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最終部:タワー・オブ・バベル

その212 圧倒

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 アネモネさんはエクソリアさんと何やら話をした後、一気にパパとカイムさんの所へ巨体を震わせ突っ込んでいく。
 途中、アネモネさんがお父さんを囲んでいた雑魚忍びを一部蹴散らし、二人が一気に盛り返した。

 「助かる。さて、残るはお前達だけか」

 雑魚を全て倒したお父さんが、腕の立つ二人を前に剣を構える。すると無言で二人が左右から斬りかかってきた。

 カキン!

 乾いた金属音が響き、片方を剣で、もう片方を素手で相手の刀を受け止めていた。アンデッドなので痛覚はないし、あの見た目も幻影みたいなものなので、お父さんには直接攻撃が殆ど通らないのだ。

 「貰う!」

 「ぐあ!?」

 素手で掴んでいた方の忍びを持ち上げてから床へ叩きつけると、呻き声が上がる。お父さんは手ごたえありとすぐにもう一人の相手へ攻撃しようとするが、私は異変に気づき叫んだ。

 「お父さん、今斬ったの丸太よ!?」

 「何!?」

 「ぬ、あの娘目ざといな! しかし遅い!」

 「まて、一旦引くぞ」

 二人は一度振り出しに戻した方がいいと判断したのか、合流する。そして会話を始めるのだった。

 「ござる……じゃない、カラスがやられたようだな……」

 「上忍もカクと俺の二人だけとなったか。しかし、やる事は変わらん」

 「そうだな、ハク。蛇がキルヤ様の元へ向かったようだし早い所ケリをつけんとな、くく……」

 あのござる、カラスって名前だったんだ……チラリとさっき血を吐いて倒れた遺体を見て私は驚愕した。

 「お父さん! レジナ、行って!」
 
 「ガオウウ!!」

 「む!?」

 「あの娘、本当にめざといでござるな!? 折角やった芝居が台無しでござる!? どわあああ!?」

 ござ……カラスの遺体を見ると、顔は隠れていたが全然別の忍びが倒れているのを私は見逃さなかった。すると天井からお父さんを狙って攻撃を仕掛けている忍びが見えたのだ。天井が高いので、戦闘に集中していたら気付かずにバッサリやられていたに違いない。
 私の合図でレジナがすかさず飛び掛かり、ござるを叩き落とした。

 「助かったぞレジナ」

 「ガウ♪」

 レジナがお父さんの足元で尻尾を振り、上忍と言った三人がそれぞれ囲むように展開してくる。レジナがいるとはいえ一対三の状況、私も参戦するべく立ち上がろうとしたところでお父さんに止められる。

 「ルーナ、休んでいろ。アイディールを守らないといけないだろう?」

 「ふん、奇襲は失敗したがこっちは三人だ。犬っころと貴様だけで勝てるかな?」

 「まあ、お前達は中々強いみたいだから文字通り少し骨が折れるが……」

 お父さんがそう言うとシルバとシロップの眼が輝いた。そして、私と再会した時と同じ、アンデッドの姿に戻っていた。

 「お父さん……?」

 「ここは俺とレジナでやる。娘に俺の戦いを見せるいい機会だ、少し真面目に戦うとしようか」

 「ガオウ!」

 ポキポキと骨をならしながら私にそう言うと、フッと姿を消した。

 「「「!?」」」

 三人の忍びがそれを見て驚く。次の瞬間、カクと呼ばれていた男が派手に吹っ飛んだ。その隙をついて、レイドさんがアネモネさんの後を追う。

 「どうした? ボーっとしてると……死ぬぞ?」

 「ハッ!? 骨が偉そうに!」

 「忍びの十八番を奪うとは許せないでござる!」

 お父さんがハクと呼ばれた男に斬りかかると動揺しながらもハクとカラスが反撃に移るが、お父さんにはかすりもしない。元の姿になるとあんなに強いんだ……。
 
 「ぐあ!?」

 「おっと、骨が折れたのはそっちだったか。ん?」

 ボフっと煙と共に姿を消したハクが腕を抑えながら別の場所へ現れる。完全に避けきれなかったようだ。少なくともヒビは入っていると思う。
 
 「大丈夫でござるかハク! アンデッドとはいえバラバラにしてしまえば! 鎌鼬の法!」

 「ガオン!」

 「犬!? あたぁ!?」

 「俺にばかり目を向けているからだ。三人いてこのザマか? せい!」

 お父さんが一瞬でござるの目の前に現れ、胸ぐらを掴んで持ち上げる。レジナが慌てて噛んでいた腕を離して着地すると、お父さんは持っていた剣をござるに向かって刺し貫こうとした!

