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最終部:タワー・オブ・バベル

その201 妨害

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 「ここ、珍しい様相をしてる階ね」

 十一階に到達しフロアを見渡すと、下の階とは違い天井も壁も凄くキレイな作りをしている。床は板張りで、壁には模様が描かれている。
 
 歩きながらキョロキョロしていると、カイムさんが訝しげに壁を触りながら呟いた。

 「……これは……蒼希の屋敷の作りに似ていますね」

 <細かい所は違うけど確かに似ているね、となると仕掛けが恐らく多いから気をつけるんだ>

 カイムさんの呟きにアネモネさんが反応する。へえ、ベルダーやカイムさん達の国ってこんなお家なんだね。フレーレとセイラならすぐ分かったのかな。
 そう思うと物珍しくなり、私は壁を触りながら仕掛けについて聞いてみる。

 「仕掛け? 一体どんなのがあるんで……」

 カチッ

 「危ない!?」

 「ふえ!?」

 ビシュ!

 カイムさんに腕を引っ張られ、後ろに下がらせられる私。直後、壁から槍が突き出してきた……!? 後一歩遅かったらお腹のあたりを貫通していたに違いない……あ、危なかった。

 <蒼希の屋敷、それも上位の階級が住む屋敷に近いね。侵入者避けの罠がバンバンあるよきっと。どういう仕掛けになっているか分からないからあまり壁には触れないことだね>

 「すまんカイム。焦らせないでくれルーナ……」

 「ご、ごめんなさい、ちょっと珍しかったから……き、気をつけるね」

 レイドさんが私の肩に手を置いて、珍しく怒っている感じで語気を強めていた。これからは慎重に行こうと決めたところでエクソリアさんが前を歩き始めた。

 『ははは、罠は回避できたが手痛いお叱りを受けたな。ま、そんなにポンポン仕掛けられているとは思えないし早く進もう、転移陣で無駄な時間を使ったから……』

 カチッ

 「あ」

 笑いながらすたすたと歩いていくと、何かスイッチを踏んだらしく、カチリと音がした。後ろからでも分かるくらい冷や汗を流しながら、エクソリアさんが立ち尽くす。

 『な、何か踏んじゃった……てへ』

 『かわいくないわ妹ちゃん……』

 「ど、どうなるんだ!?」

 パパが叫ぶも、特に槍が出てきたりとかはしていない。ダミーかな、と思ったがそんなことは無かった。天井を見たチェイシャが慌ててみんなに言う。

 <あー!? いかん! 天井が下がってきておるぞ!? は、早く前か後ろへ行くのじゃ!?>

 ゴゴゴゴ……

 チェイシャの言うように、ゆっくりだが確実に天井が下がってきている。このまま立ち尽くしていたら全滅は必至!

 「天井が降りてきていないところまで走るぞ!」

 「なら補助魔法かけておくわ! <ムーブアシスト>!」

 「がう!」

 「わおわおーん!」「きゅんきゅん」

 「一気に抜けるぞ!」

 天井の降りてくる速度はそれほど速くないが、念の為使っておくに越した事は無い。そのまま駆け出し、天井の落ちてこないところまで避難が完了した。

 ズゥゥゥン……

 「天井、あまり落ちるのが早くなくて良かったわね」

 「ああ……だけどこれで十階へ戻るのは難しくなったな。ヘタをすると二十階までノンストップで行かないとダメかもしれん……な!」

 『ひっ!?』

 ママが安堵しているが、パパは事態は深刻だと暗にエクソリアさんを責めていた。魔物が出てきていないのに補助魔法をもう使わされたのはちょっと痛い……まあ上級は残してあるからいいけど……。

 <とりあえずカイム、あんたが前へ行くしかないね>

 「ええ、そのつもりです。ですがその前にお客さんを相手にしましょうか」

 グルォォォォ……

 カイムさんが振り向くと、角や通路の奥から魔物が姿を現す。なるほど、ぺしゃんこにならなかった相手にトドメを刺すために配置されてるって所ね。私達は武器を構え、戦闘態勢を取った。

 「右の壁で少し色の違う所はスイッチですから気をつけてください! レイドさんの右足の一歩前も何かありますのでご注意を。ではいきます!」

 「え!? え!?」

 困惑する私達をよそに、魔物達は容赦なく襲い掛かってきた!





