141 / 377
第六部:救済か破滅か
その162 演説
しおりを挟むパーティが終わり、帰り支度をした一行は翌日、城のテラスに集まっていた。その中にはドレスを身につけ、正装したチェイシャも含まれている。
そして、テラスからは王族が民に向かって王や王女の言葉を投げかけるステージのようなものが備えられている。チェイシャが亡くなった後、安全のため増築したとリアラが言った。
「それが王女時代のチェイシャって訳ね。いいわね美人は」
<何を言うか。お主も十分美しいではないか、さて……それではリアラ、最後の仕事といこうかのう>
「はい。昨日の内に町全体へ通達はしております。少なくても予定通りで問題ないと思われます」
リアラがそう言って前を歩く、その後をチェイシャとオットブレが続き、レイド達は後方で待機することとなる。
チェイシャの眼前には何事かと集まった民が城を見上げていた。リアラが、本日重大な話をするとして、民へ告知したのだ。
まずはリアラが今回の騒動についての話をする。
「お静かにお願いします。昨日は強制避難に応じていただき本当にありがとうございました。おかげで人的被害はゼロで事件を解決する事ができました」
ダラードやシャールの名前は出さないが、国を乗っ取ろうとした犯罪者が侵攻してきた事といった経緯を話す。そして他国の人間と自国の人間が協力して事の解決にあたったことを強調する。
「その協力いただいた方をご紹介いたします……チェイシャ王女、どうぞ」
リアラに通され前へと姿を現すチェイシャ。すると民がざわざわと騒ぎ出す。中には涙を流す老人が居るなど、様々の反応を見せていた。
<知っているものはわずかであろうが……わらわはチェイシャ。チェイシャ=イクティヤール。100年前、この国を治めていた王女じゃ>
こ、この肖像画と同じ顔……殺された王女のものだよな?
ほ、本物……? まさか……。
ああ……この国に戻ってきてくださった……。
口々に困惑や歓喜の声があがり、お祭り騒ぎのになる眼下に見える広場。それをチェイシャが叫び、静める。いつもと違い凛とした、しかし優しい口調で諭すように語りかける。
<聞くのじゃ! 知っての通り、わらわは死んだ。だが、国にまだ未練があったらしくてな、危機を嗅ぎつけ蘇ったのじゃ。だが、それも終わり、わらわはまた眠りにつく事にするだが、最後に話をしておきたくてな……>
チェイシャが話していると、民がそれを遮って慌てたように叫んでいた。
「ま、待ってくれ!? あなたがこの国に復帰する事はできんのか!? 爺さんはいつも言っていた、国を乗っ取られたと」
「ああ、口惜しいとも……今はいいが先代の王は酷かった、またあんなことになるんじゃないか……」
懇願する民達の声を目を瞑って聞き、しばらくじっとするチェイシャ。やがて目を開いて言葉を放つ。
<わらわを知らないものもおるだろうに、祖父や祖母から聞いておったのじゃろうな。その気持ちはありがたいし嬉しい……だが、それも今日で終わりじゃ! 先程、リアラから話があったように今回の事件、他国の者と共同で解決に導いた! 自国の者、他国の者は関係ない、この国を愛してくれる者がこの国の民なのじゃからな。現国王のオットブレとリアラ。この二人はこの国の為に尽力はしておらんか? 先代が暴君だったというが、それを止めようとした者は? この二人はダラードを失脚に追いやって今がある、それを忘れてはならんぞ!>
……そうだ、町を新しく作るといい始めたのはリアラ様だ……。
国王はビビリだけど、虐待や奴隷制度の廃止を、していたっけな。
<わらわを慕ってくれるのありがたい。だが、わらわは過去の人間じゃ。そこで立ち止まっては何もできぬ、わらわの最後の願いじゃ、他国・自国など気にせず、国の繁栄のために生きてくれ>
チェイシャが頭を下げると、一瞬静まり返り、やがて歓声があがった。泣いたり、笑ったり、抱き合ったりと忙しい。
「本物か偽者かわからねぇが、王女の言う事だ! まかせてくんな! あんたがゆっくり眠れるように豊かにしてみせるぜ!」
「おうよ! 爺さん達の墓にゃ俺達から伝えといてやるぜ! がはははは!」
<うむ! 頼んだぞ! まあ、もし間違った方に行った時は……また墓から蘇ってやるから覚悟しておくようにの! わはははは!>
「ふふ、そうはならないよう気をつけます……本当は戻ってきて欲しいのですが……」
リアラが泣きながら呟くと、一人の老婆が泣きながらチェイシャへと話しかけていた。
「ああ……あの口ぶり……間違いなく王女じゃ……ええ、ええ……あなたは裏切った我々を恨んでいると思っていました……国を取られたのは我々のせいだと……ですが。そうではなかったのですね……」
<あれは運が悪かった、そういうことでいいではないか>
「リアラ王女も戻って欲しいってか! なあにあんた達はよくやってるよ! 国王、あんまりリアラ様を心配させんでくださいよ!」
「わ、わかっておるわい!? ……では、王女」
オットブレに言われ、これで演説は終了。最後に一言、チェイシャは大声で叫んだ。
<うむ。では、達者で暮らせよ!>
そしてチェイシャはレイド達の所へと戻っていった。横を通り過ぎようとした時、腕組みをして聞いていたレイドに話しかけられる。
「……いいのか? 残ってもみんなは何も言わないと思うぞ」
<ふん、この国よりもわらわ達が抱えている問題はもっと大きい。ここには王がおう、わらわの居場所ではないわ。着替えるぞ、リアラ手伝ってくれ>
