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最終部:タワー・オブ・バベル

その218 消失

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 <……使ったのか>

 拠点の上空で警備をしていたカームが塔を見て呟く。

 <みたいにゃ……アネモネ……>

 <この拠点も人が増えてきた。次は俺も塔へ行こう、ファウダーとジャンナ、お前が居ればここは何とかなるだろう>

 <承知しているにゃ。できるだけそうならないことを祈るけどにゃ……>

 バステトも悲しげな目を塔に向け、そう呟くのだった。


 ◆ ◇ ◆


 「やったあ!」

 もうどこがどうだったのか分からないほどバラバラになったキルヤは血だまりの中で息絶えていた。今度こそ倒せたようだ。
 丁度、カイムさんがフレーレを助け出し、レイドさん達が部屋に入ってくるところだった。私達は入り口付近にいるパパ達の所へと戻った。

 「フレーレ!」

 「ルーナ! すいません、こんなことになってしまって……それというのもこの痴漢が悪いんです」

 カイムさんに肩を貸しながら歩いて来たフレーレを抱きしめると、カラスを指差しながら口を尖らせる。

 「あ、いや!? ……まったくそのとおりでござる……」

 「お前の仲間もまだ生きているようだぞ? 行ってやれ。おかしなことをしたら……」

 「しないでござるよ!? ……本当であれば身を捨ててでも魔王殿達と戦うべきであろうが、あのキルヤ殿が化け物だったと思うと意味を見いだせないでござるしな……」

 お父さんに言われてカラスはそんな事を言い、倒れた二人の元へ向かう。フレーレが無事だったから良かったけど、そうじゃなかったらどうなっていたか分からない。
 そういえばママは、と思ったところでエクソリアさんが容態を見ていた。
  
 『うん、このまま休ませておけば体調は戻ると思うよ。拠点で休ませておくべきだね』

 「そうか、とりあえず無事ならいい……」

 「十階と同じなら転移陣がどこかに出てるはずだけど……」

 パパが安堵し、その場にへたり込むのを見た後、転移陣が出ていないか見渡すと、アネモネさんが最初にカイムさんが引っかかりそうになった穴へキルヤの遺体を捨てていた。
 
 <こっちは終わったよ。転移陣は檻の中にできたみたいだね>

 少し疲れたのか、眉を歪めながらゆっくりとこちらに歩きながら言ってきた。

 「ありがとうございます! アネモネさん、可愛かったんですね……もうちょっとお話したいけど、ママが心配だから早めに戻りましょう。フレーレとカイムさんもゆっくり休まないとね」

 私の言葉に皆が頷くと、下り階段からざわざわと声が聞こえてきた。そして先頭を歩いていた人を見て、私とレイドさん、フレーレが驚愕した。

 「うわ、こりゃ凄いな……あ、ルーナちゃん久しぶりー元気そうで何よりだよー」

 「わ、ルーナさん! お久しぶりですー!」

 ビューリック国の騎士、エリックとイリスだった!

 ◆ ◇ ◆
 
 「なるほどねー。なら、丁度戦闘が終わったところなんだ? で、ここに誰かが常駐していないと魔物が転移陣から出てくる、と。なら、僕達の部隊を置いておけば問題ないかな?」

 何と、ビューリックも世界の危機を何とかしようとエリック達をこの塔へ派遣したらしい。私達がここにいることをカルエラートさんに聞き、拠点と塔を登ってくる部隊に別れたという。

 「そういえばライノスさんとエレナにアンジェリアさんは元気?」

 「そうだねー。ライノスは義理とは言え大臣の息子でしょ? で、クーデターを成功させた功労者って事で国王に抜擢されてね。忙しいかな? アンジェリアはそのライノスを支えるんだって張り切ってるよー。まあ、あれだけ世話を焼いていればクソ鈍感なライノスでも気付くんじゃないかなー? エリスは……まあ、その……」

 歯切れの悪いエリックに変わり、イリスが代わりに答えてくれた。

 「エレナさんは正式に隊長と婚約しました! だからここで死んでもらっちゃ困るんですよね」

 おお……ライノスさんが国王……ちょっと空回りと流されやすい所があるけど、アンジェリアさんが一緒なら大丈夫なのかな? エリックもエレナと婚約……うん、クーデター後どうなったかと気になっていたけど、国全体が改善に向かっているのは良かったと思う。私も協力した甲斐があったかな。

 「さて、積もる話はあるけどそちらの方が調子悪いみたいだよねー? 一旦拠点に戻るのかな?」

 「うん、とりあえず私達も少し休みたいし戻るわ。ここは任せていいの?」

 勿論と言いながら、イリスと部下を引き連れ、フロアの掃除と片づけを始めた。お言葉に甘えて私達は転移陣へと向かう……が、アネモネさんはその場から動かない。

 「どうしたんですか?」

 <……悪いがアタシは行けない。短い間だったけど今まで世話になったね>

 「まさかさっきの戦いでどこかケガを!? フレーレ、回復魔法を!」

 私がフレーレを呼ぶが、アネモネさんは私の肩に手を置いて首を振る。

 <そうじゃないんだ。アタシはもうすぐ消える。だから一緒には行けないのさ>

 消える? 消えるってアネモネさんが? だって今ここに居るのに……

 『すまないね……』

 エクソリアさんがアネモネさんに向かって謝ると、フッと笑う。

 <気にしなくていいさね。アタシ達は一度死んだ。それを蘇らせてくれた主には感謝しているよ、最後の最後でこいつらの役に立てたなら……いいさ>

 「どういうことですか!? 最後って!」

 『……人化の法は元の姿と能力を取り戻す代わりに魂を削る。一度発動したら戻らず、後は消えるだけ……』

 <それも全力を出したからね。もう身体は限界だ、ほら……>

 腕を差し出すと徐々に石化していた。

 「そんな……もしかしてみんな……?」

 <そうだぴょん。だけど気にすることないぴょん、わたし達よりも未来のあるあなた達を助けるためだっぴょん>

 「馬鹿な事を言うな!? 何故そんなことを!」

 レイドさんが叫ぶが、アネモネさんはまっすぐにレイドさんを見ながら言った。

 <……アタシ達はこの世界の住人だったんだ、それを壊されるってのを黙っていられるかってことさ。それにもう死んでいる人間だ、ここで役に立てるなら本望だ>

 「でもアネモネさんもリリーも生きているじゃない!? 仲間が死ぬのを黙って見ていろっていうの!」

 <はは、そう言ってくれるならそれこそ本望、だ……アタシは仲間に裏切られて死んだ。けど、最後にアンタ達が仲間で良かった、そう思うよ……>

 ピシピシと足元からも石化が進行していく。フレーレが泣きながらリザレクションを使うが、効果は無かった。

 <カイム、これを>

 まだ石になっていない手に持っていた刀をカイムさんに投げ渡す。

 「この刀に相応しいニンジャに……なって見せます」

 <いい答えだ。グダグダ言わないのは好きだよ……う……>

 胸の辺りまで石化が進行し、少しだけ呻くアネモネさん。

 <世界を……頼んだよ……一緒にいて楽しかっ>

 「アネモネさん!?」

 最後までいう事が出来ず、そのまま全身が石となってしまう。だけど……その顔は笑顔だった。

 そして、アネモネさんの身体は崩れるように砕け散った……。
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