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最終部:タワー・オブ・バベル
その191 牛頭
しおりを挟む「きゃー!」
「待ちなさいフレーレ! 今日という今日は許さないわ!」
「わんわん♪」「きゅーんきゅん!」「きゅっふーん!」
と、全力で走るフレーレを追いかける私。しかし、勿論そこは本気ではない。フレーレはランダムに入っているように見せかけて、その実、こちらをじっと見ていた牛を狙っていた。そして詰められる距離に差し掛かったところで補助魔法を使う!
「《フェンリルアクセラレータ》! フレーレ、左からお願い! シルバ達は回りこんで!」
「わぉーん!」
「分かりました!」
「も!? ももう!?」
狙いが自分だと気づいた牛が身を翻すがもう遅い、シルバが行く手を阻み、シロップとラズベが前足に噛み付く。さらにフレーレのメイスが背中を攻撃し、変な呻き声をあげた。
「ブラッディフロー!」
動きが鈍った牛に魔力吸収の魔王技を使う。ただの牛なら何も変化は無いはず……だが、私達の予想通り魔力を吸収した途端その姿がモリモリと大きくなっていく!
「ブモォォォォ……! 気づくのが早かったな! よくぞ見破った、ここがお前達の……」
「えい!」
バキン!
「ん~!? まだ喋ってる途中なのに……いったぁ……」
筋肉隆々の身体に、牛の頭、そして両刃の斧を持った異形の姿に変身したその魔物は、喋っている途中にフレーレのメイスで脛を叩かれていた。筋肉は凄くても脛は弱いらしい……涙目で蹲るその姿が痛々しさを物語っている。さらにフレーレはその頭上へメイスを振りかぶっていた。
「ちょ!? ストップストップ!? 手がかりがあるかもしれないからまだ倒しちゃだめよ!」
「え? どう見てもボスじゃないですか?」
私の声に反応してメイスの位置がずれ、ドスンと、牛の横の床を叩いた。
「ヒッィッ!?」
『ふうん、ミノタウロスかい?』
追いついてきたエクソリアさんが牛の姿を見て言うと、牛はここぞとばかりに立ち上がり先程できなかった宣言を始めた。ミノタウロスって言うんだ?
「そ、その通り……! 俺を知っていると言う事はお前が女神か。ここから先へ行くには俺を打ち負かす必要がある。この俺を倒せるかな?」
『一つ聞くけど』
「なんだ?」
『あなたが死んでも先へ進めるの?』
「……無論だ、そんな事ができるとは思えないがな!」
自信たっぷりに言うミノタウロス。これは相当強いに違いない……私達は武器を手に取り身構えると、ミノタウロスはフレーレに襲い掛かった!
「まずはお前からだ、さっきはよくもやってくれたな」
「油断しているからですよ! ……っく……」
見た目どおりの豪腕から繰り出される斧の一撃でフレーレはメイスで受けるも、手が痺れて取り落としてしまう。補助魔法で素早さを上げていなかったら危なかったかもしれない。
「フレーレが危ないわ! みんな行くわよ!」
「フレーレさん! おのれ牛頭ぁぁ!」
「任せとけ!」
「《マジックアロー》」
「煉獄剣!」
「食らえ!」
<麻痺弾じゃあ!>
<その首もらったぴょん!>
フレーレの危機に女神二人を除き、一斉にミノタウロスへと畳み掛ける私達! いくら強くてもこの人数なら……!
