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最終部:タワー・オブ・バベル

その228 男気

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 「霊薬って本当なのか? 早口で『こんにゃく』って言ったんじゃないだろうな? 

 ディクラインはイゴールの言葉を聞き間違えたかと思いもう一度訪ねる。霊薬はそこらの商人が手に入れられるものでは無いからだ。闇市や闇オークションといったところでかろうじて手に入るレベルの代物なので、旅をしていたとはいえ、この一家に手に入れられるとは思えなかった。

 「こんにゃくと間違える訳ねぇよ!? ほれ、確かめてみろい。って言っても本物かどうかを調べる方法は無いんだけどな」

 <どうやって手に入れたのじゃ?>

 「うお!? さっきから誰かと思えば狐が喋ってたのか……何か尻尾も多いな? ま、それはいいとしてありゃいつくらいだったかなタウィーザ?」

 「いきなり振るんじゃないよ。三日くらい前だったか、森の中で行き倒れている人を見つけてね。行き倒れそうになっていたからご飯を食べさせてやったんだ、そしたら金貨と霊薬をもらったってわけ。全身ローブで男か女かも怪しかったけど」

 まあ金貨をもらえたし、偽物でもいいけどねとタウィーザは霊薬に興味が無い様子だった。話を聞いたディクラインはイゴールの小瓶を見ながらある事を思いつく。

 「そうだ! エクソリア! あいつに見てもらえば本物か分かるんじゃないか?」

 <おお、そうじゃな。わらわが呼んで……>

 『呼んだかい?』

 「うおおおおお!?」

 「うひゃあ!?」

 ディクラインとソキウス、チェーリカが目の前に現れたエクソリアを見て悲鳴をあげる。

 『大きな声を出さないでくれ、ボクがびっくりするよ。で、霊薬だって? 少し貸してくれるかい?』

 エクソリアがニコッと笑いかけると、イゴールは鼻の下を伸ばしてあっさりと霊薬を差し出した。さらにエクソリアへタークが話しかける。

 「う、美しいお嬢さんなんだな! お、俺はターク、よ、宜しく頼むんだな! 具体的には付き合ってくれると嬉しいんだな」

 『美しいだなんて、正直じゃないか。とりあえずキモイからあっちに行ってくれるかい? どれどれ……』

 「知らないとはいえ女神様を口説くとか流石だな……」

 「あっさり斬って捨てたエクソリア様も流石です……」

 胸を触ろうとしたタークの腕を捻り上げ、投げ飛ばす様子を見ながらソキウスとチェーリカが呟く。エクソリアはどこ吹く風で霊薬の蓋を開けて中を覗き、一滴だけ掌へ落とし舐めた。

