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最終部:タワー・オブ・バベル

その235 様式(スタイル)

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 <バベルの塔:屋外、空中>

 ストゥル達が塔へと向かっていたその時、上空からカームがヴィオーラの聖騎士団一行を捉えていた。背中には誰も乗せておらず、単独で監視していた。

 <闇の乗じて、というのはお利口さんだが数が多いからな。さらに塔の周りは開けている、隊列が乱れていないのが仇となったパターンか>

 雲に隠れて月明かりが無いが、それでも一定の距離や隊列を組んで動いている影を見ることができる。聖騎士であったカームにはそれが分かっていた。
 拠点とまったく逆へと馬を走らせ、そこから再び塔へ向かって走って行く。塔の外側を沿って移動を行い、やがて入り口へと辿り着いていた。

 <大人しく塔へ入るのか……まあ、世界が消えればあの愚鈍な王とて消えるのだから必死になるのだろうが……>

 全員が塔へ入った後、静かに急降下し、小さくなってカームも入り口へと近づく。七、八〇といった数の騎士が塔の中でキョロキョロと警戒しているのが目についた。そして、ストゥルが放った驚くべき言葉も。

 「わ、私は貴方を神として認めます! ですから、何とぞ世界を滅ぼさないでいただきたい、できれば……この世界の半分を私にいただけませぬか!」

 『ようこそ、バベルの塔へ。クソ野郎共! 世界が半分欲しいとは、一体何世紀前のゲームみたいな話をしているんだ? ぎゃっはっは!』

 <あの王族め、馬鹿を継承して何とする……! しかし、神裂とやらが出てきたか、これはチャンスか……?>

 カームが入り口へ突入するか援護を呼ぶか思案していると、聖騎士達がざわざわと騒ぎはじめ、恐る恐るストゥルとホイットへ進言を始めた。

 「お、恐れながら申し上げます! その者は神を名乗った不届き者、我等の神はアルモニア様とエクソリア様の二人に他なりません。それに世界を乱す者を倒すのが我等聖騎士の役割ではありませんか! それに与し、あまつさえ世界の半分を貰おうなどと……」

 するとホイットが手を広げて諭す様に進言した騎士へと言葉を向ける。

 「分かっていないな……このカンザキという者の力は強大だ。恐らく抵抗しても全滅するだけ。それなら仲間に入れてもらうのが一番と思わんか?」

 「左様、まあ……受け入れる気が無いとあれば、お前達の望む戦いとやらにせんでもないが?」

 チラリと神裂を見るストゥル。この数の騎士達を見ても、平然としながら神裂は拍手をしながら話し始める。

 『いやいや、お前等みたいなのも出てくるだろーなーというのは想定内だぜ? 俺は寛大だからな、来る者拒まずだ、歓迎するぞ?』

 「おお、では!」

 『ただ、今は勇者や魔王、ビューリックやサンドクラッド……それに後から蒼希からも援軍が来るらしくてな? 対応に追われているって訳よ。だからお前達も戦え。な? それに勝ったら世界の半分どころか全部やってもいいぞ?』

 世界を全部、という内容にごくりと唾を飲みこみ、歓喜の笑みで頷くストゥルが叫んだ。

 「勿論ですとも! 我がヴィオーラ聖騎士団はこのホイットを筆頭として優秀な者を集めております。神裂様のお力と我が聖騎士団が組めば勇者など易々と片づけられるでしょう」

 『お、そうか? そいつらをもっと強化したいんだけど構わんか?』

 「ええ、ええ、お好きなように……!」

 <(何をする気だ……?)>

 『まあ、だいたいこんな感じなんだけどな』

 クイっと神裂が一人の騎士を指差すと、その身体がカタカタと震えはじめた。

 「な、何だ!? や、やめ……ロ……グゲ……グゲゲ……!」

 男はみるみる内に膨れ上がり、オーガへと変貌を遂げた! そして横にいた騎士を力まかせに殴りつけ、数メートルほど吹き飛ばしていた。

 <(人間を魔物に!? 俺達がそうなっている以上出来なくはないだろうが、ああも簡単に……?)>

 「は、はははは! 流石です! これならあの小癪なアーティファの息子も……!」

 狂ったように笑うストゥルを見て、聖騎士達が戦慄を覚える。すると、先程ストゥルへ進言した男が脇目も振らずに主君へを斬りかかった!
 
