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第六部:救済か破滅か
その164 治療
しおりを挟むフォルサが病院に行くと言いだし、よく分からないまま着いていく三人。雨で人通りも少なく、場所はどこか分からなかったが少し歩くと少し大きめの建物が目に入った。
先程、すれ違った馬車が止まっているのでここが病院で間違い無さそうだ。
「あれかしらね。さ、行きましょう。体を拭くものを貸して貰えるといいんだけど」
軽やかに歩くフォルサを尻目に、ソキウスが頭に手を当てて呟いた。
「フォルサ姉ちゃん、恩を売るって言ってたけど何するつもりなんだろうな……?」
「あの人は俺もよく分からんしなあ……まあ、長生きしている事は間違いない。ここは言う事を聞いておこう」
<ぴー。あまり歳のことは言わない方がいいわよ……?>
ひそひそと話す二人にジャンナが釘を指していると、受付へと向かったフォルサが布をもって戻ってきた。
「はい、チェーリカからね」
「ありがとうです! とりあえずどうするですか?」
「そうね……お、丁度戻ってきたわよ」
皆で髪を拭いていると、馬車から顔を覗かせた男性がとぼとぼと歩いてくる。大声で叫んでいた人物とは思えないほど憔悴している。
「あの、すいません」
「ん? 何かな……私は誰とも……ああ、あなた方は先程の……やはりどこかお怪我を? 申し訳ない……」
少し寂しそうに笑う男性に、ディクラインが話しかける。
「いえ、我々は大丈夫ですが、慌しかったのが気になりまして……どうしましたか? 随分と落ち込んでいるようですが……」
「ああ、大した事では……あ、いや、聞いてください。話せば少しでも気が晴れるかもしれない……」
男はソファに腰掛けて手を組みながら話し始めた。
「私はホープ。ちょっとした商いを行っている者です。この病院に来たのは、娘のニーナが病気でね、小さい頃から病弱で屋敷から殆ど出ることもない程なのですが、さっき急に容態が悪くなりまして……確かに体力は無いのですが、こんなことはなかったのに……」
そこまで言うとホープは手で顔を覆い、項垂れる。そこに医者が現われてホープのところへ真っ直ぐ歩いてきた。医者の表情は曇っている。
「娘さん、あまりいい状態じゃないね……。原因は分からんがもって2,3日ってとこだろう」
「馬鹿な!? 昨日まで普通に生活していたのにそんなわけが!」
「よすんだホープさん」
「そうは言うがね? これは事実なんだ。連れて帰って最後は自宅で過ごさせてやるといいさ。103号室に寝かせてあるよ」
医者に掴みかかろうとしたホープをディクラインが止めると、一瞬驚いた顔を覗かせたが医者はそそくさと奥へ引っ込んでしまった。我に返ったホープがディクラインの手から離れると、襟を正して頭を下げる。
「いや、みっともないところを見せてしまって……それでは……」
立ち去ろうとした所でフォルサがホープに声をかけた。
「お待ちくださいな。あなたの娘さん、私達なら治療が出来ますけど?」
「な、何!? 医者がサジを投げたのにできるというのか!?」
「ええ、この子がきっと助けてくれますわ♪」
「あ、あたしです!?」
<(ぴー……うさんくさい笑顔ね……もが!?)>
<(馬鹿!? 聞こえたら焼き鳥だぞ! ひっ!?)>
チラリと、ソキウスの頭に乗っているジャンナとファウダーを見るフォルサ。だが、すぐに笑顔でホープに接する。藁にもすがる思いで、ホープはフォルサの手を取った。
「た、頼む! 礼は必ずする!」
「毎度ー♪」
交渉成立。フォルサたちは103号室へと向かった。
---------------------------------------------------
部屋には寝息を立てている女の子がいた。
歳は15,6といった所だろうか。ソキウスとチェーリカと同じくらいである。だが、呼吸は荒く、顔色も悪い。
「この子です」