「え!? いくらなんでもずるく……ブモォ!?」
「固たいわね!」
筋肉が凄いのは伊達ではないらしく、剣の方が壊れるんじゃないかというくらいの皮膚だった。だけど、こっちは大人数居るので反撃を許さず、何度も何度も同じ所を狙って攻撃する。パパもレイドさんも全力で斬り、ママの魔法にチェイシャの魔法弾。そして珍しくリリーが前歯を伸ばして首を狙っていた。
そして数分後……
「命ばかりはお助けを」
プライドとかそういったものをかなぐり捨てたミノタウロスがキレイな土下座を決めていた。
「私達はまだやれるけど?」
「いえ、ホントもう勘弁してください」
真顔で言われると何となくこっちが悪い事をした気になってしまう。しかし、何気にこのメンバーのリン……攻撃を受けて生きているのは賞賛に値する。それでも片方の角は折れ、左目は負傷。お腹は抉られた後があり、腕からはおびただしい血が流れていた。
「なら次の階へ案内してもらおうか。そうすれば命だけは助けてやってもいい……いいよなみんな……?」
レイドさんが不憫に思ったのか、そんな事を言う。セイラもそれに賛同していた。
「私もお兄ちゃんの意見と同じかな。別に皆殺しにしたいわけじゃないしね。でも嘘をついたり不意打ちをしてきたら……即あの子たちのご飯だからね?」
セイラが指指す先にはレジナ達が並んでお座りをしている。ミノタウロスを見て涎を出している所を見ると、上質のお肉と認識しているようね。四匹とも歯をガチガチと鳴らして尻尾を振っていた。
「絶対に裏切りません……! そ、そうだ階段、階段ですね……アリアドネ……」
なにやらむにゃむにゃと呟いた瞬間、景色が歪み四階までと同じような壁の部屋に戻っていた。何頭か見かけた牛も羊ももうどこにも見えない。
また、横幅はそれほど広くないところを見ると何らかの魔法がかけられていたと推測される。
『空間を捻じ曲げていたのか……神裂め、力の使い方の理解が早いな……』
「でも不思議ですよね。別にこんな階段を隠したりせず、そもそも作らなければ私達は神裂には辿り着けないし、世界をすぐに滅ぼしてしまえばいいと思うんだけど」
シルキーさんがそう言うと、アルモニアさんがそれに答えていた。
『やらないんじゃなくて出来ない、というのが正しいわね。まだ神になりたての神裂はそういった力を発揮できないんじゃないと思うわ。この塔を作ったり、魔物を生み出すだけでもかなり凄いけど』
「後はプライドの問題だろうな。そんな小細工で勝ちたくないんだろう、そしてそこまで俺達が到達できないと思っている」
パパがそう言うと、お父さんも頷いてから口を開いた。
「だが、その自信も一歩間違えればただの驕りになる。俺達はそこを狙っていけば勝機はあるだろう」
「そ、そうですね……へへ……それじゃ俺はこれで……」
するとミノタウロスがそそくさとどこかへ行こうとしていた。とりあえず私はフレーレにお願いをする。
「あれに回復魔法をかけてあげてもらってもいい? ちょっと痛々しいのよね……」
「うーん……まあもう悪さは出来ないでしょうし、いいですよ《リザレクション》」
ミノタウロスの体が光に包まれると、見る見るうちに傷が塞がっていく。
「お……おお……!? い、いいんですかい……?」
「もう階段は出たし、危害を加える気が無いみたいだからいいわよ。どこかに行くのかは分からないけど、塔からは出られないんでしょ?」
「恐らく。試した事はありませんがね? ……あんた達、面白いな……よし、決めた! 俺っちも一緒に連れて行ってくれ!」
<はあ!? お主ここの守護者ではないのかや?>
「まあ負けた以上、ここのギミックはすでに機能しないから俺は好きな場所へ行けるって訳だ。頼むよ! 負けたのが知られたらどうなるか分かったもんじゃない、あんた達ならウチの主を倒してくれると信じてるぜ!」
「でもその姿だと後ろからばっさりやられそうで怖いわね」
ママがそう言うと確かにと全員が頷く。焦りながらミノタウロスは先程と同じただの牛に変身した。
「お、そ、そうかい……ならこれで……」
「わぉおん♪」
「ガウ……!」「きゅきゅん♪」「きゅふふんー」
狼達の鳴き声にビクッとする牛。だが、足取り軽く、階段へと歩き出した。
「10階までなら俺のテリトリーなんだ。案内するぜ、着いてきな!」
カッポカッポと階段を登っていく牛。それを目で追いながらレイドさんが喋る。
「……変なのが着いてきちゃったな……」
「ま、まあ怪しかったら即餌にすればいいでしょ……」
すると、牛がタタタ、と階段を降りてきて叫んだ。
「あ、俺の名前はアステリオスってんだ! よろしくな!」
「名前カッコイイな!?」
こうして中ボスのようなプライドと主を捨てた牛、アステリオスが着いて来ることになった。うーん、大丈夫かな……やっぱ餌にしたほうがいいんじゃないかしら?
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