173 / 377
最終部:タワー・オブ・バベル
その194 順番
しおりを挟む「さて、それじゃ6人決めよう」
10階の扉前でパパが私達に振り向いて言う。入り口と同じ文言が扉にも書かれていたので、中に入れるのは6人までなのだ。こっちは結構な人数が居るので選別も大変だったりする。
「やはりここは……」
「お父さん?」
ゴゴゴ……と音がしそうな迫力でお父さんが口を開く。まさか戦って決めるとか言わないわよね……? しかし出てきた言葉は予想外のものだった。
「じゃんけんだろう」
全員がガクっと崩れた。
「え、ええ……一番いいのはそれだと思います。ただ、攻撃と回復は分けたほうがいいかと」
真面目なレイドさんが、肯定しつつ戦力について助言をする。フレーレやセイラ、ママは最低一人連れて行きたい。しかし、意外なところ,だが当然のところから声が上がった。
<あのさ……アタシ、じゃんけんできないんだけど……>
<もちろんわらわもじゃぞ?>
<ですぴょん>
「あ!?」
お父さんが素っ頓狂な声を上げて足元のチェイシャ達を見ると、腕を組んで困ったように考え始め、しばらく唸っていた。そして名案とばかりに手をポンと打った。
「戦って決め……」
悪い予感はなぜか当たるものだと私は心で呟きながらお父さんの言葉を遮るように叫んだ。
「却下よ! もう……お父さん、それじゃ本末転倒でしょ? 疲弊した状態でボスと戦えないでしょ」
「そ、そうだな……」
すると、ママはすでにフレーレとセイラを呼んで会議が始まっていた。
「なら、フレーレ、セイラ。私達は話し合いで決めましょう。回復は誰か行かないといけないし」
「……わたしは絶対行きたいんですけど……」
フレーレとママが目で語り合っているのをよそに、レイドさん達前衛組と守護獣が座って話し合いを始めていた。
<たまにはアタイも暴れたいんだけど>
『ボク達はとりあえず神裂まで力を温存しておく……いや、まてよ……』
『どうしたのよ妹ちゃん?』
エクソリアさんが何かを思いついたようにぶつぶつと呟き始め、アルモニアさんがそれを聞き、なるほどと答えていた。何だろう?
そして話し合いの末、パーティが決定。私が突入メンバーに補助魔法を全部かけ、準備が整った。
「それじゃ開けるぞ……」
まず最初に扉を開けたのはレイドさん。突入パーティの前衛である。続いてパパと私が並び、その後ろには……。
<次回は譲ってもらうぞ!>
<そうさね、今回はあのスライムにやられた二人に譲ってやるよ>
ママ、フレーレ、セイラが並んでいた。
そう、回復役全員が突入パーティに入っていた! ママとフレーレはボスにお返しをしたいと言い、セイラはそれに便乗したのだ。
「ま、ボスとやらの初戦だから様子見で回復は多い方がいいでしょ」
私達は神裂を倒すことと同時に生きて帰ることも必要なのだ。なのでその主張には異論は無かった。
そのまま私達6人は中へと入ると、扉の前に透明な魔法壁のようなものが現われ、私達以外中へ入ることが出来なくなった。こちらから戻る事もできそうにない。
<む……一応ここは真面目に作っておるのか……?>
【ふん、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ】
チェイシャが魔法壁を突いて感触を確かめていると、奥から若い男の声が苛立ちの声を上げて出てきた。シルバーブロンドの髪に精気のないやつれた顔色をした病人のような印象を受ける。貴族が着るような服に赤いマント……ダサいわね……。
「お前がここのボスだな?」
【そうだ……俺はルドレイ。この10階のボスだ。本来ならもう戦っているはずだったのだ。それを貴様等! 一階の扉を開け放したままにしおってからに! 一度入ったら10階までちゃんと登ってこんかぁ! スライムの仕込みが無駄になっただろうが!】
「やっぱりボスの仕業だったんですね! ここで成敗します! それにしてもダサいマントですね」
「フレーレもそう思う? 私もそう思ってたの。あれはないわよね」
「服のセンスなんかどうでもいいのよ。すぐに始末するんだし」
『気をつけろ、あれはヴァンパイアと呼ばれる吸血鬼。ボクみたいな美女の血を好んで吸いにくる、この世界にはいない怪物だ』
「わん! がうぅ……!」
【こ、この私を侮辱するとは……ん?】
後衛が物騒な話をしていると、さっきまで青かったルドレイの顔が真っ赤に染まる。ん? 何か違和感? 私が振り向こうとすると、ルドレイが目を細めて声をかけてきた。
【狼はいいとして何で7人いるんだ!? この部屋は6人までだと書いていただろうが!?】
「ああ! エクソリアさんが居るから違和感があった……ってなんで居るんですか!?」
『ちょっとした実験だよ。君達が知ってのとおり、ボクは女神だ。「人」としてカウントされなかったみたいだね? 神裂がミスをしているんじゃないかと思ってやってみたらこのとおりと言うわけだ』
するとアルモニアさんも魔法壁をするりと抜けて、こちらは8人になった。
『そういうことね。まあ、あなたの主がアホだったと言う事で諦めなさい』
【おのれ……有象無象が生意気な……】
ルドレイが私達を睨みつけていると、ふと部屋の中に声が響き渡る。この声は!
