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最終部:タワー・オブ・バベル
その234 離脱
しおりを挟む「まさか魔物と共に単騎でここまで来おるとはな」
「王、ここは私が……! この数を前に怯えずに来たのは褒めてやろう、しかしその愚かさで命を落とすことになるのだ!」
ホイットが馬上から剣を向けてくるが、レイドは構わずストゥルへと叫ぶ。
「あんた、父さんと母さんを知っているようだ。俺達はエクセレティコの小さな村で育ったが、ヴィオーラ国のあんたが知っているのはどういう事だ? それに呪いの矢とは何だ、答えろ!」
「口を慎め、無礼者めが!」
「ふん、それを聞いてどうするつもりだ? 愚かな親を持つと子もそうなるのか」
「こいつ……!」
馬鹿にした口調のストゥルの言葉を聞いて、レイドが憤る。だがそれをカームが鼻を鳴らして諫めていた。
<レイド、無駄だ。王家の血筋の者はどうやら変わっていないらしい。考え方も見た目もな。あのデブ太り、先々代にそっくりだ>
「だ、誰がデブだと!? この魔物めが、ご先祖様を侮辱するとは……!」
<侮辱して何が悪い? 俺はそのご先祖様に嵌められて殺されたのだからな、恨んでもいいだろう?>
「な、何? カーム、お前……」
レイドがカームの言葉に驚くが、ここぞとばかりにカームは喋る。鬱憤を晴らすかのごとく。
<俺の名はカーム……カーム=ディファーとまで言えば伝わっているかもしれんな>
「ふん、カームだと? そんなやつは……」
ホイットが魔物が何をぬかすのか、と鼻を鳴らす傍ら、横にいたストゥルが眉を顰めて何かを思い出そうとしていた。
「カーム……カームだと……カーム=ディファー……!?」
「い、如何なされた!?」
「い、いや、何でも無い……(カームという男、来た事がある……爺さんの代で処刑された、当時最強の聖騎士……しかし万が一ということもある、アーティファの娘を諦めるのも歯がゆいが……)」
「王……?」
ホイットが声をかけようとしたその時、馬に乗っていない騎士がホイットの所へと駆け寄ってきた。
「た、隊長!? だ、だめです! 突破できません! 前衛に出ていた連中がほぼ壊滅、このままでは全滅です!」
「な!? そんな馬鹿な!? 国の聖騎士隊でも選りすぐりを連れてきているのだぞ!? 冒険者風情にやられるとは何事か!」
「それが、カルエラート副隊長は依然変わらない強さ……さらに一緒に居るのは魔王を討ち取ったとされている勇者ディクラインとその仲間のようで……ひ、一筋縄では……」
「ぐぬ……! カルエラートめ……」
「ホイット、ここは退くぞ戦力を欠いては元も子も無い、我等の目的を果たさねばならん」
「逃げるつもりか! まだ話は……」
「終わってない! その通りよお兄ちゃん!」
「待って待ってセイラ!? あ、レイドさん!」
「え!?」
突然後ろから声がかかり驚くレイド。それもそのはず、今そこにいる醜い王から守ろうとしていたセイラの声だったからだ! ルーナが一緒に居る事から補助魔法がかかっているのは間違いない。その勢いのままストゥルに突撃を始めた。
(あの豚よ! あいつが私達を引き離した元凶よ!」
「おお、あの頃のアーティファにそっくりではないか……自分から来るとはいい心がけ……んぶっ!?」
「あ!」
「あ!」
「あ!?」
スローモーションのように、途中フレーレから強奪したモーニングスターをセイラが振るい、ストゥルの胸板をぶち抜いた。
ドサリ……と、ストゥルが落馬し、ゴホッと血反吐を吐き、白目を剥いた。興奮冷めやらぬセイラがさらに振りかぶるが、そこは腐っても隊長か、ホイットがすぐにカバーに入る。
ガキン!