 「掴んでいればあの変な技は使えまい、まずは一人……おっと」

 「痛いでござる!?」

 容赦なく心臓を狙っていたお父さんだったけど、最初に吹き飛ばしたカクが剣を持った方の手を刀で攻撃していた。それにより狙いがずれ、ござるの脇腹を掠めていた。

 「早い復帰だったな。割と全力でぶっとばしたんだが……な!」

 「うぐお!? 何て力だ……!」

 お父さんの裏拳がカクの顔面目がけ飛ぶと、それを何とか刀でガードした。しかし、ズザザザザと畳の上を滑るように下がらされた。

 「さて、もう終わりか?」

 「こ、こいつ怖いでござざざる! 拙者たちより悪っぽいでござる!」

 「狼狽えるな! たかがアンデットの一人や二人……」

 ござるが叫ぶと、カクが怒鳴る。そこに片腕が動かないハクがお父さんの頭を狙って殴り掛かっていた。

 「くらえ! 頭が潰れれば活動は停止するはずだ……!」

 「狙いはいいが……」

 死角からの攻撃をあっさりと受け止めると、ハクの腕が曲がってはいけない方向へと曲がった……もちろん掴んでいるのであの変な技は使えない。これで両腕が使い物にならなくなった……。

 「うおおおおおお!? 腕がぁぁぁぁぁぁ!?」

 「まあ、落ち着けよ」

 のた打ち回るハクに剣を突きたてようとするお父さん。本当に容赦なく攻めていた。

 「ぬおおおお、死ねるかぁぁぁ!?」

 「ハクゥゥゥゥ!?」

 命の危機を感じたハクは足でタタミを踏みつけるとタタミが浮き上がり、お父さんの目を塞ぐ。その瞬間、ござるが投げ縄のようなものでハクを救出していた。

 「はあ……はあ……なんだあのアンデッド……!」

 「強すぎる……一体何者……」

 「しぶといな、俺はこれでも元・魔王だぞ?」

 「ま、魔王……だと……魔王って城とかで待ってるもんじゃ……」

 三馬鹿が驚きの声を上げると、お父さんが首をコキャっと鳴らして言った。

 「そろそろ向こうも気になるし、終わりにしよう。レジナ、構えるんだ」

 「ガウ」

 レジナが張り切って身を低くすると、三馬鹿はビクッと身を震わせてひそひそと話しだした。何だろう?

 「(魔王相手では我らに勝ち目は薄い、こうなったら一気にいくしかない。両腕が使えない俺が先に行く。後は頼んだ)」

 「(承知……!)」

 「(すぐに我らもゆく)」

 話し合いが終わったのか、覚悟をした目で三人が立ち並んだ。

 そして……

 「うおおおおお!」

 「む!? あれは?」

 両腕をプラプラさせながら突っ込んできたのはハク! すかさずレジナがハクに食らいつくが勢いは止まらない! お父さんに近づいた所でニヤリと笑うのが見えた。

 「いかん! レジナ!」

 「きゃうん!?」

 「わ!?」

 急にレジナをハクから引きはがし、私の方へ投げてきた。何事かと思い、お父さんへ目を向けるとその瞬間ハクが爆発し、煙がお父さんを包み込んだ!?

 「今でござる! お主の死は無駄にはあ!?」

 「その頭蓋貰ったぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 「自爆か?」

 どうやら自爆に乗じて、残る二人が攻撃を仕掛けたようだ。だが、お父さんには通用しなかったらしく絶叫が響き渡る。

 「ぬおおおお!? さ、最後のチャンスも潰されるとは!? こうなれば……」

 「この距離なら避けられまいでござる!」

 カチッ

 ござるとカクが何か叫び、スイッチを入れたような音が響くと再度爆発が起こった! 火柱があがり、辺りに焦げた匂いが充満する。

 「お父さん!?」

 「何だ?」

 私が叫ぶと、ぶわっと煙が吹き飛びお父さんの姿が現れる。今は骨じゃない状態に戻っていた。そして足元には三馬鹿が倒れていた。

 「根性は悪くなかったが、ここまでだ」

 「む、無念……でござる……」

 ござるがそう言ってガクリと倒れると、お父さんは私に声をかけてきた。

 「ルーナ、ハイポーションを持っていただろう。一本貸してくれ」

 「え? ……はい!」

 私はカバンからハイポーションを取り出して投げ渡すと、お父さんはおもむろにござるの口にハイポーションを突っ込んだ。

 「フレーレを助けねばならんからな。お前は息があるみたいだし、あの檻の解除方法を教えてもらおうか」

 「ふご!? ふごごご!?」

 あれじゃ窒息して死にそうだけど……でもこっちはこれで沈黙させることができた。残るはキルヤとかいうボスだけね。
 そう思いながら私はパパとカイムさんの方を見る。だが、事態は思わぬ方向へ向かっていた。 
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