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最終部:タワー・オブ・バベル
その211 窮地
しおりを挟む「しっかりしろ! おい、アイディール!」
「ディクライン、一旦下がれ! ルーナ、カイム君、二人を背に反撃をするぞ!」
お父さんの号令で態勢を整えるために私達は動き、その間にパパがママを引きずって扉の前まで戻ると、体を揺すったりしているところで扉の魔法障壁からエクソリアさんが声をかけてきた。
『動かすな! この症状、恐らくアナフィラキシーだ。しかし、どうして……』
「あな……? なんだそりゃ! くそ、回復魔法があれば……」
「アイディールさん!」
頼みの綱であるフレーレは檻の中。そこへキルヤが部下に攻撃を止めさせ、私達に話しかけてきた。にやついた顔が気持ち悪いんですけど!
「ふっふ……女神なら分かるか。そう、その女を蝕んでいるのはアナフィラキシーだ。神裂様が前の階でケシから取れる薬物を宿した蜘蛛を放っていたのだ。そいつはその蜘蛛に噛まれた事があるから覚えがあるだろう? その薬物をもう一度その女の体内に入れたという訳だ」
『やはりどこかでボク達の動きを見ているみたいだね? ペラペラと喋ってくれて助かるよ』
「それがどうした? どうせお前達はここで全滅だ、気にする必要もあるまい。しかし、このまま殺すのも面白くない……これが何か分かるか?」
キルヤは懐から注射器? を。取り出す。それを見てレジナやシルバ、シロップの尻尾がペロンと垂れ下がった。狂犬病の時を思い出したに違いない。
『……治療薬、か』
「ご名答。見立てでは一時間というところか? そして……」
懐へ注射器を仕舞いながら部下へ合図するキルヤ。すると、フレーレの檻に変化が訪れた!
ガコン……
重苦しい音共に檻全体がガラスの壁に囲まれたのだ。
「これは……!?」
戸惑うフレーレの声をあざ笑うかのように、天井から水が檻の中に注ぎ込まれてきた。
「フ、フレーレさん!」
「さて、どちらも一時間以内でお陀仏だ! 女共が死ぬのが先か、お前達が死ぬのが先か……面白いだろう? そら、愛する者が危ないぞ、ボーっと見ていていいのか?」
カイムさんが叫び、キルヤが挑発をしてくる。いけない流れだ……!
「おおおおお!」
「ディクライン!」
「むう! 早いな! はははは!」
最初に動いたのはパパだった、見たことも無い早さでキルヤの目の前に到達していた。刀で受けるのは不可能と判断したのか、キルヤは紙一重で回避する。振り切った一撃は床の畳を舞い上げていた。キルヤを睨みつけながらさらに追撃を行う。
「ディクラインさん、加勢します!」
「いいぞ! この強さ! 本気で来い!」
カイムさんも加わり、キルヤ相手に二人がつく。それを見て、お父さんが呻くように呟いた。
「ええい、策に踊らされてしまうか……ルーナ、レイド君、アネモネ殿。俺達で雑魚を倒すぞ」
「分かりました! アネモネさんはアイディールさんを!」
<仕方ないね……>
アネモネさんは冷静に言うが、語気が強いところを見ると怒っているようだった。しかし、何に対してかを怒っているのかを考えている暇は無い!
「煉獄剣!」
「ぐわあ!?」
「数が多い……フレーレも助けないといけないのに!」
キィン!
「アカザの死を無駄にしないためにもここであの娘共々死んでもらうでござるぞ……!」
「手ごわい!」
見ればお父さんは私と戦っている忍びと同じく、他とは違う雰囲気を持った忍び、だっけ? 二人と交戦していた。見た目は他と変わらないのに腕が立つ!
「驚いているでござるな? 木を隠すには森、ということでござる! 雑魚だと思った主らの驕りでござる!」
「時間が無いの、悪いけど倒させてもらうわ」
雑魚を相手取りながら、私は目の前のござる男と対峙する。汚い手ばっかり使って……絶対に許さない!
