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第六部:救済か破滅か

その162 演説 

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 パーティが終わり、帰り支度をした一行は翌日、城のテラスに集まっていた。その中にはドレスを身につけ、正装したチェイシャも含まれている。

 そして、テラスからは王族が民に向かって王や王女の言葉を投げかけるステージのようなものが備えられている。チェイシャが亡くなった後、安全のため増築したとリアラが言った。

 「それが王女時代のチェイシャって訳ね。いいわね美人は」

 <何を言うか。お主も十分美しいではないか、さて……それではリアラ、最後の仕事といこうかのう>

 「はい。昨日の内に町全体へ通達はしております。少なくても予定通りで問題ないと思われます」

 リアラがそう言って前を歩く、その後をチェイシャとオットブレが続き、レイド達は後方で待機することとなる。

 チェイシャの眼前には何事かと集まった民が城を見上げていた。リアラが、本日重大な話をするとして、民へ告知したのだ。

 まずはリアラが今回の騒動についての話をする。

 「お静かにお願いします。昨日は強制避難に応じていただき本当にありがとうございました。おかげで人的被害はゼロで事件を解決する事ができました」

 ダラードやシャールの名前は出さないが、国を乗っ取ろうとした犯罪者が侵攻してきた事といった経緯を話す。そして他国の人間と自国の人間が協力して事の解決にあたったことを強調する。

 「その協力いただいた方をご紹介いたします……チェイシャ王女、どうぞ」

 リアラに通され前へと姿を現すチェイシャ。すると民がざわざわと騒ぎ出す。中には涙を流す老人が居るなど、様々の反応を見せていた。

 <知っているものはわずかであろうが……わらわはチェイシャ。チェイシャ=イクティヤール。100年前、この国を治めていた王女じゃ>

 こ、この肖像画と同じ顔……殺された王女のものだよな? 

 ほ、本物……? まさか……。

 ああ……この国に戻ってきてくださった……。

 口々に困惑や歓喜の声があがり、お祭り騒ぎのになる眼下に見える広場。それをチェイシャが叫び、静める。いつもと違い凛とした、しかし優しい口調で諭すように語りかける。

 <聞くのじゃ! 知っての通り、わらわは死んだ。だが、国にまだ未練があったらしくてな、危機を嗅ぎつけ蘇ったのじゃ。だが、それも終わり、わらわはまた眠りにつく事にするだが、最後に話をしておきたくてな……>

 チェイシャが話していると、民がそれを遮って慌てたように叫んでいた。

 「ま、待ってくれ!? あなたがこの国に復帰する事はできんのか!? 爺さんはいつも言っていた、国を乗っ取られたと」

 「ああ、口惜しいとも……今はいいが先代の王は酷かった、またあんなことになるんじゃないか……」

 懇願する民達の声を目を瞑って聞き、しばらくじっとするチェイシャ。やがて目を開いて言葉を放つ。

 <わらわを知らないものもおるだろうに、祖父や祖母から聞いておったのじゃろうな。その気持ちはありがたいし嬉しい……だが、それも今日で終わりじゃ! 先程、リアラから話があったように今回の事件、他国の者と共同で解決に導いた! 自国の者、他国の者は関係ない、この国を愛してくれる者がこの国の民なのじゃからな。現国王のオットブレとリアラ。この二人はこの国の為に尽力はしておらんか? 先代が暴君だったというが、それを止めようとした者は? この二人はダラードを失脚に追いやって今がある、それを忘れてはならんぞ!>

 ……そうだ、町を新しく作るといい始めたのはリアラ様だ……。

 国王はビビリだけど、虐待や奴隷制度の廃止を、していたっけな。

 <わらわを慕ってくれるのありがたい。だが、わらわは過去の人間じゃ。そこで立ち止まっては何もできぬ、わらわの最後の願いじゃ、他国・自国など気にせず、国の繁栄のために生きてくれ>

 チェイシャが頭を下げると、一瞬静まり返り、やがて歓声があがった。泣いたり、笑ったり、抱き合ったりと忙しい。

 「本物か偽者かわからねぇが、王女の言う事だ! まかせてくんな! あんたがゆっくり眠れるように豊かにしてみせるぜ!」

 「おうよ! 爺さん達の墓にゃ俺達から伝えといてやるぜ! がはははは!」

 <うむ! 頼んだぞ! まあ、もし間違った方に行った時は……また墓から蘇ってやるから覚悟しておくようにの! わはははは!>

 「ふふ、そうはならないよう気をつけます……本当は戻ってきて欲しいのですが……」

 リアラが泣きながら呟くと、一人の老婆が泣きながらチェイシャへと話しかけていた。

 「ああ……あの口ぶり……間違いなく王女じゃ……ええ、ええ……あなたは裏切った我々を恨んでいると思っていました……国を取られたのは我々のせいだと……ですが。そうではなかったのですね……」

 <あれは運が悪かった、そういうことでいいではないか>

 「リアラ王女も戻って欲しいってか! なあにあんた達はよくやってるよ! 国王、あんまりリアラ様を心配させんでくださいよ!」

 「わ、わかっておるわい!? ……では、王女」

 オットブレに言われ、これで演説は終了。最後に一言、チェイシャは大声で叫んだ。

 <うむ。では、達者で暮らせよ!>

 そしてチェイシャはレイド達の所へと戻っていった。横を通り過ぎようとした時、腕組みをして聞いていたレイドに話しかけられる。

 「……いいのか? 残ってもみんなは何も言わないと思うぞ」

 <ふん、この国よりもわらわ達が抱えている問題はもっと大きい。ここには王がおう、わらわの居場所ではないわ。着替えるぞ、リアラ手伝ってくれ>

 「勿論! こちらへ」

 着替えに戻るチェイシャをレイド達は見送るのだった。



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 チェイシャが着替えを終えてから一時間。レイド達は町外れに来ていた。もちろん民に隠れて、だが。

