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最終部:タワー・オブ・バベル

その189 模索

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 今後の予定が決まり、塔を攻めるパーティは再び一階へと足を踏み入れた。予想が当たって良かったのか悪かったのか、魔物は再び出現した。そこで私はあることを思いついたので提案してみることにした。

 「ねえ、このままちょっと外に出てみない?」

 「え? 急にどうしたんですルーナ」

 「んー、神裂の作った魔物って町に入って来れないじゃない? じゃあこの塔からはどうなのかなって。ここかれ出られるなら拠点を少し離さないと危ないかもって思ったのよ」

 『ふむ、それは面白そうだな。ボクは賛成だ』

 研究大好きエクソリアさん(多分、ほとんどの恩恵はこの人が作っていたんじゃないかしら)が、嬉々としてそう言い特に反対する理由もないとみんな協力してくれることになった。

 私達が塔に立ち入るまで出現していなかったところを見ると全滅させておけばいい気もするけどね。そうして襲ってくる魔物から逃げ、全員で塔の外に出ることに。

 『む、見ろ! 魔物が……!』

 エクソリアさんが入り口を指差すと、魔物が立ち尽くしてこちらを睨みつけていた。こちら側には来れない事が判明した。そしてパパが不用意に入り口へ近づく。

 「これなら怖くないな、はっは! ここまで来てみろ!」

 パパがアークデビルを挑発すると、言葉が分かったのか、仕草で馬鹿にされていると思ったのか、巨大フォークをビシュっと突いてきた!

 「おわ!? 武器は通るのかよ!?」

 「……恥ずかしい……」

 焦るパパを見てママが俯いて呟く。うん、あれはちょっと油断しすぎね……しばらく睨み合いが続いたけど、やがて奥へ引っ込んでいく魔物達。中を見てみると魔物達は消え、また閑散とした空間が広がっていた。

 『なるほど、侵入者撃退を目的としている以外に奇襲も兼ねているのかもしれないわね』

 「了解した。とりあえずここが閉じない事も確認できたし、まずは進もう。100階もあるんだ、少しでも情報を集めなければ一年なんてすぐ来てしまう」

 お父さんがそう言っていよいよ登り始める私達。二階からは迷路のようになっており、ダンジョンと殆ど変わらなかった。外から見た通り、天井も横幅も大きいため一階あたりの探索はかなり時間を要する。
 
 あ、ちなみに最初に入ったとき亡くなっていた冒険者の遺体は外に連れ出して埋葬したわ。寺院まで連れて行くのも考えたけど、損傷が酷かったから恐らく蘇生はできないだろうとパパ達の意見が一致したからだ。

 「やっと四階か……」

 レイドさんが汗を拭いながら呟く。迷路自体はそれほど難しくないが、戦闘をしながら緊張状態で進むため疲労が溜まってきていた。

 「少し休憩をしませんか? もう外も陽が傾いてきましたし、一度戻るのもいいかもしれません」

 この塔、一二階以降は外壁沿いに窓があって、フレーレが言うように暗くなっていくのが分かる。窓から外を見るとまだ四階だというのに地上はかなり下に見える。

 <しかし、ここまで出会った魔物は殆ど外で見かけたやつらの色違いばかりじゃったな>

 <そうさねぇ、ちょっと手抜き感があるね。アタイ達みたいな作り方をしている主の方が凄いのかねやっぱり?>

 非戦闘時は小さくなっているチェイシャとアネモネさんが魔物について話しをしていた。二人の言うとおり、ここまで来る途中の魔物はほぼただの色違いで、強さがちょっと変わった程度だった。

 『基本的に世界は創造した時点で生き物は居ないんだ。それから年月をかけて生き物が誕生するんだけど、その課程で人間になったり動物になったり、魔物になったりする。世界を作っておいてなんだけど、生物は自然発生しているから厳密にはボク達が作ったわけじゃないんだよね』

 『そうそう。魔力や魔法が無い世界もあるし、魔物がいない世界もあるわよ?』

 「そうなんですね。魔法が無いって不便そう」

 『その分、他の技術が発達しているからこの世界より環境は良かったりするけどね。例えば、町や村を作るというのもその一つだ。もっと簡単に作る世界もあるのさ』

 「世界が出来てから……? 別の世界って……?」

 あ!? シルキーさんが居るの忘れてた!? すると冷や汗をかきながらエクソリアさんがシルキーさんへ話しかけていた。

 『ああ、うん、そういう物語をね、考えているんだ。この戦いが終わったら書いてみようかなーなんて……』

 「そうでしたか! 夢があっていいですね、私も冒険者以外の恩恵があったら良かったんですけど……」

 ナイス、エクソリアさん! 話の方向が変わったからこれ以上追求は無いはず……と、思っていたんだけど、もう一つ私達は失敗をしていた。

 「ってなりますか! そこの狐は尻尾が9本……いえ、魔物ならそれでもいいですけど、喋るのはおかしいですよね!?」

 <あ!?>

 『うーん、これは誤魔化せないか。まあ別に隠す必要もないし、一人くらいなら記憶を消せばいいから……』

 「物騒なこと言わないでくださいよ! えっとですね……」

 シルキーさんにここまでの経緯を簡潔に話すことにした。アルモニアさんとエクソリアさんが女神だと言う事、今から倒しに行く神裂と因縁があるということなどだ。私が魔王だと言う事は別に言わなくていいかと伏せていた。

