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最終部:タワー・オブ・バベル
その232 虎穴
しおりを挟むエリックの機転で何とか先に拠点に到着することに成功し、周囲を警戒していた騎士やサンドクラッドの冒険者を拠点内に撤収させることに成功した。
「こんな板じゃ流石に持たないねー。外で迎撃する必要があるんじゃないー?」
「いや、俺の妹の事だ。ビューリックの方たちはここに居てくれ。国同士のいざこざに発展する可能性があるからな」
エリックは迎撃について提案するけど、レイドさんはそれを断った。私達は冒険者で、国に属している訳でも無いし、ましてここは国外なので負けなければ一国を相手にしたところで御咎めは無い。まあ、その国には今後行けないけどね。そこにカルエラートさんが装備を整えながら口を開く。
「レイドの言うとおりだ。だが、念のため交戦の準備をしておいてくれ、王とホイットはここぞとばかりにビューリックを潰しに来るかもしれない。事が終わった後、国へ攻め入る口実にすることも十分ある。それくらいのクズだからだ」
「カルエラートさんはヴィオーラにいたんですね」
「ああ。私は聖騎士団の団員だったんだが、ホイットは終始あの調子でな。性格は悪いし、婚約者がいても複数の女性と関係を持つというだらしのない男だ。向こうの両親が私を気に入って婚約者へ仕立てたけど、まっぴらごめんだったから、ヴィオーラに立ち寄ったディクラインを追って国から逃げたんだ。両親には悪い事をしたと思うけど、兄が居たし、浮気性は知れ渡っていたから御咎めは無いだろう」
「苦労したんですね……女の敵は許せませんね!」
フレーレがモーニングスターを握りしめて地団太を踏む。アントンの件はまだ忘れてはいないらしい。準備を進めているとレイドさんとママが走ってくるのが見えた。
「レイド、アイディール。セイラは?」
「まだ寝ているわ。念のためを考えるなら転移陣で塔へ預けた方がいいかもしれないけど……」
「間に合わないだろうな……何、ただの騎士団程度なら俺達で充分だろ。行くぞ、レイド」
「ええ。すいませんこんな時に……」
心底すまなさそうな顔をするレイドさんに私は肩を叩きながら声をかける。
「気にしないでレイドさん。セイラは大事な仲間だし! 塔は気になるけど、拠点を壊されるのを黙って見ているわけにもいかないわ。それに、お母さんの仇みたいだし、ね」
「ルーナ……ああ、問い詰めて真相を聞かないとな」
レイドさんとフレーレと一緒に入り口まで行く。そこには守護獣達も待っていた。
<水臭いのう、わらわ達も暴れさせてくれ>
<ふっふっふ……今宵のレイピアは血に飢えてるにゃ……>
<加勢するぞ>
<話は聞いたよ、久しぶりに頭のくる相手みたいだね。オイラも行く!>
ジャンナとリリーは待機するらしい。女神二人は人間同士の争いには関わらないと、傍観を決め込んだ。後はカイムさんもアネモネさんの刀を装備して参戦だ。
「病み上がりですが、私も」
その時だ!
ドゴォン!
ヒュ……! カカカカ!
ヴィオーラの騎士達が攻めてきた! 弓が壁に刺さる音がし、爆発はどうやら魔法のみたい。騎士でも魔法を使える者が居るみたいね。
カルエラートさんが盾を構え、入り口を飛び出し私達は後に続く。
◆ ◇ ◆
「……そろそろだろうか?」
「予知の結果は確かそうだ。戻らなくて良いのか?」
ヴァイゼと黄金の騎士アルトリウスが相変わらずテーブルを囲み話をしていた。ヴァイゼの両脇には忍びとアステリオス。アルトリウスの横には緑と紫の騎士が立っていた。
「俺が戻らなくても勝つ。訓練の事はさておき、あそこでルーナ達を追いかえしていなかったら拠点は聖騎士団に占拠されていたからな……感謝している」
「まあ、利害は一致していたから気にしないでいい。あそこが潰されると、カンザキを倒す事が難しくなるだろう。そうなるとカンザキを倒して欲しい私からすれば面白くない訳だ」
「拙者達は加勢しなくてもいいでござるか?」
「お前達は元々別世界の者だ。そこまでしなくてもよかろう。それに、いい訓練になる」
ククっと笑うヴァイゼに、一同は背筋が寒くなる。
「我々が追い返す予定だったんですけどね」
「ま、予知も完璧じゃない。あそこで私達が倒されなかった、というのが最善だったんだよ。さて、勝つには勝つだろうけど、その後が気になる……」
くい、っとお茶を飲みカップを置くアルトリウスだった。
◆ ◇ ◆
「出て来たぞ! 囲め囲めぇ!」
先程聖騎士団と会った場所と違い、拠点周りは開けている。騎馬が動くには絶好の場所、だけど怯んでいては囲まれて終わりだ。私は残りの補助魔法を全員にかけると、弓を取り出した。
「向かってくる敵は撃ち落すわ! 近くの敵はお願い!」
「了解した、馬上の騎士を狙ってくれると助かる!」
黄金の騎士が言った言葉を思い出し、剣ではなく弓で戦う事にした。よく考えれば前衛は多いのだ、パワフル・オブ・ベヒモスで力は上がるし、お父さんとの訓練で剣の練習もしたけど、周囲をよく見ておけば分断されたり後ろからやられるなんてことは無いと思ったのだ。
「馬も狙うか……可哀相だけど!」
ヒヒィン!?
魔力を込めた矢を放ち、馬や騎士にヒットさせていく。普通の鎧であれば魔力矢で貫通させること可能だった。そこに一人の騎士が弓を厄介と感じたのか、突っ込んでくる!
「弓兵がそんなに目立つところに!」
勿論それは分かっているわよ! ピューイ! 口笛を吹いた瞬間、深い草むらからレジナが飛び出してくる!
「ガウゥァアアア!」
「う、うわ!? 狼!?」
「わん! わぉーん!」
ヒヒーン!
ドス!
「ぐあ……」
「ナイスよレジナ、シルバ!」
草むらからバッと出てきた二匹に馬が驚き、バランスを崩したところに私の矢が肩に刺さって落馬した。頭から落ちたからあれは痛いだろうなあ……。
そのまま私は奥に居た魔法を使う騎士と、同じく弓兵を牽制しながらみんなの援護に回る。さっきのホイットとかいう隊長と王様の姿はない……。
騎士達は回り込もうと必死だけど、カルエラートさんとバステトの猛攻に押し返されていた。逆方向ではパパとチェイシャ、ファウダーが猛威を振るう。
<にゃはははは! 馬上から剣だと私に当てにくいだろうにゃ! ノイジィショットだにゃ>
「ぐあ、耳がぁぁ!?」
「いいぞバス! シールドバッシュ!」
「な、何でこんなところにドラゴンが!?」
<オイラのブレスで氷漬けになれ!>
ブォォォォォ……
「さ、寒い……」
<では暖かくしてやろう、爆炎の魔法弾じゃ!>
「や、やられ……!」
ドゴン!
「あらら、派手にやるわね皆……あ、フレーレのモーニングスターが後頭部に入った……あれは死んだかも……ってそういえばレイドさんは!?」
よく見ればレイドさんとカームさんが居ない! ……まさか!?
<居たぞ!>
「すまない! このまま突っ込んでくれ!」
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