 しかし、町は今チェイシャが蘇って国を救ったとお祭りが行われており、パッと見では分からないであろうほどの騒ぎが起こっていた。

 そのため、何とリアラも着いてきていたりする。

 
 <世話になったな>


 「ううん。ひいおじいのこと、ありがとう。王女様もお元気で」

 「親父を唆した相手は分からないんだろう? ニアと話してあのダンジョンを一度詳しく調べる事になったぜ」

 「後味は悪かったけど、これでお義父さんも休めるだろうさ」

 <そうじゃな……またあの世で会ったらお前達の事、話しておいてやるわい>

 ミトやモルト、ニアと最後の挨拶をする。スナジロウも相変わらずメ"ェェェェと鳴いていた。レイド達も皆に挨拶をするため前に出た。

 「それじゃ、俺達はこれで。本当に助かったよ、ありがとう」

 「また、機会があれば遊びにきてね」

 ミトがレイドと握手をしながら言うと、アイディールがミトの肩を叩いて親指を立てながらウインクする。

 「その時はもっといっぱい連れて来るから期待してて!」

 「楽しみ」

 「帰りの食料も助かる。この礼は必ず」

 カルエラートがバッグを持ってリアラに頭を下げる。装備が破壊されたので、カルエラートは身軽になってしまったからだ。剣は折れたが、ダラードの残した闇の剣を拾って腰に下げている。

 「いいんですよ、もっとお礼をしたい所ですが……」

 リアラからは食料とお金を報酬としてもらっており、カルエラートに防具を新調する話もあったが、合う防具がなく断ったのだ。

 それぞれ握手を行い、町外れから外に出てレイド達はオアシスの転移陣を目指す。姿が見えなくなるまで、ミト達は手を振ってくれていた。


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 転移陣を目指す一行、だがオアシスまでは時間がかかる……。今は野営をしているところだった。

 「ふう……やはり夜は冷える……だが、何とか終わったな」

 <すまんな、俺が不甲斐ないせいで>

 レイドとカームが焚き火の前で呟いていると、カルエラートが肉を串にさしたものを焚き火の周りにおいて行く。しばらくすると脂のやけるいい匂いが立ち込めていた。


 「長かったような気がするけど、まだ一週間経ってないのよね……ダンジョンまでが遠かったから……」

 「まあ無事に全部が終わったから良かったじゃないか。これで後は残りのパーティがどうなっているか、だな」

 疲れた顔をするアイディールに、スープを煮込みながら話すカルエラート。

 <ルーナの特訓も気になるから早い所戻りたいところじゃ。で、アイディール、体調はどうじゃ?>

 「……覚えていたか……熱は下がったし、体も動くから大丈夫よ、魔力も落ちてないし」

 <それならええが……>

 心配するチェイシャをよそに、カームが涎をたらしながらレイドに聞く。

 <戻ったら何をするんだ?>

 「とりあえず別のパーティが戻ってくるのを待つ。その後は、エクソリアとフォルサの計画とやらを聞くことになりそうだな」

 どちらにせよ戻ってから改めて話し合いになるだろうと晩御飯を食べて就寝。テントは女性三人が使い、レイドとカームは見張りのため焚き火の前で座り仮眠を取る事になる。

 

 そして翌朝……


 「あああ!? チェイシャ!?」

 「何だ!?」

 テントからアイディールの叫び声が聞こえ、ウトウトしていたレイドがハッと目を覚ます。しかしテントからチェイシャの声は聞こえてくるため大事ということではなさそうだ。

 <んー? なんじゃうるさいのう……もう朝ごはんかや?>

 「アイディール……朝は静かに……うわあああああああ!?」

 目をこすりながらチェイシャを見て、カルエラートも大声をあげる。不満げなチェイシャが立ち上がろうとするが、起き上がれなかった。

 <む? 立てない……?>

 そして手を使って立とうとしたところで異変に気づいた。

 <ぬお!? 肉球!?>

 「狐に戻っちゃったみたいね……」

 「何があった!? 大丈夫か!?」

 「いきなり入ってくるんじゃない!」

 「ぐあ!?」

 カルエラートも叫んだのでただ事ではないと判断したレイドがテントを開いたところ、アイディールに殴られ追い返された。

 「しかし、どうしてまた……」

 <……そうじゃな、あの町は100年、わらわに対する贖罪や恨み、期待や希望などが蓄積しておったのかもしれんな……その影響で戻ったのかもしれん。民の願いを叶える呪いが具現化したみたいなものだったのじゃろう。だが、それももう終わった。これから民達は今の国で歩いていくと決めた。それでまたこの姿になったのではないかの? 呪いは……解けたのじゃ>

 「あ、でもちょっと違うわね? 尻尾、9本あるわよ」

 <おお! 本当じゃ! これで少し戦力になるぞ!>

 狐に戻った事は特に気にした様子もなく、尻尾が9本あることに喜ぶチェイシャ。

 <(いつまでも良い国であるように……さらばじゃ)>


 胸中でサンドクラッドに別れを告げ、チェイシャ達は魔王城へと帰還する。
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