上 下
140 / 377
第六部:救済か破滅か

その161 封殺

しおりを挟む
 

 ダラードの魂と思わしき黒い影が消滅した後、シャールの体は倒れ地面に血溜まりを作る。動かなくなったシャールにモルトとミト、そしてニアが近づいてきた。

 「親父!」

 「ひいおじい」

 二人の呼びかけにゆっくりと目を開けると、ポツリポツリと話始めた。

 「モ、モルトか……す、すまんなこんな情けない姿を晒して……ミト、元気だったか……大きく、なったなあ……」

 「喋るんじゃない! アイディール、回復魔法を!」

 「いい、私の肉体はもはや朽ちている。回復魔法で治りはせんよ」

 「でもやってみないと!」

 アイディールがリザレクションを使うと傷口は塞がったが足先から土くれのようなものに変化していく様子が伺える。

 「そんな……!? 呪いか何か?」

 アイディールが焦る声を上げる中、チェイシャが追いついてきて、シャールのところへやってきて声をかける。

 <なんじゃこれは……。シャール、わらわが分かるか?>

 「ええ、チェイシャ王女……あの時と変わらず美しいお姿……別荘で少しお話が出来て嬉しゅうございました……しかし申し訳ありません、このような事になってしまい……全ては私の弱い心が悪いのです」

 シャールは涙を流し目を瞑る。今度はそこにリアラとオットブレがやってきて、膝をついて話しかける。驚いた目で二人を見るシャール。

 「私達の身内が……本当に申し訳ありませんでした。死してなお国と王女へ執念を燃やすとは……」

 「シャール殿、許してくれとは言わん。そして王女がよければ私は王座を降りてもいいと思っている、それが我々にできるせめてもの罪滅ぼしだ」

 涙を流すリアラに、王座は返すと宣言する二人に、シャールは首を振って微笑み、そして告げた。

 「……あ、あなた達がダラードを殺したのは知らなかったが……あの男がいなくなってからの国はいい方向へ向かっていた……それは分かっていた……分かっていたのに、私は、憎んでしまったのだ……そこをつけこまれた……」

 「今は王女が生きていると分かったからいいようなものの……あなたの怒りはごもっともです……」

 リアラがシャールの手を取ると今度はニアがシャールへ質問する。

 「お義父さん、いったいアンタに何があったんだい?」

 「……王女には話したが私は謎の声に導かれてこの肉体を得た。しかし、同時にダラードの魂も呼び寄せてこの体にしまいこんだ……私はヤツに抗ったがこの通り……」

 「目的は何だったんだ……?」

 シャールはそう聞いてきたレイドの方を向くとまた話し始める。

 「この国をダラードに攻めさせ混乱を招く……その腹づもりだったようだ……どこで嗅ぎつけたかはわからんが、王女が生きている事をダシに、して私とダラードを唆した……気をつけろ、本当の標的は、君達、そう言っていた……」

 「私達が標的だと? 敵対しているものはアルモニア以外いないはず……女神以外にこんなことができるやつがいるだろうか……?」

 カルエラートが眉をひそめて誰とも無く呟くと、シャールがその言葉に続けて声をふりしぼる。体も半分は土くれに変わっている。


 「あ、あれは、人間の力では……ない……あれはか……」

 すると突然乱入してくる影があった!

 メ"ェェェェェェ!!!

 「スナタロウ!? みんな避けて!」

 ミトが叫ぶと、一行に突撃してくるスナタロウを間一髪回避する。だが……。

 「うがああああああ!? ス、スナタロウ!? お、お前はまさか!? 女神の封印を解きし者達よ! 恐らく黒幕は……!」

 ベキベキベキ……!

 <シャール!?>

 スナタロウがシャールの首を咥えたかと思うと、そのまま首の骨を噛み砕いた。手ごたえを感じたのか、シャールを捨て、今度は浮遊しているカームへと迫る!

 <む!? 俺が狙いか! させんぞ!>

 ソニックウェーブで飛び掛ってきたスナタロウを追い返すと、ミトがその首へ掴まる。呻くようにスナタロウが唾液を撒き散らしながら暴れる!

 「どうしたの!? 落ち着いて!」

 ミトが叫ぶが、スナタロウは血走った目で今度はミトを壁に叩きつけようとする。そこにモルトがカバーに入り、ミトを助け出す。ミトをニアへ渡すと、モルトはスナタロウの首を一撃で刎ねた。

