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第六部:救済か破滅か

その158 策略

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 <人が……居ないじゃと?>

 チェイシャがカームの背から呟くと、シャールが地上へ降りるように指示を出して、町の中心へと着地する。噴水のある広場は普段なら市場や子供達で賑わうはずだが……。


 「隠れているのか……? それにしては完全に気配がない……お前とお前、家の中を見てこい」

 先頭に立っていたナハルとその仲間を斥候に出し、しばらく待つ。カームの背中に乗ったままのチェイシャがシャールへと声をかけた。

 <レイド達の仕業じゃろうな。一日開けたのがお主の敗因じゃ、レイド達はすぐに戻って協力を仰いだに違いないわ>

 「負けてなどいませんよ……! 誰もいないならこのまま城を落とせば済む事です」


 その様子を愉快そうに眺めて笑うチェイシャをよそに、斥候に出た二人が戻ってくる。虚ろな目でシャールへ報告をする。

 「だ、れも……居ません……店も、宿も……」

 「いかがいたし、ます、か?」

 「このまま城を目指すぞ、着いて来い」

 すっかりゴーストタウンと化した、町を練り歩くシャール達。言葉には出さずシャールは頭で考えていた。

 「(城下町だけで2,3千人は居るんだぞ? それが二日で一気に姿を消すというのか……?)」

 不可解。

 そう思いながらも、結局奇襲を受ける事無く城へ到着する。

 「中へ入る! 王女は私と一緒にお願いします。カーム、お前は待機だ」

 <ワカッタ>

 武装させた冒険者を引き連れて城へ侵入する。やはりここにも気配は無かった。

 「馬鹿な……!? みすみす城を明け渡したというのか!?」

 <はっはっは、この作戦を考えたやつは相当な悪人じゃな! わらわ達がこのまま城を盗るのは簡単じゃ。玉座にでも座れば見事返り咲きかのう? しかし、町には誰もおらん。これを国と呼ぶにはちとお粗末ではないか?>

 「国を捨てて逃げたというのか……? 誇りは無いのか……?」

 「国を捨ててなどいませんよ」

 すると、奥から凜とした声の女性と、少し緊張気味の男、そしてモルトにミトが現われた! そして先頭に居た女性が一歩前へ出てシャールへと告げる。

 「国を捨ててなどいません。民達は、この場所から移動しただけです」

 「何だと……?」

 シャールの呟きに、モルトが喋りかける。

 「おお……本当に親父だ……しかも若すぎる……久しぶりだな、親父」

 「……モルト、か」

 「その通り。そしてここには俺達以外に人はいねえ、この姫さんが作った地下道を通って、外に居る。何故この城にこだわるんだ? あんた言ってたじゃないか、国ってのは場所じゃない人だってな」

 「ひいおじい。この国はそれほど悪い状態じゃないよ? 最初は乗っ取られたかもしれないけど、今は私達のために努力している」

 モルトとミトがそれぞれ、シャールへと戦う必要は無いと言う。そこで姫がチェイシャに向かって微笑み頭を下げた。

 「初めましてチェイシャ王女。私はリアラ、現サンドクラッドの姫です。そしてこっちが国王のオットブレです」

 「あ、ああ、は、初めまして……その、父がとんだご無礼を……」

 <良い、あれはわらわの負けじゃったからな。ここに居るのも偶然……王女と思わんでもいいぞ>

 だが、リアラは声を荒げてぶんぶんと首を振った。

 「そんなわけには参りませんわ! 貴女様の残された日記や著書を拝見させていただきましたが、何と聡明なお方だと思いましたの! 地下水を貯めておく貯水庫の建造はチェイシャ様がお考えになった事だとか!」

