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最終部:タワー・オブ・バベル

その202 暗躍

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 <二十階:ボス部屋>

 「キルヤ様、やつらが十二階へと侵入した模様です」

 純和風の部屋にて、座布団の上で胡座をかきながらキルヤは部下の報告を茶を飲みながら聞く。湯飲みを置いてから一息つくと口を開く。

 「……ようやく十二階か、転移陣の謎を解くのは早かったが歩みは遅いようだな」

 「は。しかし今の所は犠牲者も無く進んでいますので、運は良いかと……」

 「運だけでもあるまい。一人、若いが腕の立つ忍びがいるようだ。この世界の忍びがどんなものか分からんが、そやつが罠を回避しているのであろう」

 キルヤが再び湯飲みに口をつけると、目の前で傅く部下が言う。

 「キルヤ様がお気にされるほどの男とは……私めが始末しても問題ありませぬか?」

 「……ふむ、そうだな。始末できるならそれに越した事は無い。任せる」

 一言、「はっ」とだけ発し、その場から姿を消す部下。一人になった部屋でパチンと指を鳴らすと、別の忍びが現われる。

 「如何されましたか?」

 「……外に今この塔に登ってきているやつらの拠点がある。そこに忍びの想い人が残っている。今回は登ってこなかったからここに連れて来い。丁重にな」

 「し、しかし我等は外に出るなと神裂殿より……」

 「問題ない、ここから出られないのはたがえていない、そうだな?」

 すると目の前の忍びは覆面越しでも分かるほど、ニヤリと笑いキルヤに言う。

 「……そういうことですか、では数人連れて行きます。こんなところに押し込められて鬱憤が溜まっている者もおりますゆえ……」

 そして姿を消す忍び。

 「(ふふふ……これで面白くなる……)」


 キルヤは再び湯飲みに口をつけながら不敵に笑うのだった。



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 <十二階:ルーナ達>

 十二階に到達し、十一階よりもさらに鈍足で進む私達。相変わらず罠は多く、カイムさんが解除できるものは解除し、できないものは避けて通るのを繰り返し、何とか十二階は突破していた。


 <うぬぬ……魔力の使いすぎで尻尾がバサバサになってしもうた……>

 <アタシは久しぶりに暴れられたから満足だけどねぇ>

 <ですぴょん>

 「あんたは何にもしてないでしょうが」

 実際、チェイシャとアネモネさんは小さい姿のまま狭い通路でかく乱と遊撃を行い、かなり助かっていた。魔物の脇を抜けて挟み撃ちにしたり、レジナ達と一緒に噛み付いて拘束をするなどの活躍を見せていた。

 が、ママの言うとおり、リリーだけは後ろで応援するばかりで役に立っているかといえば微妙だった。そしてそれは牛のアステリオスも対象になっていた。

 「牛も変身できないと後ろにいるだけだよな」

 <体当たりの一つくらいはしてもいいんじゃないかのう>

 「うっす……すいません……」

 「まあまあ。荷物を持ってもらってるだけでも十分だから」

 ミノタウロス状態だと通路に対して体が大きすぎて武器が使えないのため、あえて牛のままにしてあるのだ。ボス相手に活躍してもらえばいいと思うけどね。
 
 階段を登りきったところでカイムさんと並んで歩いていたお父さんが私達を手で制した。

 「おしゃべりはそこまでのようだ。出てきたぞ」

 「待ち伏せでもしていたかのようなタイミングだなあ。ま、敵地だとこんなもんか。お前の城もそんな感じだったしな」

 パパがぼやきながらお父さんの横に立つ。
 
 十三階へ到着早々戦闘に入るのね……少しくらい休憩したかったけど仕方ないか!

 しかし相手は蜘蛛型の魔物が四体とそれほど多くないので、それほど時間はかからないだろう。飛んでくる糸や毒液を回避しつつ、前衛はレイドさん達に任せて私は弓で応戦する。

 「レジナ達! そいつの足を止めて!」

 「がう!」

 「わおわおん!」

 キィェェェ!?

 前足と後足をレジナとシルバに噛まれて身動きが取れなくなったところにレイジングムーンから放たれた矢が眉間に突き刺さり緑色の液体を撒き散らしながら絶命する。残りを倒そうと見渡すと、一匹天井へ駆け上る蜘蛛がいた!