「ふうん、可愛い子だな。死なせるには勿体無ねぇな確かに」
ソキウスの言葉にむっとするチェーリカが、何か言おうとしたが、フォルサによって遮られる。
「それじゃチェーリカ、お願いね」
「え、ええー!? ……ど、どうすればいいです?」
半分涙目のチェーリカがフォルサに聞くと、耳うちをしてきた。
「(あなたアンチドートが使えたわよね? それをこの子に使って。それだけでいいから)」
「(は、はい……どうなっても知らないですよ?)……それでは行きます……<アンチドート>!」
パァァァ……
毒に侵されている者に使うと対象者の体が輝く魔法、アンチドート。チェーリカがニーナに使うと、その体が虹色に光っていた。そして見る見るうちに顔色が良くなっていった。
「これでもう大丈夫よ」
「へえ、チェーリカすげぇな! 流石だぜ!」
フォルサがそう言い、ソキウスがチェーリカの横まで来て背中を叩くと顔を赤くしてふんと鼻を鳴らした。そしてニーナの目がゆっくりと開く。
「おお……! ニーナが!」
ぼんやりした目でベッドの横に居る、ホープ、フォルサ、チェーリカ、ソキウスの顔を見た後、もう一度ソキウスの方を見てガバっと抱きついた。
「好き!」
「うえええ!? な、何だ!?」
「ちょ……! ソキウスから離れるですよ!?」
するとニーナがキョロキョロと辺りを見回して呟く。
「あら、ここは? お父様、わたくしは一体……?」
「ニーナ! ここは病院だ。お前は食事の後に急に倒れたんだよ……医者もサジを投げたがこの方達が治療してくれたんだ」
ホープが涙ぐみながらニーナの頭を撫でる。
「そうだったんですのね……あ、そうだ。あなた、お名前を教えていただけるかしら?」
「え? 俺はソキウスってんだ」
「ソキウス様……ポッ……」
能天気に自己紹介をするソキウスに、ニーナは顔を赤らめていた。すると横からチェーリカが口を挟む。
「あなたを治したのはわたしです! わたしはチェーリカ! よろしくですよ!」
「あら、そうでしたの。それはありがとうございます! おかげでソキウス様と出会う事ができましたわ!」
「お、おい……そろそろ離れてくれよ?」
ニーナはソキウスの首に腕を回したままうっとりとした表情でチェーリカに挨拶をする。チェーリカはそれを見て憤慨する。
「何をしているですかソキウス! 早く離れるのです!」
「ああ……そんなに大声を出されたらまた具合が悪くなってしまいますわ……ソキウス様、馬車までだっこして連れて行ってくれませんこと?」
「いや、その……」
ソキウスがチェーリカを見ながら困っていると、ホープがニコニコとしながらソキウスの肩を叩いた。
「すまないが頼めるかい? 皆さん今日は私の屋敷に招待させてほしいのだが、都合はどうだろうか?」
「問題ありません。よろしくお願いしますね。ソキウスはニーナさんを連れていくのよ?(その子、このままだと離れないわよ?)」
「わ、分かったよ……はあ……」
「申し訳ありませんソキウス様……(べっ!)」
ベッドからお姫様抱っこでソキウスが扉へ向くと、背中越しにチェーリカへあっかんべーをするニーナ。それを見てますますヒートアップする。
「あんの女! 助けるんじゃ無かったです! 何が病弱ですか! もう一回毒を食らわせてやります!」
フォルサがなだめながらホープたちの後をついていくチェーリカ。いつの間にやらディクラインの所へ移動したファウダーとジャンナがやれやれと肩を竦める。
<ぴー……厄介な事になりそうね>
<こじれると後が大変なんだよね……オイラ達みたいに……>
<ぴー……あの時の話はやめて……>
<ご、ごめん……>
「? 何だか分からんが、追いかけるぞ。それにしても食事の後で倒れた、か……。ジャンナじゃないが、これは本当に厄介事になるかもしれんな」
ディクラインが後を追いつつ、そんなことを呟くのであった。
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