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第六部:救済か破滅か

その157 会話

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 「もう大丈夫なのか?」

 「ええ、水分を補給して休んだらすっかりよ。今日は城に行くんでしょ?」

 熟睡して元気になったレイド達は朝食を採りながら今日の行動を確認する。カルエラートもゆで卵を食べながらレイドへ尋ねる。

 「むぐ……しかしいきなり行って大丈夫だろうか? 100年前の宰相が国を取り返しにくるとでも言うのか?」

 「そこなんだよな……俺も色々考えたけど、城にいってそんな事を吹聴すれば、正直なところ不審者だ。かといって何も言わないのもな……」

 「とりあえず行って話す。で、信用されればそれでよし、追い返されたら自己責任! これでいいんじゃない?」

 アイディールがサラダをもぐもぐしながらそんな事を言う。顔色は少し戻ったが、いつもより食事を食べる勢いが少ない気がした。

 「しかし……」

 「信じてもらえないならそれまでよ。食い下がってまでやることじゃない。私達の目的はあくまで女神の封印を解く事、それとチェイシャを助ける事なのよ? この国の人には悪いけどね。まあチェイシャを助ける事が国を救うことになるかもだけどー」

 何かを言おうとしたレイドにフォークをつきつけて反論を許さないアイディール。カルエラートがまあまあと落ち着かせながら二人に言った。

 「とりあえず行ってみようじゃないか。こっちも他国の冒険者だ、話はしやすいかもしれないしな」

 「そ、そうだな! よし、食べ終わったら早速……」

 レイドが残りの食事を終えようと取り掛かったとき、テーブルに声がかかる。

 「おはよう」

 「あ、ミトじゃない! おはようーどうしたの、こんな早くに? モルトさん、何か言ってた?」

 「うん。その事で話があるからおじいがみんなを連れて来いって」

 「話?」

 レイドが聞くとミトはコクンと頷いた。



 ---------------------------------------------------



 <サンドクラッド:冒険者ギルド>


 
 「ここ」

 ミトに連れられてやってきたのは冒険者ギルドだった。中に入ると、相変わらずやる気の無い受付が「しゃーい……」と声をかけてくる

 ……かと思いきや、テキパキとした動きでレイド達を迎えていた。

 「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」

 「今日は元気、なんだな?」

 「はは、そりゃあね。ギルドマスターやミトのお客人なら下手なことはできませんや……さ、どうぞ……」

 「ギルドマスターに知り合いは居ないが……」

 カルエラートがそう言うと前を歩くミトが振り返って三人に告げる。

 「おばあちゃんがギルドマスターなの。行こう」

 「「「え!?」」」

 驚く三人をよそにミトはドアを開けて中に入り、続けてレイド達も入っていくと中にはモルトと、見知らぬ女性が座っていた。

 「よくきたね、まあお座りよ」

 「あ、はい……」

 「失礼します」

 大きめのソファに三人が並んで座り、その対面にモルトとミト、そしてギルドマスターと思わしき人物が座っていた。

 「まずは自己紹介させてもらうよ。あたしはニア、このサンドクラッドのギルドマスターだ、ミトはあたしの孫娘さ」

 「と言う事はモルトさんは旦那さんで?」

 アイディールが尋ねるとニアはニヤッと笑ってモルトの背中をバンバン叩いていた。

 「まあそうだね、昔はそうだった事もあるよ! ま、それは今話すことじゃない。あんた達を呼んだのは白尾襲撃についてさ」

 「ミトから俺が聞いてこいつに話した。ミトが見てきたことなら嘘じゃないだろうからな、それで……」

 「それで、こっちも態勢を整えようという事にしたのさ。どうやらこっちの冒険者も捕まっているみたいだしね? それにシャールはこいつの親父。身内のやらかしたことをおさめるのはあたし達の役目さ。まあそれに狩り出される冒険者には申し訳ないがね!」

 そこは報酬で応えさせてもらうよと豪快に笑い、ニアは話を続ける。モルトは俺のセリフ……と不満そうに口を尖らせていた。

 「でだ、あんた達は恐らく城へ行くつもりだったんだろ? あたしが一緒に行ってやるから状況を説明しな」

 「本当ですか! それは助かります! 行ってどうしようかと困っていたものですから」

 レイドが言うと、ニアがそうでもないよと声を出す。

 「あたしもこの国の人間じゃないからね。それに城の姫さんは友好的だよ、自国だろうが他国だろうが、話をちゃんと聞いてくれる。まあそこにギルドマスターのあたしが同行すれば間違いないだろう」

