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最終部:タワー・オブ・バベル
その203 黒影
しおりを挟む<塔の外:拠点>
四人の冒険者を招きいれた拠点は晩御飯の準備が進められていた。本日は少し離れた所にある湖で獲れたデスクラブの鍋だった。
<いくらでかくてもドラゴンのオイラにゃ勝てないよ>
<ぐぬぬ……わたしも頑張ったのにゃ……>
<ぴー。はいはい、新しい顔がいるし、どこで聞かれるか分からないからあんまり喋らないようにね>
<たまには甲殻類というのも悪くないな>
守護獣達は新しく来た四人の冒険者達を避けるため、小さくなってからセイラ達の居る小屋の中で待機していた。
知った顔がいないパーティなので、もしかしたら騒ぎを起こすかもしれないという事と、女性が襲われるのを防ぐためでもある。
<用心に越したことはないからな。カルエラートはともかく、セイラとフレーレは本調子ではないし>
カームがバキバキと蟹の鋏を甲羅ごと食べながら言う。守護獣達は顔を見合わせてから頷き、各々の食事へと戻る。小屋には現在セイラだけが残っている状況だったりする。
一方、カルエラート達は……
「そうか、あなた方も神裂を。なら志は同じだ、ここを拠点にしてお互い頑張ろう」
そう言って四人に器を渡し、食べるように勧めるカルエラート。
焚き火の前にはクラウス達ブラックブレードの面々やシルキー、モルト達にフレーレも座っており、デスクラブの鍋を食していた。
「ルーナの育った村でも食べましたけど、やっぱり美味しいですねー……はふはふ……」
「少し顔色が良くなってきたわね。良かったわ」
「ありがとうございますシルキーさん! わたしは血と少し魔力を取られただけですから。セイラのほうが少し心配です……」
シルキーとフレーレがそんな話をしているのをよそに、四人の冒険者風の男達はギラリとフレーレの方へ目を向けていた。
「(あの娘でござるな)」
「(ああ……しかし、あの料理番といい、ターゲットの横にいる娘といい、容姿がいいのが揃っているな……ゴクリ……)」
「(止めとけ。キルヤ殿にバレたら股間を潰されるだけじゃすまんぞ。ヤツらが二十階に上がるまでに捕らえる事だけを考えろ。我等”黒影”がそんな事でキルヤ殿の機嫌を損ねては笑いものぞ)」
「(へえへえ、真面目なこって)」
「(茶化すな。寝静まってから行動を起こすぞ)」
男達がそんな話をしていることも露知らず、フレーレはポンと手を打ってカルエラートへと話しかけていた。
「そういえばチェーリカとソキウスが塔に居るんですよね。食事、持って行ってあげないと」
「ん、そういえばそうだな。片付けたら行くとしよう。ささ、どんどん食べてくれ……とはいえ、そろそろ食料を補給したい所ではあるけどな……」
想定よりも人数が増えたので、食料が減るのが早い。ワイバーンやデスクラブなど、天然の魔物を倒して食材にしているが、多いに越したことはないのだ。
「今度、別の町まで行ってみるか。馬車の代わりにファウダーに引っ張らせてよ! そしたら買い込むのも難しくないんじゃねぇか?」
クラウスの提案に皆が賛同し、明日は別の町へ買出しへ行く事になったところで夕食はお開きとなった。女性陣は小屋へ行き、残りはテントや馬車の荷台、焚き火の前など適当に散っていた。
ちなみに壁を作り慣れてきたからか、今では少しずつ囲いを広げながら、小屋を建造している。一応雨風をしのげる寝床は欲しいので簡易の二段ベッドを小屋に設置する予定なのだ。小屋一つで四人まで、そんなコンセプトをブラウンは考えていた。
それはさておき、夜はこれからという時間になり、男達はゆっくりと身を起こす。拠点から出て行く人影を見かけたからだ。
「先程の話からすると恐らくあの娘に違いない。二人で出て行ったようだから、俺ともう一人いけるか?」
「拙者がいくでござる」
「では残りの者は怪しまれぬようここで待機。無事捕らえた時には狼煙を上げるから注意しておいてくれ」
あっという間に忍び装束に着替え、残留組の二人を置いて、明かりのない壁にそって出口を目指す誘拐組の二人。転移陣まではそれなりの距離だが、遮蔽物が無いので拠点と転移陣の半分に近づいた直後を狙うのが良かろうと考えていた。
「月明かりも無い……これは天が味方してくれているな」
「即任務を成功させるでござるよ……」
うひひ、とほくそ笑みながら影を追う。そして拠点と転移陣の中間に差し掛かったとき、彼らは動いた!