 「そ、そうでしたか……ええー……女神様……でも何となく神々しい……いや、世界を乗っ取られた時点で残念……?」

 シルキーさんが呟き、女神二人が傷ついているけど、嘘ではないので特に訂正はしない。すると、ママが窓の外を見ながら下にいる人達の事を話し出す。

 「……まだ半日程度だけど、下は……カルエラートはどうしているかしら」

 「他にも冒険者が集まってくるかもしれないし、拠点は重要だ。今は頼りにさせてもらおう。本当ならカルエラートもこっちに来たかったと思うけどな」

 今日の所は先に進みたいというお父さんの以降で、広めの部屋に入ってキャンプをする事になった。食料はあるし、部屋もダンジョンのようにじめっとしていないから休みやすいのはありがたい……。一応見張りを立てることにしたけど、部屋に居る魔物を倒してしまえば中に入ってくる魔物は居ないみたい。私は毛布にくるまって、とりあえず今日の疲れを癒すのだった……。



 
 ---------------------------------------------------


 <塔の入り口>


 ドスン……ドスン……


 ルーナ達が塔に入ってからしばらく。クラウスがファウダーの背に乗って森を徘徊していた。まずは柵作りに使う大木や蔦などを回収するのが目的だった。


 「へえ、昔は剣士だったのか。それがドラゴンになるなんて世の中分からないもんだなぁ」

 <まあねー。オイラももうちょっと適当に生きられれば良かったと、ルーナ達を見て思うよ>

 <ぴー。こんな姿でも一緒に居られるのは嬉しいけどね>

 「泣かせるじゃねぇか……尚の事世界を壊させるわけにはいかねぇな……よし、早いところ拠点作りをして俺達も追うぞ!」

 <まあまだ仮説が正しいとは限らないから慎重にいこうよ>

 ファウダーとジャンナはルーナ達と一緒に居たせいで麻痺していたのかあっさりとクラウスに喋りかけて打ち解けていた。クラウスもどちらかといえばア……あまり物事を考えないので喋った事に驚きつつも深く追求してくる事は無かった。

 「お、いい木じゃないか?」

 <これを柵に?>

 「だな、ブラウンのヤツが上手い事加工してくれるだろうぜ!」

 クラウスが剣を抜いて横薙ぎに振ると、キレイに根元から切れた。それをファウダーが支えて横に寝かすと、枝を切り裂いて丸太へと変える。

 <枝も焚き火の燃料にするから持って帰りましょう>

 「だな。俺のカバンに入れておくか……」

 こうして、ルーナ達が四階へ到着した頃、ファウダーたちの活躍で少しずつ材料が揃っていく。塔の周りは広場のようになっており、柵を置いていくには丁度いい環境でもあった。

 「食事を作ったぞ、ありがたいが食べねば力がつかんから休憩してくれ」

 陽もとっぷり暮れて、作業するにはもう暗くて見えづらいという頃、カルエラートが皆を集めて食事を振舞っていた。

 「ありがとうございます、カルエラートさん! いやあ、ドラゴンが仲間なのは凄いですねー! 材料がどんどん届きますし!」

 風の属性魔法を使って木を削っていたブラックブレードの魔法攻撃担当のマルクが叫ぶと、回復担当のキールがパスタをずるずると食べながら言う。

 「この料理……めちゃくちゃうめぇ! リーダーの料理とは雲泥の差だな、はっはっは!」

 「下品ですよキールさん……聖職なんだから……あ、俺スープのお代わりが欲しいです」

 そしてシーフのブラウンがカルエラートにお代わりを要求していた。がつがつと食べるみんなをみて微笑みながらスープを入れるカルエラート。

 「ブラウン殿は特にお世話になっているから大盛りにしよう」

 「ありがとうございます! それはそうと上はどうなってますかねぇ……」

 「メンバーが強力だから簡単にはやられないと思うし、いざとなれば逃げてくるはずだ。私達は拠点作りに専念するのが仕事だから、信じて待とうじゃないか」

 「カルエラートさんの言うとおりだ、明日も働くからしっかり食えよお前等!」

 「あーあ、美人の前だからはりきっちゃってさ。言われなくても働くに決まってるだろ?」

 「び、美人?」

 カルエラートがブラウンの言葉に思わずお玉を取り落とす。

 「おう、姉ちゃんは料理も美味いしな! それで聖騎士とは驚くけどな……」

 「む、むう……変なことを言ってないでさっさと食って明日に備えろ!」

 慌てて捲くし立てるカルエラート。顔を赤くしていたのは暗闇で気づかれることは無かった。
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