『ぎゃはははは! いやあ、お前等すごいな。予想外の事をやってくれるぜ。まあ、今回は俺のミスだ、そのまま戦ってもらうとしよう。ルドレイ、できるな?』
【は、はは……! 必ずや……!】
『まあ8人は流石にやりすぎか。増援を送ってやる』
神裂がそう言うと、どこからともなく派手な衣装をした女性が出てきて挨拶をする。
【はぁーい、ルドレイ。手助けするわね? あんた達もやりすぎはダメよ?】
【スーリアか……ヴァンパイアレディのお前なら連携もしやすい、か】
「両方ともヴァンパイア、ということは吸血に気をつけないと……」
『一階の扉の件はそのままにしておいてやろう。とりあえず次のボスからは女神達も人数に数えるようにする。まあ、ここで全滅すればその必要もないが。せいぜい楽しませてくれ』
それだけ言うと、神裂は喋らなくなり、それが戦闘開始の合図となった!
「レイド、お前はルドレイとやらを。俺はエロい……いや、女ヴァンパイアとやらの方をやる」
「パパも懲りないわね!? 危な!?」
「おっと」
【あはは! やるじゃない! 楽しめそ♪】
パパがレイドさんに変なことを言っていると、ママのロッドが後方から飛んできた! それをパパが避けると、一直線にスーリアへと向かったが、読まれていたのかあっさり弾き返された。
レイドさん側は私とセイラ、それにフレーレが同時に攻撃を仕掛ける。ルドレイはセイラを見て、感嘆の声をあげる。
【ほう、お前は中々いい顔をしているな。俺の眷属にしてやろう。そっちの男より満足させられるぞ?】
「おあいにく様、これはお兄ちゃんよ! ……え!? う、動かない……」
フルスイングでモーニングスターを横薙ぎに振るうが、それを片手で受け止めるルドレイ。涼しい顔をしている所を見ると無理しているようには見えない。
【ははは! この程度か、次はこちらの番だ……】
「手を離してセイラ!」
「食らえ!」
ルドレイの爪が伸びて、セイラの首筋へと攻撃をしてきた。フレーレの声でモーニングスターを手放してからバックで回避すると、爪はヒュン、と空を切った。その隙をレイドさんが斬りかかると、ルドレイはモーニングスターを捨てて剣を握り締める。
【ふむ、悪くない連携だな。それなりにこの塔に登る資格はあるようだ。だが……!】
「おわ!? 嘘だろ!?」
剣を掴んだままレイドさんを片手で持ち上げ、床に叩きつけた。私がその隙を攻撃すると、ヒラリと舞うように後ろへ下がるルドレイ。それを見たセイラがレイドさんを回復させ、私達に言う。
「あの爪、凄く嫌な感じがしたわ。掠るのも気をつけたほうがいいかも」
「すまんセイラ。今までと違ってこいつは本当に強いぞ!」
【はははは! どこまで耐えられるかな?】
両手の爪を伸ばしたルドレイが私達に迫ってきた!
0
お気に入りに追加
4,187
あなたにおすすめの小説
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
ハズレスキルがぶっ壊れなんだが? ~俺の才能に気付いて今さら戻って来いと言われてもな~
島風
ファンタジー
とある貴族の次男として生まれたアルベルトは魔法の才能がないと蔑まれ、冷遇されていた。 そして、16歳のときに女神より贈られる天恵、才能魔法 が『出来損ない』だと判明し、家を追放されてしまう。
「この出来損ない! 貴様は追放だ!!」と実家を追放されるのだが……『お前らの方が困ると思うのだが』構わない、実家に戻るくらいなら辺境の地でたくましく生き抜ぬこう。 冷静に生きるアルだった……が、彼のハズレスキルはぶっ壊れだった。。
そして唯一の救いだった幼馴染を救い、大活躍するアルを尻目に没落していく実家……やがて毎日もやしを食べて生活することになる。
妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。
ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」
そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。
長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。
アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。
しかしアリーチェが18歳の時。
アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。
それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。
父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。
そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。
そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。
──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──
アリーチェは行動を起こした。
もうあなたたちに情はない。
─────
◇これは『ざまぁ』の話です。
◇テンプレ [妹贔屓母]
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。