◆ ◇ ◆
「ああ……アイディールさんが……」
フレーレは格子を掴みながら外の様子を伺っていた。明らかにキルヤがディクラインとカイムを自分へ向けさせて戦力を分断している。
「回復魔法はこの場で私だけ……何とか、しないと」
フレーレは聖魔光で檻が壊せないか試していたが、何の材質で出来ているのか、ビクともしなかった。足元の水も徐々にかさが増してきており不安を覚える。
檻自体はそれほど大きい訳でも無いので、できることは少ない。それでも何か出来ることは無いか探すフレーレ。
その内、流れ落ちてくる水を見るため、ふと天井を見上げると錠のようなものを発見した。
「あそこが出口ですね! でも高いし鍵が無い……でも、やるしかないですね……」
天井までは約五メートル程で、フレーレはジャンプしても届きそうにない。檻をよじ登っても鍵は真ん中にあるため今のままではどうあがいても、錠を手にすることが出来なかった。
「もう少し待てばいけますか……後はわたし次第……フォルサさん、見守っていてください!」
フレーレには一つ策があった。しかしそれを実行するにはまだ早く、ルーナ達を見ながら祈るように手を合わせた。
◆ ◇ ◆
かれこれ三十分は経ったかしら……無我夢中で戦いつづけ、私を取り囲んでいた忍び次々と倒し、その数を減らしていた。
「はあ、はあ……雑魚はこれで終わりよ!」
そしてようやく雑魚を倒すことが出来たが、私も無傷では済んでおらず、剣を持つ手が重くなってきていた。そこにあの腕の立つ忍びが畳み掛けてきた。
「しかし、肩で息をしているでござるな? 勝機!」
「くっ……ああ!?」
キン! ガコ! ゴッ!
向かってくるござるに剣を振るが、体力の消耗が激しいのか剣に振り回されてしまった。その隙を付つかれ、私は脇腹と背中に一撃をもらってしまった。
「本命の刀を防ぐとは見事、しかしそう何度も防げまいでござる」
「きゃあ!? ま、まだまだ!」
ザシュ、と渾身の力でござるの肩を剣で斬り裂く。相手もそれなりに疲れが見えているのか、完全にはかわしきれなかったようだ。
「ルーナ!」
「余所見をしている暇はあるまい!」
レイドさんが魔法壁の向こうから心配して声をかけてくれる。少し気分が高揚したけど、相手は容赦なく攻め立ててくる。
「その根性、敵にしておくには惜しいでござるがこれも任務。とどめを刺させてもらう!」
来る! 投げナイフのようなものを投げつけてくるござる。それを弾いたが、その瞬間姿を見失ってしまう。右、左……いない! もしや……上!
「勘は良かったがもう遅い! その首、もらった!」
雑魚で体力を消耗していなければ……そう思うが、そうもいっていられない。これは戦いなのだから。一か八か、剣を突き出すが身を捻りかわされる。ダメか!
だが、その瞬間ござるの体に白い何かが巻きついた!
「な、何と!? うぐああああああ!」
<ルーナ、見事さね! 雑魚が居なくなりゃ少しアイディールから離れても問題ない!>
ママを守るため後方に居たアネモネさんだった! ござるを締め上げ、めきめきと骨が軋む音と共に畳の上へ落下すると、アネモネさんが叫んだ。
<トドメをさしな!>
「……っく、はい!」
「おのぉぉぉれぇぇぇぇ!?」
ござるの胸に剣が突き刺さり、ごぼっと血を吐き首がガクンと項垂れた。アネモネさんが拘束を解くと、ビクンと一瞬跳ねた後動かなくなった。
<やれやれ、面倒な相手だったね。ニンジャってやつは確実に仕留めるためには手段を選ばないからね。さて、それじゃルーナ、アンタは休憩がてらアイディールを頼むよ。アタシは、あの馬鹿二人の所へ行ってくるさね>
「アネモネさん?」
<相手も賢しいけど、それに釣られるとは情けないってことさね。特にバカイムは同じニンジャなんだ、真っ向勝負はディクラインに任せて、アイツは他にやることがあるはずなんだよ>
ぐん、と体を大きくして語気を荒げるアネモネさん。
<いざとなったら使うからね、主>
『ああ、使いどころは君達に一任してある』
それを聞いて満足そうに笑うと、アネモネさんはパパとカイムさんの元へ一気に走り出した。
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