209 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その230 敗北
しおりを挟む<バベルの塔:三十階>
お父さんと黄金の騎士が襲いかかってきてからどれくらい経過したのか、十分か一時間か……それすらも分からないほど一進一退……いえ、苦戦を強いられていた。
「でやぁ!!」
「甘いな、力に頼りすぎているぞ。もう一人の勇者とやらはバランスよく戦っていたようだが。魔王の娘は無理に近接をする意味があるのかな?」
「くっ……」
「ガゥゥゥ……!」
黄金の騎士はレイドさんと私、レジナが。お父さんは残りのメンバーが相手をする形になった。というより、無理矢理分断されたような動きをされている。
「私は分かっていたつもりだが……強い……!」
「片手で自分の剣を耐えられるなんて初めてでありますよ……しかも素手で……」
<腐るな。相手は元とはいえ魔王だぞ? フレーレ、回復を。カルエラートは前衛を維持でなるべく引きつけてくれ>
「カームさん冷静ですね ≪ヒール≫!」
フレーレの回復で傷を癒して再び対峙するカルエラートさん達。しかし、すでに体力は限界を迎えていた。休憩、とばかりにお父さんが四人に話かける。
「ルーナにも教えてあるが、俺は魔力操作の技術がある。攻撃を受ける側に集中すれば可能だ。カルエラートは皆を守ることに注力し過ぎだ、ウェンディは周りを見て動いていないから孤立する。まあ、即席で組んでいることを考えれば、俺を相手にここまで耐えられるのは上出来か」
「……」
カルエラートさんとウェンディの二人が悔しそうに顔を歪める。そうは言うけど、お父さんは真の姿で戦っていないのに苦戦を強いられているのは技量の差に他ならないからだ。
「ヴァイゼさんはどうしてそちら側に……」
「それは俺に勝ったら教えてやる。ルーナの友達といえど容赦はせん……とはいえ、そろそろ終わりにしようか。時間が惜しい」
チラリと黄金の騎士へ目を向けると、黄金の騎士はコクリと頷いた。その瞬間、私の背筋をゾクリとした何かが駆け抜ける。
「まさか……!」
「気づいたか、流石は俺の娘。全力で防御しろよ?」
<この魔力はマズイぞ!? ソニックウェーブ!>
ズズズ……と、元の骸骨の姿に戻るお父さんが剣を掲え上げる。カームさんのソニックウェイブがヒットしているがものともしない。
それを見たカルエラートさんが慌てて攻撃を仕掛けながらウェンディへ叫ぶ。
「ぼやっとするな! 死ぬぞ!」
「ハッ!? わ、わかったであります!」
「残念だったな、一歩遅い! アーリーイロウション!」
剣に黒いモヤのようなものが纏ったその時、お父さんの剣が振り降ろされる。衝撃波となったモヤが四人を包み込む。
「うわ!? 闇がまとわりついて……!」
「力が抜けていくであります!? ああああ!?」
<ぬぐ……飛びたてん!? フレーレだけでも!>
「きゃああ!?」
カームさんがかろうじてフレーレを咥えて闇の外へと放り投げ、フレーレはお尻から着地する。瞬間、カルエラートさんが闇に完全に飲まれ……。
ザシュ! バシュ! ズバッ!
「……!?」
闇に飲まれ声も聞こえなくなったが、何かを斬り裂く音が絶え間なく続く。これ、本当にまずいんじゃ!?
「みんな!」
「おっと、こっちは行き止まりだ」
「どいて!」
キィン!
「俺が止める! 早く!」
「残念だけど、君達も一旦ご退場願おう。次に来るときは、交代要員も連れて来ることだ」
「え!?」
「何だと……!」
私とレイドさんで黄金の騎士を攻撃をし、倒せないまでも鎧に傷をつけていた……はずだったのに、黄金の騎士が腰にある鞘を一撫でした途端、見る見るうちに修復していったのだ!
「シャインエクスプロード」
驚愕している私達を余所に、技を発動する黄金の騎士。光の奔流が私達を飲みこんだと思った時にはすでに意識を失っていた。
◆ ◇ ◆
「ルーナ!?」
ルーナとレイドの方へ目を向けたその時、黄金の騎士が剣から放った一撃がルーナ達を吹き飛ばしているのを見てフレーレが叫んだ。同時にカルエラート達を覆っていた闇が消え去った。
「あ、ああ……」
そこにはカルエラート、ウェンディ、カームのボロ雑巾のようになった姿があった。装備品には傷が無いのに、血が噴き出ているという不可思議な有様でもある。
「すぐに回復をしてくれ」
「い、言われなくてもします! ≪リザレクション≫」
ヴァイゼを睨みながらフレーレが回復をし、全員の傷が回復する。しかし流れた血までは回復しないし、疲労もそのままなので目を覚ます様子は無かった。
「それじゃ二人とも悪いんだけど階下まで運んでやってくれ。女神様と、そこの僧侶ちゃんだけじゃ運べないだろうし。二十階までしか運べないからそこまで降りたら誰かに迎えに来てもらうといい」
淡々と緑と紫の騎士へ指示を出し、ヴァイゼと共にまたテーブルへ着席してお茶を飲み始める黄金の騎士。
「ヴァイゼさん! どうしてこんなことを! ルーナは実の娘じゃないですか!」
「……連れて行ってくれ」
「ヴァイゼさん!?」
ずるずると引きずられながらフレーレが追い出され、騎士二人と忍び、アステリオスがそれぞれ担ぎ上げ、下へ降りて行った。
「一緒に戻らなくていいのか?」
「俺があいつらの所へ戻る時は、あいつらが俺達を倒してからだな」
「……難儀な事だ。私も王だったから、貴方の考えも分からないでもないが」
「それより、神裂は大丈夫なのか?」
「あの男は、この塔に居る限りは私達にある程度の自由を与えているから、そうそう口出しはすまい。むしろ強くなった方が楽しめると考えるだろう。ただ、私達が彼女たちの強化をしている時間が長くなれば興味を失くして私を強制的に襲いかからせるくらいはしそうだ。だからあまり時間はかけられん」
黄金の騎士がお茶を飲みながらヴァイゼへと神裂に関しての予想を言う。するとヴァイゼがカップに目を落としながら呟いた。
「俺もあまり時間が無い。できれば神裂の所まで、この仮初の命が持つかどうか……時間が無いのに強化訓練を行わないといけないのは少し焦燥感があるな」
「私も協力してあげたいけど、ここを素通りさせるくらいしかできないのが残念だよ」
「いや、それだけでも十分だ」
「残りは私を覗いて六人。強さは私とそれほど変わらないけど、嫌らしい感じの者が結構多そうだった。手合せをしているわけではないけど、雰囲気で分かる。特に賢者のような爺さんがいるのだけど、かつて私に仕えていたマーリンという預言者に雰囲気が似ていてね。あれは危険な感じがする」
「賢者、か。フォルサが生きていたら良かったのだが。セイラでは経験が少ない……どちらにせよ、今度は残りのメンバーを連れて来てもらわなければならんか。回復まで三日というところかな」
「さて、心が折れていなければいいのだけど」
黄金の騎士はそれだけ言うと、器用にお茶を飲み始めた。
0
お気に入りに追加
4,184
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜
二階堂まりい
ファンタジー
メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ
超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。
同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。