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最終部:タワー・オブ・バベル
その219 虚言
しおりを挟む転移陣を抜けた先はもちろん外。十階の転移陣の隣に新しく出来たものが二十階へ直通でいけるようになっている。
「うう……ぐす……」
「……」
フレーレは泣きながら歩き、他の皆も言葉を発する事はなかった。一筋縄ではいかないであろうと覚悟してきたつもりだけど、その場面に遭遇すると割り切れるものじゃなかった。
拠点へ戻ると、チェイシャとカルエラートさんが出迎えてくれた。
<戻ったか>
「うん……」
「話はチェイシャから聞いている。とりあえず皆ゆっくり休んでくれ、ビューリック国のメンバーが増えたから拠点の拡張でうるさいかもしれないが……」
「俺はアイディールを休ませてくる。セイラは?」
「フレーレの使っていたベッドが空いているからそれを。セイラはたまに目を覚ますが……起きていてもぼんやりとしているな」
様子を見に行くと言って、パパとレイドさんが小屋へと向かう。私とフレーレ、それに女神様姉妹は新しく建てられた少し大きめの小屋へと案内された。お父さんは二十階に残ると言って帰って来なかった。
「ふう……」
<アネモネの最後はどうじゃった?>
ベッドへ腰掛けると最初に口を開いたのはチェイシャだった。私はカバンから袋を取り出し、チェイシャに言う。この袋はアネモネさんが崩れた欠片が入っている。
「最後は……笑っていたわ。世界を頼むって……ねえ、チェイシャも……そうなの?」
<……>
チェイシャがチラリとエクソリアさんの方を見ると、エクソリアさんはコクリと頷き、チェイシャはまた私を見て話し始める。
<うむ。思ったより早く使うことになったとは思うが、概ねアネモネに起こった事と同じじゃ>
「……でもチェイシャの元の姿はただの王女じゃないか。今の姿の方が強いんじゃないのか」
レイドさんやママと一緒にサンドクラッドへ行ったカルエラートさんがチェイシャを抱き上げながらそんな事を言う。そういえば元の姿の時はポンコツだとか言ってたっけ・
<……そう、そうじゃな! わらわはこっちの方が強いんじゃ! 言われてみれば人化の法を使う必要は無いのう!>
「本当に? まあ、リリーとかも役に立たなさそうだし……」
<ぴょん!?>
「ふふ……」
『……』
冗談を言い合い、何とか気を取り直し私達は一度仮眠を取る事にした。エクソリアさんが神妙な顔をしているのが少し気になったけど、カルエラートさんが晩御飯ができたら呼ぶということで、疲れがピークに達していたす私達はすぐ寝入ってしまった。
◆ ◇ ◆
「では私は厨房へ行ってくる。今日はクラウスとシルキーが買い物に出ているから少しはマシなものが用意できると思う」
そう言ってカルエラートはセイラ達が寝ている小屋へと戻って行く。残されたチェイシャ達が歩きながら話し始める。
<ふう、誤魔化せたとは思わんがひとまず大丈夫かのう>
『そうだね……騙しているようで気は引けるけどね』
<大丈夫だっぴょん、主達はそもそもこの世界を壊すつもりだったんだから、今更だっぴょん>
『そんな事を言うのはこの口か!』
<い、痛いっぴょん!?>
アルモニアがリリーの口を裂かんばかりに広げていると、チェイシャに向かってエクソリアが話しかける。
『残り六人、できれば君達には戦って欲しくないけどね』
<気にしないでいいのじゃ。主達が戦わないのは最後のために力を温存しておるからじゃろう?>
『ああ。神の力に加え、恩恵を持っている神裂に対してルーナ達だけではどうしても切り札に欠ける。力押しだけで勝てるとは思えない。だけど今ならボク達と同じレベルの能力しかない……なら女神が二人いるこっちの方が有利だからね』
それに呼応するようにアルモニアがリリーを放してから続ける。
『酷なようだけど、最上階に行くまでにあなたたちを含めて盾になってもらう必要があるわ。いざって時に私達が動けないのはマズイからね」
積極的に彼女らがボス部屋で戦わない理由はまさにそこだった。できるだけ力を温存しておかなければ神の力に対抗できる者が居なくなると最後の最後でしくじる可能性があるからだった。
どちらか一人居れば何とかなる、と推測をしているものの確定ではないのでボス部屋では手を上げない。
<なあに、人化の法を使えばボスの一人や二人けちょんけちょんじゃ。わらわはそういう調整をたのんだのじゃからな>
チェイシャが晩御飯楽しみじゃのうと前を歩く姿をエクソリアは複雑な面持ちで見送るのだった。
◆ ◇ ◆
<バベルの塔:最上階>
『キルヤが死んだか、あの人化の法とやら、中々興味深いな……一匹手に入らないねぇかな……』
「使ったと同時に死ぬのですから難しいのでは?」
『いや、いいんだよ変身前でも。研究しがいがあるだろ? お前なら分かりそうだと思ったが?』
「はあ、まあ、気にならないと言えば嘘になるんですがのう。それどころではありますまい? 二十階を突破されたのじゃが……」
神裂と横にいる爺さんがモニターを見ながら話しをしていた。神裂はつまらなさそうにモニターを見る。
『まあ無敵ってわけじゃねえし、俺が呼んだから文句は言えねえが、あれだな。性格悪かったなアイツ。道中はまあまあ面白かったんだが、キルヤ自身がしょぼすぎた』
するとその言葉を聞いて一人の男が横に立った。
「それでは次は僕が行きますよ。迷路は僕好みに変えていいんですよね?」
『んあ? お前か、もう出るのか?』
「ええ、中々面白いパーティみたいですし、メンバーがいっぱいいる時の方が楽しいじゃないですか」
『物好きだな。迷路は好きにしていいぞ。足止めするもよし、エグイ罠を張ってもいい。ルーナを殺さなかったら何しても構わん。出来れば一匹何か連れて帰ってくれ』
「了解。それじゃ早速行ってきますよ」
ガチャガチャと鎧の音をさせながら、男は闇の中へ消えて行った。後姿を見て爺さんは神裂へと問う。
「……強さはともかく、あれはどちらかと言えば向こう側の人間では?」
『ま、そうだな。ただ、こっちへ呼んだ時に”変えてやった”から大丈夫だろ。裏切ったらそれはそれでおもしれぇしな! ぎゃはははは!』
「左様ですか……(主……自分が不利になる事を恐れておらんのか? あやつらの連れている守護獣とやらのように我らは制約がない……不本意にこちらへ呼ばれた者が裏切る可能性も否定はできんというのに……)」
爺さんは「何を考えている?」 と言わんばかりに、神裂へ目を向けるのだった。
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