183 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その204 玉砕
しおりを挟むカン! キィン!
ドタドタと、狭い室内でバステトがキルヤの刺客と交戦する。バステトは垂れ目の男と、ジャンナは小鳥の姿のまま、もう一人の男を翻弄していた
<む、中々やるにゃ>
「は、猫が刺突剣とは変わった世界だ!」
垂れ目の男は鉤爪でバステトの攻撃を捌く。バステトの攻撃が遅いわけではないが、うまく軸をずらされているため決定打には遠い。このままでは埒があかないと、バステトが叫ぶ。
<ジャンナ、フレーレとセイラを起こして逃がすにゃ! できれば援軍を……>
「それは私が引き受けよう」
バァン!
「ぬぐ!?」
乱暴にドアが開けられ、傍に居た男が派手に吹き飛ばされた。
<カルエラートかにゃ! 助かるにゃ>
「寝るには少々騒がしいみたいだからな。ふふ、これで頭数は同じになったぞ?」
騒ぎを聞きつけてきたのはカルエラート。剣を相手に突きつけて不敵に笑う。その隙にジャンナがフレーレを突いて起こしていた。
<ぴー! フレーレ、起きなさい!>
「う、ううん……ジャンナですか……?」
<そうよ! 緊急事態! 賊よ賊!>
「むにゃ……ぞくぞくします……賊!?」
ガバっと勢いよく布団を剥いで起き上がるフレーレ。横を見ると、目だけ出ている覆面姿の人影を二人見つけ、ぶるりと震えた。気配には敏感な方だがまったく気付かなかったからだ。
「チッ、起きたか……まあいい、蹴散らして連れて行けばいいだけの話!」
垂れ目の男が喋りながらバステト……に行かず、カルエラートへ踏み込む! 同時にもう一人の男が頭上からカルエラートへ襲いかかっていた。
「ふっ!」
<二人で一人を狙うのはいい手だけど、わたしが居る事を忘れちゃダメにゃ!>
「猫、邪魔をするな!」
カルエラートが垂れ目の男の爪を剣で受け、バステトがもう一人の男を蹴り、挟み撃ちの態勢を取る。そこでカルエラートがセイラを起こしているフレーレに声をかけた。
「どうやらこいつらの狙いはお前だフレーレ! こいつらがさっきの冒険者だとしたら後二人いる、そこから動くんじゃないぞ!」
<ぴー、私がクラウスたちを呼んでくるわ! フレーレ、窓を開けて>
「は、はい! セイラ、起きてください!」
<頼んだにゃ!>
木の板が開閉するだけのシンプルな窓をフレーレが開けると、ジャンナが凄い勢いで飛んでいった。カルエラートは頷き、垂れ目の男を押し返す!
「たあ!」
「とっと……! へえ、乳だけじゃなく力もすげぇんだな」
「世迷言を……!」
狭い部屋での交戦が続き、暗闇の中で打ち合いの火花が散る。斬撃は速いカルエラートだが、狭い部屋で思い切り振りかぶることが出来ないので相手の傷は浅かった。
「のらりとする……!」
<焦っちゃダメにゃ、誰か来るまで耐えれば勝ちにゃ!>
「細い剣でよくやる」
ギリギリともう一人の男と睨みあいながらバステトが叫んだ。そこに垂れ目の男が攻撃を止めてバステト目がけて投げナイフのようなものを投げつけた。バステトは避けるためその場を離れると、もう一人の男と垂れ目の男が合流する。
「さて……俺達ぁ直接戦闘は苦手なんだが、逃がしてくれ無さそうだな」
<観念したかにゃ? このままクラウス達が来たらお前達の負けにゃ>
ビシュ、とレイピアで突きながら相手を壁際へ追いつめるバステト。男達は部屋の角を背にし、左右をバステトとカルエラートに塞がれる形になった。
「これで逃げられんぞ」
「……ふん、任務を果たせず戻ったところで殺されるのは目に見えている。大人しく捕まった方が生き延びれるかもな……だが!」
「お前……!」
垂れ目の男が何かを決意し、両手に爪を装着して二人に襲いかかる!