 『(……! これは……)うん、本物だね。これならアイディールを治療するのに十分だろう』

 「そうか! 親父さん、悪いがこいつを売ってくれ。倒れた仲間に必要なんだ!」

 ディクラインは歓喜の声を上げてイゴールの肩を掴む。ぐらぐらと揺すりながら懇願していると、ソキウスが慌てて引きはがした。

 「それ以上やったら気絶しちまうよ!? 嬉しいのは分かるけど落ち着けって!」

 「あばばばば……」

 「おっと!?」

 ふん、と気付けを行い目を覚まさせると、イゴールは頭を振りながらディクラインへと顔を向け尋ねる。

 「ふう……そいつは構わねぇ。助けてもらったしな。タダとはいかねぇが、相場より少し下ってところでどうだ?」

 <霊薬の相場ってどれくらいなのじゃ?>

 「そうだな、俺がヴァイゼを倒しに行く旅をしている時に一回だけ見かけたのは金貨一万枚だったかな? しかし今はルーナが持って行ってるんだよな……」

 チェイシャが聞き、ディクラインが答えると、イゴールが頷き間違いないと肯定する。そこで、拠点の中が随分騒がしい事に気付いた。

 「そうだな……ってそういやここは拠点って言ってたけど、あんた達は塔を登っているのか?」

 「だな。塔の最上階のヤツには因縁があってな。それにヤツを倒せなければ世界は終わる」

 「そういえばそんなことを言ってたわね……」

 「だからチェーリカ達はここに拠点を作って塔を少しずつ登ってるんです」

 イゴールは辺りを見回し、その後に塔を眺めて腕を組んで考える仕草をする。しばらく考え込んでいたが、ポンと手を打ちディクラインへ霊薬を渡す。

 「あんたの仲間、ってぇことは塔に行くための戦力なんだろ? なら、こいつを役立たせてくれ」

 「何言ってるのよあんた!? 金貨一万枚よ!?」

 「うるせぇ! どのみち塔が攻略できんようじゃ金なんざいくらあってもしかたねぇ。なら、ここは世界を救う勇者様ってのに協力するのが正しい使い道だろうぜ」

 タウィーザが青い顔であわあわしているところに一喝するイゴール。どうせ貰い物だ、とディクラインに笑いかけ病人のところへ行けと促した。

 「すまん! 金は後でルーナが戻ったら少しでも渡せるから待っててくれ!」

 「気にすんな! 少しばかり寝床を優遇してくれればな!」

 「ちゃっかりしてるぜ。すぐ戻る、ソキウスとチェーリカは一家に渡せる小屋が無いかモルトさんかブラウンに聞いてみてくれ」

 「了解したぜ! 早くアイディールさんのところへ行ってやりなよ!」

 「それじゃ入口にいるのもアレですし、こっちへ来てくださいです」

 『ふむ……あれだけ痛めつけたのに気絶しただけ……興味深い……』

 ディクラインはアイディールの小屋へ走り、イゴール達一家も寝床となる小さめの小屋を与えてもらえた。いままで宿屋と野宿生活だったのでタウィーザは喜んでいたりする。そして小屋の横で屋台が展開されることになり、拠点がまた一つ大きくなった。

 ◆ ◇ ◆

 <バベルの塔:二十五階>


 「ハッ!? ここは!? ……あいたたたた……」

 「あ、目が覚めましたよ」

 「まあ我々は柔な鍛え方はしていないから、死ぬことは無いな。不意打ちとはいえいい一撃だった」

 フレーレが回復魔法をかけると、しばらくして緑の騎士が目を覚ます。ウェンディの一撃は思いのほか強力だったようだが、紫の騎士の言うようにちょっと気絶したくらいで復帰しているあたり強敵だと感じていた。

 「それで、あんた達の目的を教えてくれるのか?」

 「そうそう。紫の騎士さん、そんな事言ってたわよね」

 「少しだけ語ろう。後は三十階にいる我らが王が話してくれるはずだ。さっきも言ったが君達を殺すつもりは無い。だが、我等に勝てなければ勝てるまで追い返すつもりではあったな」

 紫の騎士が緑の騎士に手を差し出しながら説明をしてくれる。私は疑問に思ったことを手をあげて口にしていた。

 「はい。じゃあずっと負け続けてたら……」

 「その時は世界が終わっていただろうな。……我等はあくまでも呼び出された身、召喚主には逆らえん。だ、我等が王ほどの制約が無いのでこういった事ができたのだが……」

 「戦闘訓練みたいな事か?」

 すると緑の騎士が首をコキコキ鳴らしながらカルエラートさんの言葉を返していた。

 「そういうこと。正直、こんなところにいきなり呼ばれていい迷惑なんだ、だからあのカンザキとかいうヤツに一泡吹かせたくて、こんな小芝居をしたってところ。君達が強くなれば、困るのはあの男だからね」

 「あーいい迷惑なんですね」

 私が苦笑すると、紫の騎士は神妙な声で喋りはじめる。

 「私達はいいんだが、問題は王でな。あの方はカンザキに制約をかけられていてあまり自由が無い。だから私達がここで試験をしていたのだよ」

 『合格、でいいのかしら?』

 「ああ、少し荒いが実力はある。一対一なら我等が間違いなく勝てるが、パーティで見た場合で問題ないから総合力で見たという訳だ」

 「さ、おしゃべりは階段を上がりながらにしよう。三十階までは何も無い、一気に行こう」

 紫の騎士はまだ喋りたそうだったけど、緑の騎士に促され先に進む事にした。
   
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