 「気をつけて、天井から来るわよ!」

 <任せるのじゃ。魔法弾で落としてやるわい!>

 チェイシャが素早く反応し、尻尾から魔法弾を放ち蜘蛛を叩き落す。呻き声を上げながら床へと転がった。その蜘蛛が最後の一匹だったようで、残り二匹はアネモネさんに締め上げられたり、お父さんの剣技で首と胴がお別れをしていた。

 「うーん、こう大きいとちょっと気持ち悪いわね」

 『何? アイディールは虫が苦手なの?』

 恐る恐るチェイシャが倒した蜘蛛を見ながらママが呟き、アルモニアさんが相槌を打つ。冒険者だからそうも言っていられないけどといった話をしていたその時だった!

 「アイディール!?」

 「え? 痛っ!?」

 『こいつ!」
 
 キシャァァァ!?

 何と、チェイシャが倒したと思われていた蜘蛛が急にママに飛びかかり、手の甲に噛み付いたのだ! しかし近くに居たアルモニアさんがすぐに蜘蛛をみじん切りにし、今度こそ蜘蛛は撃退される。

 <大丈夫かや!? すまぬ、倒しきれておらなんだとは……>

 「大丈夫よこのくらいの傷なら。《リザレクション》ほら、あっという間」

 ママが回復魔法で傷を消し、安堵する私達。それを見てエクソリアさんが口を開いた。

 『魔物も階を登るに連れて神裂に影響を受けているのか小賢しいのが増えてきたね』

 「確かにな。死んだフリをする魔物がいない訳じゃないけど虫みたいなのがするのは初めて見たな」

 「きゅんきゅん!」

 ぺしぺしと怒りを顕にしてシロップが蜘蛛を叩き頭を完全に潰していた。死んだフリを見抜けなかったのが悔しいみたいね。

 「アイディール、本当に大丈夫か? 少し休むか?」

 「大丈夫だって! ディクラインは心配性なんだから。さ、行きましょう」

 「お、おい……」

 スタスタと歩き始めたのでパパが慌ててその後を追い、私達もその後を追った。その後も何度か魔物に遭遇するも、幸い十三階はすぐに階段を見つけることができ、十四階も罠に慣れてきたので十一階を歩いていた時よりも半分くらいの速度で進んでいた。

 「お腹すいたわね……」

 「む、そういえば確かに。ああ、もう日が暮れているのか。ディクラインさん、今日はそろそろ休みませんか?」

 <やった! ご飯ですぴょん!>

 「お前は……まあいい、そうだな。適当な部屋を探して一休みするか。順調に進んでると時間の間隔が分からなくなるな」

 <まあいいじゃないか、時間が惜しいんだ。進めるに越した事はないさね>

 「フレーレさんは今頃何をしているだろうか……」

 「カイムさん? フレーレが心配?」

 「え!? いえ! まだニンジャの私に色恋沙汰など……で、では、私が安全そうな部屋を探してきますね。とう!」

 カイムさんは私の質問にしどろもどろになりながら、文字通り煙のように消えてしまった。そんなに照れなくてもいいのにね。でも、フレーレもセイラも回復しているかなあ、戦いに来て欲しいってわけじゃないけど、やっぱり友達には元気で居て欲しいもんね。
 

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 <塔の外:拠点入り口付近>


 「もし! もし! 誰かおりませんか?」

 夕暮れ時、拠点の入り口で冒険者風の男達が中に向かって声をかけていた。丁度戻ってきたファウダーとクラウスが後ろから声をかける。

 「お、どうした? 冒険者か?」

 「おお、こちらの方で?」

 「まあ、そうだな。お前達は?」

 念の為ファウダーは喋らず、クラウスが質問をすると、男達は塔の攻略のためここまで来たのだと答えた。しかし、思いのほか道のりが険しく、野営をするかどうか悩んでいた所でこの拠点を見つけたとのことだった。

 「もしよろしければ我々も中に入れてはもらえますまいか? 塔を目指すにしても休息をしておきたいでござる」

 「ござる?」

 「い、いえ、何でもござ……ない」

 「変なやつだな? まあ他にも人が居るから揉め事は勘弁してくれよ? おーい! 帰ったぞ! で、塔に行く冒険者が休ませてくれってよ」

 クラウスがファウダーに乗ったまま中へ入ると、四人の男達もぞろぞろと入ってくる。そして少し離れた所でほくそ笑んでいた。

 「(このご時勢、冒険者なら警戒されにくいと思ったが案の定だったな)」

 「(うむ……後は目標をかどわかすだけでござるな)」

 「(お前もう喋るな)」

 「(静かにしろ、場合によっては飲み水に毒を混ぜて皆殺しだ。くれぐれもばれることが無いようにな)」

 キルヤの放った刺客が拠点内部へ侵入した瞬間だった。
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