「勿論! こちらへ」
着替えに戻るチェイシャをレイド達は見送るのだった。
---------------------------------------------------
チェイシャが着替えを終えてから一時間。レイド達は町外れに来ていた。もちろん民に隠れて、だが。
しかし、町は今チェイシャが蘇って国を救ったとお祭りが行われており、パッと見では分からないであろうほどの騒ぎが起こっていた。
そのため、何とリアラも着いてきていたりする。
<世話になったな>
「ううん。ひいおじいのこと、ありがとう。王女様もお元気で」
「親父を唆した相手は分からないんだろう? ニアと話してあのダンジョンを一度詳しく調べる事になったぜ」
「後味は悪かったけど、これでお義父さんも休めるだろうさ」
<そうじゃな……またあの世で会ったらお前達の事、話しておいてやるわい>
ミトやモルト、ニアと最後の挨拶をする。スナジロウも相変わらずメ"ェェェェと鳴いていた。レイド達も皆に挨拶をするため前に出た。
「それじゃ、俺達はこれで。本当に助かったよ、ありがとう」
「また、機会があれば遊びにきてね」
ミトがレイドと握手をしながら言うと、アイディールがミトの肩を叩いて親指を立てながらウインクする。
「その時はもっといっぱい連れて来るから期待してて!」
「楽しみ」
「帰りの食料も助かる。この礼は必ず」
カルエラートがバッグを持ってリアラに頭を下げる。装備が破壊されたので、カルエラートは身軽になってしまったからだ。剣は折れたが、ダラードの残した闇の剣を拾って腰に下げている。
「いいんですよ、もっとお礼をしたい所ですが……」
リアラからは食料とお金を報酬としてもらっており、カルエラートに防具を新調する話もあったが、合う防具がなく断ったのだ。
それぞれ握手を行い、町外れから外に出てレイド達はオアシスの転移陣を目指す。姿が見えなくなるまで、ミト達は手を振ってくれていた。
---------------------------------------------------
転移陣を目指す一行、だがオアシスまでは時間がかかる……。今は野営をしているところだった。
「ふう……やはり夜は冷える……だが、何とか終わったな」
<すまんな、俺が不甲斐ないせいで>
レイドとカームが焚き火の前で呟いていると、カルエラートが肉を串にさしたものを焚き火の周りにおいて行く。しばらくすると脂のやけるいい匂いが立ち込めていた。
「長かったような気がするけど、まだ一週間経ってないのよね……ダンジョンまでが遠かったから……」
「まあ無事に全部が終わったから良かったじゃないか。これで後は残りのパーティがどうなっているか、だな」
疲れた顔をするアイディールに、スープを煮込みながら話すカルエラート。
<ルーナの特訓も気になるから早い所戻りたいところじゃ。で、アイディール、体調はどうじゃ?>
「……覚えていたか……熱は下がったし、体も動くから大丈夫よ、魔力も落ちてないし」
<それならええが……>
心配するチェイシャをよそに、カームが涎をたらしながらレイドに聞く。
<戻ったら何をするんだ?>
「とりあえず別のパーティが戻ってくるのを待つ。その後は、エクソリアとフォルサの計画とやらを聞くことになりそうだな」
どちらにせよ戻ってから改めて話し合いになるだろうと晩御飯を食べて就寝。テントは女性三人が使い、レイドとカームは見張りのため焚き火の前で座り仮眠を取る事になる。
そして翌朝……
「あああ!? チェイシャ!?」
「何だ!?」
テントからアイディールの叫び声が聞こえ、ウトウトしていたレイドがハッと目を覚ます。しかしテントからチェイシャの声は聞こえてくるため大事ということではなさそうだ。
<んー? なんじゃうるさいのう……もう朝ごはんかや?>
「アイディール……朝は静かに……うわあああああああ!?」
目をこすりながらチェイシャを見て、カルエラートも大声をあげる。不満げなチェイシャが立ち上がろうとするが、起き上がれなかった。
<む? 立てない……?>
そして手を使って立とうとしたところで異変に気づいた。
<ぬお!? 肉球!?>
「狐に戻っちゃったみたいね……」
「何があった!? 大丈夫か!?」
「いきなり入ってくるんじゃない!」
「ぐあ!?」
カルエラートも叫んだのでただ事ではないと判断したレイドがテントを開いたところ、アイディールに殴られ追い返された。
「しかし、どうしてまた……」
<……そうじゃな、あの町は100年、わらわに対する贖罪や恨み、期待や希望などが蓄積しておったのかもしれんな……その影響で戻ったのかもしれん。民の願いを叶える呪いが具現化したみたいなものだったのじゃろう。だが、それももう終わった。これから民達は今の国で歩いていくと決めた。それでまたこの姿になったのではないかの? 呪いは……解けたのじゃ>
「あ、でもちょっと違うわね? 尻尾、9本あるわよ」
<おお! 本当じゃ! これで少し戦力になるぞ!>
狐に戻った事は特に気にした様子もなく、尻尾が9本あることに喜ぶチェイシャ。
<(いつまでも良い国であるように……さらばじゃ)>
胸中でサンドクラッドに別れを告げ、チェイシャ達は魔王城へと帰還する。
0
お気に入りに追加
4,185
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。