「!?」
<にゃにゃ!?>
ドシュ! ズブシュ!
咄嗟にバステトとカルエラートが反撃に出て、垂れ目の男の体を武器が貫通する。男はニヤリと笑い、そのままバステトとカルエラートの手首を掴んだ。
「な!? は、離せ!?」
「くくっ……そう簡単に外させないぜぇ? げぼ……おい、今の内に連れて行け」
垂れ目の男がもう一人の男に言うと、三人を飛び越えてフレーレへと向かった。
「アカザ、お前の死は無駄ではないぞ」
「フレーレ! 逃げろ!?」
カルエラートが叫ぶと、セイラを起こそうとしていたフレーレの体がビクっと震える。
「で、でも! ……は、はい!」
目覚めぬセイラを再びベッドへ横たえると、フレーレは窓を開け乗り越えようとした。しかし、そこは忍び。あっという間に男に口を押えられ気絶させられてしまった。そこへクラウス達、ブラックブレードのメンバーが駆け込んでくる。クラウスは状況を一瞬で把握し、フレーレを抱えた男へ斬りかかる。
<にゃんとぉ!?>
だが、アカザと呼ばれた垂れ目の男がバステトをクラウスに投げつけて妨害したのだ!
「チッ!?」
「さらばだ」
窓からもう一人の男が出ようとし、それをキールやブラウンが魔法と投げナイフで止めようとするが、アカザがここぞとばかりに懐から何かを取り出し、床に叩きつけた。
「はっはあ! フィナーレだ!」
カッ!
床に叩きつけられた何かはボフっという音共に爆発し、眩いばかりの光を放った。暗闇の中で急に照らされ、その場にいた全員の眼が一瞬で眩む。
「くそ……! 何も見えねぇ!」
<ぴー! フレーレ! フレーレ!>
「はっは……任務完了、だ……」
ドチャっと自分の流した血の海に倒れ込み、そのまま動かなくなった。しばらくしてから目が回復したが、もちろんもう一人の男はすでにどこにも見当たらなかった。
「野郎、一体どういうつもりで……!」
<ぴー! 私も行くわ、空からなら!>
すぐに小屋を出て後を追うクラウス達とジャンナ。カルエラートは手首を掴まれたままだったので、バステトがそれを外していた。
<大丈夫かにゃ>
「すまない。凄い力だった、まだ手首が痺れている……それより私達も追おう!」
<カルエラートは消耗が激しいからセイラを頼むにゃ。わたしが追うんだにゃ!>
よろよろと立ち上がったカルエラートをバステトがベッドへ座らせ、外へと駆け出して行った。
「(こいつらは何だったんだ? 何故フレーレを……)」
よもや塔から出てきた刺客とは思わず、カルエラートは痛む手首を抑えながら考えていた。
---------------------------------------------------
「……あれは」
「間違いないでござる、こっちでござる」
モルトとトマスを躱した二人はフレーレを背負ったもう一人の男を発見する。二人も丁度拠点に戻ろうとしたところだったので入れ違いにならずにすんだ。
「無事か二人とも」
「何とかな。そちらもうまくいったようだが……アカザはどうした?」
もう一人男は目を瞑って首を振ると、二人はすぐに察した。
「そうか。では任務は達成した、戻るとしよう」
忍びとは任務の為に捨石になる事もある。今回はアカザの番だった、それだけの事。悲しいと言う感情は無く、三人は立派に事を成し遂げてくれたと、拠点を後にするのだった。
0
お気に入りに追加
4,187
あなたにおすすめの小説
賢者の転生実験
東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。
不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。
大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?
先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!
【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>
天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。
【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】
飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。
アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。
セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。
最終的にはハッピーエンドになる予定です!
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
あなたたちのことなんて知らない
gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。