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最終部:タワー・オブ・バベル
その197 談義
しおりを挟む「騒がしいすね」
牛のアステリオスが私を乗せてのっしのっしと歩きながら、騒ぎの中心へと向かう。チェーリカとソキウスの声が聞こえてくるので、カルエラートさんもきっとそこにいるに違いない。フレーレとセイラを休ませるため、小屋を使えないか聞いておきたいのだ。
馬車の影からひょこっと顔を覗かせると、小屋の入り口にチェーリカとソキウス。それにバステトが警戒していた。ソキウスが私達に気づき、ホッとした様子で手を振ってきた。
「帰ってきたんだな! ちょうど良かった」
「丁度良かったって何かあったの?」
私が牛から降りて事情を聞くと、どうも拠点が魔物に襲われたらしい。しかも小屋を狙ってきたというのだ。
「今はブラックブレードの皆さんとモルトさん達が追い払うため出て行ってるですよ。少し壁も壊されました……」
「にゃーん……」
<泣くにゃリン、壊れたものはまた直せばいいにゃ>
チェーリカが指差す方向を見ると、確かにくず折れた木の壁が残骸となっていた。それを切なそうな声をあげながらリンが爪とぎをしていた。
っと、そうだ、セイラとフレーレを休ませないと。
「中にカルエラートさんは居る?」
「ああ、二人を休ませるんだろ? 俺達はこの辺を見てるから入っていいよ」
「ならば俺も行こう」
ソキウスとお父さんが見回りに行き、レイドさんとカイムさんが小屋へ入る。続けて中へ入ると、簡素だけど、台所とベッドがあった。そこにエプロン姿のカルエラートさんが慌てて入り口へやってくる。
「セイラとフレーレはどうしたんだ!? ちょっと待っててくれすぐ整える」
カルエラートさんが毛布を重ねて布団を作り、二人を寝かせるように言う。一人用のベッドだから狭いけど無いよりはきっといい。
「す、すいませんカイムさん……」
「気にしないでください!」
「ふう……ふう……ごめんおにいちゃん、ちょっと眠るわね……」
「ああ、塔は俺達が登る。だからゆっくり休め」
セイラもフレーレも目を瞑るとすぐに寝息を立て始めた。思ったよりダメージは大きいみたいで、寝ながらも脂汗をかいている……。
「とりあえず命に別状は無さそうだけど、しばらくは安静にした方がいいわね」
「私も吸血されたけど、今は何とか回復しているわ。フレーレは結構吸われたのかしら?」
「どうかしらね、ルーナは魔王としての力があるし、その影響かもしれないわ。とりあえず今は様子見をしましょう。私が看病をするから、ルーナ達は休憩しなさい」
<それを言ったらお主もじゃろう、アイディール。何、濡れた布を取り替えたりするくらいならわらわでも出来る。戦闘をした者は休むといい>
「そうです! 回復はチェーリカでも出来ますし、何かあったら呼ぶです」
「そう? それじゃお言葉に甘えようかしら。それじゃここはチェイシャとチェーリカに任せて私達はテントへ行きましょうか」
「夕飯ができたらまた呼ぶ。それまでゆっくりしているといい」
そう言ってカルエラートさんが見送ってくれた。小屋の近くにテントが張ってあり、私達は一眠りする事にした……。
フレーレとセイラ、大丈夫かな……。
---------------------------------------------------
そして夜。
作業や見回りを終えたみんなと一緒に夕飯を食べながら、今日の事、そして明日からの予定をどうするか話し合っていた。
「塔は思ったよりも敵が強い。アステリオス……この牛だけど、こいつのおかげで十階まではスムーズに行ったが、ボスにフレーレとセイラがやられた」
「……一応、わたしはセイラよりも傷は浅かったので起きていますけど……」
そう、フレーレは目を覚ましたがセイラはまだ起き上がってこない。食欲はあるということで夕飯を食べ、少し回復したそうだ。
「今後はボス部屋にアルモニアさんとエクソリアさんも裏技は使えないから、二十階は厳しくなりそうね。パーティは二人が抜けても人数はいるし、明日も行くわよね?」
「そうだな。少しずつでも進まねばまだ九十階はある。時間は惜しい。後、ボスの強さはあのヴァンパイアとやらより少し上を想定しておく必要があるな」
お父さんがそう言って目を瞑る。侮るわけにはいかない、と暗に言っているような感じだ。
「なら次はチェーリカが行くです。回復は多い方がいいと思うですし」
「じゃあ俺もだな」
二人抜けて二人加入は道中助かるけど……
「拠点の守りはどうするの? 今日みたいにまた襲ってくるんじゃない?」
<とりあえず資材はある程度たまったし、明日からはオイラとクラウスも壁作りを手伝うつもりなんだ>
小さくなっているファウダーが、足元で羽をパタパタさせながら私に言う。それなら、と思ったところでカイムさんが口を開いた。
「思ったんですが、塔に登るのを一日だけ休んで一気に拠点を作るのはどうですか? 村や町には魔物が入ってこない仮定を検証するべきかな、と」
「ワシも賛成だ。この人数なら手分けすれば小さい壁ならすぐに作れるだろう。まずはそれを作ってから、魔物が本当に入ってこないなら徐々に広げていくってことでいいんじゃないか? 塔の中は緊張疲れもあるだろうし、一日くらいは問題あるまい」
モルトさんも立ち上がってカイムさんに賛成し、ブラックブレードのメンバーもできるならそれがいいと言う。しかしお父さんは難色を示していた。
「どうしたのお父さん?」
「いや、言っている事は分かるんだが、どうも嫌な予感がしてな。考えてみるんだルーナ、何故ヤツはわざわざ外に出られるように転移陣を仕掛けている? これがあれば回復しながら進める……向こうにとってはデメリットしかない」
『神裂にとってはゲームだからじゃないのかい? 回復をされてもボク達が辿り着けない自信があるんじゃないかな?』
エクソリアさんは、ただ楽しむためにやっていると言うが、お父さんはそれを由としないみたいだった。しかし、みんなに考えすぎかもと言われて渋々拠点の手伝いをすると言ったのだった。
そのまま見張りを立てながら交代で眠りにつき、拠点づくりにいそしむことになった。
夜は特に何もなかったわね……本当にお父さんの考えすぎだったのかな?
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