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最終部:タワー・オブ・バベル
その185 変貌
しおりを挟むエクソリアさんの(勝手に作った)実験室に招かれ、私達は水槽に浸かった守護獣達を前に集まっていた。この時点でもフォルサさんはまだ目を覚ましておらず、フレーレはここに来なかった。
『とりあえず調整は終わったよ。神裂の魔物に対抗しうるだけの力を分け与えたから、このまま戦っても力負けはしないと思うよ。それじゃ目覚めさせるよ、カチッと……』
「きゃあ!?」
バリバリバリ! と、雷がそれぞれの水槽を光らせる。
<に”ゃぁぁぁぁ!?>
<何ごとじゃぁぁぁ!?>
<し、痺れ……!?>
<……>
中に居たチェイシャ達が一斉に目を覚ますが、どうやら雷が強すぎるらしく全員が感電していた。エクソリアさんが再びボタンを押すと、みんながプカリと浮いていた。
『……間違えたかな? ま、まあ大丈夫だろう!』
私達が訝しげな目を向けていると、そそくさとしながら水槽からチェイシャ達を出す。ぺちぺちと叩いたり、レジナ達が舐めていたりしているとようやく目を覚ました。
「良かった、息を吹き返したわ!」
<……ふう……シャールが手を振っているのが見えたわい……>
<アルモニア様を復活させるのに死に掛けて、また死に掛けるとか勘弁して欲しいにゃ……何がどう変わったにゃ?>
『それを今から説明するよ、とりあえず一旦庭へ行こうか』
---------------------------------------------------
<ぴー……何で庭に魔物が?>
<すごいねこれは、魔物が争ってないよ>
「さっき話した神裂の魔物が外をうろついているから
<ま、あいつらも危機を悟っているのかもしれんな。さて、そろそろ説明をお願いできるか?>
『カームは真面目だねぇ。はいはい、端的に言って君たちを改造しなおした。ただ、ボクも天界に居るわけでもないし、完全に力が戻っているわけでもない。なのでそれ相応の分だけだね』
<それは大丈夫なのかい? アタイ達も戦えないと意味は無いと思うけど>
『それは見てから判断してくれ』
<わ、これは……!?>
エクソリアさんがパチンと指を鳴らすと、チェイシャ達の姿が大きくなっていった!?
<おおおお!?>
『どうだい、最初の頃より小さいけど戦うには十分だろう? そして弱点だった宝石は全て体内へ変えた。簡単にやられることはないよ』
「わぉーん♪」「きゅんきゅん!」「きゃん!」
シルバ、シロップ、子狼が多くなったチェイシャの尻尾へ突っ込んだ。あれだけ大きければ触り心地もいいと思う。後で触ろう……。
<なるほど、これは悪くないにゃ! 体が軽いにゃー♪>
<ぴ。血は蘇生効果が無いみたいね。だからみんな……死んじゃだめよ……?>
<うん、これなら力負けはしないかな? ちょっとあそこに居る熊と戦ってくるよー>
体の感触を確かめている守護獣達、そんな中、一際大きいファウダーがぐっと屈むと次の瞬間デッドリーベアを吹き飛ばしていた!
「え……!? ファ、ファウダー!?」
「ほう、いいではないか。俺も混ぜろ」
するとカームさんも気をよくしたのか、突っ込んでいき、暴れ始めた。
「行くなら外の魔物を相手にしなさい!」
ママに怒鳴られ、しぶしぶ塀を乗り越えて戦いに行ってしまった二人。吹き飛ばされたデッドリーベアがポカンとしていたが、ドタドタと後を追って外に出て行った。
<アタイもまあまあだろ?>
<白さでは負けませんぴょん!?>
アネモネさんは完全な白い大蛇で、リリーはウサギ……いや、ちょっと大きいけど……あれは餌にしか……。
<これなら本領発揮できるにゃ>
「バステトは二足歩行するのね? なんだろう、獣人って感じがするわね。最近出てきたトカゲ男みたいな」
<一緒にして欲しくないにゃ!?>
とからかってはいるが、何となく美人に見えなくも無い。そしてレイピアのような剣を腰に下げている。そういえば唯一人型をしているわねー。
和気藹々としていると、パパがエクソリアさんに近づいて質問をしていた。なんだか少し疲れているような気がする。
「ま、まあよく分かったよ。で、戦えるんだな?」
『ああ、期待してくれていい。ボクも女神だ、魔物を作るのは神裂だけの芸じゃない……それに一応、七人には保険もかけてある。良いか悪いかは……ともかくこれで準備は整った。すぐにでも出発しよう』
「フォルサさんが全然目を覚まさないですけど……もう三ヶ月……そろそろ行動をしないとですね」
三ヶ月レベリングをしたのもあるけど、フォルサさんが目を覚ますのを待っているという理由もあった。だけど、結局一度も目を覚ます事はなく、フレーレが毎日看病をしていたのだ。
『死んではいないんだけどね。私が言うのもなんだけど、引き剥がすのに相当負荷がかかったみたいね』
「あの人、知識と実力はかなりあるからできれば一緒に行きたかったわね」
鍛えたら恐らく神裂との戦いはもっと楽になるとママが言う。女神様達を除けばほぼパパより強いかもしれない、と。
「それじゃ、出発は明日の早朝。各自、装備と道具、食料の確認は怠るなよ。馬車は幌つき二台を借りたから、雨風もしのげるし荷物も乗る」
<馬を使うか? わらわ達が引いてもかまわんが>
「馬を使う。お前達は体力を温存しておいてくれ、それと小さい姿なら馬車の負担も減るしな」
<分かった。見張りは任せておくのじゃ!>
「わん!」「きゅきゅん♪」「きゃうんー!」