「邪魔しないで!」
「邪魔するに決まってるだろうが!? 我が兵達よ、王を連れて逃げろ! 伝令を出して前衛に出ている者もだ! バラバラで逃げても構わん、目的地に集合と伝えろ!」
「は、はは……王を運べ!」
「逃がさん、カーム!」
<任せろ、む!?>
「先に行かせるとでも思うか? 少し時間を稼げればいいのだこちらは!」
「きゃ!?」
ホイットがセイラを弾き返して馬から降り、レイドを阻む。ルーナが咄嗟に弓で王を射るが、それを剣で弾き返えされてしまう。
「嘘!? 魔法の矢を弾いた!?」
「私の剣は魔法剣だ、容易いことよ。さあ、どこからでも来い!」
ホイットの気合いは大地を震わせていた。名ばかりの隊長という訳では無さそうである。そこでレイドとカームがぼそぼそと相談をする。
「(飛べるか?)」
<(いや、魔法剣なら恐らく迎撃される。衝撃波で狙い撃ちにされるのがオチだろう)」
「(知っているのか?)」
<(そりゃあ……俺が使ってたやつだからな……)>
「(そうなのか!? ここは一旦こっちも引くしかないか)」
<(そうだな、後は気付かれないよう、俺が空から監視するのもいいかもしれん)>
「(それで行こう、頼む)」
<(頭に血が上って突っ込んでいくかと思ったが冷静だな。成長したな)>
「(いい歳のおっさんにそれは無いだろ?)みんな、逃げてくれるなら逃げてもらおうじゃないか。こっちはセイラが守れればそれでいい、ただし次に来たときは容赦しないからな?」
「お兄ちゃん!? あの豚逃がしていいの!」
「……ふん、撤収だ」
セイラとレイドを睨みつけながら、ホイットも後ずさりをしながら馬に乗り走り去って行った。残った騎士も馬を捨てて逃げたり、別の騎士を拾って逃げたりと散り散りになっていく。そこにルーナがレイドの横に立ち呟いた。
「良かったの? 全力で行けば多分倒せたと思うけど……」
「いいさ。今は塔を攻略することに全力を出さなければいけないしね。無駄なケガをする必要も無いよ。一旦戻ろう、セイラも目が覚めたみたいだし」
「ちょっと不満だけど、お母さんも話したい事があるらしいから言わないでおくわ」
「何だって?」
ひとまずヴィオーラの聖騎士隊を退けたレイド達はディクラインやフレーレ達との合流をし、再び拠点へ戻った。幸い、というか勿論と言うべきかケガなど誰もしておらず、むしろ白旗を上げた聖騎士が何名か加わり夜に。
そして……。
◆ ◇ ◆
「ぐはあ!? な、何だ!? わ、私は……い、生きておるのか!」
「ご無事でしたか王! 意識を失ってからすでに陽も暮れ……もうダメかと……」
「そ、そんなにか?」
「ええ……あの娘の一撃、かなりのものだったらしく、回復魔法の使い手が三名、魔力切れを起こしました」
ゴクリと喉を鳴らすストゥル。もしかすると助かったのは奇跡か何かか、と思ってしまった。しかし、生きていたのなら問題ないと立ち上がって辺りを見回すとすでに夜になっていた。
「王、いかがいたしましょう。夜襲をかけるにはうってつけの月の無い夜ですが……」
「いや、奴等は強い。ビューリックの騎士共ならいざ知らず、勇者とやらの強さも本物のようだ、ならば今は目的を遂げる必要があろう」
「では、塔へ?」
「うむ、裏から回り込むように入り口へ行けば拠点とやらに見つからず行けるであろう。この闇夜ならな……」
そう言って早速移動の支度を行い、塔へと静かへ赴くストゥル一行。目論見通り、大勢の騎士を連れていても塔の裏から壁沿いにつたう事で見張りの死角をついて入り口へ侵入することができた。
「何故、開いたままなのだ……?」
「さあ……む、お下がりください」
騎士達が全員、塔の一階へ入ると、例によって神裂のホログラフィが現れる。それが自動で出てくるものとは知らず、ストゥルは高らかに、そして嬉々として声をあげた。
「き、貴様が神裂、様か! わ、私は貴方を神として認めます! ですから、何とぞ世界を滅ぼさないでいただきたい、できれば……この世界の半分を私にいただけませぬか!」
すると騎士達からざわざわと声があがる。無理も無い、彼等は神裂という世界の敵を倒すために集められたと聞いていたからだ。それがまさか世界を滅ぼす者に与して世界をもらおうと叫ぶとは思ってもみなかったからである。
しかし、この神裂はホログラフィ。何度も訴えているうちに幻覚では、と思い始めたところで異変は起きた。
「ふう、ふう……さっきから同じ事しか喋っておらん……これは……」
「ええ、侵入者用の魔法と言ったところでしょう。となるとやはり上へ登るしかありませんか」
『いんや、その必要はねぇよ』
「!?」
ストゥルとホイットが目を合わせ驚いている所に、再度声がかかる。
『ようこそ、バベルの塔へ。クソ野郎共! 世界が半分欲しいとは、一体何世紀前のゲームみたいな話をしているんだ? ぎゃっはっは!』
神裂が、その姿を現していた。
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