182 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その203 黒影
しおりを挟む<塔の外:拠点>
四人の冒険者を招きいれた拠点は晩御飯の準備が進められていた。本日は少し離れた所にある湖で獲れたデスクラブの鍋だった。
<いくらでかくてもドラゴンのオイラにゃ勝てないよ>
<ぐぬぬ……わたしも頑張ったのにゃ……>
<ぴー。はいはい、新しい顔がいるし、どこで聞かれるか分からないからあんまり喋らないようにね>
<たまには甲殻類というのも悪くないな>
守護獣達は新しく来た四人の冒険者達を避けるため、小さくなってからセイラ達の居る小屋の中で待機していた。
知った顔がいないパーティなので、もしかしたら騒ぎを起こすかもしれないという事と、女性が襲われるのを防ぐためでもある。
<用心に越したことはないからな。カルエラートはともかく、セイラとフレーレは本調子ではないし>
カームがバキバキと蟹の鋏を甲羅ごと食べながら言う。守護獣達は顔を見合わせてから頷き、各々の食事へと戻る。小屋には現在セイラだけが残っている状況だったりする。
一方、カルエラート達は……
「そうか、あなた方も神裂を。なら志は同じだ、ここを拠点にしてお互い頑張ろう」
そう言って四人に器を渡し、食べるように勧めるカルエラート。
焚き火の前にはクラウス達ブラックブレードの面々やシルキー、モルト達にフレーレも座っており、デスクラブの鍋を食していた。
「ルーナの育った村でも食べましたけど、やっぱり美味しいですねー……はふはふ……」
「少し顔色が良くなってきたわね。良かったわ」
「ありがとうございますシルキーさん! わたしは血と少し魔力を取られただけですから。セイラのほうが少し心配です……」
シルキーとフレーレがそんな話をしているのをよそに、四人の冒険者風の男達はギラリとフレーレの方へ目を向けていた。
「(あの娘でござるな)」
「(ああ……しかし、あの料理番といい、ターゲットの横にいる娘といい、容姿がいいのが揃っているな……ゴクリ……)」
「(止めとけ。キルヤ殿にバレたら股間を潰されるだけじゃすまんぞ。ヤツらが二十階に上がるまでに捕らえる事だけを考えろ。我等”黒影”がそんな事でキルヤ殿の機嫌を損ねては笑いものぞ)」
「(へえへえ、真面目なこって)」
「(茶化すな。寝静まってから行動を起こすぞ)」
男達がそんな話をしていることも露知らず、フレーレはポンと手を打ってカルエラートへと話しかけていた。
「そういえばチェーリカとソキウスが塔に居るんですよね。食事、持って行ってあげないと」
「ん、そういえばそうだな。片付けたら行くとしよう。ささ、どんどん食べてくれ……とはいえ、そろそろ食料を補給したい所ではあるけどな……」
想定よりも人数が増えたので、食料が減るのが早い。ワイバーンやデスクラブなど、天然の魔物を倒して食材にしているが、多いに越したことはないのだ。
「今度、別の町まで行ってみるか。馬車の代わりにファウダーに引っ張らせてよ! そしたら買い込むのも難しくないんじゃねぇか?」
クラウスの提案に皆が賛同し、明日は別の町へ買出しへ行く事になったところで夕食はお開きとなった。女性陣は小屋へ行き、残りはテントや馬車の荷台、焚き火の前など適当に散っていた。
ちなみに壁を作り慣れてきたからか、今では少しずつ囲いを広げながら、小屋を建造している。一応雨風をしのげる寝床は欲しいので簡易の二段ベッドを小屋に設置する予定なのだ。小屋一つで四人まで、そんなコンセプトをブラウンは考えていた。
それはさておき、夜はこれからという時間になり、男達はゆっくりと身を起こす。拠点から出て行く人影を見かけたからだ。
「先程の話からすると恐らくあの娘に違いない。二人で出て行ったようだから、俺ともう一人いけるか?」
「拙者がいくでござる」
「では残りの者は怪しまれぬようここで待機。無事捕らえた時には狼煙を上げるから注意しておいてくれ」
あっという間に忍び装束に着替え、残留組の二人を置いて、明かりのない壁にそって出口を目指す誘拐組の二人。転移陣まではそれなりの距離だが、遮蔽物が無いので拠点と転移陣の半分に近づいた直後を狙うのが良かろうと考えていた。
「月明かりも無い……これは天が味方してくれているな」
「即任務を成功させるでござるよ……」
うひひ、とほくそ笑みながら影を追う。そして拠点と転移陣の中間に差し掛かったとき、彼らは動いた!