予定が決まり、夕食もそこそこに私達は部屋で準備を進めた。夕食を豪華にしようという案もあったんだけど、「最後みたいで嫌じゃない? 帰ってからご馳走の方がいいわよ」とママに言われたので、普通のビーフシチューを作った。
で、準備中なんだけど、私の装備は女神のアイテムで決定。剣も盾もあるし、何より強い。隻眼ベアーガントレットはそのままだけど、胸当ては鎧を失くしたカルエラートさんに譲った。胸が窮屈だ、と言っていたのを私は忘れない。
「レジナ達、こっちへおいで」
「わう」
私は狼達を呼んで、首にもう一度スカーフをつける。色もそのままだけど、今度は魔法布で作っているため破れにくいし、少し防御を高める効果が付与されているみたい。
蒼希のおみやげでフレーレが買ってきてくれたのを、みんなにつけてあげると、嬉しそうに鳴き、私の身体に擦り寄ってきた。
「きゅふん!」
すると、野良狼が自分もと鼻を鳴らす。
「あなたの色は無いわね……うーん、余ってるしシルバと一緒でいい?」
「きゅふぅん♪」
いいらしい。というか、シルバと仲がいいから男の子かと思ったら女の子だったのよね。ちょうどシルバとシロップの中間の大きさなのだ。
「あんた達も頑張ってたし、今度は置き去りにはしない。その代わり、生きて帰るわよ?」
「わぉぉぉぉん!」
「わぉ~ん!」 「きゅきゅ~ん!」「きゅふふ~ん!」
決意に呼応するように狼達が遠吠えをする。やがて落ち着いたレジナ達は私と一緒にベッドへと潜り込んだ。
「尻尾……ふさふさになってる……」
「わう!」
レジナの尻尾を枕にして私は眠りについた。あ、名前……決めてなかった……。
---------------------------------------------------
翌朝、ガチャガチャと魔法カバンや装備を鳴らしながら朝食を食べていると、フレーレが慌てて駆け込んできた。
「フォルサさんが目を覚ましました!」
私達が部屋へ行くと、フォルサさんが上半身を起こして待っていた。全員揃ったところで口を開いた。
「……話はフレーレから聞いたわ。一難さってまた一難とはこのことね」
『面目ないわね、ズィクタトリアに操られていたと思ったら神裂とかいうのに取って代わられるなんて女神失格だわ』
「それで、今日発つのね?」
「はい。フォルサさんはここに残ってください。外の魔物は一人では手に負えないくらい強いです。そしてすでに三ヶ月経っていますから、フォルサさんが強くなるのを待っている余裕は……ありません」
私がそう告げると、フォルサさんは笑って私とフレーレにいう。
「そうね……どちらにせよ私はもう長くないわ」
「そんな……!? フォルサさん!」
フレーレがフォルサさんを抱きしめると、話しを続ける。
「自分の身体の事は自分がよく分かっているわ。力を使いすぎたのね……回復魔法もダメ、恐らく寺院での蘇生もできないでしょうね。歳もとってるし……」
何とも答えにくい話しをするのは私達を安心させるためなのか判断がつかない……そうしているとフォルサさんが咳き込み、血を吐いた。
「ふう……もうダメみたい……フレーレ、みんな。短い間だったけど、楽しかったわ……あの親友を亡くして以来、久しぶりの充実感……フレーレをよろしく頼むわ……」
「いやですよ! もっと色々教えてください! ねえ!」
フォルサさんは首を振ってフレーレの髪を撫でながら微笑んだ。
「キレイな髪……母親そっくりね……」
「え? それって……」
フレーレが顔をあげると、フォルサさんが苦しみ出した。
「うう……げほ……み、みんな……し、死なないようにね……神裂を倒せるのを祈ってい、る、わ……」
ガクリとなってフォルサさんは動かなくなった。脈を取ったフレーレが泣きながら首を振って本当に死んでしまったと告げる。
「……殺しても死なない人だと思ったけどな……」
「ルーナを助けてくれて、ありがとう……帰ったらきちんと埋葬するから」
パパとママが遺体を前に呟いた。
埋葬しようとしたが、帰ってから報告したいとフレーレが言うので、セイラやチェーリカを寝かせていたあのベッドへ遺体を移し、保管した。これなら腐敗する事はないとお父さんが言う。
「これでいい。では行こう」
そして私達は魔王城を後にする。アルモニアさんはこういうときに何も出来ないと悔しがっていた。女神といえど万能ではないらしく、魂を扱う女神は、現地人の蘇生はできないらしい。
やがて馬車が走り出し、小さくなる魔王城。目指すはバベルの塔、世界の中心。
神裂、あんたは私達が倒す!
---------------------------------------------------
<魔王城・地下>
「……」
ルーナ達が魔王城を離れて半日。
パチっと、寝かされていたフォルサの眼が開く。
「どっこいしょっと……死んだフリも楽じゃないわねえ。脈を止めるのにレジナ達のボールを挟んでおいたけどうまくいったわ。フレーレだからってのもあるかもしれないけど」
独り言を言いながらベッドから降り、着替えて外へと向かうフォルサ。目指すは……城の外の魔物。
「神裂が何も企まないとも思えないし、正攻法だけで勝てるとも思えない。こっそり後をつける人は必要よね」
グルルルル……
「一人で勝てない、か。面白いわね、ちょっと本気で遊ばせてもらおうかしら?」
大型の猿のような魔物を前にして、フォルサはそんなことを呟き、その手にはいつの間にか、真っ黒の水晶がついたロッドが握られていた。
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