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最終部:タワー・オブ・バベル
その196 代償
しおりを挟む「ブラッディ……フロー……!」
【これは!? あ、ああああああ!?】
吸血するというなら血流操作が出来るこの技を! 吸われていた血液の流れを止め、スーリアの手首を掴み返しその血を操作する。
【血が! 吸い取った血が逆流して……】
「ま、まさか血流操作が出来るとは思わなかったでしょ……!」
私から吸血するのをやめ、逃れようと必死にもがくスーリア。脳に行く血液を減らしているので意識が遠くなっているはず! 今までの教訓からここで手を離すような真似はしない。
そして近くに居るのは……レジナ……!
「レジナ! お願い!」
「アォォォォォン!!」
私の声でレジナはスーリアの首へ牙を突き立てる! メキメキと骨が軋む音が響き、スーリアが苦痛に顔を歪めながら口を開く。
【う、うぐ……ば、馬鹿な……! ル、ルドレイ……!】
スーリアはヒューヒューと息を漏らしながらダガーをルドレイへと投げて渡していた。その直後、レジナの牙が完全に噛み合わさり、スーリエは灰となって消えた。
「ワォォォン!」
【……くっ、お前の死は無駄にはせんぞ……!】
「これでお前一人だ! 悪いが倒させてもらう!」
『今度こそ終わりよ』
【……】
スッ……
パパとアルモニアさんが斬りかかると、紙一重でその剣を回避し、パパのお腹にパンチを繰り出していた。パパが苦悶の表情を浮かべて膝をつく。
「ぐっ……!」
『!? させないわ!』
今度は顔を蹴られそうになるが、間一髪アルモニアさんの槍の攻撃でその場を離れていた。
「こいつ!」
レイドさんがその隙をみて斬りかかるが、今度は赤いダガーで剣を軽々と受け止め、ギリギリとにらみ合いになる。
【貴様の血でも十分強力な力になる、もらうぞ……!】
左手のダガーで剣を受けつつ、右手の爪を再び伸ばしてレイドさんの脇腹を狙って攻撃を仕掛けるルドレイ。しかしその爪はパパの剣で折られていた。
【む、復帰が早いな。しかもこの爪を斬るとは】
「こちとら勇者ってやつなんでな! んでもって馬鹿の一つ覚えみたいに使うからだ!」
【ならば何度でも使うまで!】
ルドレイが叫ぶと、折れた爪がポロリととれ、またも長い爪が再生した!? レイドさんを吹き飛ばし、パパへと攻撃目標を変え、踏み込んでいく。持っている武器のリーチはパパのほうが長いけど、懐に飛び込まれたらルドレイの爪とダガーの方が有利だった。
援護に行きたいけど、吸血の影響か、私とフレーレはうまく立ち上がることができなかった。
「チッ……やるな……最初からこの強さとは恐れ入ったぜ、でもこの勝負は俺達がもらう! アイディール!」
「いいタイミングよ!」
【何!? これは……!?】
ずっと動きが無かったママが何をしていたか? ショート転移の不意打ちを不発に終わらせたエクソリアさんが、ヴァンパイアの弱点を攻撃するようにママに耳打ちをしていたのだ。
その足元には魔法陣……パパが誘いこみ、発動した魔法は……!
「《死せる者、その理に逆らう者を浄化せしめん……ディスペル……!》」
バリバリバリ……! 青白い光がルドレイの身体を包み込むと、皮膚がどろりと溶け始める。ヴァンパイアはアンデッドらしく、ディスペルがかなり有効だったのだ。チェイシャのダンジョンでフレーレが使っていたのを見たけど、こっちは強力なアンデッドを消滅させるために魔法陣を使ったみたい。
【さ、誘い込まれたというのか、この俺が……!? ふ、ふふふ……み、見事だ……だが!】
「何かするつもりよ!?」
ブワッ!
マントから大量の蝙蝠を羽ばたかせ、私達の視界を覆い始めた。だけど、レイドさんやパパ、エクソリアさん達がおかげで傷を負うことは無かった。
『悪あがきがすぎるね』
【ふは、ふははは……! ど、どうかな? まずは一人……グゲ……】
「まずは一人……? どういう意味……?」
ボシュ……
私の問いには答えず、青白い炎となってルドレイは消滅した。その瞬間、お父さん達が待っていた透明の魔法壁が解除されたらしく、部屋になだれ込んでくる。
「わんわん!?」「きゅん……きゅーん……」
<フレーレかアイディール! こっちへ来るのじゃ! セイラが!>
セイラを護衛していたシルバとレジナが慌しく吼え、チェイシャが叫ぶ。声のする方を見ると、シルバの顔に傷ができて血が流れていた。
そして足元には、赤いダガーが左肩にささってうずくまるセイラの姿があった。
「セイラ! シルバも!?」
「蝙蝠にまぎれて飛んできたダガーよ……シルバが弾いてくれなかったら左胸に刺さっていたと思うわ……う……!」
「くぅーん……」
シルバは申し訳無さそうに鳴くが、致命傷を避けただけでも偉い。
「蝙蝠はそのためか……シルバ、よく気づいたわね、よしよし……」
シルバを撫で、私がセイラを抱き起こしてダガーを抜くとフレーレがよろよろと近づいてくる。
「……わ、わたしが回復します……《リザレクション》」
フレーレが回復魔法を使うと、セイラもシルバも傷はすぐに塞がった。しかし、セイラは立とうとして疲れたように両手を床についた。
「そのダガーに魔力をごっそり持っていかれたみたい……魔法はおろか歩くのもすぐにできそうにないわ」
「ふむ……ルーナにフレーレ、セイラが満身創痍か。まだ十階だというのに、この強さ。ディクライン、ボスは俺とお前がメインで行くべきかもしれん」
お父さんが目を瞑ってそう呟くと、レイドさんが首を振って答えた。
「いえ、ずっと戦い続けるにも限界はあります。幸い今から外に戻る事はできるので、回復してからというのも視野に入れたほうがいいと思います」
<そうだよ、アタイやチェイシャも居るし、バステト何かも連れて来ればいいのさ。6人までしか入れないなら、温存するのも考えないと>
「……分かった。なら次は俺がいかせて貰うぞ? そしてルーナ達は一旦休め」
「そうさせてもらうわ……回復はフレーレとセイラが回復するまではママに任せる必要があるわね」
「任せておきなさい。次も張り切っていくわよ!」
『あら、部屋の隅に転移陣が出てきたわよ。これで戻れるみたいね』
アルモニアさんが外へ続く転移陣を発見し、レイドさんがセイラを背負って転移陣へと向かう。続いてカイムさんがフレーレを背負い、私は牛に乗って十階を後にした。あれ?
転移が終わると、そこは作りかけの拠点近くだった。転移陣がそのまま残っており、十階から再び登る事ができるようなので一安心だ。
拠点へ戻ると、作業は進んでおり段々「村」っぽくなってきた。一つだけできた小屋からはいいにおいが立ち込めている……。
あれ? チェーリカとソキウスが大声で何か叫んでるわね? 何かあったのかしら?
---------------------------------------------------
<塔:最上階>
『ふん、ルドレイとスーリアは死んだか』
壁にプロジェクタのように、リアルタイムで十階の様子を見ていた神裂。長細い机の両脇には今後ルーナ達が戦うであろうボス達が首を揃えて同じく様子を見ていた。
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「……それよりも主よ、二十階は誰にするのだ?」
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爺さんはニヤリと目を細め、神裂の馬鹿笑いを聞くのだった。
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