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最終部:タワー・オブ・バベル
その205 奇襲
しおりを挟む<バベルの塔:一四階>
「何となくだけど罠のクセみたいなのが分かって来たわね。レジナ、そこ危ないわよ」
「ガウ!」
レイドさんのマッピングを見る限り、十四階も半分は攻略しているみたいだった。相変わらずカイムさんが先頭で罠を解除してくれるけど、私もそれなりに「あ、ここかな?」というのが何となく分かるようになってきた。
ちなみにだけど、魔物が出現するエリアはほぼ100%で設置されている。
「なあ牛よ、十五階もお前みたいなヤツがいると思うか?」
「アステリオスっす。俺は十階までしか行った事が無かったので分からないなあ……でも俺の時は区切りとして置いておく、みたいな意味合いであそこに立たされていたのでいてもおかしくないかと」
「牛は荷物持ちくらいにしか役に立たないのか……」
「アステリオスっす。そうですね、この狭さだと元の姿になったところで袋叩きにあうんで……」
パパとレイドさんが交互に話しかけ、アステリオスがそれに答える。十一階以降はアステリオスの居たフロアと違い、通路の横幅が非常に狭い。ミノタウロス状態だと、一人で通路の半分は埋まってしまうほどなのだ。八階や九階なら迷路が大雑把で広かったんだけどね。
『まあ、牛みたいに裏切り者が居ないとも限らないから神裂も詳細は教えないだろうね。そしてこの塔、親切に見えて確実にこちらの戦力を削る気でいるから十中八九いるだろうね。後は二十階攻略後も考えないと』
「神裂様に呼び出されたとは言え、やっぱり死にたくないっすから俺みたいなのはまた出て来るんじゃあないかと思いますぜ」
魔物は意思が無い、というより意思疎通が取れないものが多いから分からないけど、案外アルテリオスみたいな魔物もいるのかもね。引っかかるのは……と、私が聞こうとしたところで魔物の群れが現れた。
「とりあえず行ってみれば分かるわよ。出てきたのは……カエルの化け物か、楽勝ね」
<いくぞお主ら!>
「わん!」「きゅんきゅーん!」「きゅふん!」
ママが呟き、チェイシャやシルバ達も臨戦態勢になる。さて、私もレイジングムーンで援護といきますか!
◆ ◆ ◆
「っと、これでこの辺りの罠は全部解除しました」
カエルの化け物をあっという間に一蹴した私達は、カイムさんが罠を解除後そのまま道なりに進み、登り階段に到着する。この調子なら明後日には二十階へ辿り着けるかもしれない。こっちが元気な内に外へ戻らないと……。
そして階段を登りきると奇妙な光景が目に入った。
<ん? ふすま……?>
「ふすま? この壁の事か?」
アネモネさんの呟きにレイドさんが反応し、アネモネさんが頷く。
ふすまは引き戸式の扉になっていて、それが壁の端っこまでずらりと並んでいた。
「こういう使い方をするものでは無いのですが……着いて来てください」
カイムさんがスパン! と、勢いよく開け放つと、数歩先にはまた同じ物が並ぶ。魔物が出てくるわけでもなく、次から次へと現れるふすまを開けていき、最後に出てきたのは……
『庭、かしらね?』
「え、ええ。こちらでいう所の、貴族の屋敷にしつらえるような立派な庭ですね」
アルモニアさんが近くの石のオブジェを槍で突きながら呟いていると、カイムさんが解説してくれた。見渡すと、塔のワンフロアを丸々使った庭園といった感じで、先程の石で出来たオブジェに、雑木林、それに池があり、さらに小屋のようなものまであった。
「休憩所?」
「お、俺のいた五階には何も無かったのに……」
アステリオスが絶望の声を上げる中、狼達がてくてくと池に向かって歩き出したので、私とチェイシャがその後を追う。
「……ただの池、みたいね」
「わんわん!」
シルバが池に向かって吠えているが、水には葉っぱと木の棒が浮いているだけで特におかしなところはない。だけど、シロップも近くにある木の棒を手でつんつんと触ったりして警戒しているみたいだった。
「きゅんきゅん」
<ふうむ、この木の棒が怪しいらしいぞ>
チェイシャが通訳してくれていると、カイムさんが慌てた様子でこっちに走ってきているのが見えた。
「その池は……!」
そこでラズベがぴちゃぴちゃと池に手を突っ込んでいたシルバに一声鳴いた。
「きゅふん!」
「わふ? わん!」
何かを悟ったシルバはおもむろに池に向かって後ろ足を上げる。このスタイルは……!
チョロロロ……
「あ」
カイムさんが間抜けな声をあげ、シルバの粗相を見ていた。木の棒にオシッコがかかり、池に広がっていった。
「わふん……」
用を足し、満足げな表情になったシルバが池に振り返った所でそれは起きた!
「「おべろべおおおえぇぇぇ……!?」」
ざっぱぁぁぁん! と、池の中から数人の男達が次々と顔を出してきたのだ!
「ひえ!?」
「ルーナ!」
私が後ずさると、レイドさんがダッシュで私の前に駆けつけてくれた。池の中で男達が咳き込みながら私達に向かって怒声を浴びせてきた。
「お前が飼い主か! 犬のしつけはきちんとしろ! 池は飲み水になるのだぞ!」
「ぺっぺ……臭っ!? 絶対ゆるさねぇからな……!」
奇襲をするつもりだったのだろうか、他にもいわれのない抗議の声を上げているが、そこへアルモニアさんが男の一人に槍を突きつけて冷静に言った。
『言いたい事はそれだけ? 隠れていたつもりみたいだけど、こっちは地上でそっちは水の中。このまま首を刈り取ってもいいんだけど?』
「むぐ……!?」
<まあそうなるじゃろう>
チェイシャが呆れた声をあげると、カイムさんが雑木林の方を向いて急に叫んだ。
「いけない! 皆さんその場から飛びのいて!」
『はっ!』
「分かったわ!」
「何だ!?」
池の近くに居た私達が飛びのくと、雑木林からカイムさんがよく使うシュリケンが飛んできた! あのまま立っていたら怪我をしていたかもしれない。
そして雑木林から池の中に居た男達と同じ格好をした人達が四人ほど姿を現した。
「たかが犬の小便ごときで冷静さを失うとは恥を知れ」
先頭に立っていた男が池に向かって喋りかけていた。池の方を見ると……先程の男達は全員、シュリケンが的確に眉間や頭に刺さってぷかりと浮いていた。敵とはいえあんまりな扱いだと思う。
「わんわん!」
<自分たちは狼じゃと言っておる。それにしても仲間をあっさり殺すとは呆れたもんじゃ>
「知るか。役立たずは死ぬ、それが忍びの掟だ。だがまあ、奇襲には失敗したが分断には成功した。その、首いただくとしよう」
男の言葉を聞いて向こうを見ると、お父さんにパパとママ、エクソリアさんが囲まれていた。こちらも池を背にした状態でいつの間にか逃げ場が無くなっている。
「ガウゥゥウ……!」
「俺が右をやる。アルモニアさんは左を頼めるか? カイムはあの一番偉そうなやつを頼む」
『誰に言ってるのよ、当然でしょ。ルーナ、あなたはシルバちゃん達と援護を頼むわ』
「承知しました」
「補助魔法、かけておきますね! さあて、レジナ達を犬呼ばわりした事を後悔させてやりましょうか」
「わぉぉぉぉん!!」
「きゅきゅぅぅぅぅん!」
シルバとシロップの遠吠えと共に、黒ずくめの集団との戦闘が始まった!
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