に女神装備になっているけど、確かにレイドさんも剣以外変わっていないし、フレーレもセイラに貸していたモーニングスターだけだなあ……。カルエラートさんの闇の剣と鎧は新調したけど。
「装備もだけど今の所は『とりあえず出来る事』をやっているだけで、慣れもあると思うが場当たり的な戦闘が多いと感じていてな。後は俺もアイディールがやられた時は取り乱して力任せに相手を追うばかりだった……反省している」
「己を見つめなおすのはいいことだと思います……しかし先程も言っていたように時間もあまり無いので、そうそう時間は取れませんよ?」
『一つ、いいかな?』
レイドさんの横をすり抜けてエクソリアさんが手をあげた。
『ヴァイゼと、その黄金の騎士。彼等はこちらを殺さないと言っていたのだろう? なら、訓練相手としてぶつかってみたらどうかな?』
「ええ、それって反則じゃありません? 神裂が何するかも分かりませんよ?」
私が反論をすると、エクソリアさんが無い胸を張って断言する。
『その時はその時だ、ボクと姉さんが結界でも張れば視覚を塞ぐくらいはできるだろうね。そのくらいなら大した力を使わないし、協力は可能だ』
「大丈夫かなあ……なら、ヴィオーラの事も考えて、半々で訓練組と居残りを決めて明日行きましょうか」
現状を考えると私の提案が最良だろうと、皆が頷きメンバーと日程を考えようということになった。そしてここでセイラが手を上げる。
「ちょっとだけ、ううん一日だけ待ってもらってもいいかな? フレーレとチェーリカ、アイディールさんと試したい事があるの」
「? 一日くらいならいいと思うけど……私は?」
「ルーナは……ちょっと」
「え、なんで!? 仲間外れみたいで嫌なんだけど!? ねえ!?」
ガクガクとセイラを揺すると、セイラが私の手から逃れて言ってきた。
「なんてね♪ 神聖魔法の修行みたいなものだから、ルーナは関われないのよ。底上げのために、私の持っている魔法を使えるようにならないかなと思ってね」
「なるほどね、なら明日は私も……って、そういえばカームさん遅くない?」
一応の指針が決まり、明日は自由行動となったところでカームさんを思い出す。まだ帰って来ないけど、やられちゃったとかはないよね……?
「一緒に行くべきだったかな」
レイドさんがボソッと呟いた時、小屋の外でカームさんの声が聞こえた。
<すまん、今戻った! ケガ人がいる、誰か出て来れないか?>
「噂をすればね! フレーレ、セイラ行ける?」
「行きますよ! でも何でケガ人が居るんでしょうね?」
カームさん一人で出て行ったし、何より『ケガ人がいる』というのだからフレーレの疑問は尤もだ。しかし、外に出るとカームさんの周りにいたのは……。
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