 ---------------------------------------------------


 
 「はあ……はあ……!」

 <つ、疲れたのじゃ……>

 「大丈夫ですか皆さん!?」


 戦闘はもちろん私達の大勝利! ……とはいかず、散々な目にあった……。

 横に三人ほど並んだらいっぱいいっぱいの狭い通路には無数の罠があり、最初はカイムさんの言っていた色違いの壁や足元のスイッチを警戒していたが、乱戦になるとその事までに気が回らなくなり、スイッチを踏んだ直後にすぐ横の壁が急にせり出してきてレジナとチェイシャが吹っ飛んだり、壁のスイッチを押したと思ったら毒ガスが発生してフラフラになるわと、とにかく窮屈な戦いだった。

 「これは一階ごとにしっかりとマップをつけておかないとダメだな。久しぶりにこれを使おう」

 そう言ってレイドさんが取り出したのはチェイシャのダンジョンで使っていたあのマッピングするための魔法板だった。

 「まだ十一階にはいって一時間くらいなのにもう疲れたんだけど……」

 ママがぼやくと、カイムさんが苦笑いでそれに答えてくれた。

 「このフロアを製作した者は蒼希の屋敷を相当研究しているようです。概ね作成時には私達のようなニンジャが罠の配置を考えるのですが、逃げた方向にまた罠があったり、ダミーが仕掛けてあったりと精巧に考えられています。正直、無事だったのは皆さんの技量の高さがあってこそだと思いますよ」

 <アタシなんかは慣れているけどね。一旦休憩したらアタシとカイムが先頭で進むよ>

 「任せる。次いで歩くのはアンデッドの俺だな、狼達はルーナとアイディールの護衛を頼むぞ」

 「がう!」

 休憩後、隊列を組んで警戒を怠らず進む私達。奥へ進むと想像以上に入り組んでおり、部屋へ入ったり通路の先は行き止まりだったりとかなりの距離を歩かされた。なぜかエクソリアさんがことごとく罠に引っかかり、敵のスパイなんじゃないかと思うくらい足を引っ張っていた。
 スイッチを踏めば天井から大量の水が落ちてきたり、床に油が撒かれたりとそれはもう色々あった……。

 また、魔物も頻繁に出てくるので、行軍はさらに困難を極めており、ようやく十二階への階段へ到着した時に窓の外を見ると、外はすでに暗くなりつつあった。

 「とりあえずマッピングは出来ているけど、あの天井が落ちた通路以外で下へ降りる階段に行くのは無理そうだ。なあカイム、あの天井は落ちたままだと思うか?」

 レイドさんが階段を見上げているカイムさんに尋ねると、向き直って答えた。

 「……どうですかね。我々が作るものであれば、踏んだスイッチが徐々に戻って天上が巻き上がる仕組みなbんですけど」

 ここは敵地なので、そのまま通路を塞いでいる可能性が高いとカイムさんは言う。するとお父さんが提案を口にしていた。

 「今日の所はその辺の小部屋で夜を明かして登るとしよう。食料は持っているし、戻ってもメンバーを入れ替えるわけじゃない。傾向は変わるかもしれないがカイム君を先頭にした隊形は良かったと思うし、このまま上を目指した方がいいと俺は思う」

 『そうね……妹ちゃんが妨害しなければ……ね!』

 『う……わ、わざとじゃないんだよ! ボクが避けた先になぜか罠があるんだ! それとも何かい! ボクは回避すら許されないのかい!?』

 姉の非難の目に耐え切れず、ついにエクソリアさんは逆ギレした。私やママも引っかかっていたから別にエクソリアさんだけが悪いわけではないんだけどね。

 『冗談よー♪ ふてくされないの』

 『だから姉さんは……姉さんは!』

 姉妹喧嘩はさておき、宿泊するための小部屋へ入る私達。他の部屋と同様に、カイムさん曰く『タタミ』というものが敷かれているのが特徴的だ。

 「囲炉裏もあるのか……一体どういう塔なんだここは……」

 「ま、使えるものは使いましょ。それよりみんな怪我は大丈夫? 少しでも痛かったら回復するから言うのよ」

 「あ、カルエラートさんからお弁当預かってきたから今日はこれを食べましょう!」

 <ほほおう! ワイバーンの肉をすり潰して固めて焼いたものじゃな>

 「ハンバーグね。ソースも美味しいわ……」

 「わふわふ……♪」「きゅんきゅん♪」「きゅふぅぅん♪」

  パタパタと尻尾を凄い勢いで振りながら狼達も食事をしていた。やっぱりお肉が一番好きみたいね。そういえば釣りをしていないなあ……。

 一度魔物を倒した部屋には魔物が入ってくることは無いらしく、ゆっくりと疲れを取るための睡眠が出来た。このまま行けば二十階まですぐだと思っていた私だったけど、やはり現実は甘くなかった……。
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