「恨みはないが、その身柄拘束させていただく!」
「!?」
後ろから口に手をあて騒がれないようにし、ござるももう一人を拘束する。だが、その瞬間二人は違和感を覚える。
「(ん? こんなに肩幅広かったでござるか? それに顎の辺りがもじゃもじゃと……)」
そう思った瞬間、二人は宙へと投げられていた。
「なんと!」
咄嗟に身を翻し着地する。そして目の前の相手が咳き込みながら、しゃがれた声を発していた。
「ええい、何モンじゃおぬしら! 盗賊か野盗か?」
そう叫んだのはモルト。
「だんまりか? なら力づくで喋らせてやろう」
もう一人はトマスだった。フレーレとカルエラートだと思っていた男は少し期待をして襲い掛かったのだが、おっさんに抱きつく形になりもだえていた。
「(何でおっさんんん!? あの娘ではないのか!?)」
「(拙者気分が悪くなってきたでござる……)」
自業自得であった。
フレーレは最初自分で届けると申し出ていたが、夜道は危ないということと、病み上がりにそれはさせられないと言ってモルトとトマスが代わりに届けると出てきていたのだ。
「(くっ……戻るぞ……!)」
「(もちろんでござる……! 拙者の勘が正しければ残った二人が……!)」
慌てて二手に散って逃げ出す。醜態をさらしたがそこは流石に忍び。モルトとトマスが追いつけない速度ですぐに身を隠す事に成功した。
「チッ、逃げ足が早いな。トマス、食事はお前が届けてくれ。わしは拠点に戻ってみんなに知らせてくる」
「任せろ。気をつけてな」
---------------------------------------------------
丁度、モルト達が狙われた頃、小屋では……。
「(ひっひ……俺は夜目が利くんだ、出て行ったのが娘じゃない事は分かっていた……)」
「(なら言ってやればよかったのに……それにしてもよく寝ている。それじゃ早いところ仕事をしよう)」
垂れ目の男がいやらしく笑い、もう一人の男が連れて行こうとする。それを、垂れ目の男が制す。
「……何のつもりだ?」
「ばっかおめぇ、折角ここまで来たんだ、つまみ食いしても文句は言われないだろ? ほれ、さっきは見かけなかったそっちの女もいい女だぜ?」
フレーレの横にはセイラが寝ており、すーすーと寝息を立てていた。それを見てゴクリとつばを飲み込む。
「し、しかし任務は……」
「かぁー固いねぇ……ま、嫌ならそこにいろや。さぁって子猫ちゃん、お邪魔しますよっと……」
垂れ目の男が布団を剥がそうとしたその時だった。
「ぐあ……!?」
寝返りをうったフレーレの拳が潜ろうとした男の後頭部へヒットした! ゴキン、と鈍い音が響きわたる。
「うーん……ダメですよそんなに飲んだら……酔いどレイドさんになっちゃいますよ……むにゃむにゃ」
「くっ、寝言か……今度こそ……」
垂れ目が下半身を先に潜らせようとし、半分ほど入ったところで……
ゴッ!
「#$%&¥!?」
「んふふ……海で履くって言ったらサンダルーナじゃないですか……むにゃ……」
フレーレが身をよじった直後、膝が股間に直撃しベッドから転げ落ちた。もう一人の男が察し、顔をしかめていた。
「お、起きてるんじゃないだろうな!? こうなったら力づくで!」
自業自得だが、ついに強硬手段に出た垂れ目の男が掛け布団を取り払う。だが、そこでどこからか声がかかった。
<ぴー、まったく夜中に騒がしいわね>
<でもこの小屋にいて正解だったにゃ、観念してお縄になるにゃ>
「だ、誰だ!? ぐへ……!?」
天井からジャンナ、ベッドの下からバステトが現われ、バステトがベッドの近くに居た垂れ目の男を蹴飛ばした!
<ぴ。あんた達、今日来た冒険者?>
「……」
<無言は肯定とみなすにゃ>
バステトがレイピアを構えると、二人の男は雰囲気を変えた。先程までと違い、空気がピンと張り詰めた気がした。
「仕方ねぇ、お前の言うとおり任務を遂行するか」
「最初からそれで良かったのだ、まったく手間をかけさせる」
<何のことかわからないけど、覚悟するにゃ!>
バステトの言葉と同時に、二人が動き出した……!
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