 「それは助かります。ちなみに具体的な作戦はあるのですか?」

 「それは城に行ってから話そうか。あ、そうだ、いつごろ襲撃してくるとか分かるかい?」

 「流石にそこまでは……でも自信を持っていましたから、今日明日には来るかと思います。話が早いのであればすぐ城へ行きましょう」

 アイディールがニアに提案し「それもそうだね」と全員が席を立ちギルドを後にした。

 道中の話に寄れば、殆どの冒険者が加勢してくれるという。だが必要なのは戦力ではなく、知恵だとニアはタバコをふかしながらレイド達に話していた。

 
 しばらくして城へ到着し、謁見することになる。

 そして、ニアの驚きの作戦とは……。




 ---------------------------------------------------




 <サンドクラッド:王族の別荘>



 一方、囚われの身であるチェイシャはというと……。



 <シャールよ、話がある>


 「おや、どうされましたか?」

 昼、食事の時に横に居るシャールへチェイシャはある事実を告げてみる事にした。


 <あの時、わらわはお前を転移した後、ダラードに刺されて死んだ。そして、今はその100年後の世界じゃ。すでにダラードは死に、その子孫が国を治めていると聞く。そして、シャールよ、お前も最近死んだのではないか?>

 するとシャールが真顔になり、フッと笑う。

 <お前は剣の腕は達者じゃったが、魔法はからきしだったはず。転移、しかもあれほどの数を移動させるなど勇者でも難しい……それについては何があったか分からんが、少なくともお主、最近までの記憶は持っておるな?>

 「……」

 <無言は肯定と取るぞ?>

 「私は国を取り返し、あなたを城へ送り届ける事。それ以外の目的などありませんよ」

 料理を食べながら、チェイシャを見ずにしれっと言った。

 <それでは魔法が使える答えにはならん>

 「……私は」

 少し考えた後、シャールは目を閉じて語り出した。

 「私はあの日、スナタロウに乗って死に場所を探しました。まだ小さかったミト、息子のモルトには何も告げずに」

 <……>

 「そして辿り着いたのがあのダンジョンでした。国を取られた恨みと執念だったんでしょうかね、100歳を越えても生きましたがとうとう限界がきました。年老いた私はダンジョンの入り口付近で倒れ、そのまま息絶えました」

 それから今まで、ダンジョンの中で彷徨う幽霊のような存在になってしまったという。スナタロウはずっと一緒に居てくれたそうだ。

 「あれももうただのラクダではないのですが……それはまあいいでしょう。ちょうど王女達が来る直前、王女を攫おうとしている冒険者が来ました。その者達も国を取り返そうとしており、私が話を聞こうと姿を現しました」

 <そういえばそんな事を言っておったのう。わらわは興味が無いから突っぱねたが>

 「ふふ、王女ならそう言うでしょうね。話は戻りますが、私が姿を現したすぐ後、声が聞こえてきたのです」

 <声……? まさか……>

 シャールは頷いてチェイシャの予想は当たっていると肯定する。

 「はい。あの魔物を操ったあの声です……そして次に目が覚めると私は肉体を得て、魔法をが使えるようになっていました。そしてその声から驚愕の話を聞きました」

 <驚愕の話?わらわ達を襲ったのはそれが理由か?>

 「それは……う!?」

 チェイシャが質問をすると、シャールは頭を押さえてテーブルに突っ伏して呻き始めた。

 <シャール!?>

 チェイシャが近づき、肩を揺さぶるとシャールは頭を上げてチェイシャを見て喋り始める。

 「あ、王女、どうかされましたか? 明日はいよいよ国を取り返す日です。ゆっくり休んでください、私は少しやる事があるのでこれで失礼します」

 <え!? お、おい!>

 チェイシャの声を無視してシャールはすたすたと食堂を出て行った。先程までの話が嘘のように、そして無かったかのように姿を消した。

 <狐につままれたようじゃ……一体シャールに何があったというのじゃ?>

 答えを聞こうとシャールを探すが、どこにも見当たらず、仕方なくチェイシャは部屋に戻り就寝した。そして翌日、宣言どおりサンドクラッドへと進軍を始めるシャール。

 チェイシャはシャールに声をかけるも、会話が成り立たず、昨日たまたま意識を取りもどしていた、といっても過言ではないほど別人のようだった。

 カームの背に乗り、サンドクラッドへ到着するシャール達。

 「これは……どういうことだ!」

 上から町を見ていたシャールが大声で叫んだ。

 
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