「恨みはないが、その身柄拘束させていただく!」
「!?」
後ろから口に手をあて騒がれないようにし、ござるももう一人を拘束する。だが、その瞬間二人は違和感を覚える。
「(ん? こんなに肩幅広かったでござるか? それに顎の辺りがもじゃもじゃと……)」
そう思った瞬間、二人は宙へと投げられていた。
「なんと!」
咄嗟に身を翻し着地する。そして目の前の相手が咳き込みながら、しゃがれた声を発していた。
「ええい、何モンじゃおぬしら! 盗賊か野盗か?」
そう叫んだのはモルト。
「だんまりか? なら力づくで喋らせてやろう」
もう一人はトマスだった。フレーレとカルエラートだと思っていた男は少し期待をして襲い掛かったのだが、おっさんに抱きつく形になりもだえていた。
「(何でおっさんんん!? あの娘ではないのか!?)」
「(拙者気分が悪くなってきたでござる……)」
自業自得であった。
フレーレは最初自分で届けると申し出ていたが、夜道は危ないということと、病み上がりにそれはさせられないと言ってモルトとトマスが代わりに届けると出てきていたのだ。
「(くっ……戻るぞ……!)」
「(もちろんでござる……! 拙者の勘が正しければ残った二人が……!)」
慌てて二手に散って逃げ出す。醜態をさらしたがそこは流石に忍び。モルトとトマスが追いつけない速度ですぐに身を隠す事に成功した。
「チッ、逃げ足が早いな。トマス、食事はお前が届けてくれ。わしは拠点に戻ってみんなに知らせてくる」
「任せろ。気をつけてな」
---------------------------------------------------
丁度、モルト達が狙われた頃、小屋では……。
「(ひっひ……俺は夜目が利くんだ、出て行ったのが娘じゃない事は分かっていた……)」
「(なら言ってやればよかったのに……それにしてもよく寝ている。それじゃ早いところ仕事をしよう)」
垂れ目の男がいやらしく笑い、もう一人の男が連れて行こうとする。それを、垂れ目の男が制す。
「……何のつもりだ?」
「ばっかおめぇ、折角ここまで来たんだ、つまみ食いしても文句は言われないだろ? ほれ、さっきは見かけなかったそっちの女もいい女だぜ?」
フレーレの横にはセイラが寝ており、すーすーと寝息を立てていた。それを見てゴクリとつばを飲み込む。
「し、しかし任務は……」
「かぁー固いねぇ……ま、嫌ならそこにいろや。さぁって子猫ちゃん、お邪魔しますよっと……」
垂れ目の男が布団を剥がそうとしたその時だった。
「ぐあ……!?」
寝返りをうったフレーレの拳が潜ろうとした男の後頭部へヒットした! ゴキン、と鈍い音が響きわたる。
「うーん……ダメですよそんなに飲んだら……酔いどレイドさんになっちゃいますよ……むにゃむにゃ」
「くっ、寝言か……今度こそ……」
垂れ目が下半身を先に潜らせようとし、半分ほど入ったところで……
ゴッ!
「#$%&¥!?」
「んふふ……海で履くって言ったらサンダルーナじゃないですか……むにゃ……」
フレーレが身をよじった直後、膝が股間に直撃しベッドから転げ落ちた。もう一人の男が察し、顔をしかめていた。
「お、起きてるんじゃないだろうな!? こうなったら力づくで!」
自業自得だが、ついに強硬手段に出た垂れ目の男が掛け布団を取り払う。だが、そこでどこからか声がかかった。
<ぴー、まったく夜中に騒がしいわね>
<でもこの小屋にいて正解だったにゃ、観念してお縄になるにゃ>
「だ、誰だ!? ぐへ……!?」
天井からジャンナ、ベッドの下からバステトが現われ、バステトがベッドの近くに居た垂れ目の男を蹴飛ばした!
<ぴ。あんた達、今日来た冒険者?>
「……」
<無言は肯定とみなすにゃ>
バステトがレイピアを構えると、二人の男は雰囲気を変えた。先程までと違い、空気がピンと張り詰めた気がした。
「仕方ねぇ、お前の言うとおり任務を遂行するか」
「最初からそれで良かったのだ、まったく手間をかけさせる」
<何のことかわからないけど、覚悟するにゃ!>
バステトの言葉と同時に、二人が動き出した……!
0
お気に入りに追加
4,185
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。