 ン"メェェェェ……

 断末魔の鳴き声を上げてボフッ! という音共に灰となった。スナタロウの形をした別の何か、という表現が一番しっくりくるだろう。

 「ダメか……」

 レイドがシャールの体を起こすが、すでに事切れており、やがて体が土くれとなって崩れた。

 「……親父……」

 「ひいおじい……スナタロウ……」

 「後味が悪い結末になっちまったね」

 涙を流すミトを抱きしめながら、モルトとニアが崩れてしまったシャールの亡骸を見ながら立ち尽くしていた。ダラードとシャールは、完全にこの世から消えたのだった。

 <(さらばじゃシャール。その内わらわもそっちへ行く事になろう、その時にまた会おうぞ)>



 ---------------------------------------------------



 ダラードによる城への侵攻から早3日。

 あの後、町にはすぐ人々が戻り、次の日には元の喧騒を取り戻していた。そして、国を救った勇者パーティとしてレイド達は城で寝泊りさせてもらっていた。

 そして個室を借り、今はレイド、アイディール、カルエラート、チェイシャにカームが話し合いをしていた。英気を養ったところでカームが話をしたいと言ったからである。

 <あの謎の声を聞いた時、俺は一瞬で意識と体を奪われた。抗う事がまるでできなくてな>

 「体も黒く変色していたわよね? あの声、結局なんだったの?」

 <分からん、と言いたいが雰囲気は主に似ていたな。他に女神が居るという話は聞いたことがないが……>
 
 カームがテーブルの上でおすわり状態で目を瞑り唸る。それをカルエラートが撫でながら、カームへと質問する。

 「アルモニアが何か暗躍しているとかは無いか?」

 <いや、声は高かったが男のようじゃったぞ。わらわ達を狙っておる、というのも気になるわい。わらわ達が女神の封印を解いていること、それにエクソリアと一緒にアルモニアと戦おうとしているのは誰も知らんハズ>

 チェイシャの言葉に三人は確かに、と呟く。
 
 唯一正体を知っていると思われたシャールもすでにこの世には居ない。

 「あのラクダ……まさか声の主が?」

 <かもしれん。シャールをピンポイントで狙っていたからな。そして次に俺だ、あの声に接触した者は始末する気だったんだろう>

 結局、カームが覚えている事は少なかったので情報を掴むまで至らなかった。ただひとつだけ言えることがある。

 「シャールの言う『標的は俺達』ということは、別の地域に散った仲間も気になる。こうなるとエクソリアがいる魔王城も安全とは言いがたいしな。封印も解いた事だし、すぐに戻ろう」

 レイドの言葉に全員が頷くと、チェイシャが思い出したようにポンと手を打つ。

 <そうそう、わらわは最後に一仕事あるから、明日発つでいいかのう?>

 「? まあ一日くらいなら大丈夫だとは思うが……」

 「あ、ピンときた」

 「そうなのか? 私は全然だ」

 何の事か分からないレイドとカルエラートだが、アイディールは何かに気づいたようだった。

 個室から出て、リアラへ明日発つことを伝えると残念そうな顔で一行へと言う。

 「そうですか……それでは今日はパーティを開きましょう! ニアさん達も呼びましょう」

 <うむ。ミトは落ち込んでいたからよいと思う。あ、レイド達は戻っていいぞ、わらわはリアラに話しがある>

 「分かった。何かあれば言ってくれ」

 チェイシャはひらひらと手を振ってレイド達を見送り、リアラと共にその場で話し始めた。


 その後開かれた、夜のパーティは盛り上がった。泣いて目の赤かったミトも少し元気を取り戻して笑顔が見え、いつの間にかレイドがチェイシャの婚約者だという身に覚えの無い風評に焦り、アイディールが酒を飲み、国王が絡まれて冷や汗をかくといったアクシデントもあったが、概ね楽しく賑やかに過ごした。

 そして翌日、チェイシャがやり残した一仕事を行うときが来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者の転生実験

東国不動
ファンタジー
※書籍の第二巻が書店で好評発売中です! 是非お読みください。  不遇の高校生桐生レオはある日、謎の声に導かれて異世界に転生する。彼を転生させたのは、異界の知識で新たな魔法を生み出さんとする大賢者。  大賢者の息子として剣と魔法の世界に転生したレオは、父の魔法を教わる代わりに自分の持つ現代科学の知識を提供することに承諾する。ツンデレ妹に元王女の母、さらには猫型獣人の少女らに囲まれて幸せな第二の人生を満喫するレオ。一方、大賢者はレオから得た現代兵器の知識によって密かに全く新たな魔法群を開発していた。強大な力を求める大賢者の真意は一体?   先制発見、先制攻撃、先制撃破―現代兵器の戦術理論を応用した反撃不能の「兵器魔法(ウェポン・マジック)」が起動する時、少年の運命が動き出す!

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

森蘭丸の弟、異世界に渡る<本能寺から異世界へ。文化も人体も違うところで色々巻き込まれ、恋も知る?>

天知 カナイ
BL
【三章完結しました】本能寺の夜、信長と兄乱法師(森蘭丸はこちらの名を使っています)の痴態を見てしまう、森力丸長氏。美しい兄の乱れた姿に驚きながらも、情愛がのる閨事とはどういうものか、考えながら眠りにつく。だがその後本能寺の変が起こり、力丸(リキ)も戦うのだがその途中で異世界に飛ばされる。 【三章開始時点でこちらの内容を変更しました】 飛ばされた先でアヤラセという若者に出会い愛し合うようになるが、リキが性交(セックス)することによってどんどん色々な事が変化することになり戸惑いを感じてしまう。 アヤラセに執着する兄ライセン、アヤラセの親であるランムイとヤルルア、そして異様な過程で生まれた新生物ユウビなど、様々な人々と関わり時に運命に翻弄されながら、飛ばされた世界で必死に生きていく。 セックスありきで話が展開する部分がありますので、今見てみると結構エロ展開があります(三章1話現在)。独自設定があります。この世界の人たちは雌雄同体です。全員陰茎ありですし主人公は男なのでBLにしています。また、女の人同志的に読める展開もありますし、進行上残酷、凌辱シーンもあります。 最終的にはハッピーエンドになる予定です!

婚約破棄までの七日間

たぬきち25番
恋愛
突然、乙女ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタに転生したことに気付いた私。しかも、気付いたのが婚約破棄の七日前!! 七日前って、どうすればいいの?! 

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。