 「おのれ、外道め! みんな、王は亡くなられた、ここに居るのは醜い権力に憑りつかれた外道だけだ!」

 「よせ、命を捨てる気か!?」

 他の仲間に言われても尚、男は突き進んだ。

 「どうせアレにされるなら同じ事よ! 死んで逝くならまだしも、あのような化け物にされては騎士の恥だぞ!」

 「お、おお! 裏切るのか貴様!? ホイット!」

 「お任せを」

 「貴方も地に落ちたものだ!」

 「生きるための知恵と言ってくれるかな?」

 激昂する騎士とホイットが切り結ぶ中、神裂が頭を掻きながら呆れた様に呟いた。

 『まあ、そうなるよな。全員が全員従うってことはねぇんだよ、集団ってのは恐怖か欲で支配をしとかないとな……ほら、お前も変わっちまえ』

 「あ、ああ……ギャアァアアム!」

 「い、嫌だ!? 魔物になんかなりたくない!」

 さらに何人かが魔物変えられるのを見て、聖騎士達は一斉に入り口を目指して逃げ始める。すると、神裂は手を内側に振るように動かす。
 
 <む、扉が! いかん……! 急げ、こんなことで死んではならん!>

 飛び出す機会を伺っていたが、ここは騎士達を逃がすのが先決と、カームは巨大化して姿を現した。扉が閉じないよう抑えるが、すごい力で徐々に閉じていってしまう。数人は出たが、まだたくさんいるはずだと中を見ると、神裂の手によって魔物へと変貌させられるスピードが速かった。
 そして進言した騎士も魔法剣を有したホイットには敵わず、カームの近くまで吹き飛ばされてきた。

 「くそ……くそ……!」

 <もういい、今は逃げるんだ! 生きていればチャンスはある!>

 「ぐ……うおおお!」

 <そうだ、それでいい。む、ソニックウェーブ!>

 ドゴン! 

 進言した騎士が外へ出た後、奥からフレイムストライクが飛んできた。神裂が放った魔法である。ニヤニヤと笑いながら次の魔法を撃つ準備をしていた。カームはすぐに辺りを見て、すでに逃走できる騎士は居ないと判断し、外へと出た。

 『お利口さんは嫌われるぜ! ≪ケイオスフレア≫』

 <お前に嫌われるのは構わんがな! ≪大旋風≫!>

 ガゴォォォン! 扉が閉じる直前、お互いの攻撃がぶつかり衝撃波が起こる。カームは追撃を警戒したが、神裂は扉を開けてまで出てくることは無かった。

 <チャンスだったが……致し方あるまい……大丈夫か?>

 カームは生き残った聖騎士、十数名に声をかけると先ほど進言した騎士が兜を脱ぎ捨て、地面を殴っていた。

 「く……ううう! こんなことをするために聖騎士になった訳じゃないのに! くそお!」

 それを見て他の騎士達も項垂れ、涙を流す。

 <こうなってしまっては敵も味方もあるまい、すぐ近くに我等の拠点がある。着いて来い>

 「あんたは……一体何なんだ……」

 <お仲間さ。かつてお前達のように王に裏切られて殺された憐れな騎士さ>

 「何だって……?」

 それ以上何も言わず、カームは聖騎士達を拠点へを案内する為歩き出す。


 <(巡り巡ってくるもの、か。あながち運命というのも鼻で笑えんな)>

 口元をわずかに歪めて、カームは胸中で呟いた。
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