 <えっと……日記、読んだのかや……?>

 「はい! 私の部屋にびっしりと!」

 <いやあああああ! 何故処分せなんだのじゃ!?>

 チェイシャが頭を抱えて叫ぶと、シャールがうわごとのように叫び始める。

 「この国は俺と王女のものだ……! 民などいらぬ……貴様等しかいないなら好都合だ! 人など奴隷でも集めればいい……! うぐ……!?」

 <シャール……?>

 「様子が変。ひいおじいは『俺』なんて言わない……あなたは、誰?」

 そこでシャール(?)が冷や汗をかきながら思い出したように叫ぶ。

 「そういえばあの冒険者どもは……どこへ、行った? 王女を取り返しに来ないとは……」

 「もちろん残っていますわ。申し訳ありませんが時間稼ぎをさせてもらいましたわ」

 「何……時間稼ぎ……? まさか!?」

 <ほっほう、なるほどのう! 悪いやつもおるもんじゃ>

 「えっへん。ウチのおばあちゃん」

 モルトが、別に胸をはるところじゃねぇからと、ミトが誇らしげにしているのをたしなめていると、外からカームの断末魔の悲鳴があがった。





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 <昨日:サンドクラッド城 謁見の間>


 「元気かいリアラ姫」

 「ええ、ニア様も。本日は緊急の報告でもありましたか?」

 ギルドマスターのニアが謁見の申し出をすると、即座に姫と国王がやってきた。二人同時に謁見を申し込まれるとはただごとではないとリアラが悟ったのである。

 「そうさ。この国の元王女が生きていてね、ウチの元旦那の親父……当時宰相だった男と共にこの城へ攻めてくるつもりらしい」

 「それは本当ですか!?」

 そこでアイディールが膝を突いたまま頭を上げて進言する。

 「本当でございます。チェイシャ……元王女は現在私達の仲間ですが、とある事情によりこの地に参りました。ダンジョンにてモルト殿の父であるシャールに襲われ、連れ去られてしまったのです」

 「何と……し、しかし父の話では確実に殺したと聞いているぞ……? 母と結婚してからも、殺すのには惜しかった、勿体無かったと呻いていたのに……」

 そこでレイドが頭を上げて国王へと語りかける。

 「詳しくは言えませんが、長い時を経て蘇ったのです。そこからは我々と行動を共にしていました。この国に未練は無いそうです」

 「ま、そう言う事らしい」

 ニアが肩をすくめてリアラに言うと、リアラが難しい顔をしてぶつぶつと何やら呟いていた。

 「あの伝説の王女に会える……クソジジ……おじいさまが恋焦がれた聡明な王女に……それで、私達は何をすればいいのでしょうか?」

 「今から作戦を伝えるよ、いいかい……」


 そこでニアが考えた作戦とは、町の人間を全てどこかへ移動させる。そして面食らうであろうが、城に執着しているシャールは城に入るはずだと推測していた。

 でかい魔物は城に入れないのでカームは外へ置いていくだろうということ、カームは強いので護衛は少ないはずだと二アは言った。

 「そこで俺達がカームを倒せばいいんですね」

 「ヤツの行動パターンはだいたい分かっているから、レイドと私だけでも戦いになるぞ」

 レイドとカルエラートが意図を察し、ニアへと声をかける。

 「冒険者も何人かつけてやるよ。それで、今から移動するけど頼めるかい?」

 「ふう……そりゃ、国王の私の役目だろうね……ああ、胃が痛い……」

 「あれ? 国王様ってびくびくして過ごしているって聞きましたけど、そうでもないんですね?」

 アイディールが突然失礼な事を言い出し、レイドが焦るが、国王は特に気にした風もなく言う。

 「まあ、父は言ってみれば侵略者だろう? いつ報復されるか分からないからびびりもするさ。だから怒らせないように国民の機嫌は伺わないとと思って国を運営しているよ……」

 ずいぶん消極的な国王だと思いながらも、こういう考えなら国民が酷い目に合うことも無いのかと妙に納得したレイド達。

 そしてリアラの一声で作戦が開始される。

 「それでは、迎え撃つ準備をしましょう! ああ、王女! 早く会ってみたいですわ!」

 そこからは早かった

 昼間から夜中にかけ、どんどん外へ出て行く国民達。2000人近い人が野営か、とレイドは口にするが、人口が増えてやや手狭になってきたため町をもう一つ作っていたとリアラが言った。まだ仮で隠蔽魔法で隠しているが、そこなら一週間程度暮らすくらいなら何とかなるというのだ。ニアは新しい町のことを知っており、冒険者達に誘導をお願いしていたので、幾分スムーズに事が運んだのである。


 そして、シャールが城へ入った5分後……


 <ム、お前達は……>

 「お前とは話し合いで終われそうだったのにな。悪いが、倒させてもらう」


 武器を構えたレイド達がカームの前へと姿を現した。
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